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多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017

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多発性硬化症・視神経脊髄炎に代表される、中枢神経系炎症性脱髄疾患全般の診療手引き書の最新版。従来の治療に特化したガイドラインから大きく発展し、治療に加えて、疫学、病因・病態から、診断、検査、経過と予後といった診療全体をカバーしたガイドラインに生まれ変わった。第一線で診療に当たる医師によって編集され、新しい研究成果や臨床経験の蓄積が反映された、診療現場に必須のガイドライン。
シリーズ 日本神経学会監修ガイドラインシリーズ
監修 日本神経学会
編集 「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン」作成委員会
発行 2017年06月判型:B5頁:352
ISBN 978-4-260-03060-1
定価 5,940円 (本体5,400円+税)
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神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって

神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって

 日本神経学会では,2001年に当時の柳澤信夫理事長の提唱に基づき,理事会で主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することを決定し,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症」,「痴呆性疾患」,「脳卒中」の6疾患についての「治療ガイドライン2002」を発行しました.
 「治療ガイドライン2002」の発行から時間が経過し,新しい知見も著しく増加したため,2008年の理事会(葛原茂樹前代表理事)で改訂を行うことを決定し,「治療ガイドライン2010」では,「慢性頭痛」(2013年発行),「認知症」(2010年発行),「てんかん」(2010年発行),「多発性硬化症」(2010年発行),「パーキンソン病」(2011年発行),「脳卒中」(2009年発行)の6疾患の治療ガイドライン作成委員会,および「遺伝子診断」(2009年発行)のガイドライン作成委員会が発足しました.
 「治療ガイドライン2010」の作成にあたっては,本学会としてすべての治療ガイドラインについて一貫性のある作成委員会構成を行いました.利益相反に関して,このガイドライン作成に携わる作成委員会委員は,「日本神経学会利益相反自己申告書」を代表理事に提出し,日本神経学会による「利益相反状態についての承認」を得ました.また,代表理事のもとに統括委員会を置き,その下に各治療ガイドライン作成委員会を設置しました.この改訂治療ガイドラインでは,パーキンソン病を除く全疾患について,他学会との合同委員会で作成されました.
 2009年から2011年にかけて発行された治療ガイドラインは,代表的な神経疾患に関するものでした.しかしその他の神経疾患でも治療ガイドラインの必要性が高まり,2011年の理事会で新たに6神経疾患の診療ガイドライン(ギラン・バレー症候群・フィッシャー症候群,慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー・多巣性運動ニューロパチー,筋萎縮性側索硬化症,細菌性髄膜炎,デュシェンヌ型筋ジストロフィー,重症筋無力症)を,診断・検査を含めた「診療ガイドライン」として作成することが決定されました.これらは2013~2014年に発行され,「ガイドライン2013」として広く活用されています.
 今回のガイドライン改訂・作成は2013年の理事会で,「遺伝子診断」(2009年発行),「てんかん」(2010年発行),「認知症疾患」(2010年発行),「多発性硬化症」(2010年発行),「パーキンソン病」(2011年発行)の改訂,「単純ヘルペス脳炎」と「ジストニア」の作成,2014年の理事会で「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン」の作成が承認されたのを受けたものです.
 これらのガイドライン改訂は従来同様,根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)の考え方に従い,「Minds診療ガイドライン作成の手引き」2007年版,および2014年版が作成に利用できたものに関しては2014年版に準拠して作成されました(2014年版準拠は多発性硬化症・視神経脊髄炎,パーキンソン病,てんかんの診療ガイドラインなど).2014年版では患者やメディカルスタッフもクリニカルクエスチョン作成に参加するGRADEシステムの導入を推奨しており,GRADEシステムは新しいガイドラインの一部にも導入されています.
 診療ガイドラインは,画一的な診療を強制するものではありません.最も適切な診療は患者さんごとに異なり,医師の経験や考え方によっても診療内容は異なるかもしれません.診療ガイドラインは,医師がベストの診療方針を決定するうえでの参考としていただけるように,あくまで標準的な診療を科学的根拠に基づいて提示したものです.
 神経疾患の治療も日進月歩で発展しており,診療ガイドラインは今後も定期的な改訂が必要となります.新しい診療ガイドラインが,学会員の皆様の日常診療の一助になることを心から願いますとともに,次期改訂に向けて,診療ガイドラインをさらによいものにするためのご評価,ご意見をお待ちしております.

