医学界新聞


2007全米CNS学会に参加して

寄稿

2007.05.28

 

【寄稿】

米国CNS事情
2007全米CNS学会に参加して

野地有子(新潟県立看護大学教授・地域看護学)


近年活躍がめざましい米国のCNS

 米国アリゾナ州の首都フェニックスにおいて,2007年2月28日-3月3日にわたり全米CNS(Clinical Nurse Specialist)学会(NACNS)が開催された。過去最大となった本大会は,450人余のCNSが全米各地だけでなく海外からも一堂に会し,「安全と質保証」をテーマに,基調講演,一般口演,ポスター発表などを通して交流した。本学においてもCNS教育がスタートし,日米のCNS教育の比較研究を始めていたが12),その共同研究者であるUCSFのAnn Mayo博士から本学会の参加を薦められた。

 早春のフェニックスはすでに陽射しが眩しかった。終日会場のホテルに缶詰めの3日間であった。1演題は1時間で同時に5題のテーマの中から1つ選択するプログラムのため,いくつかテーマを選ぶとあっという間に1日が過ぎていくといった感じであった。CNS教育に関しては,カリキュラムやシナジーモデルの報告がみられた。会場で出会ったカイザーヘルスのCNSらに聞いてみたところ,実践の工夫のテーマに関心が集まり,エビデンスと実践のギャップの橋渡しとして,エビデンスに基づいたファクト・シート(Evidence-Based Fact Sheets)の活用例が最も参考になったと話していた。

 米国では1954年にCNSが誕生してから半世紀以上の歴史があるが,本学会は1995年に65人から始まり,現在は2200人の会員数を数えるまでになった。CNSの総数は,2002年の米国政府の統計では6万7000人以上を数えている3)。近年は特に「医療安全」の視点から,各病院がCNSを雇用する機会が多くなり,EBP(Evidence-Based Practice)を推進する専門職として期待され,看護大学において修士課程にCNSコースの開設・再開設と定員数の増加傾向がみられている。

米国CNSが直面した厳しい経験

 カリフォルニア州サンディエゴ大学(USD)の例であるが,サンディエゴ地域では,9年前にマネジドケアの流れの中で病院経営の経済的理由からCNSの需要がなくなり解雇が続いたため,USDでのCNS教育コースも中止されていた。しかしその後の医療事故の増加などによりCNSは病院にとって必要な人材ということが再認識され,近隣の複数の病院代表者が集まってUSDの看護学部長に面会し,CNSコースの再開を強く要請し,修了生の雇用を確約したことを受けて再開されている。連邦政府も各病院に対して,医療事故防止の点からCNSの配置を推奨しており,現在では有能なCNS雇用が必須となってきている。学会展示会場でも,複数の病院がCNS募集のためのブースを開いていたのが印象的であった。米国のCNSは,医療制度や経済的理由により翻弄された厳しい経験を持っており,再び注目を集めているこの時期に本格的な発展の基盤づくりが求められている。その意気込みと乗り越えるべき課題が,本大会から伝わってきた。

EBP実践とCNSの役割

 基調講演は,クリティカルケアの著書で有名なMarianne Chulay博士で,「質と安全の最適化:CNSのユニークな貢献」であった。CNSは臨床にあって,研究と専門的実践を統合できる唯一のプロであるとし,変化への対応技術が必要であると述べた。変化しなければ患者の安全と質保証は守れないし,その変化の速度は速い。そのためには,システム・アプローチ技術とEBP技術が求められる点が強調された。

 これを受けて最終講演は,Bernadette Melnyk博士の「EBPによって質の高いヘルスケアのための枠組みに点火しよう」であった。米国では,博士号取得の平均年齢が47歳で,NIH研究費の通過率は10-15%のため2-3回の申請後に助成を受けられたとしても,ようやく50歳を過ぎて本格的研究を始めるという現実があり,研究における年齢ギャップが問題となっている。またナースの半数は,研究データにアクセスしていないため,米国のナースはEBPの準備ができていないとの指摘もあり,若いナースのEBP実践によってこの年齢ギャップを乗り越えることが期待されている。その中核になるのが,CNSというわけである。アリゾナ州の病院のデータによると,CNSはEBPの実践だけでなく,EBPメンターとして病院に存在することにより,ナースの離職率が下がったとのことである。

日本のCNSへの期待

 昼食時にも意見交換は続き,ランチ・ネットワークでは,CNS雑誌の編集長であるJanet Fulton博士のテーブルに参加した。CNSの論文は,トピックスはよいが,よく書けた論文は少ないので,もっと大学教員が論文執筆に巻き込まれる必要があると話されていた。会期中,長年にわたるCNSパイオニアとして米国ナースの役割モデルとしての活動が称えられ,Ann Mayo博士は学会賞を受賞された。博士によると,米国におけるCNSの領域は図に示すように3つあり,クライアントのケア,看護職と看護実践,組織とシステムである4)。1日の活動においてこの3つを同時に実施するのは難しいが,1年間の活動でこの3領域がほぼ3等分ずつになるような仕事の仕方がCNSにとって理想的と話されていた。また,「米国のCNSが改善できないことでも,日本では違ったアプローチによって可能なこともあるでしょうから大変期待しています」とエールを送られた。

 本学において現在進行中の,日米のCNS教育の比較研究では,昨年の聖路加看護学会での交流集会後に「CNSネットワーク」を立ち上げたところである。参加希望者は,下記までお問い合わせください。

(CNSネットワーク担当:新潟県立看護大学 岡村典子 norio@niigata-cn.ac.jp

(文献)
1)野地有子,粟生田友子,柿川房子,他:CNS看護教育の課題と展望,第11回聖路加看護学会交流集会,2006
2)Noji A, Mayo A, et al: Advanced Practice Educational Challenges and Innovative Strategies: The Clinical Nurse Specialist Role in the US and Japan, ICN 2007
3)NACNS: Statement on Clinical Nurse Specialist Practice and Education, 2nd Edition, 2004
4)Mayo A: Can we afford to ignore the measurement issues?, NACNS National Conference 2006

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