医学界新聞

 

座談会

内科医として,がん患者と向き合う
――腫瘍内科医とは

勝俣範之氏
(国立がんセンター中央病院 第二通院治療センター医長)
高野利実氏
(東京共済病院 腫瘍内科)

<聞き手>
佐々木宏治さん
(東京医科歯科大学医学部6年生)
藤井健夫さん
(信州大学医学部5年生)


 現在,がんによって年間約30万人が命を落とし,さらに毎年50万人が新たながん患者となっている。もはやがんは特別な病気ではなく,医師であれば科に関係なく,がん患者と接する機会はあるだろう。一方で「がん難民」という言葉もあるように,わが国のがん診療のあり方が問われている。

 こうした中,抗がん剤を処方し,患者の全身管理をしながら外科や放射線科と協働して,最適ながん診療をめざす腫瘍内科医が注目されている。今回は腫瘍内科に興味のある医学生2人が,第一線で活躍する腫瘍内科医に話を聞いた。


■がん診療をコーディネートする腫瘍内科

藤井 まず,腫瘍内科医とはどのような医師なのか教えてください。

高野 定義としては,がん患者さんに対する全身治療,すなわち薬物治療を専門とする医師です。ただ単に治療を施すだけでなく,診断から看取りまで,がんを抱える人間としての患者さんに寄り添いながら,がんの医療をコーディネートしていくというのも,腫瘍内科医の大切な役割です。

勝俣 それから,内科的なアプローチをしていくというところですね。適応に応じて手術は外科に,放射線治療は放射線科にまわすという,コーディネーター的な役割は非常に大切です。

 大学などでは,がん治療は外科医が担当するイメージがあるかと思いますが,実際の臨床現場に出てみると,内科医ががんを診ていることはそれほど珍しいことではありません。内科学の中に,がん治療はしっかり位置づけられるべきだと思います。

佐々木 先生方が腫瘍内科医になられたきっかけは何だったのでしょうか。

勝俣 私は最初から腫瘍内科医をめざしていたわけではなくて,学生の時は外科医になりたいと思っていました。そして一流の外科医になるにはまず一流の内科医になることだ,一般内科をきわめようと思い,一般病院で内科の研修を始めたわけです。ところが,そのうちに内科がおもしろくなって,内科医になってしまいました。

 内科には,けっこうがん患者さんが多いんですよね。けれど,あまりちゃんとしたマネジメントが行われていない。一般内科の知識は身につきましたが,がん患者さんについて教えてくれる人がいなかった。その頃に米国ではメディカル・オンコロジストという,がん専門に診る医師がいることを知り,なぜ日本にないのだろうと興味を持ちました。そして国立がんセンターに,腫瘍内科のレジデントコースがあることを知り,応募したわけです。

高野 私は,病や死を必然的に内在させる人間存在に対して『医療』が存在する意味というのをずっと考えてきました。医学教育では「医療は病気を治すためにある」という単純なモデルが幅をきかせていますが,そのモデルからは取りこぼされてしまう「治らない病気を抱える患者さん」と向き合うことにこそ,医療の本質があると感じていました。

 もちろん,治せる病気をきちんと治すことは重要です。でも,世の中には医療では治せない病気が数多くあります。そんな病気に対しても「治す」ことを絶対善として立ち向かう医療が,本当に人を幸せにするものなのか,という疑問を常に抱いていました。

 進行がんの患者さんに対して,人間としての幸福をめざす医療を行いたい,と思ったのが,現在の道へ続く出発点です。大学5年生の時に,医学部同窓会紙の編集長として各界の有名人にインタビューして回ったのですが,当時国立がんセンター総長であった阿部薫先生から,「腫瘍内科」という言葉を初めて聞きました。治らないがんに対しても医療にできることはたくさんあり,それを担うのが腫瘍内科医だということを聞き,自分のめざす道はこれだと思いました。

 しかし,当時の大学には「腫瘍内科」という科はなく,いろいろ迷った末,内科での1年間の研修の後に,「総合腫瘍病棟」を掲げてがんの薬物治療や緩和ケアにも積極的に取り組んでいた放射線科に入局しました。3年目には東京共済病院に移り,乳腺診療グループの一員として乳がんの薬物治療に取り組みましたが,所属先として拾ってくれたのが呼吸器内科だった関係で,肺がん治療のほか,一般内科診療にも多くかかわることができました。