 2017年5月
 日本神経学会
 前代表理事 水澤 英洋
 代表理事 高橋 良輔
 前ガイドライン統括委員長 祖父江 元
 ガイドライン統括委員長 亀井 聡




 本書は,『多発性硬化症治療ガイドライン2010』(以下,2010ガイドラインと表記)としてまとめられた内容を受け継ぎ,その後の研究成果や臨床経験の蓄積を取り入れて診療ガイドラインに発展させたものである.2010ガイドラインは治療に特化したものであったが,本診療ガイドラインは,中枢神経系炎症性脱髄疾患全般の診療の手引き書として,医療者のみならず該当疾患の患者およびその家族の情報源として使用されることを目指して作成した.このため,総論第1章「中枢神経系炎症性脱髄疾患概念」では,概要に始まり,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS),視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO),バロー同心円硬化症(Baló concentric sclerosis:BCS),急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM),急性横断性脊髄炎(acute transverse myelitis:ATM),中枢末梢連合脱髄症(combined central and peripheral demyelination:CCPD),特発性視神経炎(idiopathic optic neuritis:ION)について,現代的な位置づけを概説した.さらに総論には,疫学,病因・病態についてのclinical question(CQ)を配置し,次に各論Iとして症状や障害度評価,診断法と必要な検査,経過と予後,医療経済,社会資源の活用について述べ,各論IIとしてアウトカム評価を含めた治療全般の多岐にわたる項目立てを行った.その結果,本書は8の総説と合計110のCQから構成されている.2010ガイドラインでは扱えなかった対症療法やリハビリテーションなど患者からの要望の強い項目について10のCQを充てる一方,診療の中での重要性が低下した免疫抑制薬〔アザチオプリン(azathioprine:AZT),シクロホスファミド(cyclophosphamide:CPA),ミトキサントロン(mitoxantrone:MITX),メトトレキサート(methotrexate:MTX)〕については,個別の薬剤についてのCQを立てず,まとめて記載する方針に変更した.
 本書は『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』(以下,Minds 2014と表記)に示された指針を踏まえ,専門医のみではなく,医学文献検索専門家および疫学専門家を加えて編成されたグループにより作成された.一般的には,CQはPICO(P:patient, problem, population;I:interventions;C:comparisons, controls, comparators;O:outcomes)の形式で立てられるが,本診療ガイドラインでは,臨床の実用に沿った形式で作成した.すなわち,作成作業は以下のような手順で進めた.まず,スコープの概念に則り,ガイドラインの流れ(枠組み)と取り上げるべき重要臨床課題を討議のうえ決定した.その後,各臨床課題についてCQとその文言を決定した.また,システマティックレビューについては,各CQの担当者がとりまとめを行った.その方法として,Minds 2014に掲載された「テンプレートID:5-1推奨文草案O」を当委員会では「合意形成用フォーマット」と呼称し,執筆者がどのような文献情報や根拠に基づいてエビデンスを評価し推奨の強さを判断したか,委員全員で共有して討議を行う基礎資料とすることで合意した.合意形成用フォーマットは110すべてのCQについて作成したが,一例として「MS再発予防のための治療薬はいつ開始すべきか?」に対して作成されたものを巻末に挙げた.なお,文献検索は専門家との共同作業により,原則として1990年1月から2015年3月末までのPubMedおよび医学中央雑誌による検索を行った.ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)によるエビデンスを最も重視したが,欧米の研究がほとんどであるため,本邦での研究成果が出版された場合には,小規模研究でも除外せず,レビューの対象とした.また,専門医として念頭にある文献が抽出されなかった場合,key wordを追加または変更して再度検索にかけた.同様に,上記の検索システムから外れた雑誌に掲載された重要なエビデンスを提供する論文や,危険情報を通知する会社資料なども,2016年9月末時点までハンドサーチにより渉猟した.
