医学界新聞


『最前線の看護者たち:予期せぬ事態に立ちむかう』をテーマに

2007.06.25

 

2007年CNR・ICN学術集会開催

『最前線の看護者たち:予期せぬ事態に立ちむかう』をテーマに


 さる5月27日-6月1日,会員協会代表者会議(CNR: Council of National Representatives)・国際看護師協会(ICN: International Council of Nurses)学術集会が,横浜国際会議場にて109か国から3600名の看護職が集い開催された。日本での開催は1977年の第16回東京大会以来,実に30年ぶり。メインテーマは「Nursing at the forefront: dealing with the unexpected――最前線の看護者たち:予期せぬ事態に立ちむかう」。

 開会式などを通じて,雅楽の演奏や獅子舞など日本の伝統芸能が披露されたほか,大会2日目には,日本看護協会主催レセプションに皇后陛下がご臨席され,各国の参加者とご歓談された。


■学生ネットワーク発足と飛躍に向けて

 ICNネットワークに,今学術集会で新たに学生ネットワークが加わった。その記念すべき第一歩に,南裕子氏(ICN会長),Mirelle Kingma氏(ICN),Sandra Macdonald-Rencz氏(Health Canada)が駆けつけ,学生ネットワークへの期待,役割について語った。

先達が築いてきた看護を礎にさらなる看護の前進を

 南氏は「最も大事なネットワークといえる学生ネットワークが第一歩を踏み出す時に立ち会うことができて大変嬉しく思います。ICN会長として,教育者の立場からも,学生が看護という専門職に対していかに大きな貢献ができるかをわかっていますし,熱意を持って取り組んでくれると信じています」と学生ネットワークへの期待を語り口演を開始した。

 学生の問題・課題に対する新しい視点に対して「先達が築いてきたことをさらに前進させていくためにも,看護の入口に立っている学生は新しい視点で問題を捉えることが重要です。ともによりよい解決策を模索してほしい」と述べた。

 さらに,このICN学術集会では,世界各国の看護職との話し合いを通して,学生ネットワークの方向性を決定してほしいと続けた。さまざまな情報を収集可能なネットワークを通して,情報を共有することは患者さんへのケアを改善していくことに繋がる。それらを看護計画立案に役立てていくことが重要とした。

 学生ネットワークは積極的な活動を通して,看護師が抱えるさまざまな課題を分析し,「現在の学生の教育のみではなく,将来の学生たちにも影響を及ぼしていくものだと信じている。このネットワークは社会に対して大きな役割を担っていける」と強調した。「また学生たちは看護師の,専門職の将来をも象徴しており,世界の看護師の専門知識に寄与することができる」「今,学生ネットワークは非常に重要なスタートラインに立っています。残りの会議の中でネットワークをさらに強化していただきたい」と述べ,口演を閉じた。

描いた未来像に向けた歩みを

 続いてMirelle Kingma氏は看護学生・看護師の中退・離職の実態について口演。日本において看護学生の中退数は少ないが,イギリスでは5人に1人,北アイルランドでは30%,ニュージーランドにいたっては学生の40%が中退している現状を報告。また新人看護師の離職について,米国は最初の1年間で35-61%が,2年後には全員が違う職場に就いている。その原因として,教育と実践の大きなギャップを挙げた。新卒の看護師はそのギャップを埋めることができず,自信を失い辞めてしまうためと指摘した。

 世界的に看護師不足の現在,貴重な人的資源を育成・維持していくためには,職場環境を整えることも重要だが,「職場を選択する自分自身が,病院のことを調べ,自ら描くキャリアプランをかなえられる場所なのかを熟慮して決めることが重要」と強調。例として,(1)教育を継続することができるか,(2)仕事から満足を得られるか,(3)メンターシップ・プログラムなどのサポート制度の有無,(4)雇用者との価値観の共有,(5)自身の自己評価,などを考慮して新しい職場を選び,「看護師として臨床現場から離れることなく,キャリアを積んでいくことを祈っています」と述べ壇を降りた。

一緒に学ぶことの大切さ互いに信頼しチームで取り組む

 Sandra Macdonald-Rencz氏は看護師の離職対策について口演。看護教育の少なくとも40%は臨床分野で行われ,教室の授業内容が臨床の現場で発揮されなければ,学生にとって本当の知識とはならないことを指摘し,「特に学生時代の教育は大きな影響を与えるため,学習時には2つ以上の専門職がお互いに学び合うことが重要」とした。医療は医師・看護師・PT・OTなど複数の専門職が1つのチームとして取り組むため,他の専門職の領域・思考を知ることが必須である。そのためには解剖学の教室で行われていることではなく,「臨床症例を議論する」ことを提案した。

