病歴と診察で診断する感染症
System1とSystem2

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近年、感染症診断法の進歩はめざましい。しかし、検査が充実すればするほど、臨床現場では「病歴」と「診察」が軽視されているように感じなくもない。本来、感染症の診断で最も重要なのは、感染臓器・病原微生物を突きつめることである。そしてこれは、病歴と診察で可能なかぎり検査前確率を高めることによってなされるべきである。「病歴」と「診察」にこだわった執筆陣による“匠の技”を伝授したい。
編集 志水 太郎 / 忽那 賢志
発行 2018年04月判型:B5頁:236
ISBN 978-4-260-03538-5
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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 「感染症は全身を診る力が必要だから,そのためにはまず総合内科的な訓練を行ったほうがいい」というのが,研修医2年目の6月に師匠の青木眞先生からいただいた言葉でした.その後10年が経過しましたが,この言葉は感染症を実際に診るようになり,さらに後輩を指導する立場になった自分がいよいよ身に染みて実感するようになりました.
 感染症の診療では,患者の病歴を俯瞰し,指の先から足先までを丁寧に調べて観察し,着目すべき点に細かく着目する柔軟な視点の習得が重要です.これは感染症のみならず,幅広く臓器横断的な診療を行う総合診療医にとっても大切な姿勢と思います.
 本書は,総合診療のexpertiseである病歴とフィジカル,そして基礎的診断戦略であるSystem 1・2を軸に,感染症をテーマに実臨床での診断の現場を言語化することを試みたものです.執筆は,臨床や教育で実際に交流のある総合診療・感染症の若手からベテランまでの先生方にお願いしました.各項に一貫したのはSystem 1・2の切り口ですが,各症例が多彩で示唆に富む学びを与えてくれるものです.結局,臨床医が成長するのは一例一例の学びからだと実感させられる,素晴らしい症例集になったと感じています.ぜひお楽しみください.

 2018年3月
 志水太郎


 「感染症って本当に不思議だなあ」って思いませんか.例えば,風疹ウイルスがヒトに感染したときの臨床症状と,MERSコロナウイルスがヒトに感染したときの臨床症状はなぜ違うのでしょうか? このような臨床症状の違いはなぜ生まれるのでしょうか? もちろん微生物のもつ病原性とヒトの免疫が織りなす反応によって臨床症状が生まれるわけですが,病原体の種類によって感染したヒトが全く異なる臨床像を呈するというのは実に興味深い現象です.なぜ麻疹ではコプリック斑ができるのに風疹ではできないのか? 日々このようなことを考えながら臨床をしている私であります.
 そして,感染したヒトの性別や年齢,免疫の具合によっても微妙に異なる臨床症状になります.つまり感染者の数だけ異なる臨床像が生まれるわけです.私がジカ熱に罹ったら38℃の高熱が出るけど,あなたが罹ったら熱は出ないかもしれません.
 そんなわけで,感染症の診断の面白さの1つは「この患者さんに悪さをしている病原体は何か」を病歴や身体所見で診断することにあります.本書はそのエッセンスが詰まった,感染症診断の究極本であるといえるのではないでしょうか.本書が,読者の皆さまが一例でも多くの感染症患者さんを診断できることに寄与できれば何よりです.

 2018年3月
 忽那賢志

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System 1,System 2の診断Keywords

Introduction
 1 本書の活用の仕方―System 1とSystem 2を中心に
 2 感染症の診断学

System 1 電光石火の感染症 Snap Diagnosis
 1 赤いカメレオン! 多彩な症状に騙されるな
 2 案じたら刺すが易し
 3 心疾患は聴診! ではなく,まず視診と触診!
 4 単なる咽頭炎と思ったら……
 5 “forgotten disease” の逆襲
 6 豚骨ラーメンは,やっぱり死ぬほど美味しい!
 7 初キッスは苦い味
 8 全身痛い! これってリウマチ?
 9 電話口から見えた疾患 歴史は繰り返す!
 10 秋○○はよめに食わすな
 11 頭が痛くてウロウロしてしまう……
 12 「どこも異常ないんですよね~」
 13 天の采配
 14 ある時は発熱,ある時は下痢,ある時は意識障害
 15 「かぜかなぁ」って思ってたら……
 16 手は口と併せてモノを云う
 17 Don't touch me ! 神出鬼没なアイツにご用心
 18 手足は病気を語る
 19 その耳鼻科医の熱は