 推奨作成のためのエビデンス総体の総括(アウトカム全般のエビデンスの強さ)はMinds 2014の表5-1に準拠し,益と害のバランスを考慮して推奨の強さを決定した(表1).さらに,本診療ガイドラインは非専門医や患者およびその家族も対象としており,よりわかりやすく意図が伝わる工夫が必要ではないかとの議論がなされた.その結果,推奨する・しないをプラス・マイナスで表す方法は一般的ではないが,行うことを推奨する意図を伝える場合には+を付し,行わないよう勧める場合には-を付することで合意した.
 しかし,この表を採用するだけでは2つの大きな問題が生じることが判明した.1つは,1の強い推奨を「強く推奨する」,2の弱い推奨を「弱く推奨する(提案する)」という画一的な文章表現に統一すると,診療現場で判断する際のニュアンスを正確に伝えられないCQが存在することである.このため,Minds 2014にも記載のある「文脈に応じた(文言の)使い方」を採用した.もう一方は,推奨度(エビデンス総体の総括と推奨の強さ)および推奨文の内容は,合意形成用フォーマットに基づいて出席者全員の賛同が得られるまで議論するというインフォーマルコンセンサス形成法を採用したものの,容易に合意形成に至るCQと,委員間で意見の相違が大きく時間をかけて議論しても擦り合わせが困難なCQが存在するという事実である.後者は,文献情報のみではなく個々の臨床経験も加味された評価の相違であるために,現時点では正解のない命題を扱っていることを意味する.このようなCQに強引に推奨文を付して,しかも画一的な文言で「行うこと(あるいは行わないこと)を強く,あるいは弱く推奨する」ことは,ガイドラインの使用者を誤った治療方針に導くおそれがある.
 以上のような理由から,推奨文を付することが可能なCQでも,「回答」で答えている項目が存在する.この場合,情報提供として解説を行っており,推奨的な文章が記載されていても推奨度を入れていない.特に,国内での臨床経験が十分でない薬剤が混在するMS再発予防薬については,すべて「回答」として情報提供の形をとり,診療を進める際の方針決定に不可欠なCQを配置した「治療の進め方」の章に明確に推奨文を入れ込むことで,委員全員のコンセンサスが形成された.ほかのCQにおいても,「回答」は情報提供を行うものであり,「推奨」とは異なる役割を担うものとして位置づけている.
 なお,日本神経学会COI委員会から勧告のあった委員は,COIに抵触する薬剤(インターフェロンβ,フィンゴリモド,ナタリズマブ)に関する討議の場から退出した.
 委員会の開催日と場所は以下の通りである.
 第1回 2014年9月4日 金沢
 第2回 2015年1月22日 東京
 第3回 2015年7月4日 東京
 第4回 2015年9月15日 岐阜
 第5回 2015年11月27日 名古屋
 第6回 2016年1月21日 東京
 第7回 2016年3月5日 東京
 第8回 2016年5月17日 神戸
 第9回 2016年6月18日 東京
 第10回 2016年7月16日 東京
 第11回 2016年8月7日 神戸
 最後に,本診療ガイドラインの推奨や,回答に記された情報は強制されるべきものではなく,診療行為の選択肢を示す1つの参考資料であって,患者と医療者は協働して最良の診療を選択する裁量が認められるべきである.また,今回十分に対応できていない課題は,どのようにして患者の参加や,患者の価値観・希望の反映を実現するかという点である.最初のCQ構築段階から念頭に置いて着手しなければ対処できない重要な事項であり,次回改訂時の大きな課題として残されていることを付記する.
 現代におけるMS・NMOその他の中枢神経系炎症性脱髄疾患の研究と治療の進歩を踏まえつつ重要事項を簡潔に記載する作業には,想像を絶する時間と労力が注ぎ込まれたことは明白である.診療に役立つものを医療の現場に届けたいという委員会全員の,またその委員を支えた執筆協力者の方々の熱意に,心より深謝申し上げたい.