 ここまで,自称「腫瘍内科医」として,道なき道を手探りで進んできたのですが,系統立ったトレーニングを受ける必要性を感じるようになり,5年目で国立がんセンターのレジデントとなったわけです。そして,この6月に,念願の腫瘍内科を掲げて,東京共済病院に戻りました。

移行期における他科との連携

勝俣 腫瘍内科医の具体的な仕事として特に難しいところは,やはり他科との連携ですよね。

高野 そうですね。日本の現状では外科主導でがん医療が進められることが多いので,まずは外科医と協力関係を築きながら,役割分担をしていくことが重要だと思います。

 東京共済病院では,乳がんの診療を外科医と腫瘍内科医を中心とするチームで担っています。お互いの専門知識・技術を信頼しつつ,常に率直な意見交換をしながら,患者にとって最善の医療を追求しており,それなりに理想的な形になっていると思います。他臓器のがんについても,同様な形で腫瘍内科医がかかわっていければいいのですが,まだマンパワーも周囲の理解も十分ではないため,実現には時間がかかりそうです。

佐々木 その点で疑問に感じていることがあるのですが,例えば肺がんを専門にされている呼吸器外科や呼吸器内科の先生方がいらっしゃる中で,腫瘍内科の先生は他科の先生方とどのように連携を取られているのですか。

勝俣 今後腫瘍内科医がどのように医療現場に入っていくかということにもつながることですね。腫瘍内科医の専門は抗がん剤ですが,現在,抗がん剤の専門家が一番不足しているのは,乳がんと消化器がんです。専門性が高まってきている一方,専門的にできる人があまりいない。乳がんと消化器がんは,いちばん社会的ニーズもある領域ですので,腫瘍内科医がスムーズに入っていけるのではないかと思います。

 理想的にはすべてのがん種を腫瘍内科医が担当することが望ましいのですが,現在は移行期にあると思います。例えば,今のところ肺がんを診る呼吸器内科の医師はたくさんいますので,すぐに腫瘍内科医が肺がんを診る必要はないと思うんです。

 ただ,肺にできるがんには原発肺がんだけではなく,原発不明がんや転移してくるがんもあります。また,縦隔原発の胚細胞腫瘍といったものもあります。胚細胞腫瘍はしっかりとした化学療法を行うことによって治癒を得ることができるがん種ですから,専門的な知識と経験が必要です。移行期にある現段階では,各がん種を担当されている外科医や呼吸器内科医,消化器内科医の医師たちに対する教育ということも大切であると思います。

■抗がん剤のスペシャリストとして

佐々木 臓器別にがん種に対して診断から手術まで行う外科医と違った点として,腫瘍内科医としての専門性は,その他にはどういったものがあるのでしょうか?

勝俣 抗がん剤の副作用に対しての支持療法に関する幅広い知識と経験があると思います。抗がん剤の副作用は神経症状から消化器症状,肺障害,心臓の障害,感染症と全身にわたりさまざまですから,それらに対しての対策法について,精通している必要があります。最近は,抗がん剤を外来で行うことが増えてきましたが,抗がん剤に対して十分に知識と経験を備えているとほとんどすべての抗がん剤が外来投与できるようになると思います。

 外来化学療法を妨げている原因の1つとして骨髄抑制がありますが,知識・経験がない医師はとかくG-CSF製剤を多用してしまう傾向にあり,入院を長引かせてしまいます。必用な治療と必要のない治療とをしっかり把握しておくことによって効率化することができると思います。

佐々木 抗がん剤の副作用死という問題についてはいかがでしょうか。腫瘍内科医が他科の先生方と連携することで,防ぐことはできるのでしょうか。

勝俣 骨髄抑制に際しての敗血症が重篤化して死亡する場合がありますが,その場合は適切な抗生物質を選択し,適切な全身管理をすることによって防ぐことは可能です。

 感染症対策に関しては,腫瘍内科医の方が知識・経験が豊富であるのでアドバンテージがあると思いますが,感染症以外の副作用,例えば突然発症する肺障害などはなかなか防ぎようがありません。このように非常に頻度は少ないのですが,抗がん剤には予期しない副作用が突然出てきて,防ぐことができない場合もあります。手術や麻酔に事故があるのと同じように,化学療法にも避けられない副作用というのがあるんです。