[One Point Lecture]
 (1)感染症のSnap Diagnosis─メリットとデメリットをしっかり押さえよう
 (2)感染症の演繹的診断─System 1のセーフティネットとしてのSystem 2

System 2 理詰めで追い詰める感染症
 1 ドイツっぽくない麻疹
 2 圧迫骨折+認知症+誤嚥性肺炎=???
 3 高い代償
 4 感染性胃腸炎=「“除外×2”,のち“落とし穴×3”,ところにより一時 市中腸炎」
 5 流行地でのthe great imitator
 6 やはり,こうなるからには理由がある
 7 人も病気も見かけじゃない
 8 There's no such thing as a FREE lunch !
 9 セックスと嘘とアノスコープ
 10 祇園にて 耳をすませば 三味の音
 11 Taking pains in the diagnosis.
 12 システムエラー
 13 航海の果てにたどり着く熱帯の赤い海に浮かぶ白い島
 14 「先生! 患者さんの顔がピクピクしています!」
 15 オバケとアレが見えたら……お手上げです
 16 赤い顔のビール好きにはご用心!
 17 連携で解明! 手ごわい発熱

[One Point Lecture]
 (3)System 1の鍛え方とその後
 (4)System 2の磨き方

読んでおきたいOne More Question

索引

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全ての内科医,総合診療医必読の書
書評者: 岡 秀昭 (埼玉医大総合医療センター総合診療内科・感染症科診療科長/准教授)
◆総合診療,感染症内科の実力者が執筆

 レプトスピラ症,メリオイドーシスなど感染症医が喜びそうな診断名も散見されるが,本書は決して,感染症オタクのための本ではない。

 私は常日頃から,感染症の研修を開始するに当たり,まずは内科の研修をしっかり修了することを勧めている。というのも私自身がそうであったのであるが,単なる微生物や抗菌薬に詳しいだけでは,バイキンの先生であって,真の感染症内科医にはなれないのである。これは循環器でも,消化器でも同じではないかと思う。感染症科医なのか,それとも感染症内科医なのか。循環器科医なのか,それとも循環器内科医なのか。私は真の内科医に憧れる。

 本書は決して編者の忽那賢志先生のような感染症専門家ばかりで書かれているわけではない。編者の志水太郎先生は総合診療の若きリーダーであり,他の著者も総合診療医の実力者,真の内科医が多数名を連ねる。また感染症専門家である著者であっても,私の憧れる真の内科医により書かれている。

◆診断過程と疾患知識を同時に身につけることができる欲張りな本

 感染症は臓器非特異的に生じるため,診断には的確かつ詳細な病歴聴取と全身をくまなく診察する能力が求められる。診断が付けば,微生物を推定し,適切な抗菌薬を選択すればよい。つまり診断が大きなウエイトを占める。真の内科医であれば,病歴と診察で診断することにこだわりたい。

 本書は洗練された総合診療医と感染症内科医たちによるSystem1の判断やSystem2の思考による診断過程を学ぶことができ,合計36例の症例を検討追随することで,感染症の知識も身につけることができる欲張りな書籍である。

 憧れの内科医,総合診療医,感染症内科医をめざす全ての医師にお勧めしたい。
愚直なSystem2的診断がSystem1をも養う
書評者: 青木 眞 (感染症コンサルタント)
 診断プロセスの中で,System1は直感的思考,System2は分析的思考を指すが,感染症は短時間で病像が完結するものが多くSystem1を応用できる症例が少なくない。本書は志水太郎,忽那賢志両先生による感染症診断プロセスのわかりやすい説明に続き,System1,すなわち直感によるSnap Diagnosisが可能であった症例群と,System2すなわち分析思考によって初めて診断可能となった症例群に大別して編集してある。ベテラン・カリスマ医師らによる著作であることも手伝い,大変刺激的・教育的でかつ読みやすいものとなっている。

