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特定健診・特定保健指導実践ガイド

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第二期特定健診・特定保健指導制度のマニュアルにあたる『標準的な健診・保健指導プログラム【改訂版】』を活用するためのガイドブック。【改訂版】のフィードバック文例集活用法のほか、第一期の評価の仕方や受診勧奨の実践報告、非肥満者やオレンジゾーン該当者への対応などについて、【改訂版】執筆関係者が解説。
編著 今井 博久
発行 2014年11月判型:B5頁:172
ISBN 978-4-260-02090-9
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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はじめに

5年ごとの見直し 大幅な変更

 2008年度から始まった特定健診・特定保健指導制度(以下,特定健診・保健指導)では,制度設計当初から特定健康診査等基本指針について「医療費適正化計画及び保険者の特定健康診査等実施計画が5年ごとの計画であることを踏まえ,本指針についても,5年ごとに検討を行い,必要があると認めるときはこれを変更していくものである」とされ,また高齢者の医療の確保に関する法律第十九条では「保険者は,特定健康診査等基本指針に即して,五年ごとに,五年を一期として,特定健康診査等の実施に関する計画を定めるものとする」となっています。すなわち,5年ごとに必要に応じて特定健診・保健指導制度を見直すということです。
 2013年度からの第二期に向けてさまざまな検討がなされました。その結果,厚生労働省健康局内の検討会で議論された諸事項などが『標準的な健診・保健指導プログラム【改訂版】(以下,改訂版)に盛り込まれ,2013年4月に』発行されました(保険局でも見直しの検討が行われ,『特定健康診査等実施計画作成の手引き(第2版)』が公表されました)。
 第二期特定健診・保健指導(以下,第二期)では腹囲の基準値が変更されていないために,特定健診・保健指導制度の運営では「変更点なし」と誤解している人がいますが,実際は大きな変更がありました。第二期に向けた改訂版は旧版の187頁から約3割増しの247頁になり,より有効な制度運営が実施されるように,さまざまな点が変更または新規に追加され,それらに従った実施が期待されています。
 また日本再興戦略を踏まえ,すべての保険者はデータヘルス計画を2014年度中に策定することが求められており,早急に準備する必要があります。データヘルス計画は「レセプト・健診情報等のデータの分析に基づく効率的・効果的な保健事業をPDCAサイクルで実施するための事業計画」です。健診情報とは特定健診のデータであり,したがってデータヘルス計画の保健事業は特定健診・保健指導制度の基盤の上に成り立つという位置づけになっています。
 概して,政府から保健事業の新しい提案が要請されると何をどうすればよいか戸惑うこともあります。しかし,保健事業の本質は変わりません。データヘルス計画は特定健診・保健指導をベースとするため,心配する必要はまったくありません。

本書の目的 変更・追加内容の具体的な解説

 本書の目的は,第二期に向けて大幅に改訂された内容のポイントを具体的に解説することです。本書の執筆者は改訂版の編集執筆に直接関わった方々に限定し,本書の目的をより鮮明にしました。すなわち,本書は特定健診・保健指導に従事する医師,保健師や管理栄養士,事務担当者などが変更された内容や新規に追加された内容を正しく理解し,円滑に実施できるようなサポートをすることをめざしています。したがって,特定健診・保健指導制度の総論的な事項や抽象的な内容や実施の枝葉末節には触れていません。本書の解説は特定健診・保健指導の実施現場で役に立ち,データヘルス計画の策定に利用できるように心掛けました。
 改訂版で変更・加筆されている主な点は,(1)PDCAサイクル活用の推奨,(2)受診勧奨体制の強化・改善,(3)非肥満者への対応,(4)フィードバック文例集の活用,(5)喫煙と飲酒の対策,(6)慢性腎臓病と高尿酸血症の対策への言及などです()。(1)~(6)はいずれも重要な項目であり,第二期の5年間の成果の成否を左右すると言っても過言ではありません。どの項目も改訂版では平易に書かれていますが,それらが意図する内容は必ずしもすべての保険者が正確に理解し消化できるほど簡単ではありません。本書では主な項目を取り上げて具体的にわかりやすく解説していきます。
表 第二期の変更点・追加内容
項目重要度
PDCAサイクル活用の推奨
受診勧奨体制の強化・改善
非肥満者への対応
フィードバック文例集の活用
喫煙と飲酒の対策
慢性腎臓病と高尿酸血症の対策
B支援の必須の解除
初回面接者と半年後に評価を行う者との同一者の緩和
看護師が保健指導を行える期間の延長
◎:最も重要   ○:重要   △:留意