高野 もちろんそのリスクを減らすのは腫瘍内科医の使命ですが,リスクの存在を熟知し,正確に患者さんに伝えることも,腫瘍内科医の大切な役割です。がんの治療は常に生命の危険と隣り合わせで,それなりのリスクを伴うわけですが,ベネフィットの期待値がリスクの期待値を上回るのであればその治療は許容されます。

 重要なのは,リスクとベネフィットのバランスです。例えば,肺癌の治療薬ゲフィチニブ(イレッサ)をめぐっては600人近くの副作用死が報告されて社会問題化しましたが,その死亡率は約2%で,一般的な肺癌化学療法の治療関連死の割合とほぼ同じです。ベネフィットには触れずリスクだけを取り上げ,他の治療と同程度のリスクであるにもかかわらず,副作用死の実数だけを書き立てて患者さんの不安を煽ったのは,日本のマスコミの未熟さを表していると思います。また,「ゼロリスク」を求める風潮もリスク・ベネフィットバランスに基づく意思決定を妨げる要因です。腫瘍内科医は,不安や期待を過剰に煽る情報の波から患者さんを守り,リスクとベネフィットの正確な評価に基づく適切な意思決定をサポートする必要があります。

勝俣 そうですね。抗がん剤はどうしても一般薬よりリスクが高い。リスクを恐れて,むやみに抗がん剤の投与量を下げてしまうと逆に効果もなくなってしまいますから,そこのバランスをうまくとって,患者さんに最大限のベネフィットをもたらすことが,われわれの仕事だと思います。

患者と治療目標を共有

佐々木 先生方が患者さんに抗がん剤治療の開始を説明するに当たり,何か心掛けていることがありましたら,教えていただけますか。

高野 まず,一番大事なのは,患者さん側と医療者側で治療目標を共有することです。この基本的なことが,実際の医療現場ではおろそかになっていることが多いようです。「治らない」という事実を告げられないまま,「治る」ためと思ってつらい治療に耐え抜いた末に,事実を知り絶望に陥るという患者さんの話もよく聞きます。「がんなのだから抗がん剤治療を続けるのは当たり前」という強迫観念に基づいて,エビデンスの確立していない治療が次々と行われていたり,「真のベネフィット」とは言えない「腫瘍縮小」や「腫瘍マーカー減少」を究極の目標と思い込んで,本当の目標を見失っているケースもあります。

 「治らない」という事実を伝えるのは重いことですが,その先にめざすべき目標があること,そして目標のためにできることがたくさんあることを理解してもらうようにしています。治療目標は患者さんの価値観によってさまざまですが,私は「がんとうまく長くつきあいましょう」という言い方で,延命とQOL向上をめざすことを提案しています。

 医療者と患者との間で情報の非対称性があるということが言われます。専門知識が医療者側に偏っているということですが,もう1つ別の意味で,患者さんの価値観や感情という重要な情報が患者側に偏っているという非対称性も存在します。この2つの偏りをなくすためには,両者の率直な話し合いが欠かせません。正確なエビデンスを共有しながら話し合いを重ね,お互いに納得できる治療方針を決定し,その上で,力を合わせて治療に取り組むという姿勢が必要だと思います。

■必要なのは内科医としての力

佐々木 腫瘍内科医に求められるものとして全身の臓器すべてを診れなければいけないと思うのですが,例えば消化器内科の先生と意見を共有するには内視鏡画像などを自分自身で評価できるということが求められますよね。すべての領域でそこまでの知識を得るというのは,かなり高度なものが求められている気がするのですが。

勝俣 がんは全身の臓器から発生しますし,全身どこにでも転移しますから腫瘍内科医のベースにあるのは一般内科です。腫瘍内科もあくまでも内科のサブスペシャリティーの1つです。一般内科のトレーニングに,内視鏡診断や超音波診断も含まれていますので,最低限の知識や経験が得られるはずです。それをすっ飛ばして腫瘍内科医になるということはお勧めできません。腫瘍内科医をめざすには,まずは一般内科医としての実力をつけることが大事です。

藤井 現在,卒後2年間の研修が必修になっていますが,そこまでの力をつけるのに十分な期間と思われますか。

勝俣 難しいでしょうね。

藤井 では2年間の研修を終え,一般内科としての研修を積んだ後で,例えば国立がんセンターなどで腫瘍内科医のトレーニングを始めるのがよいのではないかということですね。

勝俣 そうですね。国立がんセンターの募集要項には,「内科の認定医を取得または取得できるくらいの患者を経験しておくこと」という条件が記載してありますので,実際のところは,卒後3-4年間は必要になると思います。