 2017年5月
 多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン作成委員会
 委員長 松井 真

表1│エビデンス
エビデンス総体の総括
A(強)効果の推定値に強く確信がある
B(中)効果の推定値に中程度の確信がある
C(弱)効果の推定値に対する確信は限定的である
D(とても弱い)効果の推定値がほとんど確信できない
推奨の強さ
1強い
2弱い
文章の意図をよりわかりやすく伝えるため,行うことを推奨する場合には+(プラス)を,行わないことを推奨する場合にはー(マイナス)を付した.

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神経疾患診療ガイドラインの発行にあたって

略語一覧

総論
 1:中枢神経系炎症性脱髄疾患概念
  1.概論
  2.多発性硬化症(MS)
  3.視神経脊髄炎(NMO)
  4.バロー同心円硬化症(BCS)
  5.急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
  6.急性横断性脊髄炎(ATM)
  7.中枢末梢連合脱髄症(CCPD)
  8.特発性視神経炎(ION)
 2:疫学的要因
   [CQ2-1]多発性硬化症の疫学的特徴は何か?
   [CQ2-2]視神経脊髄炎の疫学的特徴は何か?
   [CQ2-3]日本人多発性硬化症の病像は時代とともに変化しているか?
 3:病因・病態
  1.免疫学的側面
   [CQ3-1-1]多発性硬化症の病因・病態にはどのような免疫機序が関与しているか?
   [CQ3-1-2]視神経脊髄炎の病因・病態にはどのような免疫機序が関与しているか?
  2.遺伝学的側面
   [CQ3-2-1]多発性硬化症ではどのような遺伝的要因が知られているか?
   [CQ3-2-2]多発性硬化症の臨床的特徴と遺伝的要因との間に関連があるか?
   [CQ3-2-3]視神経脊髄炎ではどのような遺伝的要因が知られているか?
  3.感染因子
   [CQ3-3-1]多発性硬化症の病因・病態に感染の関与があるか?
   [CQ3-3-2]多発性硬化症以外の中枢神経系炎症性脱髄疾患の
          病因・病態に感染の関与があるか?
  4.環境因子
   [CQ3-4-1]多発性硬化症の発症に関与する環境因子にはどのようなものがあるか?
   [CQ3-4-2]多発性硬化症以外の中枢神経系炎症性脱髄疾患の
          発症に関与する環境因子があるか?
  5.神経病理
   [CQ3-5-1]多発性硬化症の病理学的所見の特徴は何か?
   [CQ3-5-2]視神経脊髄炎の病理学的所見の特徴は何か?
   [CQ3-5-3]多発性硬化症と視神経脊髄炎以外の中枢神経系炎症性脱髄疾患の
          病理学的所見の特徴は何か?
   [CQ3-5-4]Tumefactive demyelinating lesion とは何か?

