がん患者のQOLを高めるための
骨転移の知識とケア

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がん治療の進歩によって、がん患者の生存期間は大きく延びている。それは同時に、骨転移を抱えながら生活する患者が増えていることでもある。骨転移と診断を受けた患者のみならず、骨転移のリスクを抱える患者に、看護師はどのようにかかわっていくとよいのか。多様になった骨転移の治療法をおさえるとともに、事例をとおして骨転移患者へのケアを考える。
シリーズ がん看護実践ガイド
監修 一般社団法人 日本がん看護学会
編集 梅田 恵 / 樋口 比登実
発行 2015年03月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-02083-1
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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がん看護実践ガイドシリーズ 刊行にあたって

がん看護実践ガイドシリーズ
刊行にあたって

 ≪がん看護実践ガイド≫シリーズは,日本がん看護学会が学会事業の1つとして位置づけ,理事を中心メンバーとする企画編集委員会のもとに発刊するものです.このシリーズを発刊する目的は,本学会の使命でもある「がん看護に関する研究,教育及び実践の発展と向上に努め,もって人々の健康と福祉に貢献すること」をめざし,看護専門職のがん看護実践の向上に資するテキストブックを提供することにあります.

 がん医療は高度化・複雑化が加速しています.新たな治療法開発は治癒・延命の可能性を拡げると同時に,多彩な副作用対策の必要性をも増しています.そのため,がん患者は,多様で複雑な選択肢を自身で決め,治療を継続しつつ,多彩な副作用対策や再発・二次がん予防に必要な自己管理に長期間取り組まなければなりません.
 がん看護の目的は,患者ががんの診断を受けてからがんとともに生き続けていく全過程を,その人にとって意味のある生き方や日常の充実した生活につながるように支えていくことにあります.近年,がん治療が外来通院や短期入院治療に移行していくなかで,安全・安心が保証された治療環境を整え,患者の自己管理への主体的な取り組みを促進するケアが求められています.また,がん患者が遺伝子診断・検査に基づく個別化したがん治療に対する最新の知見を理解し,自身の価値観や意向を反映した,納得のいく意思決定ができるように支援していくことも重要な役割となっています.さらには,苦痛や苦悩を和らげる緩和ケアを,がんと診断されたときから,いつでも,どこでも受けられるように,多様なリソースの動員や専門職者間の連携・協働により促進していかなければならなりません.
 がん看護に対するこのような責務を果たすために,本シリーズでは,治療別や治療過程に沿ったこれまでのがん看護の枠を超えて,臨床実践で優先して取り組むべき課題を取り上げ,その課題に対する看護実践を系統的かつ効果的な実践アプローチとしてまとめることをめざしました.
 例えば,『がん患者のQOLを高めるための骨転移の知識とケア』というトピックでは,どのようながん種の患者に対しても,骨転移の機序や治療の理解,リハビリテーションや二次障害の予防に対する自己管理に関する知識と技術を提供できるよう,学ぶべきエッセンスが系統的にまとめられています.がん看護の実践に必要な医学的・薬理学的知識は,ポイントを絞って深く学べるように,医師や薬剤師がわかりやすく解説するよう配慮されています.苦手意識をもっていては,適切ながん看護は行えません.
 本シリーズは,医師や薬剤師など他の専門職者の方々にもぜひ活用いただきたいと考えています.『がん患者へのシームレスな療養支援』というトピックでは,患者や家族が望む生活や生き方を重視した療養の場の移行を多職種チームとしてかなえていくための方法に焦点があてられています.患者中心のケアの考え方,連携・調整に必要なコミュニケーション技術や必要なリソースの開発や活用方法など,専門職者が共通して獲得すべき知識・技術が解説されています.

 ≪がん看護実践ガイド≫シリーズは,読者とともに作り上げていくべきものです.シリーズとして取り上げるべき実践課題,本書を実践に活用した成果や課題など,忌憚のない意見をお聞かせいただけるよう願っています.
 最後に,日本がん看護学会監修による≪がん看護実践ガイド≫シリーズを医学書院のご協力のもとに発刊できますことを心より感謝申し上げます.本学会では,医学書院のご協力を得て,これまでに『がん看護コアカリキュラム』(2007年),『がん化学療法・バイオセラピー看護実践ガイドライン』(2009年),『がん看護PEPリソース-患者アウトカムを高めるケアのエビデンス』(2013年)の3冊を学会翻訳の書籍として発刊して参りました.がん看護に対する重要性をご理解賜り,がん医療の発展にともに寄与いただいておりますことに重ねて感謝申し上げます.

