医学界新聞

2007.01.08

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準作業療法学 専門分野》
発達過程作業療法学

矢谷 令子 シリーズ監修
福田 恵美子 編

《評 者》鷲田 孝保(目白大教授・作業療法学)

小児科学分野を作業療法の学問体系に統合

 教科書として他の出版物と比較検討する必要性から何度も出版社に電話をし,本書が発刊されるのを待ち望んでいたので,“ついに出たか!”という印象であった。本書の編集者である福田恵美子先生は,評者が日頃から尊敬している臨床家,教育者で,偏らない豊富な臨床と教育経験を持っており,発達過程の作業療法学の教科書を編集するのにわが国で最もふさわしい作業療法士のひとりである。

 『標準作業療法学 専門分野』全12巻は,シリーズ監修を務めておられる矢谷令子先生の,長い教育経験をもとにした教科書に対する思いが集大成されている。全巻において統一された基本構成で,章立ても統一され,各章ごとにGIO(一般教育目標),SBO(行動目標),修得チェックリストが提示され,学生への教育と,学生自身の学習に大変便利である。監修者と編集者とが綿密に打ち合わせて編集を進めているという印象を受けた。そこで総合的な判断から,本書を教科書として採用する決定をした。

 評者の授業で,学生は常時本シリーズ『作業療法学概論』と標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野の『小児科学』を持参し,必要に応じて参照する方式を取っている。この方法を通して,ばらばらの知識が作業療法という学問体系に統合される。疾患は,小児科学の医学体系と関連づけて学習できる。

 本書の序章で,「なぜ“発達障害”ではなく“発達過程”としたか。なぜ疾患単位での学習が必要か」という点について,国際生活機能分類(ICF)と関連づけて説明している。本シリーズ各巻に設けられた序章は大変よい企画である。

 これまでに発行された教科書は,執筆者の思い込み,思い違い,思い入れなどが強く,個性的で示唆に富む面は多いが,学生の教科書としては内容が不足しているという印象を持っていた。本書はその欠点を十分にカバーしているように思われる。

 出版を急いだためか,誤字,脱字,重複の箇所が見受けられる。逐次,修正加筆されることを期待している。

B5・頁312 定価4,200円(税5%込)医学書院


医療を経済する
質・効率・お金の最適バランスをめぐって

長谷川 敏彦,松本 邦愛 編

《評 者》南部 鶴彦(学習院大教授・経済学)

経済学の基礎と医療の分析手法の解説を融合

 医療経済学というテーマで出版されている書物は,それほど数が多いとは言えないものの,かなりの数にのぼる。これらの書物は経済学者が主たる執筆者なので,かなりの程度経済学のお作法に従っていることは避け難い。この結果として,非経済学の分野の人々にはとっつきにくい印象を与えているのではないかと思う。これに対して本書は,一方で標準的な経済学の基礎を要領よく解説した部分(第I部〔頁1-114〕,第III部〔頁185-250〕)と医療に特徴的な分析手法の解説とが非常にうまく融合されているという印象を与える。

 まず第I部では「効率」という概念がなぜ必要となるかを説明して,医療にも社会全体の稀少な資源が投入される以上,単純に医療保障は厚ければ厚いほどよいというものでないということがミクロ経済学の手法でわかりやすく説明されている。効率というと無駄を省くということであり,医療の質の低下につながると考えている人々がかなりいるとすれば,この第I部はそれが正しくないことを有効に説いていると思われる。

 第II部は医療のパフォーマンスの測り方について伝統的なアプローチと最新のものとを同時に紹介している。限られた紙幅での叙述なので,より充実した内容については専門書を読む必要があるが,A・センのケイパビリティーの概念などは将来福祉(well-being)に応用可能なものとして重要である。しかしケイパビリティーと「平等」というような問題については,ここでの簡略な説明では読者は理解することが難しいであろう。とはいえ読者の知的興味を啓発するものとして,これが経済という観点から紹介されていることは大変有用である。