各論I 症状から診断・予後
 4:症状
   [CQ4-1]多発性硬化症ではどのような症状がみられるか?
   [CQ4-2]視神経脊髄炎ではどのような症状がみられるか?
   [CQ4-3]多発性硬化症と視神経脊髄炎以外の中枢神経系炎症性脱髄疾患では
        どのような症状がみられるか?
   [CQ4-4]ウートフ現象とは何か?
   [CQ4-5]中枢神経系炎症性脱髄疾患の発作性症状にはどのようなものがあるか?
   [CQ4-6]小児多発性硬化症の症状の特徴は何か?
 5:障害度評価
   [CQ5-1]身体障害の程度およびQOLはどのように評価するか?
   [CQ5-2]認知機能障害はどのように評価するか?
 6:検査
  1.画像検査
   [CQ6-1-1]中枢神経系炎症性脱髄疾患でMRI検査をする目的は何か?
   [CQ6-1-2]中枢神経系炎症性脱髄疾患ではどのようなMRI撮像方法があるか?
   [CQ6-1-3]中枢神経系炎症性脱髄疾患のMRI画像の特徴は何か?
  2.血液検査
   [CQ6-2]中枢神経系炎症性脱髄疾患の診療にはどのような血液検査を行えばよいか?
  3.髄液検査
   [CQ6-3-1]中枢神経系炎症性脱髄疾患の診療で脳脊髄液検査をする目的は何か?
   [CQ6-3-2]中枢神経系炎症性脱髄疾患において特徴的な脳脊髄液検査所見は何か?
  4.神経生理学的検査
   [CQ6-4-1]中枢神経系炎症性脱髄疾患の診療に有用な神経生理学的検査は何か?
   [CQ6-4-2]中枢神経系炎症性脱髄疾患の神経生理学的検査では
          どのような異常が認められるか?
  5.その他の検査
   [CQ6-5]中枢神経系炎症性脱髄疾患で行うべき眼科的検査には
         どのようなものがあるか?
 7:診断
  1.多発性硬化症
   [CQ7-1-1]多発性硬化症はどのように診断するか?
   [CQ7-1-2]多発性硬化症との鑑別が重要な疾患には何があるか?
   [CQ7-1-3]Clinically isolated syndromeとは何か?
   [CQ7-1-4]小児多発性硬化症はどのように診断するか?
  2.視神経脊髄炎
   [CQ7-2]視神経脊髄炎はどのように診断するか?
  3.多発性硬化症/視神経脊髄炎以外の疾患と鑑別診断
   [CQ7-3]急性散在性脳脊髄炎はどのように診断するか?
 8:経過・予後
  1.多発性硬化症
   [CQ8-1-1]多発性硬化症の再発や進行はどのように定義されているか?
   [CQ8-1-2]多発性硬化症は発症後どのように経過するか?
   [CQ8-1-3]多発性硬化症の予後を予測する因子はあるか?
   [CQ8-1-4]多発性硬化症ではワクチンを受けてもよいか?
  2.視神経脊髄炎
   [CQ8-2]視神経脊髄炎は発症後どのように経過するか?
 9:その他
  1.医療経済学的側面
   [CQ9-1-1]中枢神経系炎症性脱髄疾患の急性増悪期の治療薬,血漿浄化療法,
          疾患修飾薬,免疫抑制薬,リハビリテーション,診断や経過観察に
          必要な各種検査などは保険適用か?
   [CQ9-1-2]再発予防治療薬の薬価と総医療費に占める割合はどの程度か?
   [CQ9-1-3]「難病の患者に対する医療費等に関する法律」の医療費補助の
          仕組みはどうなっているか?
  2.社会資源の活用
   [CQ9-2-1]利用可能な福祉制度や社会資源にはどのようなものがあるか?
   [CQ9-2-2]障害者総合支援法とはどのような制度でどのような
          サービスが受けられるか?