佐々木 一般内科医として実力を付けるにあたり,患者さんを通して最適の治療を模索していくことに加えて,他に心得ておくべきことはありますか。

勝俣 よく言われることですが,学生のうちは教科書が先生ですが,医師になったら,患者さんが教科書です。患者さんから教えてもらうことは非常に多い。1人ひとりの患者さんをしっかりと診ることが大切です。患者さんは皆それぞれ違いますし,同じ病気であっても違う症状を訴えたりします。何か疑問を持ったら,とことんまでつきつめて探索してみることですね。それが新しい発見につながったりもするからです。

米国で腫瘍内科を学ぶ

藤井 日米の腫瘍内科医の違いについてお聞きしたいのですが,日米の医学教育の差はどこにあるのでしょうか。

 また,私の周りを見ても,米国へ臨床留学しようと考えている人は,家庭医療や腫瘍内科など,日本で学べないものを求めて米国へ行こうとしていることが多いです。しかし,やはり最終的には日本で働きたいと思っていますから,一度病院を辞めて米国へ行った場合,戻ってくる場所があるのかという不安があります。

勝俣 医学教育に関して,米国は非常に先進国です。日本で始まった新しい臨床研修システムも,米国のレジデント制度をまねたものであり,米国では50年以上前から行われているものです。ですから教育の面に関して,やはり日米の差は大きい。

 米国では,腫瘍内科は内科のサブスペシャリティーとして,40年前にできました。現在では,すべての医科大学に腫瘍内科講座があり,現在,9,500名の専門医が認定されています。一方日本では,腫瘍内科の教育カリキュラムが作成され,ようやく今年から専門医の試験がはじまります。しかし,教育カリキュラムはできたけれど,それに沿って,しっかり教育プログラムを組んでいるところは,まだほとんどないのが現状です。

 日本臨床腫瘍学会が作成した教育カリキュラムは,米国とヨーロッパを手本として作成されました。そこには「すべてのがん種をマネジメントできること」という記載がありますが,残念ながら国立がんセンター中央病院でも,まだ整形外科と泌尿器科の一部の領域,皮膚科,脳外科の領域では,抗がん剤をそれぞれの科の医師が投与しているのが現状であり,腫瘍内科の教育プログラムには含まれていません。

 そういった面で,日本のプログラムはまだまだ完全でないところがあります。もちろん今後改善されていくとは思いますが,現時点では米国に行くのも1つの手段だと思いますね。米国帰りは就職先が見つからないのではないうかと心配されていますが,ここ数年来の動きを見ていても,医局離れが進んでいます。大学の医局に属し,その関連病院に行かないと就職先が見つからないということは,おそらく今後はなくなっていくでしょう。しっかりとした実力を身につければ就職に困ることはなくなると思いますし,そう期待したいですね。

佐々木 米国で腫瘍内科医としてのキャリアを積んだ場合,日本において制度上専門医として認められないために学会の指導医として認められないということはありませんか。

勝俣 たしかに将来的に日本で仕事をしようと思ったら,日本の専門医をとった方がよいとは思いますが,米国の腫瘍内科のBoardがとれるくらいの実力であれば,日本での専門医試験に合格することはたやすいことであると思います。

 ただ,現行の日本の専門医制度は米国と違い,専門医資格を持つことにより専門医しかできない治療ができるというような診療制限や,給与が違ったりすることがないので,米国帰りの医師がわざわざ日本の専門医資格を取得することは多くないようです。

■高まる社会的ニーズ

佐々木 私を含め腫瘍内科医を考えている学生は,自分自身が腫瘍内科医として一人前になる10年後に,どのような環境で働いているのか不安を感じていると思うのですが,先生方は腫瘍内科医を取り巻く状況が今後10年間でどう変化するとお考えですか。

高野 難しい質問ですね。自分の先にも,まだ道筋が見えていないので(笑)。

 ただ,腫瘍内科の需要が増えているのは,実感しています。数多くの手術をこなし多忙を極める外科医からも,腫瘍内科医が必要だという声をよく聞きますし,患者さんの間からも待望論が出ています。マスコミでも「腫瘍内科」という言葉が頻繁に取り上げられるようになってきて,社会的要請は今後ますます高まると予想されます。問題は,養成がそれに追いつかないことですかね。