 2015年1月
 一般社団法人日本がん看護学会理事長・企画編集委員会委員長
 小松浩子



 がんの進行とともに併発する骨転移は,無症状であることも少なくない.しかし,骨折予防のための行動制限や,骨折,そして複雑で全人的苦痛への対応が必要となってしまう.また,それまで侵襲を伴うがん治療と何とか折り合いをつけてきたがん患者の毎日の生活は骨転移によって一変し,生活の再構築や,完治が望めない病態と向き合うことを余儀なくされる.そのため,がん患者はがんの闘病生活を送るための心身のエネルギーがあらためて必要となる.
 近年のがん治療の発達は,延命期間,つまり骨転移の病態とともに生活する期間の延長を意味し,骨転移のある患者に必要とされるケアは重要性を増している.骨折や麻痺など骨転移に伴う障害の予防や,起こってしまった障害とともにあるその人らしい生活の工夫,そして骨転移の痛みなどの症状マネジメントは,看護の専門性を発揮することが期待される重要な実践である.
 しかし,骨転移の理解や対策・ケアについてまとめて解説された文献はこれまでのところあまり見当たらない.そこで本書では,さまざまに起こっている骨転移の病態や治療を1冊にまとめ,看護ケアをより発展的に創造できることをめざした構成を試みている.
 骨転移への対策やケアは予測性をもって取り組むことが重要であるため,第1章では骨転移の基本的な病態生理を,第2章では骨転移の治療についての知識を多分野から論説いただいた.続いて,それらの知識をもとに患者のQOLを維持した生活へのケアが提供できるよう,第3章では骨転移を起こした部位別の視点から,リハビリテーションや他職種との協力も含めたケアについて述べていただいた.また,第4章では疾患別にがん治療の経過の全体像を基盤とし,骨転移へのケアや治療についてまとめていただいた.そのなかで,骨転移で特徴的なリスクとの向き合い方や痛みのマネジメント,療養の場の調整を含めたケアについて,症例を通して振り返ることができるだろう.
 本書が系統的に骨転移を理解するために活用され,骨転移とともに生活する多くの患者への看護をもう一歩先に進め,さらなる看護への期待に応えていけることを願っている.

 2015年1月
 編集 樋口比登実・梅田 恵

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第1章 骨転移を理解しよう 骨転移の病態生理と診断
 1 骨転移とは
   1 悪性骨腫瘍の分類
   2 骨転移の症状
   3 治療戦略
 2 正常骨の代謝
   1 なぜ,骨を壊す必要があるのか
   2 骨のリモデリング
   3 破骨細胞と骨芽細胞
   4 破骨細胞の機能
   5 骨吸収異常
 3 骨転移の成長と疫学
   1 骨転移の過程
   2 骨転移の分類
   3 骨転移の治療の適応
 4 骨転移の部位と症状の発現
   1 骨転移をもたらす腫瘍
   2 骨転移の好発部位
   3 骨転移の症状と対応
   4 骨転移による骨以外の症状
 5 骨転移の診断-画像診断法を中心に
   1 画像診断法:単純X線写真
   2 画像診断法:骨シンチグラフィ
   3 血液検査

第2章 骨転移の治療法
 1 骨転移で選択される治療法
   1 骨転移の診断と説明
   2 骨転移治療の進め方
   3 各症状への対応
   4 まとめ
 2 薬物療法
   1 骨吸収抑制薬
   2 鎮痛薬
 3 放射線治療
   1 放射線治療の役割
   2 放射線治療の適応
   3 放射線治療の計画
   4 放射線治療の効果
   5 有害事象
   6 内部照射療法
 4 手術療法
   1 四肢の骨転移に対する手術療法
   2 脊椎の骨転移に対する手術療法
 5 神経ブロック
   1 神経ブロックの基本
   2 神経ブロックの実際
   3 痛みなく過ごすために
 6 理学的管理
   1 頸椎転移
   2 胸椎・腰椎転移
   3 下位腰椎・仙骨・腸骨・大腿骨近位骨転移
   4 上腕骨転移

第3章 骨転移とQOLを高めるケア
 1 骨転移における看護
   1 骨転移とQOL
   2 骨転移のある患者への看護の役割
   3 多様性が求められる時代とQOL
 2 骨転移の生活への影響とケア-自覚する症状のない場合
   1 骨転移が診断されていない患者へのケア
   2 症状のない骨転移が疑われたときのケア
   3 症状のない骨転移を診断されたときの患者へのケア
 3 骨転移の生活への影響とケア-非荷重骨の骨折を伴う場合
   1 荷重骨と非荷重骨とは
   2 非荷重骨への転移と病的骨折リスク
   3 非荷重骨の骨折
   4 非荷重骨の骨折の看護ケア
 4 骨転移の生活への影響とケア-荷重骨の骨折を伴う場合
   1 荷重骨の骨折が及ぼす影響
   2 脊椎への転移と圧迫骨折
   3 骨盤への転移と骨折
   4 四肢長管骨(上腕骨・大腿骨)への転移と骨折
   5 患者を支えるチーム医療
 5 骨転移のある患者のリハビリテーション
   1 骨転移患者のリハビリにおける看護の役割
   2 骨転移のリハビリにおける看護ケア