各論II 治療
 10:治療総論
  1.治療によるアウトカム
   [CQ10-1-1]中枢神経系炎症性脱髄疾患の治療によるアウトカムを
           評価する方法にはどのようなものがあるか?
   [CQ10-1-2]患者・介護者によるQOLを含めた評価をどのように行い,役立てるか?
  2.再発予防(進行抑制)
   [CQ10-2-1]多発性硬化症再発予防のための治療薬はいつ開始すべきか?
   [CQ10-2-2]視神経脊髄炎再発予防のための治療薬はいつ開始すべきか?
  3.Non-responderの定義と判定
   [CQ10-3-1]再発予防薬治療のnon-responderとはどのような患者か?
   [CQ10-3-2]Non-responderと判断した場合,どのように対処するか?
 11:治療の進め方
   [CQ11-1]急性期の中枢神経系脱髄疾患はどう治療するか?
   [CQ11-2]多発性硬化症の再発予防と進行抑制のための治療はどのように行うか?
   [CQ11-3]視神経脊髄炎の再発予防と進行抑制のための治療はどのように行うか?
   [CQ11-4]多発性硬化症と視神経脊髄炎以外の中枢神経系炎症性脱髄疾患の
          再発予防のための治療はどのように行うか?
   [CQ11-5]小児多発性硬化症の治療はどのように行うか?
 12:急性増悪期の治療(初発を含む)
  1.副腎皮質ステロイド薬
   [CQ12-1-1]副腎皮質ステロイド薬は急性増悪期の治療に有効か?
   [CQ12-1-2]副腎皮質ステロイド薬は急性増悪期の治療にどのように使用するか?
   [CQ12-1-3]ステロイドパルス療法にはどのような副作用があるか?
  2.血漿浄化療法
   [CQ12-2-1]血漿浄化療法は急性増悪期の治療に有効か?
   [CQ12-2-2]血漿浄化療法はどのような場合に使用するか?
   [CQ12-2-3]血漿浄化療法はどのように実施するか?
   [CQ12-2-4]血漿浄化療法にはどのような副作用があるか?
  3.その他
   [CQ12-3]急性増悪期の治療薬は多発性硬化症および
          視神経脊髄炎の長期予後に影響するか?
 13:再発予防(進行抑制)の治療
  1.インターフェロンβ
   [CQ13-1-1]インターフェロンβ製剤は再発予防に有効か?
   [CQ13-1-2]インターフェロンβ製剤は障害の進行防止に有効か?
   [CQ13-1-3]インターフェロンβ製剤はどのように使用するか?
   [CQ13-1-4]インターフェロンβ製剤にはどのような副作用があるか?
   [CQ13-1-5]抗アクアポリン4抗体陽性患者にインターフェロンβ製剤を
           使用してもよいか?
  2.フィンゴリモド
   [CQ13-2-1]フィンゴリモドは再発予防に有効か?
   [CQ13-2-2]フィンゴリモドは障害の進行防止に有効か?
   [CQ13-2-3]フィンゴリモドはどのように使用するのか?
   [CQ13-2-4]フィンゴリモドにはどのような副作用があるのか?
   [CQ13-2-5]抗アクアポリン4抗体陽性患者にフィンゴリモドを使用してもよいか?
  3.ナタリズマブ
   [CQ13-3-1]ナタリズマブは再発予防に有効か?
   [CQ13-3-2]ナタリズマブは障害の進行防止に有効か?
   [CQ13-3-3]ナタリズマブはどのように使用するか?
   [CQ13-3-4]ナタリズマブにはどのような副作用があるか?
   [CQ13-3-5]抗JCウイルス抗体陽性患者にナタリズマブを使用してもよいか?
   [CQ13-3-6]抗アクアポリン4抗体陽性患者にナタリズマブを使用してよいか?
  4.グラチラマー酢酸塩
   [CQ13-4-1]グラチラマー酢酸塩は再発予防に有効か?
   [CQ13-4-2]グラチラマー酢酸塩は障害の進行防止に有効か?
   [CQ13-4-3]グラチラマー酢酸塩はどのように使用するか?
   [CQ13-4-4]グラチラマー酢酸塩にはどのような副作用があるか?
  5.副腎皮質ステロイド薬
   [CQ13-5-1]副腎皮質ステロイド薬は再発予防に有効か?
   [CQ13-5-2]副腎皮質ステロイド薬は障害の進行防止に有効か?
   [CQ13-5-3]副腎皮質ステロイド薬はどのように使用するか?
  6.免疫抑制薬
   [CQ13-6-1]免疫抑制薬は再発予防に有効か?
   [CQ13-6-2]免疫抑制薬は障害の進行防止に有効か?
   [CQ13-6-3]免疫抑制薬はどのように使用するか?
   [CQ13-6-4]免疫抑制薬にはどのような副作用があるか?
 14:対症療法
  1.痙縮
   [CQ14-1]痙縮にはどのような治療法や対処の仕方があるか?
  2.痛み・しびれ感
   [CQ14-2]痛みやしびれ感にはどのような治療法や対処の仕方があるか?
  3.排尿・排便障害
   [CQ14-3]排尿や排便障害にはどのような治療法や対処の仕方があるか?
  4.性機能障害
   [CQ14-4]性機能障害にはどのような治療法や対処の仕方があるか?
  5.疲労・倦怠感
   [CQ14-5]疲労や倦怠感にはどのような治療法や対処の仕方があるか?
  6.うつなどの精神症状
   [CQ14-6]うつやほかの精神症状にはどのような治療法や対処の仕方があるか?
  7.認知機能障害
   [CQ14-7]認知機能障害にはどのような治療法や対処の仕方があるか?
  8.その他
   [CQ14-8]複視にはどのような治療法や対処の仕方があるか?
 15:リハビリテーション
   [CQ15-1]リハビリテーションにはどのようなものがあり,どのように進めていくか?
   [CQ15-2]機能補助のための補助具・装具にはどのようなものがあるか?
 16:病態ごとの治療
  1.妊娠・出産
   [CQ16-1-1]妊娠・出産は多発性硬化症および視神経脊髄炎の
           症状や経過に影響するか?
   [CQ16-1-2]妊娠・授乳期間中に再発した場合,検査や治療はどうするか?
   [CQ16-1-3]妊娠・授乳期間中の再発予防はどうするか?
   [CQ16-1-4]性ホルモン製剤内服中は,多発性硬化症や視神経脊髄炎の
           経過に影響するか?
  2.膠原病・膠原病関連疾患合併
   [CQ16-2]膠原病・膠原病関連疾患を合併した多発性硬化症はどう治療するか?

