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アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する
与えられた学びから意志ある学びへ

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インターネットが普及し、人工知能時代の到来を前に、「正解のない問題に自ら立ち向かえる力」を育成することが、ますます求められている。看護師であれば、最新の知識・技術を学び続ける力、コミュニケーション力や情報化へ対応する力などを強化することも必要である。本書では、看護師自らが考え、能動的に動くために必要なことは何かを主眼に、アクティブラーニングをこえた多くの実践的かつ有効な教育方法を紹介。
●読者の皆様へ シートPDF 配信中 (→本書x頁)
下のリンクよりダウンロードし,本書とあわせてお使いください。
ゴールシート (goalsheet.pdf) [A4・1頁 525KB]
身体シート (shintaisheet.pdf) [A4・1頁 542KB]
生活シート (seikatusheet.pdf) [A4・1頁 539KB]
鈴木 敏恵
発行 2016年08月判型:B5頁:248
ISBN 978-4-260-02385-6
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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序 さあ「未来へ向かえる力」を身につけよう!
~与えられた学びから,意志ある学びへ~

あなたは何で心満ちますか?
 あなたは何で心満ちますか? 私は学生たちがポートフォリオをめくりながら,キリリッとアイムナース(I am a nurse)の顔で,自分がしたことや考えたことを聞かせてくれる時,なんとも言えない嬉しさと敬意で胸がいっぱいになります.

 この本を書くことができたのは,看護師を目指すたくさんの心優しい学生たちと出会えたからです.実習で受け持ち患者さんの願いを叶えたいと指導者さんの許可を得て,病院の中庭を患者さんの手をとり歩いた若者が実習ポートフォリオをめくりながら,その患者さんとの散歩の前に下見した話を聞かせてくれました.デートコースの事前確認でもここまではしないだろうと胸にグッときました.その慎重さ,念入りな準備…数日前からその日に至る患者さんの体調,気温,気分はどうか,このコースをこんなふうに歩く,自分が左で,患者さんをこんなふうに支えて…ここでこうドアを押さえ,「ここに3段の階段があります,ゆっくりで…大丈夫ですよ」という,ここまで歩いたら患者さんの様子次第で,このベンチで一休みしましょう…そのベンチもよくよくその患者さんが座りやすいことを考えて…もう聞いているだけで涙とニコニコが湧いてきます.

「大切な人の存在」が成長を叶える
 私はこれまで様々なプロジェクト学習をデザインしてきました,中でも一番のお気に入りは,「NP:ナイチンゲールプロジェクト」です.多くの学校で実施され,その手応えとともに愛されているのが,大切な人(家族のうちの一人)を看護の目で看て健康を守る生活を提案するプロジェクト学習です.その学生(女子)が決めたターゲットはお父さん.どんな食事を摂っているのか,塩分はどうか,ビールをどれだけ飲んでいるのか,週末のビールの量はどうか,食べ始める前にテーブルの上の食事の写真をパチリ! 昼食はどうか,LINEで嬉しそうに細かく,しょっちゅう状況を伝えてくる父…これまでほぼ無視されてきた可愛い娘が自分の健康を聞いてくれるそのシアワセ感,父からくるLINEの多さにややげんなりしている娘(学生),その様子に微笑ましくも爆笑してしまう先生と私.「あの子,看護師になる前から確実に一人の健康を守るだけでなくシアワセにしているねー」と言いながら.

 自分の愛する地域でその人らしく生活してほしい,そのためにこんなふうに社会資源を活かしましょうと提案する「SP:地域の社会資源を活かそうプロジェクト」.片麻痺で車椅子のその人は釣りが趣味,家にずっといると筋力が落ちてしまうし,体力もなくなる…だから外に出てほしいと願う学生たち.そうだ! あの公園の池は釣りが許可されている! と調査開始,車椅子が水面近くまで寄れるところを探そう! 休日にチームの仲間と池の周囲を丁寧に回り見つけた,車椅子で寄れる釣りポイントの写真,自宅からの距離,その途中の身障者用トイレの場所もしっかり押さえている…「だから安心です.地域の資源を活かして街に出ましょう!」とプレゼンを終えれば地域の方の大きくあたたかい拍手が鳴り止みません.胸いっぱいです.シアワセをありがとう.
・・・
 成長は「知識」を与えることで叶うのではなく,自ら成長したいと願うから叶うんだ.そうプロジェクト学習を経験したあなたたちを見ていると実感します.

