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大うつ病性障害・双極性障害治療ガイドライン

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日本うつ病学会のうつ病治療ガイドラインが待望の書籍化。重症度別にエビデンスに基づく推奨治療法を提示するのはもちろん、診察の進め方や鑑別診断などについても解説するなど、うつ病診療に関する幅広い内容を取り上げている。また昨今ますます関心が高まっている双極性障害の治療ガイドラインおよび双極性障害患者への説明用資料も収載しており、まさに今日の精神科臨床に必要不可欠な1冊。
監修 日本うつ病学会
編集 気分障害の治療ガイドライン作成委員会
発行 2013年05月判型:B5頁:152
ISBN 978-4-260-01783-1
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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  • 目次
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本書発行にあたって

 日本うつ病学会では,治療ガイドライン作成委員会を立ち上げ,3年越しで双極性障害および大うつ病性障害の治療ガイドラインを作成してきた.本書は,これら二種類のガイドラインと本学会双極性障害委員会が作成した「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために」を収載したものである.後者は,患者さん向けの解説であり,疾病教育の資料としても活用していただけると思う.
 ガイドラインの作成にあたっては,可能な限り最新の情報を提供することを重視して,これをPDFとして学会ホームページにおき,必要に応じて更新する方針で臨んだ.標準的な治療法だと考えられてきたものがしばらくして塗り替えられることは稀ではない.気分障害の治療も決して例外ではないからである.また,このように公開すれば誰もが利用できるという利点もあった.
 一方で,診察室の手元に置き,あるいは持ち歩いて読めるような手軽な書籍の出版を望む声もあった.確かに本にすると,手に取りやすい,保存しやすい,紙面が読みやすいなどの利点が生まれる.読者には,本書を一通り読み治療の指針を把握したならば,ときおり日本うつ病学会ホームページにあたって最新の情報を補完して頂きたいと思う.
 本ガイドラインの利用の仕方については,それぞれ大うつ病性障害および双極性障害の序において詳しく述べたので,目を通していただきたい.一言だけ繰り返すならば,医師にとっての治療ガイドラインとは,例えるならば船長にとっての海図にあたるものである.どちらも,注意深い観察と豊かな経験に基づいて,状況に応じた舵取りが求められている.ガイドラインは医師のこのような裁量権を縛るものではない.逆に,臨床の現場はガイドライン通りに治療すればことが足りるというものではない.
 最後に,本ガイドラインは,医療従事者だけではなく,患者さんやそのご家族にとっても有用な資料である,と付け加えておきたい.受けている治療の意味,他の治療選択肢,鑑別疾患,副作用などを読まれた上で,わからないことがあれば本書を持参して主治医を訪ねてもよいのではなかろうか.患者さんご本人が,病気について確かな医学的知識をもって治療に望むことは,よりよい医療を受けることにつながるはずである.

 2013年5月
 日本うつ病学会理事長 神庭重信


注:本ガイドラインは,うつ病診療および双極性障害診療の手引きとなることを意図したものであり,実際の診療は,個々の医師の裁量権に基づいて行われるべきものである.実地臨床においては,多くの個別要因が臨床的判断に影響するため,「本ガイドライン通りの診療でなければ正しい医療水準ではない」とは言えない.

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  本書発行にあたって

I.大うつ病性障害
  序
  サマリー
 1.うつ病治療計画の策定
  はじめに
  A.把握すべき情報
   i.理学的所見
   ii.既往歴
   iii.家族歴
   iv.生活歴:発達歴・学歴・職歴・婚姻歴を把握する
   v.病前のパーソナリティ傾向
   vi.病前の適応状態の確認
   vii.ストレス因子の評価
   viii.睡眠の状態
   ix.女性患者の場合
  B.施行すべき検査
   i.血液・尿検査
   ii.生理学的検査
   iii.画像検査
   iv.心理検査
  C.注意すべき徴候
   i.自殺念慮・自殺企図
   ii.自傷行為・過量服薬
   iii.身体合併症・併用薬物の存在
   iv.多軸診断と併存
   v.双極性障害の可能性への配慮
   vi.精神病症状
  D.治療開始に際して考慮すべき点
   i.治療場面の選択
   ii.治療の原則
   iii.急性期治療・導入期
   iv.回復期・維持期
 2.軽症うつ病
  はじめに
  A.治療選択に際して
  B.基礎的介入
  C.治療の選択
   i.精神療法
   ii.薬物療法
   iii.その他の療法
  まとめ
 3.中等症・重症うつ病(精神病性の特徴を伴わないもの)
  はじめに
  A.うつ病治療の原則
  B.治療法ごとのエビデンス
   i.抗うつ薬
   ii.ベンゾジアゼピン受容体作働薬の併用
   iii.第一選択薬による治療に成功しない場合の薬物療法上の対応
     (ECTを予定しない場合)
   iv.修正型電気けいれん療法
   v.治療効果のエビデンスが示されている精神療法
  まとめ
   i.推奨される治療
   ii.推奨されない治療
   iii.特に注意すべき有害作用
 4.精神病性うつ病
  はじめに
  A.治療導入に際して
  B.治療の選択
   i.薬物療法
   ii.修正型電気けいれん療法(ECT)
   iii.維持療法
  C.緊張病症状を伴う場合
   i.薬物療法
   ii.修正型電気けいれん療法
  まとめ
  参考文献