◆数ある本書のパールから一部を紹介すると

 急性喉頭蓋炎(p.25):最近では成人例の報告が多く,30~50歳代の報告例が多い。成人例はやや緩徐な経過をたどることも多いため,咽頭痛出現から数日経過して受診する例もしばしば。
 Lemierre症候群(p.29):“左右差がありすぎる”頸部所見が最大のポイント。「肺病変」は特に頻度が高いので新規に出現した「咳嗽」「胸膜痛」「血痰の有無」に注目する。
 パルボウイルスB19感染症(p.41):「全身の痛み」若い患者ならば本感染症,高齢者ならばリウマチ性多発筋痛症を疑う(大船中央病院・須藤博先生の教え)。
 Review of systems(p.63):ROSは患者の明暗を分ける! 簡単でもいいので必ず聴取を!
 成人ヒトパレコウイルス感染症(p.166):全例に「四肢近位部の筋痛」を認め,また,そのほとんどの症例で「筋力低下」を認めており,ヒトパレコウイルス感染症とBornholm病(コクサッキーウイルス)とは筋痛の分布が異なる可能性がある。

◆診断プロセスとその周辺(以下は余談である)-System1は「結果」

 Primary Careの現場では病初期,病像が未熟・不完全なことも多く,System1的アプローチはかえって危険であり,理性的に他の疾患の可能性も留保するSystem2的なアプローチが大切である。また長期入院例など複数の交絡する病因・病態を扱うことを強いられるHospitalistやIntensivistも存外,単純な病態を前提とすることが多いSystem1から遠い世界におり,日常的にはSystem2を重層的に用いる。コンサルタントに至っては非典型症例のみ相談を受けるためにSystem1の出番はまずない。Snap Diagnosisは格好よいが,使える時間,空間は思いの外限られ,臨床医はそのことに意識的であるべきと評者は信じる。かえって初学者は愚直にSystem2を用い,気付けばSystem1ができるようになっているのが理想である。言い換えるとSystem1は「結果」であり,「目標」ではない。

◆診断は診療の一部

 診断を楽しむカンファレンスが若手を中心に各地で盛況であることとは裏腹に,ベッドサイドで実務を能率的にこなし患者に寄り添う文化は必ずしも盛況とは言えないと感じるのは評者だけだろうか。「臨床は,“症例検討会”ではない」「『実務』できての“臨床能力”」(p.57:北野夕佳先生)は至言である。そしてさらに言えば診断や治療は診療の一部でしかない。診断のつかない不明熱,治療法のない末期癌に寄り添う診療も視野に入れた教育を続ける志水先生,忽那先生のメッセージが一人でも多くの読者に届くことを祈っている。
研修医必読! 感染症の苦手意識が短時間で吹っ飛ぶ!
書評者: 岸田 直樹 (感染症コンサルタント)
 「病歴と診察で診断する」と聞くと「そんな必要があるのか?」と思うのは無理もない。なぜならば,今の時代,さまざまな検査が発達しており,病歴・身体所見などなくてもうまくいくと感じることが意外に多いかもしれないからだ。確かに検査は病歴・身体所見よりもクリアカットに見えやすい。が,検査の解釈に感度・特異度の理解は必須であり,検査にも限界はあることは肝に銘じなければならない。

 しかし,それでも病歴・身体所見よりも「わかりやすい」と感じてしまうのも仕方がないほど,今日,優れた検査は多い。CRPも悪者のようにいろいろ言われるが,評者も「研修医の下手なプレゼンテーションを聞いているくらいであれば,CRPの方が何倍も役に立つな」と若干の皮肉を交えて指導を行っているくらいである。……半分以上,真にそう思っている。

 ところが,感染症の診療に限って言えば,病歴・身体所見の存在が他の領域よりも極めて大きいことを無視するわけにはいかない。そこには感染症ならではの特徴が存在するからだ。その一つが,“抗微生物薬開始判断時点で微生物学的な病名が付いていない”ことが多いという事実だ。感染症が疑われ,可能性の一つとして感染臓器を絞れたとしても,感染臓器由来の検体などから微生物が判明するまでには数日はかかる。つまり,初診時には原因微生物を含めた確定診断(感受性なども)は極めて難しいという特徴がある。診断が確定しない中で,どこまで「疾患疑い」として治療開始すべきか? そもそも本当に感染症なのか? という判断を臨床現場では求められることになる。また,最もよくある感染症である風邪や胃腸炎などのウイルス性疾患の多くは,病歴と身体所見での判断が求められる。病歴と身体所見でほぼ当たりを付けられていることがこれほど重要な領域は感染症以外にはないであろう。

 感染症の書籍がたくさん出版される中,本書が持つ意味は大きい。「知っている人は知っているよね」と短期間で言えるようにしてくれる書籍は意外にない。本書は,感染症への苦手意識が短時間で吹っ飛ぶ,医学生・研修医にぜひ手に取っていただきたい教科書である。

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