知識を与えない教育へ:未来教育-4つの修得知モデル
 インターネットの日常化,AI(人工知能)時代の到来を前に世界中が「知識を教えない教育」「正解のない問題に自ら向かえる力の教育」へと変わろうとしています.多くの知識や情報を誰もが自由に得ることができるからです.みんな揃って黒板に向かい,先生から知識を与えてもらうのが当たり前だった教育が終焉を迎える日もそう遠くないかもしれません.新しい教育では何をどう修得すればいいのか.ここに応えるものとして生みあげたものが「未来教育-4つの修得知モデル(図,本サイトでは省略)」です.

新しい時代に求められる「資質・能力」
 過去から今日まで脈々と積みあげ継いできた[A:知識・スキル]です.この膨大なデータを瞬時に扱えるのが人工知能やIT,ロボットです.私たち人間が「考える」ためにはAが必要です.しかし日々進化するので,覚えたものが陳腐化する可能性があります.[C:コンピテンシー]は,目の前の現実と対座し「物事をなし遂げる能力」,熱心な工夫や創意があって可能とするものです.[D:課題発見・課題解決]は,未来をもっとよくしたいという願いから,課題を発見して解決していく,未来志向の知です.ビジョンを描くことの大切さを獲得します.もっとも高度な力と言えるでしょう.CDの資質がひときわ求められるのが看護師という仕事です.ACDその全てにおいて[B:知性・精神]がそのベースにあることは言うまでもありません.

アクティブラーニングを超えて
 いくら優秀なAIであろうとも人間にはかないません.人間は,プログラミングされなくとも,本能的に他者の気持ちや考えを汲み取ろうとします.その人の安楽を共に喜びます.人工知能は「知能」をその存在意義としますが,人間は「知能」+「身体」+「生命」をもっています.人間は身体をもっているから,自ら大切な人の元に行くことができます.人間は生命がある,それは限りあるものです,だからこそ,生きているということを愛おしく感じます.看護師は患者の身体や生命を守るために工夫や創意を尽くそうとする尊い存在です.患者さんのために自らのコンピテンシーや課題解決力をより高く求めます.それをあの学生たちは私に見せてくれました.

さあ「未来へ向かえる力」を身につけよう!
 課題発見,解決力などは「これが正しい」というものはありません.いま時代はドラスチックに扉を開こうとしています.その扉の向こうでは,創造的な思考を大切にできる教育者たちを待っています.アクティブラーニングは手段であり目的ではありません.目指すのは,創造的な思考で自分からアクティブに未来へ向かうことができる人の育成です.それは生涯使える生きる力となり,どんな時代になっても大切な人のために未来志向で最善を尽くせる看護師を叶えるでしょう.

 この本を書くことができたのは,看護師を目指す心優しい学生たちを輝く看護師にさせたいと惜しみなく尽くす先生たちと出会えたおかげです,心から感謝しています.

