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なぜパターン認識だけで腎病理は読めないのか?

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臨床に活かせる病理診断のあり方と実践について、「腎病理に詳しい病理医」と「腎生理を専門とする臨床医」が徹底トーク。腎病理を読み解くために必要な“本当の知識”と、病理所見から得るべき“真の情報”の輪郭を、2人の専門家のクロストークが浮き彫りにする新感覚の病理解説本が登場!
長田 道夫 / 門川 俊明
発行 2017年05月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-03169-1
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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まえがき

 この病理の本は,文字がとても多いです。きれいな写真が並んだアトラスや,本来複雑な病理形態をわかりやすく表現した絵本にあるような明快さはありません。でも,それには理由があります。
 少しの知識があれば,腎生検に病理診断名はなんとかつけられるものです。「なんだ,メサンギウム増殖性腎炎じゃないか」とか,「ああ,ループス腎炎ね」などよく耳にします。でも,それで病態を説明して治療できますか? それに,標本を見ても何だか全くわからないことはありませんか? 標本をチラッとみて「自分の知らない病変パターンだ」となった場合にどうしますか? 目の前にある30個の糸球体のバラバラなパターンから,診断名を決めて患者の病態を解釈するにはどんな教科書のどのページを開いたらいいのでしょう? 残念ながら,そういう本はこれまでありませんでした。だから,本当は病理からもっと情報を引き出して,患者の病態を理解する力をつけたいと思っている臨床医も,普段は形態を読むのが得意だけれど腎臓病はよく知らない一般病理医も,だいたいここでgive upします。
 そうならないためにはどうすればいいのか。
 実は病理診断には,一定の思考過程があります。腎生検標本から,患者の病態を解釈する作業には,決まったルールがありますが,普段は,診断する者の頭の中で何となく処理されています。本書では,この頭の中の作業をできるだけ明確に文字として表すことで,腎生検病理診断が,どんな思考過程のうえに成り立っているのか,病理医が何を考えながら標本から情報を抽出しているのかを解説します。だから,たくさんの文字を読まなくてはならないのです。
 病理の説明って,聞いている人が理解しているかどうかを確認せずに,一方向に進みますね。だからわかりにくい。そこで,本書では対話形式にして,わからない側の素朴な疑問というハードルを,1つひとつ説明しながら越えていくという,いわば“ドリル”のように進めています。対話の相手は,水・電解質と医学教育が専門の門川俊明先生にお願いし,対話のなかで湧いてくる遠慮のない疑問について議論することで,腎生検病理診断の手順を理解できるようにしました。門川先生の疑問は,この本を手に取る方が共有できる実践的で重要なポイントをたくさん含んでいます。本書は,アトラスや絵本の“次の手”として,病理の壁を越えて病態を理解する腎病理の習得を目指しました。
 腎病理には,まだわかっていないことや俗説などがたくさんありますが,本書には,敢えてそれらも含めました。ですから,個人的な見解や偏った経験論もたくさん含まれ,腎病理診断体系としてはまだまだ途上であることをご理解ください。そのうえで,本書が病態の説明という腎生検病理診断の本来のゴールに向けて,少しでもお役に立てれば幸いです。

 2017年4月 Mexico Cityにて
 長田道夫

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まえがき

第1章 アトラスだけでは病理診断はできない
 はじめに
 腎病理診断の特殊性
 臨床情報と腎病理診断のバランス
 腎病理診断の手順
 腎病理アトラスでは病態を考える病理診断は難しい
 病型診断ができるようになるためには
 [Supplement 1]腎臓病の疾患分類と病型・病因診断のおさらい

第2章 パターン認識の復習
 病型診断に,まずパターン認識が必要
 メサンギウム増殖
  メサンギウム細胞の特徴とメサンギウム増殖の定義
  メサンギウム増殖がおこるメカニズム
  メサンギウム増殖はメサンギウム細胞の増殖か?
  メサンギウム増殖は活動性病変か? 可逆性か?
  メサンギウム融解という,もう1つのパターン
 管内増殖
  管内増殖の定義
  管内増殖がおこるメカニズム
  管内増殖は活動病変か? 可逆性か?
 管外増殖
  管外増殖の定義
  管外増殖がおこるメカニズム
  管外増殖がみられる疾患
  管外増殖は不可逆性
 係蹄壊死
  係蹄壊死の定義
  係蹄壊死ができるメカニズム
  なぜ,係蹄壊死は最強のパターンか
 膜性病変
  スパイク/点刻像という膜性病変
  基底膜の二重化
 糸球体硬化
  糸球体硬化の定義
  分節性硬化ができるメカニズム
  結節性硬化病変ができるメカニズム
  球状硬化(=全節性硬化)のできるメカニズム
 いくつかのパターンが複合している病型の例
  MPGNというパターンの意味
  TMAというパターンの意味
 尿細管間質病変
 動脈硬化
  その他の血管病変
 でもパターンだけでは病型診断は難しい

