医学界新聞

寄稿

2007.09.03

 

【視点】

世界の潮流,コミュニティケア

森下正之(広島国際大学教授・医療経営学)


 10年にわたり英国の病院PFIを継続的に監視・調査を行った中で得た結論は,「先進国に共通する現象として,医療福祉分野において,急速な高齢化の影響を受け“コミュニティケア”重視への政策転換が同時的に起こり,世界の潮流になっている」ことである。コミュニティケアの定義は,狭義には,英国地域医療保険制度を意味し,広義には長期ケアの必要な患者(高齢者,身体・精神障害者)や終末期患者に対して,病院や福祉等の施設より,通常の生活環境で,より良い生活の質が提供できると位置づけ,プライマリケアとソーシャルケア両方を提供する統合型ケアを指す。英厚生省は,“Community Based Care(CBC):Care Closer to Home”とより厳密に表現している。

 コミュニティケア重視政策への転換の軌跡は,下記に述べる10年間のブレア労働党政権の変遷に重なる。

1)1997年のブレア政権の誕生で,厚生・教育改革を最重要政策とし,二次医療改革に着手。ハード面で急性期病院の100施設整備をPFIで目途をつけ,ソフト面は国立病院の財団化の布石を打った。

2)2001年ブレア第二次政権(圧勝)発足。一次医療改革へ重点を移行,GP(一般開業医)を組織化。その形態である約150PCT(プライマリケア・トラスト)に公的医療費予算の委任機能を付与。ハード面でPFI発展型のLIFT(地方改善財務信託)によりワンストップの医療モールセンターを500か所建設計画に着手。

3)2005年ブレア第三次政権(辛勝)発足。一次医療と福祉の統合の方向性を鮮明化し,中核に既存コミュニティ病院機能改革と新世代型病院(一般外来グループ診療科,日帰り手術,歯科・眼科・耳鼻咽喉科やOT・PT・SPT,小規模療養病床および併設の老健施設と自治体運営のデイサービスからなる病院)を置き,計300の施設整備に着手。

 ひるがえって,わが国の超高齢化への対応を見ると,医療・介護等公的保険給付費用の抑制観点から,訪問診療・看護や居宅介護サービスに重点移行する政策が強調され,患者・家族の立場に立つ,サービスの質や満足度,精神の安寧・幸福等の観点が欠ける。英国に学ぶべきは,理念や哲学面に踏み込み,官民協働によるソフト・ハード面の整備に基づく整合性を図ることである。


略歴
1965年関西学院大経済学部卒。ハワイ州立大経営大学院修了。ハワイ大助手,東海大講師などを経て現職。著書に『医療・福祉PFIの進化・発展』(ふくろう出版)など。

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