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看護学生の主体性を育む協同学習

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本書は、看護教育界でいち早く協同学習法を用いた授業を展開している著者の、長年の経験からまとめられた書である。協同学習法を用いた授業が看護教育に適している理由から、その具体的な授業展開を丁寧に紹介。「グループ学習がうまくいかない」「学生の能動的学修行動を促す授業を考えたい」「自律的なナースとして学生を育てたい」などのときに、ぜひ活用していただきたい。
緒方 巧
発行 2016年05月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-02520-1
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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はじめに

 本書を手にされた読者の方々が,「自分もやってみようかな」と興味をもたれ協同学習を用いた授業に挑戦してくだされば,それは筆者の最大の願いであり,喜びでもあります。最初は勇気が要りますが,教師仲間と協同し学生の学ぶ力を信じて授業に臨んでみてください。手応えを感じられることと思います。
 筆者が「ジグソー学習法」を知ったあと,初めて授業に用いたのはその10年後の2001年でした。教育効果を得るたびに「なぜもっと早く実践しなかったのか」と残念に思ったものです。しかし,挑戦の第一歩と「コツコツと続けた」教育実践が,本書の誕生につながったと思っています。読者が本書をヒントにアイデアを閃かせ,進化・深化させた授業をつくられることを期待しています。仲間と授業について助言し合うこと,授業参観し合うこと,評価し合うことは授業のブラッシュアップに有益かつ不可欠です。筆者は,1人ひとりの読者に語る気持ちで本書を執筆しました。本書も授業のブラッシュアップの際の仲間に入れて活用していただければ幸いです。
 わが国では,春のつくしのように看護大学が林立する時代を迎えました。一方,18歳人口の減少は大学教育の現場にさまざまな影響と課題を与えています。その1つは学生のアクティブ・ラーニング(能動的学修)を引き出す教育方法の必要性です。学生の潜在能力を引き出し高めるには,まず学生自身が主体性を発揮しなければなりません。ではどうすれば主体性を引き出せるか,授業をどのように構造化し仕掛ければよいか,その授業展開こそ教師にとって大きな関心事でしょう。教師と学生,学生と学生同士が関わり学び合って授業を展開し,成長という価値をつくり出すのが授業の使命です。そのためには,まず教師が学生を信じる(believe)強さをもつことです。学生は本来自分を成長させたいと願っており,教師がいまだ知らない能力を有しています。関わり方次第でそれらが発揮されていくのですが,協同学習を用いた授業ではそのことを体験的に理解できると同時に,学生を信じる大切さや強さが,教師自身のなかに今までに増して育まれていくことを実感することができます。次に,教師は常に効果的な教育方法に挑戦(challenge)していくことが大事です。挑戦は前進です。そして,学生と教師が互いに関わること(commit)で双方が成長します。とりわけ学生は授業で仲間と関わり合い学ぶ場面を好みます。学生の主体性を心地よく引き出すマジックには,believe,challengeそしてcommitという3つの隠し味(教師の思いと努力)があり,協同学習の実践はそれらをより強く育ててくれる教育方法です。
 多様な他者と協同できる能力は,看護職に不可欠な資質(コンピテンシー)です。優秀な学生は個別学習を好みがちですが,高得点がとれる能力と同時に看護実践には他者と協同して協働できる力が必要です。仲間との互恵的関係のなかで成長できた体験は,他者に感謝し他者を尊敬し尊重できる倫理観の育成にもつながります。
 筆者は2014年9月から,勤務校(梅花女子大学)の支援を受け「協同学習を用いた看護教育研究会」を開催しています。看護学生の主体性を育む授業づくりのためには,授業実践と理論・研究・振り返りを往復できる場が必要と感じ,取り組み始めました。場所はJR大阪駅に隣接したグランフロント大阪のナレッジキャピタル「The Lab.」アクティブスタジオです。多忙なスケジュールと疲労にも負けず,研鑽し合う主体性と熱意に溢れた教師仲間に敬服しています。興味関心をお持ちの読者の皆さま,是非ご参加ください。
 本書は医学書院発行雑誌 『看護教育』 の連載がベースですが,きっかけをくださったのが(現)明星大学明星教育センターの太田昌宏先生です。2012年に,筆者の授業参観に7週間にわたって東京から通われ,学生に主体性の模範を示されました。連載時は締め切りとの時間闘争で,連載終了後は安堵の間もなく書籍化のお話を頂戴しました。しかし書籍化への感謝と尻込み(主体性の欠乏)が交錯し1年余りを浪費してしまいました。その間,創価大学教職大学院教授の関田一彦先生(日本協同教育学会会長),久留米大学教授の安永悟先生をはじめ,日本協同教育学会理事の方々,大阪大学大学院教授の前迫孝憲先生,准教授の西森年寿先生からご支援を,そして教師仲間や友人たちから多くの勇気づけをいただきました。倒れそうな弱木でも強い添え木があれば倒れないがごとく,本当に多くの方に支えられて本書が誕生しました。医学書院の大野学さん,藤居尚子さん,有賀大さんは寛大な心で伴走してくださいました。すべての方々に心より感謝し御礼申し上げます。
 最後に,筆者の授業を受講し貴重なフィードバックで,筆者を育ててくれる学生の皆さまに心より御礼申し上げます。卒業後は,抜苦与楽の慈愛溢れる看護者として活躍してください。そして体験的に学び理解した協同学習を,臨床現場や研修,教育の場で語り活用していかれることを期待しております。

