精神保健福祉 第3版

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・精神保健福祉の歴史(第2章)や関係法規(第3章)などの基礎知識から、精神保健福祉活動全般(第4章)について学べることはもちろん、現在、課題となっている、精神障害者の地域移行支援・地域生活支援についても重点的に学べる内容(第5章~第7章)に全面刷新しました。
・第5章~第7章では、精神障害者の地域移行支援・地域生活支援とはなにか、どのような展開がなされているのか、各職種はどのように連携するのか、また、そのなかで看護師はどのような役割を持つのかがわかるよう詳細に解説しています。
・​​​​​​​第8章では、貧困・障害者虐待・物質依存・ジェンダーといった、精神保健福祉にかかわりの深い社会病理的なテーマを取り上げています。
・​​​​​​​図表を多数掲載し、学生がイメージのしやすい紙面となるよう心がけました。

*「系統看護学講座/系看」は株式会社医学書院の登録商標です。
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はしがき

発行の序
 本書は,1971(昭和46)年に,原型となる『精神衛生-考え方と諸問題-』が発行されて以来,それぞれの時代における医療・社会の状況を反映して改訂を続けてきた。1990年に『精神保健』とタイトルを改めたのち,さらに2002(平成14)年に装いを新たにして,『精神保健福祉』として初版を発行した。そして,初版発行から14年を迎えた今日,大きく変化しつつある心の健康をめぐる問題を,学生の皆さんが正確にとらえ,看護師としてどのような役割を担うべきなのかを学ぶことができるよう,このたび第3版を出版するはこびとなった。

医療・社会の状況
 近年の医学とその関連分野の進歩は目ざましい。新たな治療法の開発や普及,医療体制の整備が進んだことによって,わが国の平均寿命は男女とも世界トップクラスとなっている。しかし,悪性新生物や心疾患,脳血管疾患といった疾患の死亡率はいまだ高く,さらに,糖尿病などの長期にわたって療養を要する生活習慣病も大きな課題となっている。厚生労働省は,これらに精神疾患を加え,いわゆる5大疾病としてその対策に力を注ぐこととしているが,この問題は医療機関における治療だけで解決するものではない。予防や,治療後の生活を支えるという観点から,私たちが生活している地域社会や自然環境における取り組みも重要となる。人と人,人と自然との豊かなつながりが必要なのである。
 私たちが生活している社会に目を向けてみると,とくにこの四半世紀は大きな変化がおきているといえる。インターネットの発達に代表される情報技術の高度化は,大量の情報を生活のなかで不断に生産・蓄積・伝播することを可能にした。また,わが国では少子高齢化が急速に進展し,世界のどの国も経験したことのないほどの水準にあることに加え,「失われた20年」とよばれる経済の低迷により,右肩上がりの成長型の社会から限られた資源を有効に活用する定常型経済社会に移行しなければならないといわれている。さらに,2011(平成23)年に発生した東日本大震災は,私たちの生活意識を一変させるような衝撃をもたらし,5年が経過した現在もなおその復興は達成されたとはいえない現状である。このような変化は,経済・地域社会・社会保障など,さまざまな面で問題を引きおこし,私たちがこれまで感じることのなかった強い不安を伴うような新たなストレスを発生させている。本書内でも述べているように,精神疾患患者が増加傾向にあることや,ストレス,うつ病,自殺,依存症,認知症,虐待などに対する国の施策が充実してきたことも,それを象徴しているといえるだろう。過去に例のない変化の時代にあって,心の健康をいかに維持し,増進していくかといったメンタルヘルスの重要性が高まっていることは,いまでは広く知られるところとなっている。
 また,昨今のわが国の精神科領域において重要性をおびてきているのが,精神障害者の脱施設化,すなわち退院を促進し,地域移行・地域生活を支援する取り組みである。これまで精神科領域では,精神障害者を治療と保護の対象としてとらえ,入院医療を軸に進めてきたが,2004(平成16)年に公表された「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を皮切りに,徐々に社会復帰,地域移行,そして地域生活支援という方向にシフトしつつある。実際に新規患者の入院期間は短縮化傾向にあるが,依然として1年以上の長期入院患者は多く存在し,支援のむずかしさを物語っている。2014(平成26)年には,「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」のとりまとめが公表された。今後とも,いかに地域生活への移行を進めるのか,できるだけ入院に頼らない地域医療や訪問看護などのケアの充実はますます重要な課題となるだろう。