II.双極性障害
  序
  サマリー
 1.躁病エピソード
  はじめに
  A.薬剤ごとのエビデンス
   i.気分安定薬
   ii.非定型抗精神病薬
   iii.定型抗精神病薬
   iv.気分安定薬と抗精神病薬の併用
   v.その他
  まとめ
 2.大うつ病エピソード
  はじめに
  A.薬剤ごとのエビデンス
  B.抗うつ薬の使用の是非
  C.気分安定薬と抗うつ薬の併用
  D.気分安定薬同士の併用
  E.電気けいれん療法
  まとめ
 3.維持療法
  はじめに
  A.薬剤ごとのエビデンス
  B.リチウム治療のガイドライン
  C.心理社会的治療
  D.双極II型障害の場合
  E.急速交代型
  F.妊娠・出産
  参考文献

III.双極性障害(躁うつ病)とつきあうために
 1.双極性障害(躁うつ病)だと気づくことが第一歩
 2.双極性障害の症状を知ろう
 3.双極性障害とつきあうために:患者さんご自身が心がけること
 4.双極性障害の治療薬の効果と副作用
 5.双極性障害の精神療法〔対人関係・社会リズム療法(IPSRT)〕
 6.ご家族へのお願い
 7.双極性障害の原因
 8.双極性障害の診断・治療に専門的に取り組んでいる医師の見つけ方
 9.双極性障害に関する研究について

索引

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原則的なアプローチをわかりやすくまとめた書
書評者: 中村 純 (産業医科大学教授・精神医学)
 本書は,日本うつ病学会が2011年に「気分障害の治療ガイドライン作成委員会」を立ち上げ,大うつ病性障害および双極性障害の治療ガイドラインを短い期間に改訂し,まとめたものを本年になって成書としたものである。

 高血圧や糖尿病などの身体疾患に対する治療ガイドラインは薬物アルゴリズムまでを含み,既に次々に更新されて一般診療科に流布し治療レベルも向上していると聞いている。しかし,精神疾患の場合には身体疾患と違って,その誘因,発症機転,治療法も微妙に異なる。そして,医師側の態度も同じようにさまざまな薬物療法や精神療法を行っているのが現状である。その結果,その転帰も違っている可能性もある。一方,精神科領域では,そのようなことはできないと考える人もまだ多い。

 このような背景から米国では,二十数年前から,研究者間の診断の一致率を高めることを目的に操作的診断基準が導入され,DSM診断ができた。そして,最近わが国でも上市された精神科で用いられる薬物は,身体疾患に用いられる薬物と同様にきちんとしたプラセボを対照とした二重盲検比較試験を経て,認可されるようになった。また,一部の精神療法においても構造化された比較対象試験結果も報告されている。その意味では,精神科領域でもエビデンスが集積されつつあり,ようやく精神疾患に対しても治療ガイドラインが作成される時代を迎えたといえる。そして,本書のような特定の疾患に対する標準的治療を示すことは,専門医だけでなく,一般科の医師にとっても精神科の標準的治療がどのようなものかを明らかにすることになり,それぞれの治療のレベルを上げることができるのではないかと思われる。逆に,これだけの標準的な治療がなされても,うまく治療が進まない症例がどのようなものかを示すことも課題になるかもしれない。