 症例に対して「実際に何をしたのか,どのようなことを発見し,どのような知識があるか」を互いに説明し,他の医療専門職とどの部分で協力できるかを理解することにより,信頼して相談することができ,患者さんへのケア効果が向上する利点も強調した。さらに,互いに協力できる環境は仕事の満足度を上げることが実証されており,離職率を抑える効果があること。さらに患者さんに対してもよい影響がでることが報告されているとチームで協力することの重要性を強調した。

■予期せぬ事態に立ちむかうために

 基調講演「予期せぬ事態に立ちむかう」(演者=Daisy Mafubelu氏・WHO)では,「看護師は患者さんの急変,死,そして遺族の悲しみなど,日々遭遇する可能性がある事態に対応する際には,ある程度の備え・心の準備があると思います。しかし自然災害などへの準備はどうでしょうか」との問いかけから講演が始まった。

人間を取り巻くさまざまな脅威

 2003年,熱波がヨーロッパを襲い,何千名もの人が亡くなり,そのうち74歳以上の高齢者が60%に達した。2004年のスマトラ沖地震では,津波により30万人が死亡。2005年,パキスタンで大地震が起き,7.5万人が死亡,15万人の負傷者を出した。このように自然災害については枚挙に暇がない。

 新興感染症は,古くは14世紀の黒死病によりヨーロッパの人口の3分の1が,1918年のインフルエンザ大流行時には4000万人が亡くなっている。このような新興感染症は近年,確認数が増加している。WHOは,少なくとも1100件の流行を確認しており,世界人口の4分の1に影響を与えていると言及した。2003年にはSARSが初めて報告され,2007年5月14日付でWHOには確認されたヒト症例307例が報告されている。うち186例(60%以上)が亡くなっている。そこにインフルエンザH5N1型が変異し,新たなインフルエンザの大流行が起こる可能性を指摘されていると付け加えた。

 このほかにも工場や原発などでの毒性物・核物質の流出や紛争などの危機に対して,看護師は準備をしておかなければならないと強調した。実際に毎年5か国に1か国がこれらの危機に直面し,国民の生命・健康が危機に陥っている。「予期せぬ災害に対しても準備し,災害地で医療に従事する時,何をするべきか知っておく必要があります。なぜなら,医療従事者の多くは看護師であり,最前線でさまざまなヘルスサービスを提供する主要な役割を果たす可能性がある」と述べた。

医療従事者の世界的人員不足

 WHOの統計推定によれば,医師・看護師などの医療従事者が240万人不足しており,公衆衛生上の問題が深刻なサハラ砂漠以南の国々で特に深刻である。サハラ砂漠以南には,世界人口の11%,疾病の24%が集中している一方,医療従事者は3%しかおらず,現在も状況は悪化し続けている。その理由としてHIV・AIDS感染患者が非常に多く,針刺し事故など高い感染リスクがある。ボツワナでは1999-2005年はHIV・AIDS感染により医療従事者の17%が亡くなっており,もしも手を打たなければ1999-2010年の間で40%の医療従事者が亡くなると予測されるほどである。こうした状況は,他のHIV・AIDS率が高い国でも同様で,重大な問題となっている。

 これらの人的資源の危機以外にも,調査・備え・対処・緊急時の計画などから看護師が除かれてしまう現場とのギャップがある。緊急時における看護師の役割は多岐にわたり,そして患者と最初に接する看護師へのサポートを与えるべきとし,「看護師の皆さんが積極的に国家のガイドライン準備に参加し,看護師の活動の効力を発揮できるようにしてほしい」と聴衆に訴えた。

 さらに緊急時への備え・対処・復旧に看護師が大きく貢献するためにも,「災害に対する準備・対応,そして復旧すべてを統合したカリキュラムが組まれ,すべての看護師にトレーニングされることが望まれる」と述べ,災害への準備という非常に重要な議題に対して,サポートしていく体制をつくることが看護師協会の重要な課題であるとし講演を閉じた。

 

 第24回ICN4年毎大会は,2009年6月20-26日に南アフリカ・ダーバンにて,Mafalo Ephraim氏(南アフリカ民主看護団体会長)のもとアフリカ大陸で初めて開催される。

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