 2016年7月
 鈴木敏恵

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I章 さあ看護教育を新しく魅力的にしよう!
 1 新しい時代が新しい教育を求めている
  新しい時代,人間にしかできないこと
  看護師としての生き方の多様化
  新しい看護教育に求められる4つの修得知と評価

 2 アクティブラーニングよりアクティブシンキング
  能動的な学びへ
  アクティブとは“敏活”

 3 看護に求められる「創造的な思考」
  看護における「創造的な思考」とは
   [設計思想パネル1] 次世代教育の理念

 4 プロジェクト学習は高度なアクティブラーニング
  意志ある学び-プロジェクト学習
  プロジェクト学習のステージは「現実」

 5 さあ,イノベーションをはじめよう!
  さあ,イノベーションをはじめよう!
   [設計思想パネル2] 創造的な思考への哲学(原理原則)

II章 学び続ける看護師になる新しい3つの教育手法
 1 ビジョンを描ける看護師へ[次世代教育プロジェクト学習]
  次世代教育プロジェクト学習とは
  プロジェクト学習とポートフォリオの関係
  看護教育におけるプロジェクト学習のいろいろ
  フェーズで身につく力とコーチングの関係
  プロジェクト学習のフィードバック
  2つの成長…普遍知と専門知
  プロジェクト学習でチームを学ぶ
  プロジェクト学習と看護過程
   [設計思想パネル3] アクティブな看護教育を実現するプロジェクト学習の7条件

 2 高機能ポートフォリオ-学び続ける看護師になるために
  ポートフォリオとは
  高機能にポートフォリオを活かす
  ポートフォリオで「思考」を見る
  看護教育に対応するポートフォリオ
  テーマポートフォリオ
  パーソナルポートフォリオ
  ライフポートフォリオ
   [設計思想パネル4] 自己成長を実現する-ポートフォリオ8機能

 3 対話コーチング-「知識を与えない」看護教育へ
  しっかり教えているのにできないのはなぜ?
  課題解決コーチング
  コーチングで自ら成長する教育へ
  対話コーチング
  自己成長へのセルフコーチング

III章 思考リテラシーの修得
 1 4つの思考リテラシー
  考える力の前提条件
  4つの「思考リテラシー」

 2 課題発見から解決までの思考プロセス
  求められる「自ら課題を見いだす力」
  課題解決の思考プロセス
  課題を発見する
  「目標(ありたい状態)」を明確にできる
  「課題の要因」を考え出す
  「主要因」を絞り込む
  「課題解決」-具体的な提案をする

 3 アクティブな看護教育へ新しい評価
  評価は成長のためにある
  アクティブラーニングの評価
  プロジェクト学習における成長評価
  ポートフォリオで課題解決プロセスを評価する
  総括的評価は「凝縮ポートフォリオ」でする
  いろいろな評価の特徴と課題
  自己評価で自己成長する
  「心馳〈こころば〉せのふるまい」を評価する

 4 成長へと導く「思考プロセス」
  なぜ「思考プロセス」が看護教育に必要か
  誰が誰の「思考プロセス」を追うのか

IV章 アクティブな看護教育へ-プロジェクト学習の導入と実践
  プロジェクト学習を戦略的に導入する
  看護教育へ4つのプロジェクト学習の提案
 1 大切な人の健康を守ろうプロジェクト(NP)
 2 地域の社会資源を活かそうプロジェクト(SP)
 3 キャリアビジョン実現プロジェクト(CP)
 4 生活マネージメントプロジェクト(LP)

V章 新しい看護教育へ-講義・演習・実習
 1 「ライフタイムマトリックス」で人間を生涯でとらえる
  人間を総合的にみる「ライフベクトル」
  成長を基軸にする「ライフタイムマトリックス」
  ライフタイムマトリックスの活かし方
  看護教育におけるライフタイムマトリックスの効用
  ライフタイムマトリックスで「カリキュラム構想」する
  新しい看護教育カリキュラム
  戦略的にカリキュラムマネージメントにLTMを活かす
  ライフタイムマトリックスを活かした「看護計画」
  「R10着眼」で,国家試験の状況設定問題に強くなる

 2 「R10」でひとりの人として患者をとらえる
  R10で“察して動ける力”を身につける
  「R10着眼シート」とは
  R10で“察して動ける”看護師になる
  R10で成長する“フィードバック”を!
  R10でストーリー性のある演習にする
  実習前に「R10着眼シート」でイメージを広げる
  演習に“リアル”と“ストーリー”を

VI章 自律的な学びを実現する「実習ポートフォリオ」
  「自分目標」をもって向かう臨地実習
  実習ポートフォリオの効果・魅力
  実習前,実習中,実習後をポートフォリオに!
  成長に気づくポートフォリオの見方
  新しいシャドーへ…何を見て,どう考え,動く?!

