医学界新聞

寄稿

2008.01.28



【投稿】

タイ・プーケットでの災害医療研修に参加して

小澤 めぐみ(日本赤十字看護大学 3回生 国際医学生連盟日本・スタッフ)


 2007年8月13日から19日までの7日間,タイのプーケットにてACTION-Projectが開催されました。ACTIONとは,Asian Collaborative Training on Infectious Disease, Outbreak, Natural Disaster and Refugee managementの略で,医療系学生を対象に,緊急災害支援のための公衆衛生の知識や避難民への対応のノウハウをトレーニングすることを目的としています。

 第2回となる今回は,国際医学生連盟(IFMSA)に所属する日本,インドネシア,タイの3か国の学生が共同で開催し,開催地がタイということで,04年に起こったスマトラ沖地震で問題となった津波被害に焦点を当てました。参加者は6大陸8か国から31名で,3か国のスタッフを含めると総勢70名の企画となりました。

 トレーニングでは,災害マネジメントや遺体の管理,伝染病,公衆衛生の知識等について,WHOやバンコク・マヒドン大医学部シリラート病院より講師を招き,理論的かつ実践的な講義を行いました。毎日,その日の終わりに小グループに分かれてディスカッションを行うことで講義内容を振り返り,参加者自身がより自然災害に対する知識を深めることができました。

 また,すべての講義が終わってから,本企画で知り得た知識をもとに,スマトラ沖地震の津波によるプーケットでの被害をもとにケーススタディを行いました。ケーススタディでは,スタッフが提示した津波被害の状況をもとに「どのような資機材を用意すべきか」や「日を追うごとにどういった支援が必要となるか」といった設問に対し,グループごとに問題を解き,発表を行い,講師からアドバイスを受けることを通じ,より実践的に自然災害に対する対応を深く学べました。

 本企画中には,フィールドワークとして,3年前のスマトラ沖地震および,津波被害で救援活動の最前線に立った病院や遺体の同定や埋葬を行った寺,被災者が眠る共同墓地,孤児院を運営するNGOなどを見学しました。津波被害を経験していない参加者にとって,体験者の方の生のお話を聞くことや実際の現場を訪れることは,座学で受ける講義では知ることのできない大変貴重な経験と津波被害の現状や悲惨さを身近に感じることができました。 参加者同士の交流をはかるため,初日にはウェルカムパーティが開かれました。はじめのうちは緊張感が漂っていましたが,徐々に緊張がほぐれ,仲良くなっていき,暖かい雰囲気や一体感を感じることができました(写真)。それぞれ自国の民族衣装を着て参加し,日本人は浴衣を来て参加しました。ほかにもさまざまなプログラムが組まれ,伝統料理をみんなで作るなど,タイの文化に触れることもありました。最後の夜にはフェアウェルパーティをし,仲間との別れを惜しみつつ,楽しい夜を過ごしました。

 参加者の多くは英語が母国語でないため,講義内容を聞くことはもちろん,海外の学生とのコミュニケーションにも大変苦労があったと思います。また,8か国の学生が集まり,同じプログラムを受けるため,国民性の違いが出て,自国にいては知ることのできない多文化を肌で感じることもできました。

 参加者は,自国の医療系学生に対して,本企画で得た知識を還元する責務を負っています。これにより,本企画の恩恵を受ける医療系学生が増えるとともに,自然災害に対する危機意識が高まることが望まれます。

 ACTION-Projectはこれからも継続して行われます。来年は,台湾,フィリピンの学生を加え,5か国の学生の共催で行われる予定です。回を重ねるごとに参加者が増え,自然災害に対する意識が高まり,将来的に指導的立場を取れる医療従事者が1人でも多く育成されることを願っています。

:国際医学生連盟日本(IFMSA-Japan)は社会貢献や国際社会とのつながりを通じ,幅広い視野を持った医療人を育成し,よりよい社会を目指す国際学生NGOの日本支部。第59回保健文化賞を受賞。


小澤めぐみ氏
災害看護に関心があり,日本赤十字看護大学へ進学。入学後は赤十字学生奉仕団に所属する学内の部活動「災害救護ボランティアサークル」所属。さまざまな勉強会やセミナーに参加し,災害に対する知識を深めている。大学では「災害看護」「国際看護」を選択。将来的には医療救護班に所属し,災害現場で活動することを目指している。ACTION-Projectには運営スタッフ(広報担当)として参加。

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