各論の概要

PDCAサイクル活用の推奨
 改訂版ではPDCAサイクルの活用を勧めています。特定健診・保健指導の事業運営のみならず,データヘルス計画でもPDCAサイクルに沿った事業運営が特徴です。今回の機会を使ってマスターするとよいでしょう。
 これまで実施してきた第一期の特定健診・保健指導(以下,第一期)を振り返って,成功したこと,失敗したことを同定する作業から始め,Check(評価)→ Act(改善)→ Plan(計画)→ Do(実行)の順序で作業を行いましょう。大きなサイクルを5年軸とするならば,1年軸の小さなサイクルを回しながら正のスパイラルを上昇させ,第二期の最終年度である2017年度には,エンドポイントとしてメタボリック症候群の有病者・予備群の減少,関連する医療費の適正化を達成できるようにします。本書の第・章では,筆者が全国各地で実施した研修会で使用した材料を例示してPDCAサイクルの活用方法を解説します。

受診勧奨体制の強化・改善
 改訂版p.58には医療機関への受診勧奨判定値が掲載されており,第一期と同じ判定値で,受診勧奨が行われます。
 しかしながら,第二期ではこうした方法の実施を求めていません。対象者の検査値のレベルやリスク因子にきめ細かに対応した方法を実施することが期待されており,これは非肥満者への対応やフィードバック文例集の活用などにも関連するもので,第・章や第・章で解説します。
 また,受診勧奨を実施しても対象者が医療機関を受診したか否かを確認していない事例がかなり存在することも明らかになりました。対象者に「医療機関へ行ってください」という一方的な声掛けや文書連絡で終了し,その後対象者の受診を確認していない場合が多くあるわけです。
 特定健診でハイリスク者を描き出し,医療機関での診療につなぐという制度ですが,対象者が受診しているか否かは不明のまま放置され,場合によっては予防と医療の安全網からの漏れが生じている現実があるわけです。
 こうした医療機関への受診勧奨に関連する問題を修正し,予防と医療の連携を適切に実施し,より一層適切なシステム構築を行う必要があります。

非肥満者への対応
 原則として特定健診・保健指導における受診勧奨判定値の該当者は,改訂版p.33の「具体的な選定・階層化の方法」のステップ1(内臓脂肪蓄積のリスク判定)で腹囲またはBMIの値(男性:85cm以上,女性:90cm以上,またはBMI≧25kg/m2)から判定し,「肥満者」をスタートラインに立たせています。すなわち,特定健診・保健指導は「肥満者」を対象とした制度なのです。
 しかしながら,非肥満者でも脳梗塞などが起こりやすいとする研究報告が第一期の間にあり,現場からも「高血圧,高血糖,脂質異常をもつ非肥満者の対策を実施すべき」という強い要求が出されていました。そうした背景を反映し,改訂版では「非肥満者の対応」が至る所で記載されています(ただし,非肥満者の保健指導は義務化されていません)。
 改訂版p.84からの「フィードバック文例集」においても,肥満者と同等に非肥満者に対しても言及し,どのように対応すべきかが一覧表に記載されています。要するに,これまでは血圧高値,脂質異常,血糖高値といったリスクを保有していても,非肥満者であれば保健指導の対象者ではなく,とくに「義務」として対応を考えなければならないわけではありませんでした。しかし,第二期では非肥満者への対応策が現場からも期待されており,早急に具体的な方法を検討しなければなりません。

フィードバック文例集の活用
 改訂版でとりわけ目新しいのが「フィードバック文例集」です。これは一見シンプルな表に見えます。改訂版が発行された後,保険者や現場の保健師・管理栄養士にこのフィードバック文例集について尋ねたところ,「該当者に対する説明に重宝している」と「医療機関への受診勧奨の際に役立っている」いう高評価の回答が多くありました。しかし,このフィードバック文例集ではそうした活用方法は当然行うこととして,それ以上のことを読み取らなければなりません。