VII章 新しいカリキュラムを構想するために
 1 次世代教育の設計思想
  プロジェクト学習を全体へ導入する

 2 未来への道標としてのシラバス
  夢に近づいている自分が見えるシラバス集
  看護教育に「反転教育」を導入する
  プロジェクト学習の企画書とシラバス作成

 3 新しいカリキュラムマネージメントへ
  2つの身につく力「専門知」と「普遍知」
  教科とプロジェクト学習を有機的につなぐ
  新カリキュラムを垂直統合で考える
  学校と現場をつなぐポートフォリオ

索引

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看護教育における実学の書
書評者: 岡田 久香 (岡山医療センター看護部長)
 看護教育を支えているのは,臨床で勤務する多くの看護職です。教育に関する十分な知識も持たないままに自分の受けた教育と同じような方法で,看護学生や新人看護師を指導しています。結果,うまくいかなくて自分自身を責めた経験のある方も多いのではないかと思います。

 2010年4月に新人看護職員の卒後臨床研修が努力義務化となりました。看護の質向上,医療安全の確保,早期離職防止の観点から,新人看護職員研修は不可欠です。現場での実施も努力義務とされたことから,指導者育成は現場の重要な課題となりました。指導者のための研修や書籍など,指導者の学ぶ機会は増えつつありますが,十分と言うにはほど遠い状況です。教育の知識が不十分でも,実践が求められる看護職にとって本書は看護教育における実学の書です。

 第Ⅰ章「さあ看護教育を新しく魅力的にしよう!」では,IT化された現代の教育や看護教育の方向性について書かれています。看護における「創造的な思考」とは「その患者のその状況にとって“最適解”の判断,行動」と看護の普遍性に触れ,「次世代教育プロジェクト学習(Project Based Learning;以下,プロジェクト学習と略す)」の有用性を説いています。

 第Ⅱ章「学び続ける看護師になる新しい3つの教育手法」ではプロジェクト学習の展開方法と,成果や実績を綴るポートフォリオ,「しっかり教えているのにできないのはなぜ?」を解明し,学習者の思考を促すコーチングから自己成長のためのセルフコーチングの効果につなげ,その方法が具体的に述べられています。

 第Ⅲ章「思考リテラシーの修得」では「考える力」の前提条件が示され,課題発見から解決までの思考プロセスと評価の考え方,ポートフォリオを通して学習者の「思考プロセス」を顕在化して,学習者を成長に導く過程が具体的に述べられています。「心馳せのふるまい」を評価することも看護師としての大切な心の成長につながります。

 第Ⅳ~Ⅶではプロジェクト学習を看護基礎教育へ導入するための提案が述べられています。看護教員や看護学生との関わりの深さを彷彿とさせる具体的な記述は看護教育関係者にさまざまな示唆を与える内容です。

 本書は平易な文章とわかりやすい文章構成で組み立てられています。また,写真,イラスト,注釈,図,グラフなどを活用し,初学者にも理解しやすい内容となっています。よって,これから看護学生や新人教育に携わろうとする方には,看護教育への入門書として,既に関わっている方には,自身の教育方法を向上させるための指導書として,看護管理者の方には教育研修の参考文献として活用できる一冊です。
看護卒後教育の担当者にとっても有用な1冊
書評者: 新道 幸恵 (NPO法人看護アカデメイア幸理事長/京都橘大特任教授)
 看護学生が卒業後就職する保健医療福祉の場は変革が著しく,極端なことをいえば,看護学生時代に学んだ知識のみでは対応できない現象が少なからず存在している場です。また,それらの場は非常に多忙なために,新卒看護師にはできるだけ早く一人前になってほしいと期待される場でもあります。そのことにより,看護基礎教育において,実践力のある看護師の育成が求められることになります。看護実践力の育成には演習や実習が不可欠ですが,学生が学ばなければならない知識は医学・医療の高度化,看護学の進歩,看護の対象となる人々の多様性などから増大しており,演習や実習時間の確保にも限界があります。

