医学界新聞

2007.09.24

 

「Nursing Work Indexを用いた
ヘルスケアアウトカムの日米比較研究」の概要

記=増野園惠


研究メンバー 金井Pak雅子(代表者),勝原裕美子,増野園惠,伊豆上智子,角田由佳,Linda Aiken

目的 この調査は,2004年から05年にかけてファイザーヘルスリサーチ振興財団の研究助成を受けて実施したものである。研究目的は,Nursing Work Indexを用いて日本の急性期病院に勤務する看護師の労働環境を明らかにするとともに,日本と米国のヘルスケアアウトカムを比較することである。Nursing Work Indexは,どのような性質を持つ病院が看護師にとって魅力的なのかを明らかにするために,1989年に米国のKramerとHofnerによって開発されたツールである。2000年には米国でAikenらが再構成し,病院組織におけるさまざまな側面について4段階で回答する調査票(Nursing Work Index-R)とし,米国,カナダ,イングランド,スコットランド,ドイツ等でこの調査票をベースとした同様の調査が行われた。また,2007年現在,世界16か国が同様の調査を実施している。

対象および方法 この調査では,国内の19の急性期病院の302病棟(産科・精神科病棟を除く),7098名の看護師を対象とし,質問紙を用いてデータ収集を行った。質問紙は看護部を通じて対象者に配布し,留め置き法で回収した。この質問紙は,2000年に米国でAikenらによる調査で用いられたNursing Work Index-R,バーンアウトスケール等から構成される調査票を,許可を得て日本語訳したものである。また,あわせて,各病院の看護部長には病院全体の状況(前年度の退院患者数・死亡患者数,電子カルテの導入,専門看護師・認定看護師数等)について,各病棟管理者(看護師長)には当該病棟の状況(入院患者数,平均在院日数,入院患者ケア業務に関わる看護師以外の職種とその職務内容,配膳・注射薬のミキシング等の実施状況,調査期間中の勤務者数等)について尋ねた。

調査時期 質問紙の配布と回収は,2005年3月から同年10月に行った。

結果 看護師の労働状況については5956通の回答があった(回収率83.9%)。対象となった看護師の年齢は,25歳から29歳がもっとも多く32%,ついで25歳未満が30%,30-34歳が15%,35-39歳が9%,40-44歳が5%,45-49歳が3%,50歳以上が2%,無回答3%であった。病院全体の状況および病棟の状況については,19病院300病棟から回答を得た。19病院のうち大学病院が15病院,一般総合病院が4病院であった。主な結果は次のとおりである。

◆看護師のバーンアウトの状況は,
・対象者の58%がバーンアウトしており,非常に高いバーンアウト値(バーンアウトスコア>48)を示す者が7%いた。
・バーンアウトスコアの平均値を病院ごとにみると最低でも26.6で,最高は33.4であった。これを経験年数3年以下の看護師の割合と比較した場合,3年以下が5割を越える病院で,バーンアウトスコアの平均値が最高値であった。ただし,全体としては経験年数とバーンアウトスコアの間に相関はみられない。

◆月あたりの平均残業時間は26.6時間であった。

◆看護師が捉える自らの職場環境は,
・受け持ち患者と過ごす時間が取れる適切な支援体制がある(38.5%)。
・他の看護師と患者ケアに関する問題点について話し合うだけの十分な時間と機会がある(38.6%)。
・質の高いケアを提供するために十分な看護師が配属されている(17.5%)。
・仕事をやり終えるのに十分なスタッフがいる(19.7%)。
・仕事がうまくいった時には賞賛や承認が得られる(29.8%)。
・労働環境は快適で,魅力的で,居心地がよい(25.1%)。

◆自分の病棟のケアの質が高い/優れていると答えた対象者は3%である。

◆ケアを受ける必要が家族に生じた場合,自分の病院を勧めると答えた対象者は36.6%である。

◆対象者の59.6%が現在の仕事に不満足である。

◆対象者の71.3%は看護師であることに対しては満足している。

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