 第III部では医療保険について,それが必要となる資源配分上の根拠が説明されると同時に,医療保険制度の歴史と仕組みの解説がある。さらに医師誘発需要仮説について,具体的な事項に沿ってこの仮説の中味について検討がなされている。ここでかなり最近の研究成果にまで言及されており,効率的な資源配分というテーマとの結びつきが紹介されていることは読者にとって有益であろう。

 第IV部は医療制度と政策に関わる諸論点がつめ込まれている感があって,前編までとは若干異なった印象がある。いずれのテーマも非常に重要なものであり,読者に対して問題の所在を示唆するという役割を果たすものであろう。

 以上を通観すると,限られた紙幅において医療を経済学から切るという目的は十分に果たされており,効率のよい教科書としての役割を今後果たすものと思われる。若干気づいた点を最後につけ加えるならば,基準薬価制度と薬剤について触れられていないことが不満として残る。わが国においては医師誘発需要仮説の一分野として,近年薬価差の縮少があったとは言え,依然として重要だからである。

 編者の序言にあるように,医療経済学と言えば診療報酬制度や病院経営ばかりを連想する医療関係者が多いとすれば,本書はそのような専門家の人々に対する知的刺激を与えるものとしても高く評価できる。

A5・頁344 定価3,260円(税5%込)医学書院


外科医のための局所解剖学序説

佐々木 克典 著

《評 者》宮野 武(順大名誉教授/順大練馬病院長)

臨床研修医や若き外科医の座右に置くに相応しい良書

 外科医は解剖を熟知していなければならない。よい外科医は解剖を熟知したうえで,はじめてよい手術を行い-新たな工夫を加えて,よりよい新しい術式を考案する。

 一方外科医の多くが,外科医になりたての頃,学生時代に学んだ解剖の知識だけでは不十分であることを自覚し,もう一度自分がその後修めようとする専門外科領域の解剖学を学び直したいとの思いに駆られる。本書はそのような外科医の要望に応えるべく,外科医の視点に立って局所解剖が詳述されている。

 本書の著者,佐々木克典教授は弘前大学医学部を卒業後,当時は新しい外科領域として脚光を浴びていた小児外科医を志し,順天堂大学医学部小児外科学講座の大学院に入学された。筆者は当時の主任教授駿河敬次郎先生のもとで佐々木先生と兄弟弟子であったが,ともに駿河教授が最も力を入れて取り組んでいた小児肝胆道外科の臨床と研究に没頭した。佐々木先生の学究肌は臨床の中にあって抜きん出たものがあった。

 先生は大学院を卒業後,そのまま臨床家として患者さんの側で人生を送るよりも,「外科医としての経験の中から抱いた多くの基礎医学の疑問を解決することに生き甲斐を感ずる」と,ある日,私に述べられて解剖学に転向された。その話を打ち明けられたときは正直ビックリしたが,気概に打たれ快く送り出したことを鮮明に覚えている。小児外科は,生まれつき解剖学的異常を有するいわゆる先天的形成異常児を手術により治療する。したがって,小児外科医は手術に際し当然正常の解剖を熟知したうえで,いかなる先天的形成異常に遭遇しても動じない知識と決断力を要求される。佐々木教授にとって当時からの大きな疑問の一つが外科的解剖学(surgical anatomy)であったわけである。

 本書は,その佐々木教授が若き日の小児外科医としての経験に基づき,解剖学者に転じられた後,外科医の視点から解剖学を究めるという男のロマンを追い求めた,膨大な研究成果と知識を集大成したものとも言える。すなわち,佐々木教授が外科医としてやり残されたものを,基礎解剖学者の目で徹底的に追求されたものである。まさに臨床研修医や若き外科医が座右に置くに相応しいものであり,外科医の先輩として強く推薦したい。

A4・頁288 定価12,600円(税5%込)医学書院

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