改訂内容
 以上のような現状をふまえ,第3版では内容を全面的に見直し,新たな執筆陣のもとで,看護師に必要となる最新の精神保健福祉に関する知識と実践をまとめた。わが国の精神科領域が入院医療中心から地域生活中心へとかわっていった歴史的変遷と,それに伴って著しく変化する法制度,さらに,それらを土台にして看護師が行う精神保健福祉活動全般について十分に解説を加えた。とくに,上述したように,近年大きな課題となっている,退院促進を含めた地域移行支援・地域生活支援の展開については大きく取り扱っている。また,現代社会とかかわりが深い精神保健福祉上の問題については,紙幅の都合上,そのすべてを網羅することはできないものの,貧困や物質依存など注目すべきいくつかのテーマを取り上げている。
 これら各章の内容については,地域における支援が重要となっていることを念頭におき,人と人との支え合い,人と人とのつながりの視点をもって全体をまとめた。なかには看護師の業務をこえた内容についても解説を加えているが,多様化するメンタルヘルスの問題に対し看護師の役割は広がりを見せている。そのため,看護業務の限界を知りながら,どのようなことを専門職である多職種に依頼し連携していくのかといった,精神保健福祉活動の全体像を把握するためにも必要な知識だととらえていただきたい。本書を熟読された読者の皆さんが,精神保健福祉のまなざしを身につけ現場で活躍されることを願ってやまない。
 2015年12月
 著者ら

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第1章 人々の暮らしと精神保健福祉 (末安民生)
 A 人は人に支えられながら生きている
 B 現代社会と精神保健福祉
  1 精神保健福祉とは
  2 精神保健福祉の課題
  3 本書で学ぶこと
第2章 精神保健福祉の歴史 (吉川隆博)
 A わが国の精神保健福祉の変遷
  1 精神科病院の発展から地域生活中心へ
  2 第二次世界大戦後の入院患者に対する看護の特徴,社会復帰への取り組み
  3 精神障害の理解に向けた取り組み
 B 諸外国における精神保健福祉改革
第3章 精神保健福祉に関する法律と施策 (吉川隆博)
 A 精神障害者支援にかかわる法律
  1 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)
  2 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律
    (障害者総合支援法)
 B 施策の動向
  1 精神保健医療福祉の改革ビジョン
  2 精神医療の将来像と病院の構造改革
第4章 精神保健福祉活動の展開に必要な知識と技術 (遠藤淑美・石川かおり)
 A 精神障害の予防のために-一次予防
  1 精神保健福祉に関する啓発と教育
  2 精神保健福祉に関する支援システム
 B 早期の対応と地域生活をつなぐために-二次予防
  1 危機的状況に対する早期介入
  2 危機のタイプに応じて活用できるおもな社会資源
 C 能力の再構築と再発防止のために-三次予防
  1 精神科リハビリテーションとリカバリー
  2 リカバリーを支えるためのストレングスモデル
  3 リカバリーを支えるための援助方法
第5章 地域移行支援・地域生活支援の基礎 (吉川隆博・小高恵実・木戸芳史)
 A 地域移行支援・地域生活支援の重要性と課題
  1 精神障害者の現状
  2 精神科領域における地域移行支援・地域生活支援とは
 B 地域移行支援・地域生活支援の基礎知識
  1 活用できる社会資源
  2 アウトリーチ
  3 家族支援
  4 精神障害者の就労支援
  5 ピアサポート
  6 地域における精神障害者への危機介入
第6章 地域移行支援の展開 (東美奈子・渡辺とよみ・高田久美)
 A 長期入院患者の地域移行支援の展開
  1 支援開始時
  2 退院導入期
  3 退院準備期
  4 家族へのかかわり
 B 高齢精神障害者の地域移行支援の展開
  1 高齢精神障害者の特徴
  2 高齢精神障害者に対する地域移行支援活動の展開と看護
  3 介護サービス利用時の連携と看護
 C 早期退院に向けた支援の展開
  1 精神医療における早期退院支援の特徴
  2 早期退院支援の展開と看護師の役割
第7章 地域生活支援の展開 (寺沼古都・西池絵衣子)
 A 精神障害者の地域生活支援の現状
  1 地域生活支援を要する対象者
  2 地域生活支援の展開と看護師の役割
  3 支援者・関係者の連携ネットワークの構築
  4 相談支援体制の整備
 B 精神障害者のニーズに応じた地域生活支援の展開
  1 長期入院後の地域生活支援の展開
  2 就労支援の展開
  3 高齢精神障害者・身体合併症のある患者の地域生活支援の展開
 C 地域生活の中断を防ぐための支援の展開
  1 地域との連携
  2 医療機関での支援
 D 地域における早期支援の重要性と支援の展開
  1 地域における早期支援の重要性と課題
  2 地域における早期支援の展開
第8章 特定の状況に対する精神保健福祉
  (長沼洋一・曽根直樹・松本俊彦・織田裕行・山田妃沙子・吉野真紀)
 A 貧困と精神保健福祉
  1 貧困と精神障害のかかわり
  2 貧困・低所得に対する社会保障制度
  3 事例
 B 障害者虐待と精神保健福祉
  1 障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する
    支援等に関する法律(障害者虐待防止法)の概要
  2 障害者虐待の現状
  3 施設等における障害者虐待の防止と対応
  4 医療機関における虐待の防止
 C 物質依存と精神保健福祉
  1 物質乱用・依存の動向
  2 物質依存とはどのような病気か
  3 物質依存の治療と回復
 D ジェンダーと精神保健福祉
  1 性同一性障害(GID)とは
  2 性同一性障害に対する包括的な医療と支援
  3 今後の課題

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