クリニックで診る摂食障害

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大好評の 『摂食障害-食べない、食べられない、食べたら止まらない』 に続く、摂食障害の外来診療に焦点を当てた第2弾。筆者の豊富な臨床経験をベースに、実践的な診療のコツを惜しみなく盛り込んだサブテキスト。苦手意識があっても本書を読めば、「患者の大部分は外来診療でよくなる」「治療は名人芸ではない」「ある程度の臨床力と熱意があれば誰でも治せる」といったメッセージに勇気づけられ一歩を踏み出せる!
切池 信夫
発行 2015年06月判型:A5頁:256
ISBN 978-4-260-02166-1
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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まえがき

 摂食障害に取り組み始めて34年になる.1981年に著しくやせた若い女性患者が産婦人科医から紹介されてきた.無月経以外さして困っている様子もなくanorexia nervosaと診断された.その頃はまれな疾患で,内科の教科書にはやせこけて骸骨の標本もどきの患者の全身写真が紹介されていた.「死ぬほどやせているのになぜ食べないのか?」という疑問を生じ,興味をもって患者さんを診るようになった.診れば診るほど患者は集まるが,原因不明で治療法も確立されておらず,その対応に苦労した.患者を抱える家族の苦しみは絶大で,日ごとにその治療の難しさに苦しめられるようになった.そして「何とかよい治療法を見つけよう」「それには原因を明らかにしなければならない」「いや原因を明らかにするまでの間だけでも患者に最善の治療をしなければならない」などと心の中で反芻しながら症例を重ねてきた.一方この病気は心身相関を研究するのに最適の病気で,「脳-行動-心」の関係を明らかにできるモデル疾患ということでも筆者の興味を引き続けた.
 そして研究を始めて約20年後に,それまでの研究結果や筆者の臨床経験を基にして『摂食障害—食べない,食べられない,食べたら止まらない』(医学書院,2000)を上梓した.発売されてからそれほど経過していない頃に,ある患者さんがこの本を持って外来にやってこられた.そして診察の中で,難しくて理解できない箇所の説明を求められた.外来診察の短い時間の中での説明は困難で,翌年には患者ならびに家族の摂食障害についての理解を促すために『みんなで学ぶ過食と拒食とダイエット』(星和書店,2001)を上梓した.
 その後も摂食障害患者の増加と相まって外来患者も増え続け,外来で応じ切れない状況を生じたので,患者自らが読んで自分で治すセルフマニュアル本として『拒食症と過食症』(講談社,2004)を上梓した.本を出版すればするほど外来患者が増え続けるという皮肉な結果になった.それは摂食障害を診る医師が患者の増加に応じ切れていない状況を反映してのものであった.
 このような状況を踏まえて,2008年から6年間,日本摂食障害学会理事長として摂食障害の基礎的および臨床的研究を推進するとともに,若手医師の育成に力を注いだ.一時的にマスコミなどに取り上げられて社会的関心は引くものの長続きはせず,摂食障害を専門とする医師も思うようには増えていない.その理由として「治療が難しい」「致死率が高い」「時間がかかる」「家族への対応が難しい」「採算が合わない」などがある.そこで「摂食障害を診る医療者を増やさなければならない」という思いで,摂食障害患者の診療経験の少ない医師が抱きがちな疑問や,患者や家族から尋ねられたときの疑問に対する説明,治療法などについて大幅に加筆し,2009年に『摂食障害—食べない,食べられない,食べたら止まらない』第2版(医学書院)を出版した.
 2012年には定年で大学を去り,民間病院で週1回「独歩で外来通院可能」な患者のみを診ている.しかし,体重24~25kgと著しくやせていても独歩可能で規則的に外来通院してくる「鉄人」がごとき患者が集まってきている.重症で体力アップの短期間の入院を勧めても応じないのである.このような状況を踏まえて2014年に『摂食障害と寄りそって回復をめざす本』(日東書院)を上梓した.この中で「とにかく生きているだけでもたいしたものだ,死なない努力をしよう」「そして病気をもちながらでも小さな幸せを見つけよう」と述べた.これには慢性の患者で,摂食障害そのものが生き方になっている場合,症状を撲滅すれば幸せになるという考えに対して,そうでない場合もあることを患者さんやその家族に伝えたいという思いを込めてのものである.
 これまで外来治療だけでも摂食障害から脱出していく多くの患者を観察してきた.そこで今回,これまでの大学病院での経験と併せて,外来診療を中心にして摂食障害患者を診る方法について,筆者の経験と知識を総結集してまとめあげたのが本書である.
 本書で治療法について筆者のやり方を紹介したが,筆者の臨床経験と知識の偏りもあり,それらがすべての患者に当てはまるとは思わない.「さまざまなケースの治療法」についても,「できるだけ多様な患者についてふれてみたい」「まとめたい」という気持ちで記載したので,経験の少ない症例も含まれており,読者の中にはもっと良い方法を実施している方もいらっしゃるかもしれないことをお断りしておく.摂食障害の診療に携わっている先生方に良い点だけを使っていただきたい.これからもより効果的な治療法について検討を重ねていくつもりである.そして本書を契機として1人でも多くの医師や治療者が増えることを願うしだいである.
 最後に,本書で紹介した症例について,プライバシー保護のため,患者を特定できるような可能性のある情報については,取り除くか,変更を加えたことをお断りしておきたい.