 2016年3月
 緒方 巧

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I 協同学習法で看護の授業を構造化する
 1 教育方法のパラダイム転換としての協同学習
  基礎看護学の教育方法に協同学習法を使うことへの反響
  能動的学修行動を引き出すための協同学習
  基礎看護技術修得への壁をブレイクスルーするための学習支援
  協同学習「ジグソー学習法」との出会い
  協同学習の定義(条件)を満たすジグソー学習法
 2 協同学習法を用いた看護学概論の授業展開
  新入生の「揺れ」と向き合い授業をつくる
  看護学概論の位置づけ,授業展開の目的・方法
  協同学習の技法を用いた授業の実際
  学生たちの反応
  看護学概論を協同学習で展開する意義と課題

II ジグソー学習法を用いた基礎看護技術演習
 1 ジグソー学習法と基礎看護技術演習
  ジグソー学習法の概要
  基礎看護技術「注射の技術」演習にジグソー学習法を用いる目的
  ジグソー学習法を用いた基礎看護技術「注射の技術」の展開例
  ジグソー学習法を用いない演習に生じやすい問題
  看護師としての資質形成に貢献できる利点
 2 演習授業のまとめに用いた展開例
  何のために,なぜ用いるのか
  留意点としての「時間の管理」と工夫
  ジグソー学習法を「注射の技術」演習授業のまとめに用いた展開例
  まとめの時間確保が困難な場合「シンク=ペア=シェア」を使ってみる

III 協同学習法を用いた講義
 1 基礎看護学「人間の健康と環境」の授業展開
  集中力にスイッチを入れる授業時のウォーミングアップ
  講義にまつわる問題に協同学習法でアプローチする
  協同学習法による基礎看護学「人間の健康と環境」の授業
  学生の学習活動を設計するレクチャーシートの作成
  授業資料のちょっとした工夫と期待
 2 看護過程の授業展開
  協同学習を用いた看護過程の授業
  授業計画と評価
  看護過程に用いる情報収集の枠組み
  授業の進め方
 3 アセスメント段階の授業展開
  アセスメント段階における導入
  演習の展開:シンク=ペア=シェアを用いた演習
  アセスメント枠組みNANDA-I分類法IIに基づく情報収集
  アセスメントに必要な情報を理解するために
  事例が教えてくれるアセスメントに必要な能力
  事前学習課題-事例に基づくアセスメント
  ノート=テーキング=ペアを用いた演習の展開
  ラウンド=ロビンを用いた演習の展開
 4 看護診断・看護計画の授業展開
  関連図の理解と書き方の「とっかかり」をつくる
  看護問題の優先順位を判断し看護診断名を決定する段階
  看護計画立案の段階
  看護計画立案の演習

IV 選択科目「協同学習力の探求」
 1 「女性と髪」を題材に協同学習を体験的に学ぶ授業設計
  選択科目を履修登録する学生の期待を知る
  科目開講の目的
  授業のテーマ,概要,目標,評価
 2 具体的な授業展開
  初回の授業スタート時にクラス仲間と触れ合い知り合う
  学生個々の点を線でつなぎ,面に広げる話題提供「2分間スピーチ」
  人間(自分)の発達と髪-協同学習の技法「ビッグイベント」
  発想の扉を開く思考-マインドマップ
  同じ結論でもディスカッションを通して理由の多様さを知る
 3 ジグソー学習法を用いた「女性と髪」の探求
  テーマを決めて探求を始めるカウンターパート・セッションの段階
  ジグソー・セッションによる発表の段階
  協同学習の技法-建設的討論法の展開

索引

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協同学習法による看護の授業展開がみえる一冊
書評者: 牧野 典子 (中部大教授・保健看護学)
 近年,大学教育において学生のアクティブ・ラーニングを促す授業が教師の課題になっています。教師と学生,学生と学生の対話や意見交換の導入,反転学習,協同学習グループにおける学生同士の学び合いなどはその課題に応えるものです。しかし,このような授業は,教養科目ならよいが看護学には適さないと思われる方も少なくないかもしれません。確かに,看護学の教師は,国家試験に受かるために多くの専門知識を教え,臨地実習に出すためにさまざまな看護技術を習得させなければなりません。学生同士で学んで正しい理解ができるのだろうかという疑問も生まれます。