第4章 がん種からみる骨転移の経過とケア
 1 長期経過をたどるなかでの再発・転移-乳がんからの骨転移
   経過1 骨転移痛の出現(痛みのマネジメントのためのアプローチ開始)
   経過2 がんの広がりによる骨転移痛の増強
   経過3 骨転移による症状の慢性化
 2 治療・看護の方針変更となった症例-肺がんからの骨転移
   経過1 原発がんの診断と治療(股関節痛出現前)
   経過2 股関節痛の出現
   経過3 多発性骨転移の診断
   経過4 股関節痛の軽減
   経過5 原疾患の治療方針変更
    +α 本症例における倫理的ジレンマ
 3 症状の進行に伴う苦痛への対応-進行膀胱がんからの骨転移
   経過1 診断までの経過
   経過2 原疾患の治療経過と骨転移痛の出現
   経過3 緩和医療科外来での介入(泌尿器科と緩和医療科との併診開始)
   経過4 入院,緩和ケアチームの介入開始
   経過5 その後の経過(緩和ケア病棟)
 4 安全の保障と安心できる日常生活の調整-消化器がんからの骨転移
   経過1 肝がん罹患から入院まで
   経過2 急激ながんの進行と治療方針の変更
   経過3 骨転移に伴う症状の予防
   経過4 骨転移の進行
   経過5 その後の経過

索引

Column
 正常な骨の画像を覚えよう
 非荷重骨の骨転移のピットフォール
 痛みのフレア現象

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臨床で骨転移のケアに悩む看護師にとって価値ある一冊
書評者: 別府 千恵 (北里大学病院看護部長/副院長)
 日常のがん看護の現場では,骨転移に苦しんでいる患者は多い。患者は骨転移という病態が現れると,死への恐怖,耐え難い痛み,骨折や可動域の制限によるQOLの低下など全人的な苦痛にさらされる。また看護師も,骨転移を起こした患者の身の回りの世話や症状緩和のために四苦八苦しているのが現状である。それでも,できるだけ最後まで自分で自立した生活を送りたい,と考えていた骨転移の患者が転倒して骨折し,その後の痛みとQOLの低下に苦しんでいる姿を見ると,何か手立てはなかったかと罪悪感に駆られたことのある看護師はたくさんいる。また,痛みが強い患者の背中をさすりながら,この患者の苦しみが少しでも癒される方法はないかと考えていた看護師も多いのではないだろうか。

 このように,骨転移が発症した患者のケアは困難な場合が多い。しかしながら,これまで骨転移は基本的な病態生理や各原発がんの教科書に補足的に触れられることはあったものの,骨転移に集約して病態生理や症状マネジメント,ケアに触れた教科書やガイドブックは存在しなかった。本書はがん看護の中でも最も対応に苦慮する骨転移について,診断・治療・看護にわたり詳細に記述してあり,臨床で骨転移の患者のケアに悩む多くの看護師に役立つ良書である。

 第1章「骨転移を理解しよう」では,正常な骨の代謝,骨転移の分類や症状,骨転移が起こる仕組み,特に進行に関わるリモデリングとの関係,診断基準などが詳しく書かれ,これまで集約して触れることのなかった基本的な知識を得ることができる。第2章「骨転移の治療法」では薬物療法,進行を抑える骨吸収制薬の作用機序や段階的な鎮痛薬の使い方,副作用への対処,放射線療法,手術,神経ブロックについて書かれている。第3章「骨転移とQOLを高めるケア」では,患者のQOLの視点から身体的,精神的,社会的,さらにスピリチュアルな面から,ケアのポイントを症状の進行に伴い解説している。特に,骨格系であるために荷重骨と非荷重骨に分けて考えるケアのポイントは,目からうろこであった。第4章「がん種からみる骨転移の経過とケア」では,原発がんの種類によって異なる治療とケアのポイントが事例を用いて記述してあり,わかりやすい。

 骨転移そのもので患者が生命を落とすことはない。しかし,骨転移によりQOLを大きく落とす可能性は高い。骨転移に真摯に向き合い,患者の苦痛を取り除き,QOLを高い状態で保つことは看護師にとって大きな課題であり,使命でもある。臨床の現場で,骨転移の患者に何かできることがないかと模索する看護師にとって,価値のある一冊である。

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