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エキスパートに学ぶ精神科初診面接[Web動画付]
臨床力向上のために

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日本精神神経学会の人気シンポジウム・ワークショップが待望の書籍化。(1)抑うつ、(2)パニック、(3)家族からの相談、の3つのテーマについて、エキスパートらが患者・家族との面接場面を解説付きで紹介。付録として実際の面接場面などを収録したWeb動画も。教科書には載っていない、実臨床の技が盛り込まれた1冊と呼べるだろう。
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編集 日本精神神経学会 精神療法委員会
発行 2018年06月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-03242-1
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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まえがき

 本書は,日本精神神経学会精神療法委員会が編集したものとしては2冊目になります。
 面接のない精神科臨床はなく,そして面接をすればかならずそこに精神療法的なやりとりが発生します。この部分を切り捨てて精神科医になることはできません。実際,精神科臨床の診療報酬のかなりの部分が精神療法に関連しています。とすれば,私たちは精神療法的な素養を身に着けるトレーニングを積む必要と責任があります。この委員会はそうした前提のもとに,学会員の皆さんに精神療法の研修への関心を呼び起こすために,そしてそれを専門医制度のなかで機能させるために活動してきました。
 当委員会編集の前著『臨床医のための精神科面接の基本』(新興医学出版社,2015)が面接についての基礎的事項をまとめたものであるのに対し,本書はふつうの精神科の初診に焦点を絞り,同一の患者に対して,本委員会の委員である3人の精神療法の専門家と目される医師たちがどのように面接をしたのか,具体的なやりとりが示されます。それと同時に,その医師たち自身が,どのような意図でそのようなやりとりを展開したのかについて,解説を加えています。そしてさらに,その医師以外の視点からも,それぞれの面接についてのコメントも付されています。それぞれの面接の共通点や相違,そしてコメントを吟味することで,初診面接にまつわる,さまざまな問題点,留意点が立体的に浮かび上がってくると思います。
 また,それぞれの医師たちの生きた姿に触れて,モデルにすること,参考にすることができるように,面接は活字で提供されるだけでなく,実際の動画としてもご覧になることができるようにいたしました。この動画も見れば見るほど興味深いと思います。
 ここでは3人の患者もしくは相談者との初診が素材になっています。うつ病,パニック障害,思春期患者の母親の模擬患者が登場します。これらの模擬患者の方々は病態についての深い理解をもちながら,たくみに患者像を提示しておられます。ご覧になれば,その姿があまりにリアルであることに驚かれる方もいらっしゃるでしょう。模擬患者を務めてくださった,山田聡子氏,堀江桂吾氏,岩淵千佳子氏に深く感謝いたします。
 本書が,初診面接という,初対面の何も知らない人に精神科サービスを提供する糸口を作る,実はきわめて高度なスキルの習得に向けて,読者の皆さんのお役に立つことを深く祈っております。

 2018年4月
 日本精神神経学会精神療法委員会委員長
 藤山直樹

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はじめに――精神科における初診面接とは
  医療とは面接である
  精神科医療における面接の特殊性
  精神科での初診面接の課題
  ひとりの人間として出会うこと

第1章 抑うつを呈する成人期早期の女性の初診面接
 事例概要
  研修医による予診面接
 力動精神療法を主たるオリエンテーションとする医師による一般外来での初診面接
  はじめに
  面接過程
  まとめ
 治療関係構築の基礎となる初診面接
  はじめに
  来院の契機と症状
  発症の契機
  彼氏との関係
  患者の力にも目を向ける
  まとめ
 家族歴から性格形成・対人関係をよみとく初診面接
  はじめに
  来談経緯を聞くことが患者の家族背景の聴取につながっていった
  家族歴・遺伝負因を聞く
  このクリニックを選択した理由
  同棲している男性との関係と,それまでの男性との交際について聞く
  男性との関係とうつ状態の関連を探る
  以前の男性との不安定な交際関係
  患者の性格的な背景にある家族関係についてやや突っ込んだ質問をしてみる
  面接を終了するにあたって,来院したことの感想を聞き,
    見立てを告げ援助法を提示する
  まとめ
 共通点と個性
  共通点に目を向ける
  岡野憲一郎先生の初診面接
  大野裕先生の初診面接
  中村伸一先生の初診面接