勝俣 具体的には「将来働く場所があるのか?」という不安だと思います。現在,大学で腫瘍内科講座が設置されているところはほとんどなく,おそらく医学生の時に腫瘍内科と聞いてもピンとこないでしょう。

 では,実状はどうかと言いますと,実は地域のがんセンター,がん拠点病院から,腫瘍内科医がほしい,という要望がたくさんあります。また一般病院でも「腫瘍内科を標榜したいが,どう人材を確保したらよいか?」などの相談をよく受けます。今後はもっと大学病院にも腫瘍内科講座が作られていくとは思いますが,高野先生が言われるように,むしろ不安なことは需要に対して供給が追いつかないことだと思います。

腫瘍内科医の魅力

藤井 現在,がん治療にかかわりたいと思っている学生は多いと思います。腫瘍内科医のやりがいや,魅力についてうかがいたいのですが。

勝俣 外科医は手術という特殊技術を担っていますが,病気の全体を把握する仕事は内科医の役目です。一流の外科病院には一流の内科医がいるとよく言われますが,内科医が全体のマネジメントをし,手術適応のある患者を外科に紹介する,というやり方が理想的であると思います。内科医がしっかりと個々の患者さんの病状を把握し,手術や放射線治療,抗がん剤の適応を判断,適切な情報を患者さんに与えることで,よりよいがん診療ができるのではないかと考えています。非常にやりがいがあると思いますよ。

高野 これまで数多くのがん患者さんと接してきましたが,彼らはがんという病気自体だけでなく,がんを取り巻くイメージにも苦しんでいます。がんをタブー視する社会にあって,悩みを相談できる相手もあまりおらず,医療者や周囲の人からの心ない言葉に傷つけられることも多々あります。そんな彼らの苦しみをやわらげ,彼らが抱える「絶望・不安・不幸」を「希望・安心・幸福」に置き換えるのが腫瘍内科医の仕事だと思っています。

 「がん難民」という言葉もあるように,医療者から見放されてしまったがん患者さんがあふれかえっているわけですが,彼らを救い出すのが私たちの使命です。「治らない」ことを敗北と考え,医療の役割は終わったと言う人もいますが,これはまったく逆であって,「治らない」とわかったあとにこそ,人間の幸福をめざすための医療が必要となるのです。年間約30万人の方ががんで亡くなるわけですが,「がん克服」ばかりに重点がおかれ,亡くなる方の人生の意味が顧みられなかったのは不思議でなりません。今までほとんど手付かずであったこの分野に取り組めるというのは,医師としてとてもやりがいを感じています。

勝俣 患者さんに深くかかわれるというのも,腫瘍内科医の特徴です。ハードな手術をこなす外科の先生は忙しいので,病棟でじっくり患者さんの話を聞くのは内科の大切な役割であり,そこに内科医としての喜びがあるかなと思います。とかく,がんの患者さんはいろいろな悩みを持っていますし,がんと付き合っていく時間というのは非常に長いわけです。そういった意味でも,腫瘍内科医の役割というのは非常に重要だろうと思います。

佐々木 誰がチームの中心ということにとらわれず,さまざまな科の先生と連携して,患者さんのニーズに合ったより高度な医療が実現できたらすばらしいですね。本日はどうもありがとうございました。


勝俣範之氏
1988年富山医薬大卒。大隅鹿屋病院および茅ヶ崎徳州会病院での研修を経て,92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後,同センター専門修練医,第一領域外来部乳腺科を経て,2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年より第二通院治療センター医長。

高野利実氏
1998年東大卒。東大附属病院内科および放射線科での研修を経て,2000年に東京共済病院呼吸器内科医員。02年より3年間の国立がんセンター中央病院内科レジデントとして,腫瘍内科のトレーニングを積む。05年6月に東京共済病院腫瘍内科へ赴任,現在に至る。

佐々木宏治さん
東医歯大医学部6年生。大学では硬式テニス部・医科歯科ACLSに所属し,学園祭実行委員長・学友会会長などを歴任。臨床医かつ研究者であった祖父を生涯の目標とし,生死の問題に最もかかわる腫瘍の分野に取り組んでいきたいと考えるに至った。

藤井健夫さん
信州大医学部5年生。大学では1年生の時から,バレーボール部に所属している。4年生の時に,偶然読んだ新聞記事で腫瘍内科の存在を知り,興味を持った。将来的には,幅広い視野を持った医療人になりたいと考えている。