 2015年5月 浜寺病院名誉院長室にて
 切池信夫

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まえがき

第1章 治療を始めるにあたって
 A 面接の一般的心得
 B 治療における「5つの上手」

第2章 初診時の診察
 A 初診時における面接の仕方
 B 病歴聴取のポイント
 C 診察のポイント
 D 診断基準の用い方
 E 鑑別診断
 F 合併症

第3章 外来治療
 A 入院治療が必要な場合
 B 外来治療の適応
 C 病態に応じた各科の治療と連携
 D 望ましい治療のネットワーク

第4章 動機づけの程度に応じた治療
 A 動機づけの程度に応じた治療への導入
 B その後の外来治療

第5章 さまざまな病態に対する治療と問題行動への対処法
 A 著しい低体重
 B 厳しい食事制限
 C 体重や体形への強いこだわり
 D 過食を止める方法
 E 気分と関連した食行動異常
 F 嘔吐や下剤乱用
 G 身体症状
 H 精神症状
 I 精神障害併存症に対する薬物療法
 J 自傷行為
 K 万引き

第6章 病気の持続に影響している要因への対処法
 A 失感情症
 B 病的な完全主義
 C 著しく低い自尊心
 D 認知の歪み
 E ストレス
 F 対人関係問題
 G やりたいことが見つからない状況
 H 「生きている価値がない」

第7章 さまざまなケースの治療法
 A 若年発症例
 B 思春期から青年期に発症する例
 C 働く女性例
 D 既婚例
 E 遅発例
 F 男性例
 G スポーツ選手例
 H 抑うつ障害の併存例
 I 強迫症の併存例
 J パーソナリティ障害の併存例
 K アルコール使用障害の併存例
 L 神経発達症(神経発達障害)の併存例
 M 治療抵抗性の慢性例
 N 糖尿病の併存例

第8章 摂食障害が治った状態
 A ANの回復
 B BNの回復
 C 再発の予防
 D 経過と予後

第9章 家族への助言や指導
 A 家族へのアドバイス
 B 患者に関わる人々に対するアドバイス

付録
 1-1 神経性やせ症について
 1-2 神経性過食症について
 2-1 神経性やせ症について
 2-2 私は病気ではない,病気の否認について
 2-3 神経性やせ症の治療について
 2-4 神経性過食症について

索引

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摂食障害の全体像をイメージして治療・支援に取り組める書籍
書評者: 久保 千春 (九大総長/日本心身医学会理事長)
 著者は大阪市立大学で摂食障害の診療・教育・研究に長く携わってこられている。また,日本摂食障害学会設立に尽力され,活動を推進されてきた。

 摂食障害は本人の生き方,成長過程,家族や周囲との関係などが関係しており,治療には医師,看護師,臨床心理士などとのチーム医療や,家族・周囲の対応が重要である。治療に難渋することがあり,医療採算が低いため,専門とする施設や治療者は少ない。

 本書はその豊富な臨床経験と知識に基づいて,外来診療を中心にして摂食障害患者を診る方法について平易でわかりやすく,かつ内容が充実しており,日常診療に役立つ大変有益な本である。

