医学界新聞

2007.10.22

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン準拠
CRCテキストブック 第2版

日本臨床薬理学会 編
中野 重行,安原 一,中野 眞汎,小林 真一 責任編集

《評 者》井部 俊子(聖路加看護大学長)

治験・臨床試験に関わる医療従事者のスタンダード

 1998年に,これまでわが国には存在しなかった新しい職種が誕生した。この職種は新GCP(Good Clinical Practice)に規定される「専門的立場から治験責任医師などの業務に協力する治験協力者」であり,「治験を実施するチームの一員」として位置づけられた。当初は「治験コーディネーター」と称されたが,その後,治験のみならず臨床試験から臨床研究への支援において中心的な役割を担うものとして「CRC(Clinical Research Coordinator)」へと発展した。そして,2004年秋から日本臨床薬理学会がCRCの認定試験を実施し,今年で4回目を迎える。

 本書の初版は認定CRCをめざす受験者を対象に,日本臨床薬理学会が公表した「CRCのための研修ガイドライン(項目)」に準拠して執筆され,2002年10月に発刊された。それから4年半が過ぎ,このたび改訂第2版が刊行の運びとなった。

 本書は,認定CRCの充実と比例するように,ずっしり重くなり価格も200円上昇した。執筆者は初版の28人から42人に増えた。「A.総論」「B.CRCの役割と業務」「C.臨床試験・治験の基盤整備と実施」「D.医薬品の開発と臨床試験」「E.薬物治療・臨床試験に必要な薬理作用と薬物動態のポイント」「F.臨床試験の留意点」という骨格は変わらないが,随所に最新の知見が加筆されている。「A.総論」の中の「医薬品の臨床試験の実施基準(GCP)」の項では,GCP実地調査や医師主導の治験がもり込まれた。「B.CRCの役割と業務」では,治験依頼者側からみたモニタリング・監査が入り,賠償と補償,臨床検査の実施について加筆された。「D.医薬品の開発と臨床試験」では,医師主導治験,EBMと大規模臨床試験,国際共同試験に関する項目が新たに加わった。付録には,認定CRC試験と試験問題の解説,CRC制度規則,ヘルシンキ宣言,臨床研究に関係する各種倫理指針のポイントが収載され,認定CRCへの道標となっている。

 今や本書は,認定CRC試験の受験者にとって,受験前の総仕上げのためのテキストとして必携となっている。さらに,現役のCRCや治験・臨床試験に関わるすべての医療従事者にとってもスタンダードな参考書であり,ここから各論を発展させていく知的な拠りどころとすることができる。

 本書をマスターした看護職CRCが看護の視点から薬を語り,薬剤師CRCが薬剤師の視点からケアを語り合う臨床現場の変化を興味深く見守りたい。

B5・頁384 定価4,620円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00434-3


精神科看護管理の実際

川野 雅資 編著

《評 者》小川 明子(国立精神・神経センター国府台病院看護部長)

精神科看護のあり方方向性を示す

 2004年9月に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」が取りまとめられ,「入院医療中心から地域生活中心へ」という精神保健医療福祉の基本方針が呈示されています。2006年には障害者自立支援法が施行され,精神科医療を取り巻く環境は目まぐるしい変化の時期にあります。その中で本書が6年の歳月をかけ,精神科看護管理の実践を最新の内容で出版されたことに編者の熱意を感じるとともに敬意を表します。

 本書の特徴は,各項目が看護管理を具体的な事例をもとに詳細に述べられているため,わかりやすく親しみやすい形になっていることです。看護管理は精神科だから特別なのかと問われる方もいるかもしれませんが,本書の構成は見事にその疑問に回答をしてくれます。第?部で精神科看護管理の理論を,第?部で実践を通して患者の安全・安楽・自立についてどの病院でも共通する課題を中心に述べられており,第?部では医療・看護チームのスタッフの協働や教育について,そして第?部では日米の精神科看護の現状と方向性について述べられています。

 どの項にも,精神科看護管理のエキスパートである執筆者らの精神科看護に対する情熱が感じ取られ,取り組みから成果までを記述した事例は,「私もやってみよう」と思わせる管理の過程がわかる内容となっています。

 本書のもう1つの特徴は,今後の精神科看護のあり方についても述べ,看護の方向性を示している点です。今後,精神科医療は早期に集中的なケアを行い,短期間で状態を改善し,早期退院・社会参加を促進することによって在院日数を短縮するという精神科救急と療養型病床の二極化が進み,地域での精神科医療・看護にシフトしていくと思われます。本書はその中での専門的なスタッフ教育や離職防止を具体的に述べています。また,地域を担う看護師や地域生活を考えられる看護師,他の職種と協働して治療・看護を担える看護師の育成も必要となってきます。医療チームのあり方,看護としての多職種との連携も具体的に述べられています。本書は,今後のあり方を含め,これからの精神科看護管理を啓蒙していく1冊であると思われます。