巻末資料
 合意形成用フォーマット
 McDonald診断基準(2010年版)
 多発性硬化症診断基準2015(厚生労働省)
 小児多発性硬化症の疾患定義(2012年版)
 多発性硬化症診断に際しての“red flags”
 NMO Spectrum Disorders(視神経脊髄炎スペクトラム)の国際診断基準(2015)
 総合障害度(EDSS)
 急性期の中枢神経系脱髄疾患 治療アルゴリズム
 日本で使用可能な多発性硬化症治療薬

索引

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日常臨床の立場から-ベッドサイドに常備して使いこなしたい一冊
書評者: 福武 敏夫 (亀田メディカルセンター神経内科・部長)
 私も経験を積み,論文や総説を書き,書籍や特集号の執筆や編集に当たるようになって,書評を依頼されることも増えてきた。その書評の書き方にはいろいろあって,淡々と内容の梗概を紹介していくものや,特徴を抽出して紹介するもの,著者との関係や執筆の背景に力点が置かれるものなどがあり,時にはちょっとだけ苦言が加えられたりしている。

 本書の書評が,幅広く・底が浅い日常診療を行っている臨床医である私に依頼されたのは,そのような診療現場で本書が役立つかどうかを述べ,この方面に関心のある臨床医が本書を手に取るきっかけを供するためだろう。その点で,本書は疾患概念や疫学,病態についての総論と診断・予後についての各論Iと治療についての各論IIに分けられ,全部で110に及ぶclinical questions(CQ)について回答と解説および文献が整理されており,臨床現場で疑問に思うこと,短時間に概要を得たいことにすぐに答えを見つけることができる。その内容は大規模研究を中心に(本邦からは小規模のものも含まれる)1990年から2015年3月までの文献が,多数の委員の2年間,11回(うち9回はほぼ1年間に)にも及ぶ検討で絞られて記述されている。いくつかの学会のいろいろの委員を務めた経験から言うと,この負担というか努力には頭が下がる。本書はこの方面の臨床に従事する医師にとって,ベッドサイドに常備して使いこなしたい一冊である。