第2章 パニック障害の初診面接
 事例概要
  研修医による予診面接
 鑑別診断を中心に
  はじめに
  面接の導入部
  より詳しい症状把握
  併存症を含めた鑑別診断
  面接の終了と次回の約束
  まとめ
 診断から初期治療へ
  はじめに
  面接の導入部
  現病歴の聴取
  既往歴の聴取
  病前性格の把握
  生活歴および発症状況の聴取
  現症の評価と診断
  コモビディティ(共存障害)の確認
  治療方針の提示と合意形成
  まとめ
 精神分析的視点から
  はじめに
  主訴と現在症の把握
  発症にかかわる背景を探る
  パニック発作の背景力動を探る
  症状特異性の確認
  パニック発作時の背景にあり得る発症誘因の探究
  本人の受診動機から治療動機を探る
  診断を伝え,分かち合い,治療法を決定する
  終診前の最終確認
  まとめ
 3人の医師の面接へのフィードバック
  はじめに
  中尾智博先生の初診面接
  中村敬先生の初診面接
  松木邦裕先生の初診面接
  まとめ

第3章 家族のみが受診した初診面接
 ひきこもりと家族
  はじめに
  夫との葛藤と息子の問題
  息子についての詳細情報
  家族歴
  まとめ
 「今日の」主訴(受診目的)を確認する
  はじめに
  本日受診した目的,すなわち「今日の」主訴を確認する
  本人の希死念慮の切迫度を評価する目的で,ひきこもりの経過と現状を聞く
  希死念慮の切迫度を評価する
  母親の状態を評価するとともに,ニーズを確認する
  診察のまとめを行うとともに,今後の治療方針を伝える
  精神病性不安の存在の可能性を評価する
  まとめ
 クライアント(来談者)の訴えから家族状況と緊急性をアセスメントする
  はじめに
  クライアントを迎え入れ,主訴を聞く
  父-母-長男の3者関係の様相を把握する
  母親の様子を見ながら慎重に父親の立場に理解を示そうとする
  さらに根強い父親と姑への不満と,密閉された母子関係
  現時点での見立てと介入を模索する
  まとめ
 家族とのかかわり
  はじめに
  息子の話題を中心とした状況の確認
  母親本人の状況と,そのとらえ方の確認
  子どものこれまでの経過とそれに対する母親の認識
  夫の情報を収集
  夫の変化
  母親と夫の関係について
  次回に向けて:振り返り
  次回に向けて:まとめ
  まとめ
 総括
  白波瀬丈一郎先生の初診面接
  中村伸一先生の初診面接
  菊地俊暁先生の初診面接
  おわりに

おわりに:初診面接がうまくなるために
  基本的な心構え
  見ることと見られること
  知識を学ぶ
  スーパービジョンやコンサルテーションを受ける

索引

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患者をひとりの人間として対峙できるようになるために
書評者: 加藤 隆弘 (九大大学院講師・精神病態医学)
 日本では若い精神科医の精神療法離れが進んでいる。米国,ドイツ,韓国など多くの国で精神科レジテントに一定期間の精神療法訓練(スーパービジョンの元で一定期間の精神療法を担当させること)が義務化されている中で,日本ではトレーニングの機会が減っており,こうしたことが将来的に日本の精神科医療全体の質を低下させるのではないかといった危機感が本書作成の原動力になっているのかもしれない。

 本書は,日本精神神経学会精神療法委員会による精神科初診面接における臨床力向上のために作成された珠玉の書である。委員長であり,日本における数少ない精神分析家の一人である藤山直樹氏は,まえがきで「面接のない精神科臨床はなく,そして面接をすればかならずそこに精神療法的なやりとりが発生します。この部分を切り捨てて精神科医になることはできません」と断言し,精神科医が精神療法的な素養を身につける必然性,そしてそのための訓練の重要性に言及している。

 抑うつを呈する成人期早期の女性,パニック症状を呈する男性会社員,そして,母親のみが受診したひきこもり症例(3症例とも模擬患者)への,第一線の精神療法家による初診面接の具体的なやりとりが逐語で紹介されている。最初の女性症例は岡野憲一郎氏(精神分析),大野裕氏(認知療法),中村伸一氏(家族療法)が,男性症例は中尾智博氏(行動療法),中村敬氏(森田療法),松木邦裕氏(精神分析)が,最後のひきこもり症例は白波瀬丈一郎氏(精神分析),中村伸一氏,菊池俊暁氏(認知療法)が,それぞれの専門性を彷彿とさせる初診面接を披露している。そうそうたるメンバーである。