 本書の特徴は,大うつ病性障害,双極性障害について,まず治療計画策定から入り,軽症,中等症・重症,精神病性うつ病に対する治療の選択として,薬物療法だけでなく,精神療法についてもその原則的なアプローチを最大公約的にわかりやすくまとめていることである。しかもその内容は薬物療法に偏らず,初診時に得るべき情報,精神療法の原則などを示しており,エビデンスごとにそれぞれに治療法をまとめている。ただし,併存症を有する場合や適応障害,気分変調症など専門家がきちんと鑑別診断すべき病態は対象にしておらず,治療アルゴリズムをあえて示していない。したがって,診断が明確でない気分障害圏の人は,専門医が十分丁寧に診るべきだとしており,薬物療法を含めた治療アルゴリズムを示さなかったのも,それが一人歩きしないためと編著者は述べている。また,本書の読者に当事者や家族を想定しているのも本書の特徴といえる。特に,双極性障害委員会からは双極性障害(躁うつ病)と付き合うための1章を加え,当事者,家族向けへの啓発を行っている。

 DSM-5の時代を迎え,気分障害がうつ病と双極性障害とに二分され,気分障害という用語も死語になるかもしれないが,いわゆる気分障害患者が増加し続けており,その対応は,専門家だけでなく,一般身体科の医師にも要請されている。したがって,本書はあらゆる臨床現場で用いられる可能性がある。新しい薬物も次々に導入されてきているが,それぞれの薬物療法に対するエビデンスはいまだ不十分である。そこで本書の中でも述べられているが,本ガイドラインは,今後とも改訂される必要があるが,現時点でのわが国における最も標準的な治療ガイドラインを日本うつ病学会が示したことは,ある意味で精神医学が他の身体疾患の治療法と同様なレベルに向上し,精神医学への偏見もある程度軽減できるのではないかと期待している。
単なる治療ガイドラインの域を超えたレベルの高い治療のための手引き書
書評者: 久住 一郎 (北大大学院教授・精神医学)
 本書は,日本うつ病学会の治療ガイドライン作成委員会が3年越しで作成した双極性障害ならびに大うつ病性障害の治療ガイドラインを書籍の形にまとめたものである。日本うつ病学会は,ガイドライン作成にあたって可能な限り最新の情報を提供することを重視して,学会ホームページにそれらを公開し,随時更新する方針で臨んでおり,本書の発行後も学会ホームページから最新情報を補完することを推奨している。また,本ガイドラインは,うつ病および双極性障害の診療の手引きになることを意図したものであり,実際の診療は医師の裁量権に基づいて行われるべきものであること,実地臨床においては多くの個別要因が臨床的判断に影響するため,本ガイドライン通りの診療でなければ正しい医療水準ではないとはいえないことを繰り返し強調している。

 全体は3部構成になっており,大うつ病性障害と双極性障害の治療ガイドラインの他に,患者さん向けの疾患教育に活用できる「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために」が収録されている。大うつ病性障害のガイドラインは,うつ病治療計画の策定,軽症うつ病,中等症・重症うつ病(精神病性の特徴を伴わないもの),精神病性うつ病の4章立てになっており,双極性障害のガイドラインは,躁病エピソード,大うつ病エピソード,維持療法の3章立てで,それぞれのガイドラインには序文と簡単なサマリーが付されている。序文には,今回のガイドライン作成にあたっての理念が明確に示されており,全章が一体となって体系化されていること,アルゴリズム形式を取らないこと,エビデンスに準拠した治療法が推薦されているが,必ずしも保険適用の有無を考慮していないことなどが述べられている。

 全体を通読してみると,特に「うつ病治療計画の策定」の章がエビデンスを基に日常診療の参考になるように非常によく書き込まれている。Minimum requirementが凝縮されており,初心者は読み流してしまうのではないかと危惧するくらい無駄な部分がない。その他の章も必要十分な情報が要領よくまとめられているので,通読するのが全く苦にならない。本書は,かかりつけ医や研修医が通読して基本的な考え方を身につけるのに適しているのはもちろんのこと,ある程度臨床経験のある精神科医が時々読み返して自分の診療を振り返るためにも絶好の書である。非常に完成度の高いガイドラインであるが,将来の改訂に向けての改善点をあえて挙げれば,双極性障害のガイドラインでは,「うつ病治療計画の策定」に相当する総論的な記述がなく,大うつ病性障害に比べて全般的にあっさりとした仕上がりになっていること,大うつ病性障害ガイドラインでは,「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために」で取り上げられている妊娠・授乳中の薬物療法について触れられていないことくらいであろうか。

 いずれにしても,本書は,単なる治療ガイドラインの域を超えた,レベルの高い治療指針の手引き書に仕上がっており,長期間にわたり心血を注いで作成に携われた日本うつ病学会の治療ガイドライン作成委員会の皆様に改めて敬意を表したい。

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