 さて,臨床医からみてこの方面で日常的に問題になる点の第一は,急性に視力障害を呈する患者の診断と治療,予後予測である。眼科固有疾患が否定されれば,その多くは視神経炎,特に特発性のそれ(ION)と考えられる。CQ1.8にこれらの概要がコンパクトに述べられており,わかりやすい。しかし,遭遇する頻度からいえば,もう少しボリュームが割かれてもよかったのではと思われる。第二は,NMO―抗AQP4抗体が提唱されて10数年になり,画像診断や治療方針などの進歩は著しいが,MSとNMOの臨床症状の異同がどうかという点がある。CQ4-1と4-2にそれぞれの特徴が要領よく概説され,共通にみられる特徴的症状についてはCQ4-4や4-5に述べられているが,出現頻度やそれぞれの疾患における生理学的機序の記載がやや物足りない。もっともこれはガイドラインという本書の性格によるものであり,臨床症状としての研究自体が相対的に遅れていることを示しているのかも知れない。第三は,本書における文献収集期間の最後あたりから現在にかけて多数の論文が登場してきた抗MOG抗体陽性NMOの点である。本書内にも随所に記載があり,新課題であるという片鱗がみられるが,索引にも取り上げられていない。次のガイドライン作成はそれなりに先になると思われるので,委員会メンバーには大変だが,早急に新しくCQを立てて追補いただきたいと願う。
必読・必携の新診療ガイドライン
書評者: 黒田 康夫 (福岡記念病院・院長)
 日本神経学会監修の『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』が出版された。同学会は2010年に多発性硬化症治療ガイドラインを作成しているが,今回のガイドラインは患者および家族も対象にし,治療だけでなく診断,検査さらには医療経済,社会資源まで診療全般に関するガイドラインになっており,改訂版ではなく内容構成が全く異なる新ガイドラインである。

 特徴は診療において問題になる重要事項を漏れなく質問し,回答するQ&A形式で作成されていることである。回答は1990~2015年の25年間に発表された両疾患に関する全ての論文を医学文献検索専門家と疫学専門家も加えた作成委員会で検討した上でなされている。検索された論文には本邦からの小規模の研究報告も無視せずに含まれている。これらの論文を基にしてガイドライン作成委員会は委員の意見が一致するまで協議し,有効のエビデンスがあると意見が一致した治療法は強弱をつけた推奨度を付して紹介されている。作成委員間で意見の一致が得られないあるいは有効の根拠がまだ不十分な治療法は推奨度を付さずに紹介されている。

 多発性硬化症では疾患修飾薬による再発予防が主流になっているが,その種類,効果,副作用,投与方法および薬価まで詳細に説明されており,薬剤の選択に際して極めて参考になる。また両疾患ともにしびれ,運動麻痺,排尿障害など神経症状が急性期を過ぎても残存することが多いが,有効な対症治療法も推奨度を付して紹介されているのでありがたい。

 今回のガイドラインは患者および家族も対象にして作成されており,医療費補助など利用可能な医療福祉制度が手続きの仕方を含めて紹介されている。さらに診療する医師にとっては,両疾患で行う特殊検査が何回まで保険適応になるかが記載されているので極めて有用である。

 本書は多発性硬化症,視神経脊髄炎の診療に関する全てを網羅した秀逸のガイドラインである。このようなガイドラインを作成された松井真委員長および作成委員の諸先生のご努力に敬意を表し,深謝したい。本書は患者,家族を対象にしているので非常にわかりやすく記述されており,医師だけでなく,医学生,看護師,介護士などの医療福祉関係者の方々にも強く推奨する必携・必読書である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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