 さらに驚くべきことに,それぞれの面接記録は,逐語だけではなく,Web動画として観ることができる。声のトーン,相づち,間の取り方,身振り手振りなど逐語では伝わりようのない精神療法家の技を観ることができる。限られた時間の中で患者を見立て(診断評価),治療関係を構築し(ラポール),具体的な何かを提供し(薬に限らず安心感など),次回につなぐという初診面接の中で,主訴・受診動機を尋ね,ライフストーリーや患者の抱える環境を想像し,病前性格に思いをはせ,時に突っ込んだ質問をし,こうした質問への反応から病態水準を図り,治療戦略を立てていく。実に見事である。読者は,面接が医術であることをあらためて知ることになるであろう。初学者あるいは医学生には,人生に苦悩を抱える人間とその人に寄り添い始めた医者との映画のプロローグを観るようなつもりで本書と出会ってほしい。

 本書は若い精神科医だけを対象としていない。精神療法に触れる機会が少なかった中堅以上の精神科医にもぜひ一読してほしい。「精神療法家の面接は長いだけで一体何をしているのか?」といった疑念が少しは晴れることを願っている。精神療法家の技は,構造化された精神療法に限らず,全ての面接に生かされているのだということを知ることになるであろう。長年の訓練を経た精神療法家であればこそ,100時間面接してもたどり着けないような心の奥底に潜んでいる本質的問題を30分程度の初診面接で見抜くことができるのである。本書により,精神療法の面白さ・奥深さ・有益性を体感し,一人でも多くの精神科医が精神療法的になること,つまり,患者をひとりの人間として対峙できるようになることを願っている。精神医療に限らず,初診面接抜きにして医療は始まらない。広く医療従事者にお薦めしたい書である。
初対面でグッとこころをつかむ“技”を学べる一冊
書評者: 田宗 秀隆 (東大大学院・神経細胞生物学)
 精神科初診面接で何が行われているのか,興味を持ったことはありませんか。しかし,その専門性は診察室という密室に閉じ込められてきました。1対1でのこころのやり取りを基本とする精神科臨床では,診察室に見学者が入った瞬間,通常の診察の構造とは異なるものになってしまうからです。

 日本精神神経学会で満席続きの人気ワークショップ3年分が書籍化された本書では,エキスパートによる初診面接の 技”が惜しみなく披露されています。

 第1章は「抑うつ」,第2章は「パニック障害」というコモンな症状に対して,第3章は「家族のみが受診した初診面接」という発展的な題材を用いて,3×3人のエキスパートの初診面接が逐語録されています。丁寧な解説とまとめ(総括)によって理解が深まることでしょう。

 購入者特典として付録されたWeb動画がまた秀逸です。臨床経験の豊富な心理士による模擬患者の自然な演技のおかげで,診察医の「間の取り方」や相づち,声色などの非言語的スキルが,存分に伝わってきました。

 ただ,若手や経験の浅い医師が全く同じ言葉遣い・所作をしたら,不適切な場面もあり得そうです。例えば,患者さんにあえて“タメ口”を使うタイミングは,十分に意識されるべきだと感じました。

 「はじめに―精神科における初診面接とは」で述べられている通り,精神科初診面接の2つの課題である「診断/見立て」と「関係構築」は,別々の過程ではなく,有機的に結び付いています。特に精神科臨床では,関係構築自体に困難を抱えている患者さんも多く,その関係構築の困難さは診察室で再現されることも少なくありません。

 一方,医師自身の「関係構築」の在り方を振り返ってみましょう。医師という立場で“職業的に”行う手技・行動獲得に比べ,日常,“反射的に”行っている面接(会話)をアップデートするのは想像以上に難しいものです。しかも,その臨床スタイルは,医師自身の風貌,雰囲気などによって規定される部分も多いため,単独の完成形がありません。このことは,ともすれば,スキルをアップデートしなくてもよい弁解にもなり得てしまいます。果たしてそれでよいのでしょうか。

 そろそろ精神科医として中堅になりつつある評者は,他の精神科医の面接に同席して学ぶ機会が限られてきました。実臨床では,リエゾンで他科の先生の上手な病状説明に同席することが最も勉強になるチャンスだと考えています。薬物療法を行う上でも,患者と信頼関係を築き維持しながら行動変容を促すスキルは大前提なので,面接がうまい医師はエキスパート精神科医かと思うほど見事な関係構築や動機付けをなさるからです。逆もまた然りで,オフ・ザ・ジョブトレーニングとして,本書は評者のような精神科医のみならず,他科の先生方にとっても大いに参考になるに違いありません。

 最後に,ある精神分析家の言葉をおすそ分け。「診察室の外でたくさん考える。学ぶ。診察室では,無理によいことを言おうとし過ぎなくてよい」。

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