●血圧高値・脂質異常
 血圧高値(改訂版p.86)と脂質異常(同p.88)の「健診判定と対応の分類」の表には,「生活習慣を改善する努力をした上で,数値が改善しないなら医療機関の受診を」という記述があり,これは「生活習慣の改善(予防)」と「医療機関の受診(医療)」の円滑な連携を求めています。したがって,現場の保健師や管理栄養士は生活習慣の改善をどのくらいの期間でどのように実施するか(とくに非肥満者),どのタイミングで医療機関につなげるかなどの方法について,前述の「受診勧奨体制の改善」と併せて検討する必要があります。

●喫煙・飲酒
 プログラムの旧版では,喫煙やアルコール飲酒の対策にはあまり頁を割いていませんでした。そうした影響もあったかもしれませんが,第一期における特定保健指導の実践では,えてして喫煙対策および飲酒対策は後手に回る場合が多かったようです。
 第二期に関する厚生労働省の検討会では,喫煙対策や飲酒対策を強化すべきという意見が出ました。そのため改訂版には,喫煙に関するフィードバック文例集,禁煙支援のマニュアル,アルコール使用障害スクリーニングの手引きが記載されました。ケースごとに文例が挙げられ,特定健診を実践する現場にとって非常に有益で保健指導のニーズに合わせた内容になっています。
 喫煙対策・飲酒対策は,保健指導の現場にいる保健師や管理栄養士にとっては苦手意識があるかもしれませんが,改訂版の解説は充実しており,必ず実践したいところです。本書では,改訂版の喫煙対策および飲酒対策の執筆者により,詳しく実践方法を解説してもらいます。

●慢性腎臓病・高尿酸血症
 第二期でも,血清クレアチニンと血清尿酸値は特定健診の必須検査項目にはなりませんでした。しかしながら,改訂版では慢性腎臓病と高尿酸血症に触れています。両者とも生活習慣が影響する疾患で,ほとんどが予防可能です。前者の慢性腎臓病は病態が悪化して進行すると末期腎不全により透析治療に陥ってしまいます。つらい治療やQOL低下などの患者の問題のみならず,関連する医療費が高額になります。
 慢性腎臓病のリスク因子には,肥満,メタボリックシンドローム,高血圧,糖尿病,脂質異常症などがあります。特定健診・保健指導で効果的な保健指導が実施され,これらの予備群を減らすことが期待されています。改訂版では,現場の保健指導がより一層効果的に実施されるように期待され,フィードバック文例集に「尿蛋白に関するフィードバック文例集」および「尿蛋白及び血清クレアチニンに関するフィードバック文例集」が記載されました。
 血清尿酸値の上昇は,腎障害,尿路結石,メタボリックシンドロームなどのリスクを高めます。高尿酸血症に対しては,慢性腎臓病と同様にしっかりとした保健指導を実施することで生活習慣の改善が行われ,これらの病態のリスクを軽減させることが期待されています。改訂版には「尿酸に関するフィードバック文例集」が記載されていますので,有効活用すべきでしょう。本書では,改訂版の該当する部分の執筆関係者によりそれらのフィードバック文例集の意義や使い方を解説してもらい,慢性腎臓病対策および高尿酸血症対策にも言及しました。


まとめ

 改訂版には新しく変更・加筆された重要な情報が詰まっています。「第二期も腹囲基準に変更がないからこのまま従来どおりで実施します」では現状に不適切な運営になりかねません。必ず手元に『標準的な健診・保健指導プログラム【改訂版】』を置き,よく読んで第二期の制度運営に取り組みましょう。
 前述のように,特定健診・保健指導制度の内容は大幅に変更されています。第一期の5年間の経験から多くのことを学び,それを生かすことが必要です。改訂版は,地域の生活習慣病対策をより一層効果的で効率よく進めるためのものであり,PDCAサイクル活用の推奨,受診勧奨体制の強化・改善,非肥満者への対応,フィードバック文例集の活用,喫煙と飲酒の対策,慢性腎臓病と高尿血症の対策への言及などはすべてそれにつながります。ぜひ本書を特定健診・保健指導に役立ててください。