 以上のような看護基礎教育に関わる問題への解決には学生を「創造的に思考し,行動する」ことを習慣にする人として成長させることが重要であると思われます。そのような看護教育を模索している人々にとっては,鈴木敏恵氏の近刊書『アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する』が大変有用です。本書には,看護学生の意志ある学びのための基本的な考え方や方法論,ひいてはカリキュラム構築に関するアイデアが詳細な実例とともに紹介されています。

 鈴木氏の人材育成に関する基本的な考えは「知識を与えない教育:未来教育―4つの修得知モデル」に示されています。A;体系化された知識の集合体としての知,B;人間として生きる上での拠点となる知,C;心・精神・魂,物事を成し遂げる能力を構成する知,D;課題発見・課題解決をもたらす知という4つの知は「自らの成長を求め続ける人」,すなわち未来を創造する人の育成に基本的なものとして位置付けられています。この21世紀の人材育成論を看護人材育成論として具体化されたものが本書です。本書全体に鈴木氏の,患者へ温かいまなざしを持って看護の理想像を描きその実現に向かって前向きに頑張る看護学生への愛,またそのような学生を育てようとする看護教師への愛が散りばめられています。この背景には,看護教育の場に飛び込んで看護学生や教員とプロジェクト学習を実践してこられた鈴木氏の価値ある経験があることが本書から読み取れます。

 ここ数年,鈴木氏の「評価は価値を見いだすこと」という考えを大切にしながら新卒者教育責任者や担当者教育に関わっている私の経験から,本書は看護の卒後教育の担当者にとっても有用であると思います。
教員にとって「知の果実園」といえる本
書評者: 大西 安代 (神戸看護専門学校学校長)
 昨今,教育界において,学生が主体的に問題を発見し解を見出していく能動的学修・アクティブラーニングへの転換が推奨されており,さまざまな教育技法が取り入れられています。

 本書では,能動的な学びに必要なことはアクティブラーニングの教育方法ではなく,自ら学ぶアクティブシンキングが重要であると強調しています。学習者自身が自らアクティブに未来に向かうことができる力を身に付けるための方法論,この内容こそが看護教育の中で今,最も関心のあることではないでしょうか。生涯学習が必要である看護師を育成する中で,学習者自身がやる気を起こし,思考を活性化して「自発性」「応用力」「協調性」を養っていくことができれば何とうれしいことでしょう。

 アクティブな看護教育を実現するためには,著者が元来推奨しているプロジェクト学習が必要かつ重要であるとしています。著者は,これまでもプロジェクト学習について良著を出版されていますが,今回は対話コーチング,セルフコーチングについて看護場面での具体例が多く記述され,即,実践に活用できる内容となっていることが特徴といえます。プロジェクト学習に必要な7条件や教育方法,また,課題発見から解決までの思考プロセスやクリエイティブシンキング,創造的な思考に必要なアクティブな学び,学生の気づき,成長などの発見のためのポートフォリオの活用法についても具体的であり,プロジェクト学習は高度なアクティブラーニングであるとしています。そして,学習者が「自分で自分を成長させる人」になることが究極のゴールであると述べ,そのことは教育する側にとって大変共感できる内容だといえます。

