第34回日本癌治療学会総会開かれる
臨床試験のガイドラインを示す
第34回日本癌治療学会(会長=昭和大豊州病院長 栗原稔氏)が,さる11月1-3日,東京・江東区の東京国際展示場(東京ビッグサイト)などで開催された。学会では会長講演「私の癌研究史」の他,招請講演,特別講演,シンポジウム,ワークショップ,教育シンポジウム,ビデオセッション,また「外国人演者を囲んで」や市民公開講座「ここまできた癌治療」など多彩なプログラムを企画。さらに今回のメインテーマ「癌治療はチーム医療-患者の求めるQOL向上に応えるために」に沿って,初めての試みである日本がん看護学会との共催シンポジウム「在宅がん治療」(本紙第2217号既報)や,ワークショップ「癌治療に携わる医師以外の専門職」なども行なわれた。
インフォームド・コンセントの方法を詳しく規定
会期中には,「臨床試験実施ガイドライン-第3相試験を中心として」(再改訂案)の概要が,富永祐民氏(愛知県がんセンター研)により説明された。これは学会内の臨床試験委員会(1993年設置,委員長=林原生物化学研 折田薫三氏)が作成したもので,「会員が自主的に実施する臨床試験」の進め方を定めたもの。ガイドラインでは,(1)第三者で構成される臨床試験審査委員会を設置し,実施前のプロトコールの審査,終了後の全体審査をする,(2)インフォームド・コンセントに関しては,対象の選定後,割り付けの前に患者本人に病名・病状,治療,臨床試験についての説明を行ない,原則として文書で本人の同意を得る,(3)開始後の中間解析は定期的に効果・安全性評価委員会で審査し,試験継続の是非を審査することなどを規定している。
また臨床試験コーディネーティングシステムとして,中央およびそれぞれの施設に「コーディネーター」(当面は医師)と「データマネージャー」(医師以外の臨床試験補助者)を置き,中央に統計センターを設置。さらに重大な有害薬物反応(副作用)の連絡システムを強化し,治療関連死などが1例でもあれば直ちに事務局または研究代表者に連絡し,研究代表者は早急に効果・安全性評価委員会に諮るなどして対応するよう求めている。
報告では「ガイドラインは治療法や解析法の進歩や社会情勢の変化によって,将来見直されるべきもの」として,日米欧の協議で決められた臨床試験の実施基準(ICH-GCP)との関係にも考慮すること,また第1,2相試験のガイドラインも作成していくことが示された。
臨床腫瘍学教育と専門医制度
シンポジウム1は「臨床腫瘍学の教育は如何にあるべきか」(司会=慈恵医大 寺島芳輝氏,東女医大 大川智彦氏)。冒頭に司会の寺島氏が,診療科の枠を超えて癌治療を体系化する「臨床腫瘍学」の教育がテーマとなった理由について,(1)癌研究は飛躍的に進歩したが癌は依然死因の1位であること,(2)患者のニーズの多様化と混乱,(3)癌診療を支える教育が縦割りになっていること,(4)学会における臨床腫瘍医の認定制度の検討時期であることなどをあげて解説し,次いで4人のシンポジストにより考えが述べられた。はじめに「臨床腫瘍医のあり方とその育成」と題して,上田龍三氏(名市大)が発言。(1)基礎研究の成果の理解と臨床への導入,(2)臨床技術の高度化や先端化に伴う専門知識・技術の習得,集学的治療の実施,(3)癌治療の社会的ニーズの多様化に対する分析と実践など,臨床腫瘍医の担う課題をあげた。また現在の教育は不十分であるとし,講座化も含めた大学教育の充実,専門医制度の創設,認定医や指導医の身分保証と評価制度の明確化,癌集学的治療についての啓蒙活動が必要であると述べた。
また前原喜彦氏(九大)は,アメリカの状況と比較しながら,臨床腫瘍学の卒前・卒後教育を充実させるための条件を提示。新部英男氏(群馬大)は癌集学治療における放射線腫瘍学の立場から「臨床腫瘍医の教育は急務である」とし,小磯謙吉氏(茨城県立医療大)は,腎泌尿器外科の立場から臨床腫瘍学教育の内容や必要性を考察した。
一方,吉野肇一氏(東医歯大市川総合病院)は,追加発言として一般・消化器外科医の立場から,臨床腫瘍専門医の制度化の問題点を指摘。すでに関連の多くの学会で専門医制度が導入され,医師にとって必要以上の負担になっている現状に疑問を呈し,癌治療学会の担うべき役割は癌規約総論等のミニマム・リクアイアメントの徹底であると述べた。
その後,大学における臨床腫瘍学の教育や,臨床腫瘍医の育成に関する総合討論を経て,特別発言者の野田起一郎氏(近畿大)が登壇。「癌の治療にジェネラルな知識が必要になってきたことが,臨床腫瘍学の必要性を浮かび上がらせた。今後ますます発展させる必要がある」と述べ,総合的な性格を持つ癌治療学会として,制度づくりに向けてよい方法を考えたいとした。