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   はじめに

I 健康日本21(第二次)との関係
   特定健診・保健指導制度の策定

II 受診勧奨の具体的な方法
   効果的な受診勧奨
   非肥満者への対応

III フィードバック文例集活用の手引き
   フィードバック文例集と対応表の使い方
   1 血圧高値
   2 脂質異常
   3 血糖高値
   4 喫煙
   5 尿蛋白・血清クレアチニン
   6 尿酸
   7 アルコール

IV PDCAサイクル実践法
   PDCAサイクルとは
   Cから始める実践方法

V 第一期の経験から効果的な取り組みを
   最も重要な食事アセスメント
   よりよい保健指導のための定量評価

VI 好事例
   特定健診受診率向上をめざした活動 広島県廿日市市
   特定保健指導受診率の着実な増加 秋田県秋田市
   人工透析新規導入者ゼロをめざした活動 滋賀県犬上群甲良町
   予防と医療の連携 岩手県旧藤沢町(一関市藤沢町)
   保健指導の効果分析の実践 群馬県安中市

   あとがき
   索引

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「一に運動,二に食事」 今日から活かせる実践ガイド (雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 勝又 浜子 (国立保健医療科学院)
 わが国の受療構造を見ると,40歳頃から生活習慣病が増加し,投薬が開始され,そして75歳頃から急性増悪して入院,医療費が増加していくという構造になっている。生活習慣病は今や健康長寿の最大の阻害要因である。その多くは不適切な食事,運動不足,喫煙などの積み重ねによって内臓脂肪肥満となり,脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などを発症する。しかし,生活習慣病は適度な運動,バランスのとれた食事,禁煙により予防可能なことは周知の事実である。

 私は2006(平成18)年9月に厚生労働省健康局総務課保健指導室長に着任した。まさか自分が「標準的な健診・保健指導プログラム」(以下,プログラム)の作成に携わるとは思っていなかった。最も苦労したのは保健指導のポイント制の導入だ。異動当初も体重と腹囲は完璧に基準超えのレッドゾーン。その他の検査値に異常は認められないものの,見た目はメタボ。針のむしろの悪夢の日々。でも周辺にメタボ三兄弟(生活習慣病対策室長,保険局医療費適正化対策推進室長)がいたことが救いであった。

 あれから5年。2013(平成25)年4月にプログラムが評価され,第2期に向けた改訂版が公表された。各市町村においては,健診受診率のアップが目標となっているが,特定健診は「保健指導が必要な人を抽出するためのスクリーニング」であり,保健指導の実施と治療が必要な人を医療機関につなぎ,しっかりとアウトカムを出すことが重要である。そのため,プログラムの改訂では,(1)PDCAサイクル活用の推奨,(2)受診勧奨体制の強化・改善,(3)非肥満者への対応,(4)フィードバック文例集の活用などが示されている。

 本書は,改訂の重要項目および新規項目を中心に第2期の改訂に関わった先生方が執筆されている。「II章 受診勧奨の具体的な方法」では,受診勧奨のポイント,受診勧奨台帳の作成やその利用方法がわかりやすく記載されている。

 「III章 フィードバック文例集活用の手引き」では,個々の検査項目ごとの結果にもとづいて,また,経年変化も踏まえてフィードバックしていくことが重要であるため,重症度の高いほうからレッド,オレンジ,イエローゾーンに区分し,それぞれの対応方法,具体的な助言のポイントなどが詳細に記載されている。保健指導実施の際に,手元に置いて不安な部分の確認などに活用できる。

 「IV章 PDCAサイクル実践法」では,評価分析の4つの視点(構造,過程,事業実施量,成果)ごとに事例を解説し,改善や計画に生かす方法について記載されている。

 「VI章 好事例」における各市町村での取り組み事例には,編者である今井博久先生のアドバイスが入っていて有用である。

 プログラムの改訂版とともに,本書を今日から活用されることをお薦めする。

(『保健師ジャーナル』2015年4月号掲載)

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