第3章 病型診断ができるようになるためのスキル
 病型診断の基本的ルール
 病型診断のための6つのステップ
  Step 1 標本をざっと観察する:特殊染色を使い分ける
  Step 2 病変の首座を決定する:臨床経過を少しだけ参考にする
  Step 3 首座の病変を形成するパターンを抽出し,主病変から主病診断名を決める
  Step 4 主病変に時間軸を入れて副病変を決めて現在の病態を理解する
  Step 5 首座とは関連しない病変を見出し,別の病型診断をする
  Step 6 病型診断が臨床経過に矛盾しないか確認し,病態の解釈をコメントする
 病型診断上達の極意

第4章 病因診断のための蛍光抗体法と電顕
 蛍光抗体法をなぜ行わなければならないか
 蛍光抗体法の読み方,ここでもパターンが大事
 補体沈着の意味は本当にわからない
  C3の沈着をみたら
  C1qについて
 蛍光抗体法陰性の場合には臨床情報と病型診断を見直す
 電顕は補助診断として有用かつ最終診断となる場合も
  蛍光抗体陰性での電顕の意味
  沈着物
  補助診断の意味
 [Supplement 2]単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)関連腎症のおさらい
 [Supplement 3]電顕の読み方のおさらい

第5章 代表的疾患の病態を理解する病理の読み方
 IgA腎症
  IgA腎症はアジア人に多い
  IgA腎症の組織学的特徴
  進行するIgA腎症と進行しないIgA腎症の見分け方
  病理から見たIgA腎症の症候の理解
 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)
  FSGSの病理組織
  FSGSのコロンビア分類
  二次性FSGS
  FSGSの基本はポドサイト障害
 膜性腎症
  膜性腎症の腎病理像
  特発性膜性腎症と二次性膜性腎症
  病理所見から見た膜性腎症の症状
  膜性腎症の進行
 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)
  MPGNの病理像
  免疫複合体型MPGN
  補体依存型MPGN
  免疫グロブリンや補体が関連しないMPGN
 ANCA関連腎炎
  ANCA関連腎炎は血管炎症候群
  ANCA検査
  ANCA関連血管炎の進行性は病理で判断できるか
  病理所見からみたANCA関連血管炎の治療
  ANCA関連血管炎と抗GBM病で半月体ができやすい理由
  ANCAと抗GBM抗体の重複陽性の考え方
 ループス腎炎
  ループス腎炎の腎病理像
  ループス腎炎のISN/RPS分類
  腎病理組織像と治療反応性
 糖尿病性腎症
  糖尿病がなくて,糖尿病結節がある病気
  結節がないときに,どうやって糖尿病性腎症と診断するか
  糖尿病性腎症で腎生検をするとき
  糖尿病と高血圧の合併
 血栓性微小血管症(TMA)
  TMAって,最近多すぎませんか?
  生物学的製剤によるTMA
  TMAで蛋白尿が出るメカニズム
 尿細管間質障害
  尿細管間質性腎炎
  尿細管の変性と壊死

第6章 実際に病理診断をしてみる
 症例(1)
 この症例の病型診断は?
  症例(1)のまとめ
 症例(2)
 この症例の病型診断は?
  症例(2)のまとめ

あとがき
索引

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病理医と臨床医の敷居が低くなる良書
書評者: 横尾 隆 (慈恵医大教授・腎臓・高血圧内科)
 腎臓を専門とする医師のほとんどが臨床における腎病理の重要性を理解し,よく勉強している。腎生検のカンファレンスや学会中のレクチャーなどはいつもどこも満員である。ただ,自信を持って自分は腎病理が読めるという臨床医はほとんどいないのが現状である。なぜだろうか。やはり腎病理の特殊性があるからではないだろうか。例えば,腫瘍の生検を病理診断する時,悪性か良性かの判断が重要で,経過や病因はあまり関係なく,その場の病理所見で治療法も決定される。しかし腎病理の場合,単にスナップショットのみで判断するのでなく時間軸を勘案してどのような経過でこの病態となり,今後どのようになっていくと推察できるかという情報が病理報告に求められる。したがって,病理アトラスで典型像をいくら見て理解しても実際に読めないことが多いのであろう。つまり正確な診断には臨床医と病理医が歩み寄って情報を共有することが不可欠となる。しかし,これまで十分にそれがなされていたかはいささか疑問である。両者が集うカンファレンスや研究会でも経験の豊富な腎病理医がどのような思考回路で判断したか述べることなく難解な症例の結論を出すことがあり,それを臨床医が聞いてただ鵜呑みにして“やっぱり腎病理は奥が深くて入門しづらい”と思って終わることがよくある。病理医から臨床医への一方通行であり,両者の壁は厚くなるばかりである。