 本書は全7章で構成されており,第4章では,プロジェクト学習についてシラバスモデルと共に,4つの提案をしています。中でもキャリアビジョン実現プロジェクトは,ぜひ参考にして,未来の看護師育成に役立たせたい内容の一つです。学習者自身が看護師としてのキャリアプランを立てることで,学習へのモチベーションが高まり,今の教育現場でめざしている主体的な学生の育成につながることが期待できると考えられ,キャリア教育の一環としてもお薦めしたいプロジェクト学習です。第5章では,看護基礎教育のカリキュラム構築や患者理解の思考ツールとして著者が構想した新しい提案をしています。ひとりの人間を総合的に捉えることを基盤に考え人間の発達段階を基軸にした視覚的思考ツールとして「ライフベクトル」「ライフタイムマトリックス」を紹介しています。非常に興味深い内容で,今後教育内容を考えていく上で参考にしたい内容だといえます。

 今回刊行された『アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する-与えられた学びから意志ある学びへ』は,看護基礎教育に必要なエッセンスともいえる内容がわかりやすくまとめられており,まさに教員にとっての「知の果実園」といえる本です。そして,講演で看護学生や看護師を尊敬し大好きだといつも話される鈴木先生の看護教育への熱い思いが凝縮された看護教育に活かせる一冊だといえます。看護教員はもちろんのこと,看護教育に携わる多くの方々にぜひお薦めしたい著書です。
看護に求められる創造的思考成長へと導くアクティブシンキング
書評者: 本田 芳香 (自治医大教授・基礎看護学)
 看護基礎教育では,教養科目と専門科目をどのように統合し基盤づくりをしているのか,いわゆる太い幹とそこから伸びる枝葉の伸ばし方が問われている。その中で,学生の主体的な学びを支援するための教育方法は,多様化・多義化されてきていると感じたことはないだろうか。文部科学省中央教育審議会(2016年8月)では,「主体的・対話的で深い学び」を実現するためアクティブラーニングの視点が学びの質向上に重要であることが示唆されている。

 本書は,著者が長年実績を積み上げてきたプロジェクト学習を基盤とする創造的思考としてのアクティブシンキングを通して,学生の主体性を引き出し,学習に取り組むための方策および未来に向けた看護教育の方向性を示した書籍である。

 第1~4章では,新たな時代に看護に求められる創造的思考としてのアクティブシンキングと,アウトカムの意味を出すための次世代教育プロジェクト学習が大変丁寧に示されている。著者は,学習者自らが「知の果樹園」と気づき,意志ある学びを継続し成長していくことを叶える教育が必要であるという強い意志が感じられる。読者は,看護教育者として,あるいは看護実践者としてどのような人材を育てようとしているのか,何を教育のゴールにするのか,新たな看護教育の方向性を考える機会としていただければと思う。

 第5章では,看護教育におけるライフマトリックスを活用とした新たなカリキュラム構想について,学生の立場にたち,学生がそれを系統的に捉えることを可能にするため再考性が不可欠であることが述べられている。いかに学生の主体性を引き出し,やってみたいと思うところまで動機付けられる教育ができるのか考えるヒントが示されている。

 第6章では,臨地実習での学習の場を活かすためのプロジェクト学習方法として実習ポートフォリオを取り上げている。ポートフォリオは「思考の追体験」を可視化する方法として,臨地実習では特に有効に使えるであろう。臨地実習は学生が最も成長する場である。看護教育に関わっている者にとって,実習教育の楽しさ,わくわく感を呼び起こしてくれる内容が豊富に盛り込まれている。

 最後の第7章では,次世代教育の新たなカリキュラム構想にプロジェクト学習を盛り込む提案がなされおり,今後の看護教育の発展性が示されている。

 建築家である著者は,建物の設計からその完成に至るまでのプロセスのように,プロジェクト学習を創り上げている。その点から,教育の普遍的な知を求めているといえるであろう。学際的分野から教育に関わる方には必読である。本書により,看護教育をさらに高度な次元にもっていくための次世代教育プロジェクト学習を理解することで,学生の主体的な学びへつながる新たな看護教育の方向性を切り拓くきっかけとなろう。

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