 最後に,第?部「精神科病院における接遇教育」において,10年間の接遇教育の取り組みの過程と成果が述べられている内容の一部を紹介し,この評を閉じたいと思います。

 「院内の接遇委員会での取り組みだけでなく,看護部管理者が毎朝スタッフの出勤を通用口で迎え,笑顔で挨拶を行うことを続けてきた。この活動は,スタッフに管理者自らが襟を正すことを感じてもらうため,1日を笑顔のポジティブストロークを受けとることで始めてもらうこと,そして今日も1日看護に励んでもらうことへの感謝の挨拶として始めたものである」と筆者は記しています。どんな困難に遭遇しても職員のモチベーションを下げないために,どのような取り組みをしたらよいのか試行錯誤していた評者にとっての示唆となりました。

B5・頁168 定価2,415円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00315-5


フィドラーのアクティビティ論
現実とシンボル

鈴木 明子 監訳
福田 恵美子,河野 仁志 訳者代表

《評 者》澤 俊二(藤田保衛大教授・リハビリテーション学)

人を知り,人を成長させるアクティビティ

 本書の監訳者である鈴木明子氏は,日本作業療法士協会の初代会長としてわが国の作業療法の普及と教育,そして地位向上に懸命に取り組んでこられた作業療法士(OT)のリーダーである。鈴木氏は,著者のフィドラー先生(Gail S. Fidler 1916-2005)にコロンビア大学医学部,ボストン大学大学院修士課程において直接薫陶を受けた稀有な日本人であり,恩師として,また同じOTを志す者として,最大の礼と尊敬と友情を最期まで持ち続けてこられた。そのことは,本書の序および『井の中の蛙,外海を泳ぐ-アキコのOTチャレンジ帳』(医学書院出版サービス,2006)に詳しい。今回,鈴木氏は6年越しでフィドラー先生の畢生の書である“Activities: Reality and symbol”(SLACK, 1999)を他の9名の訳者と協力して,日本のOTやアクティビティを使うさまざまな職種の人たちのために工夫を凝らして訳し,亡き恩師に捧げられた。

 フィドラー先生はOTとして生きた60年間,一貫して目的をもったアクティビティ(purposeful activity)を追求し,理論を構築し,学生の教育にわが身を捧げてこられた。原著の序で「本書は,さまざまなアクティビティにもともと含まれている社会的,文化的意味,あるいはそこに生まれるであろう個人的な意味を探求し学ぶこと,およびそのプロセスについて述べる。……1つのアクティビティがその人の性格や傾向性と合致したり調和することのもつ力動性(ダイナミクス)をぜひとも考察しなければならないことになる。……アクティビティの意味,それに関連する事物,行動プロセスについてよく理解し考えを深めることは,健康増進,ウェルネスとQOLの向上を目指してアクティビティを用いる際の必須の前提である。……そこで,本書では,それぞれのアクティビティがもつ性格を明らかにする」と述べているとおり,本書では目的を持ったアクティビティを,人類の歴史をもって,教育をもって,そして臨床をもって,事実を積み重ねることで,各々のアクティビティのもつ性格を解きほどいている。

 アクティビティは,何かを示したり,特別な現実感があることに加え,人の活動のすべての側面と関係する概念を示すような特定の暗示的意味をもっている。すなわちシンボル化である。シンボルとシンボル化の過程は,私たちと,私たちの生活を規定するさまざまなアクティビティとに影響を及ぼしてきた。シンボル化の過程は自己内部にあるさまざまな葛藤を仲立ちし,他の方法では理解されない現象を表現し,自分が何なのかをはっきりさせ,そして社会的グループを相互に結びつける。これらはすべて対処方法の重要な要素であるといえる。人を知り,人を成長させるこのアクティビティは尽きぬ人類の魂なのではないだろうか。

 本書を読みながら,アクティビティのもつ深い意味を理解する作業と努力が自分に足りなかったことを知った。フィドラー先生のアクティビティに賭ける思いと,日本の多くのOTにそのフィドラー先生の思いを伝えたいという鈴木氏ら訳者の熱い思いが重なったこのアクティビティの理論書を,わが手にとってみられることを強く勧めたい。

B5・頁184 定価3,780円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00037-6

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