 本書は9章から成っており,付録として病気について一般の人にわかりやすく説明する文章が付いている。

 第1章「治療を始めるにあたって」では,面接の一般的心得について“5つの上手”が記載されているが,これは一般診療の面接においても重要な指摘である。

 第2章「初診時の診察」では,面接の仕方,病歴聴取や診察のポイント,行動異常や問題行動調査票などが具体的に書かれており大変役立つ。

 第3章「外来治療」では,入院治療が必要な場合,外来治療の適応,各科の治療と連携,望ましい治療のネットワークが書かれている。

 第4章「動機づけの程度に応じた治療」では,患者の治療への動機づけの程度に応じた治療への導入が具体的に書かれている。

 第5章「さまざまな病態に対する治療と問題行動への対処法」では,著しい低体重,厳しい食事制限,体重や体型への強いこだわり,過食を止める方法,気分と関連した食行動異常,嘔吐や下剤乱用,身体症状,精神症状などの摂食障害診療で出会う問題に対する治療が記載されている。

 第6章「病気の持続に影響している要因への対処法」では,失感情症,病的な完全主義,低い自尊心,認知の歪みなどの摂食障害によく見られる精神的な問題と対処についてわかりやすく書かれている。さらに,ストレス,対人関係,やりたいことが見つからない,生きる希望を見いだせない,などへの対処法についても述べられている。

 第7章「さまざまなケースの治療法」は著者の豊富な臨床経験の中から14症例を提示して,臨床特徴や治療のポイントが具体的に記載されており,大変参考になる。

 第8章「摂食障害が治った状態」では,摂食障害の回復した状態,再発を予防する方法,経過と予後について記載されている。

 第9章「家族への助言や指導」では,家族へのアドバイス,友達,担任の先生,養護教諭,スポーツのコーチ,職場関係の人などに対する支援の仕方について説明されている。

 本書は摂食障害全体を理解でき,治療や支援を行う際に大きな指針となる本であり,摂食障害診療に携わる医師だけでなく,家族や患者にかかわる人々にぜひ読んでいただきたい本である。
豊富な臨床経験に基づく技術・戦略がつぎ込まれた著者畢竟の書
書評者: 岸本 年史 (奈良県立医大教授・臨床精神医学)
 本書は,摂食障害治療の第一人者である切池信夫・大阪市立大学名誉教授の畢竟の書であると言っても過言でない。先生は,2012年に定年退官をされたが,現在も外来診療を中心に摂食障害の患者さんとその家族を診ておられる。本書には著者が,摂食障害の患者さんとその家族のために,私たちに伝えたいこと,また伝えるべきことが詰まっている。すなわち,「外来診療を中心にして摂食障害患者を診る方法について,筆者の経験と知識を総結集してまとめあげたのが本書である」(本書「まえがき」より)。

 通読して最も感銘を受けた箇所は,「家族への助言や指導」の第9章である。摂食障害は生命にかかわる病態であり,患者さんを支える家族の苦しみは想像に難くない。最近当院に入院された実業家の精神病像を伴う重症のうつ病の契機は,長女の摂食障害による急死であった。家族自身も疲れ果てており,自身の生き方を責めると同時に罪業妄想から被害妄想に発展しており入院治療になった。摂食障害の子どもを抱える家族は,その対応に万策尽き果てており,その苦悩は計り知れないものがあることを日常で実感している。本章では治療者が,家族や担任の先生,養護教諭,カウンセラー,スポーツのコーチ,職場関係の人々に対してどのように接するかについて,暖かい視線で,具体的な助言や指導が述べられている。

 また,「動機づけの程度に応じた治療」(4章),「さまざまな病態に対する治療と問題行動への対処法」(5章),「生きている価値がない」「やりたいことが見つからない状況」などの「病気の持続に影響している要因への対処法」(6章),若年発症例,既婚例,スポーツ選手例,糖尿病の併存例など「さまざまなケースの治療法」(7章)と,著者の豊富な臨床経験に基づく技術・戦略がつぎ込まれている書である。実際に身近にいる著者から指導を受ける感覚で初学者は学ぶことができ,また経験のある精神科医においても摂食障害にかかわる動機づけをされるような感覚を持つであろう。

 1~3章は,「治療を始めるにあたって」「初診時の診察」「外来治療」であり,摂食障害についての心得,病歴の取り方,治療の進め方などが記されているが,摂食障害のみならず精神科診療に普遍化できる内容であった。

 8章には,「摂食障害が治った状態」として予後とそののちの見通し,再発の予防についても記されている。予後や見通しは良医の条件である。著者が名臨床家の一人であることを痛感し,この書に出会えたことを喜びとするものである。

 多数の医師や治療者がこの書に触発され摂食障害に取り組むことを望むところである。

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