 その中で,この『なぜパターン認識だけで腎病理は読めないのか?』は腎病理医の代表の長田道夫先生(筑波大)と臨床医の代表の門川俊明先生(慶大医学教育統轄センター)が会話形式で,病理医がどのような思考プロセスで症例を読んでいくのか解き明かしており,大変実践的な内容となっている。特に日頃聞きにくいような基本的な内容も門川先生が臨床医目線でどんどん聞いてくれるし,また答える長田先生も臨床医が知っていてほしいことや病理医でも意見が分かれる内容などもそのまま歯切れよく回答しているので,非常に読みやすくまた腑に落ちやすい。これから腎病理を専門とする病理医になりたい方には,ぜひまず初めに読んで腎病理医としての診断プロセスのたたき台を作っていただきたいと思う。また,腎病理を専門としない腎臓医も腎生検の病理を依頼する時の臨床情報の提供に何が求められているのか理解できるので大変有用だと思う。

 門川先生はこれまで多くのベストセラーを書いてこられたが,それぞれがベストセラーになる理由があった。本書にも対話形式にして難解な部分を飲み込みやすくしたアイデアには“なるほど!”と唸らされる。病理医と臨床医の敷居が低くなると感じさせる良書である。多くの方に手に取っていただき,内容をみていただくことをお薦めする。
対話形式によるユニークな腎病理入門書
書評者: 山中 宣昭 (東京腎臓研究所・所長)
 本書は,腎臓病理を専門とする長田道夫筑波大教授と臨床腎臓内科医である門川俊明慶大教授の対話形式によるユニークな腎病理入門書で,対話形式であるため,非常に読みやすく,親しみやすいものとなっている。これは実際の対談を録音して記録したものではなく,腎生検病理を学ぼうとする門川先生が,臨床医の立場からのさまざまな疑問や質問を問題提起という形で長田先生に投げ掛け,これに対して長田先生が応答するというプロセスを,インターネットによる相互通信手段によってやり取りし,最終的にこれをまとめて対談の形に編纂したものである。このため,その場限りの問答という限定された制約に縛られることなく,互いに熟考の上でのやり取りを反映した濃密な内容となっている。

 この本の最大の特色は,病理医である長田教授が,自らの腎病理組織診断に際しての思考過程を分析し,そのプロセスを系統だて,まとめて示したところにある。内容に即した組織画像が豊富に示されており,画像のクオリティも良好で,理解を助けている。手だれの病理医の通弊として,ところにより独特な見解による危うさなきにしもあらずだが,随所に多くの示唆に富む指摘がある。

 第1章の「アトラスだけでは病理診断はできない」という序論に続き,第2章はこれまでに確立されている8つの組織パターンを解説し,そのパターンがどのように成立するのかという病変形成機序考察の重要性を指摘している。第3章では,この基本的パターンに基づいて病型を認識し,病型からさらに病態の把握に至る6つのステップを解説。主病変と副病変を見分けること,病態の把握には常に時間軸の関与を意識すること,病理診断には臨床情報との対応が不可欠であること,が強調されている。診断の本質は病因の解明にありとして,第4章は病因診断のために蛍光抗体法と電顕による情報が極めて有用であることが述べられている。蛍光抗体法からは,病態に大きくかかわる免疫情報の把握により病因を示唆する大きな手掛かりが得られ,電顕検索からは,精細な超微形態情報を得ることができ,電顕なしでは診断不能の疾患もあり,病態の的確な把握と病因の解明に対する電顕の重要性が論じられている。第5章は代表的9疾患を取り上げ,病態を理解する読み方を具体的に例示し,日常的な代表的疾患の病態の理解は,全ての病理組織像の読みの理解にもつながることを示唆している。最終章はこれまでの解説に基づいて実際の病理診断を試みる診断演習とし,最後に全体のまとめを演習形式で示した非常に巧妙な構成となっている。

 本書は腎病理組織病変を読み解くための優れたガイドブックであるが,思考過程に基づく系統的分析なので,拾い読みではなく最初から終わりまで記述の流れに沿って読み通すべきものであり,このような論理の展開は,今後の発展が予想される人工知能による病理組織診断のためにも,貴重な基礎資料となることが期待される。

 思考過程のパターンは人により異なっているので,必ずしもこのとおりに診断を進める必要はないが,腎病理を専門としない一般病理診断医にとっても非常に参考となる内容である。

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