 本書ではこのような疑問に丁寧に答えています。例えば,看護過程を初めて学ぶ授業では,講義をどのように理解したかを学生同士でノートを用いて説明し合う時間を何回か設けます。そして理解不足や聞き漏らした内容を追加修正させます。この技法は協同学習のノート=テーキング=ペアです。また,看護技術の習得にはジグソー法を用いた授業展開が詳しく紹介されています。著者の緒方先生の体験から生み出した工夫満載の授業案や記録用紙なども掲載されているので,すぐにでも実践できるのではないでしょうか。

 緒方先生は看護大学の基礎看護学の教師として,看護学生とは入学した1週間後から授業を通して関わっています。その関わり方は「学生個々の『揺れ(迷いや模索)』を観察しながら,その揺れに向き合い寄り添う関わりが大事」であると述べています(p.12)。そして,学生には,その揺れとしっかり向き合ってよりよく変化していくために3つのことが必要だと伝えています。それは真剣な学習,臨地実習も含めたさまざまな体験,仲間の存在です。協同学習を取り入れた授業は,以上の3つを学ぶことができる協同の精神と授業方法で学生の学習を促していきます。したがって緒方先生の授業は看護学の専門科目の授業でありながら,同時に初年次教育としての意義もあります。

 評者が緒方先生に初めてお会いしたのは2014年10月の日本協同教育学会ワークショップでした。先生から「看護教育における協同学習」のワークショップを主催するので話題提供をしないかと声を掛けていただきました。先生は自らの授業の紹介をしながら,参加者に協同学習の技法を次々に体験させていきました。この時に紹介された「導尿」の授業は本書の中にも紹介されています。

 緒方先生は「学生は本来自分を成長させたいと願っており,教師がいまだ知らない能力を有しています。(中略)協同学習を用いた授業ではそのことを体験的に理解できると同時に,学生を信じる大切さや強さが,教師自身のなかに今までに増して育まれていくことを実感することができます」と述べています(p.III)。学生の成長を信じ主体性を育む授業は,教師自身の主体性をも育むことになり,双方が成長します。その第一歩を踏み出す勇気を与えてくれるのが本書です。
看護教育に協同学習を取り入れようとする際の一指針となる書 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 児玉 善子 (大阪労災看護専門学校教務長)
 私が緒方巧先生と協同学習に出会い,手探りの状態から本校に協同学習を取り入れ3年が経過した。学生同士や学生と教員が協同学習をますます深化させていく時期にさしかかったといえる。

 協同学習の定義(条件)を理解するうえでもっともわかりやすい技法が「ジグソー学習法(以下,ジグソー)」である。まずクラスを4~6人構成のグループに分け,グループのメンバーそれぞれが自分の担当する学習課題について責任をもって学び,互恵的に教え学び合う。分割された学習課題が合わせられて初めて学習課題の全体が完成する仕組みとなっている。本書のIIで紹介されているジグソーを用いた「注射の技術」の展開例は,学習課題やグループ編成,進め方,チェックリスト,必要物品など演習の準備について詳細に記載されているのでわかりやすい。本校でもすでに「注射の技術」はジグソーを取り入れている。しかし,教師役の学生が,自分の役割に集中しすぎてグループの達成を見失っているのではないかと不安を感じる場面があったが,本書にはジグソーを用いた教育方法で展開する意図や計画を学生に提示している文書が記載されており,個人と全体の方向性が見えやすく,私自身の不安解消となった。

 また,学生が「難しい」と感じる看護過程の授業展開例は,1回ずつの授業計画や演習評価表が記載されており興味深かった。本書のIIIでは,学生が困難を乗り越えていける授業の仕掛けがたくさん紹介されている。私は授業開始後にグループメンバーの1人ひとりが順番に話し,またそれを聴くという「ラウンド=ロビン」の方法でウォーミングアップを実践してみて,学生の集中力が高まった手応えがあった。また,90分の授業のなかで,15~20分を目安に個人思考,「シンク=ペア=シェア」「ノート=テーキング=ペア」などの手法を取り入れ,学生たちに投げかける内容を吟味する毎日である。

 それらの協同学習の活動を通して,学生たちの事前学習の差やグループ間の差に気づくことがある。しかし,この本を読み終え,部分的な差を埋め合わせようとするのではなく,あえてクラス全体のなかで「違い」や「差」を取り上げ,多様な見解にふれさせてはどうか,また建設的討論法を用いてディスカッションし,1つの正解ではなく複数の可能性や統合案を見出せるのではないか,と自分なりに改善に向けての糸口を探る機会をとなった。

 今後も,学生たちの反応や結果をもとに試行錯誤しながら,協同学習法を実践していきたいと思っている。ただ,実践しているうちに協同学習の本質から逸脱することないように,この書に立ち返って何度でも読み直したい。読者諸氏にも,本書を通じて日々の教育に協同学習を取り入れることをお勧めする。

(『看護教育』2016年8月増大号掲載)

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