• HOME
  • 書籍
  • 糖尿病外来診療 困ったときの“次の一手”


糖尿病外来診療 困ったときの“次の一手”

もっと見る

糖尿病専門医が受けた“よくある”コンサルテーション事例を題材に、外来での考え方と対応の仕方を順を追って解説し、糖尿病診療のコツを伝える1冊。35の症例を取り上げ、その第一印象から経過をたどりながら“次の一手”までをわかりやすく解説。主治医に返す際の返事にも言及している。多様性の中で個別化が求められる糖尿病診療にどう対応していくとよいのか、その考え方と進め方を学ぶのに最適の書。
吉岡 成人
発行 2013年09月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-01857-9
定価 3,850円 (本体3,500円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 毎日の診療のなかで困ってしまうことがしばしばあります.
 こんなときはどうしたらよいのだろうか….何かよい方法はないのだろうか….
 聖路加国際病院で内科の研修医として過ごしていた30年も前ですが,論文を探しなさい,ハリソンやセシルなどの教科書を読みなさい…とよく言われました.でも,今のようにパソコンに向かってキーワードを入力するとすぐに文献が見つかる時代ではなく,図書館に出かけても,目指す文献を探すまでには何時間もの時間を費やさなくてはなりませんでした.そのようなときに最も確実なのは,信頼のおける人に教えを請うことでした.とはいえ,質問ばかりしていると,「少しは自分の頭も使いなさいよ…」と諭されました.しかし,頭のなかには知識が何も入っておらず,経験もないわたくしには信頼のおける主任看護師や温厚で頭脳明晰な諸先輩が頼りでした.
 レジデントとしての忙しい診療の現場で,「コンサルテーション(consultation)」という言葉には新鮮な感じを覚えました.診療記録を「チャート」,診療記録を書くことを「チャーティング」というのも新鮮でしたが,診察を依頼することに対して,〈人が〉〈専門家や権威者に〉意見を求めるという意味の“consult”という英語を使用することに妙に納得したものです.後日,英和辞典でconsultの語意に,「医者に診察をしてもらうこと」と記されてあったのを確認して,専門性の高い医師がコンサルテーションを受けるのだなあと妙に納得をしたものです.
 徒手空拳さながらに医療現場に投げ出されたお馬鹿なレジデントであるわたくしに,林田憲明先生(前聖路加国際病院副院長)は,「院内のコンサルテーションを受けるのは普通の医者だけど,院外の施設からコンサルテーションを受けるようになれば,そのときは,吉岡も一人前になったということだよ…」とおっしゃってくださいました.相談されるのは信頼されているからで,院外の人たちからも信頼を得るようになれたら本物だ…というわけです.
 医師となり20年,30年と月日がたち,一般病院のみならず,研究施設や大学病院で勤務するうちに「先生のお考えはいかがですか…」と聞かれる機会も増えてきました.優しい皆様は,お馬鹿な研修医でも歳月を経ると少しは賢くなっているだろう…と誤解されるのかも知れません.ともあれ,医療の現場におけるコンサルテーションとは,相談を受けるコンサルタントにとっては試験のようなものです.わかりやすく,効果的な解決法を提示しなくてはいけません.しかし,ひとつしか正解がないわけではなく,いくつかの正解と思われる回答のなかから,最も効率がよいと考えられる方法を提示するという点では,プロフェッショナルとしての一面をみてもらう機会ともいえます.
 そうはいうものの毎日の診療の現場は,正解からもかっこよさからも程遠いものです.地道な経験の積み重ねから,ひとつないしふたつの回答を思いつくのが精一杯です.
 本書は医学書院の「糖尿病診療マスター」誌に連載された,「Consultation Diabetology:コンサルテーションから考える糖尿病外来診療」の原稿に手を加えて書籍としたものです.わたくしが受けたコンサルテーションの症例をもとに,わたくしなりの回答を記載しています.読者の皆様であれば,もっとスマートな回答をなさるかもしれません.この書籍をご覧になって,吉岡はこう考えているけれど,このような回答のほうがもっと適切だ,むしろこのように回答すべきだ…などというご意見も少なくないかと思います.そのようなご意見がございましたら,ぜひお聞かせいただきたいと思います.
 わたくしが医師となり,糖尿病を専門とするようになって四半世紀以上の月日が過ぎました.しかし,内科学の一分野である糖尿病であってもすべてを理解することは極めて難しく,医学の進歩を医療に応用することも簡単ではありません.患者さん一人ひとりの思いにこたえることの難しさには,いつも戸惑うばかりです.
 『糖尿病外来診療 困ったときの“次の一手”』が,糖尿病の診療をなさる皆様に少しでも役立つことができれば,著者として大きな喜びです.
 最後になりましたが,本書の作成に心を砕いてくださいました「糖尿病診療マスター」編集室の皆様に心からお礼を申し上げます.

 2013年8月
 吉岡成人

開く

 序

Ⅰ章 血糖コントロールが難しい!
 糖尿病患者の血糖管理目標と治療アルゴリズム
 case 1 肥満の2型糖尿病の患者さんです…
 case 2 経口薬を追加したのですが…
 case 3 インスリンを導入したのですが…
 case 4 副作用に悩まされています…
 case 5 倦怠感,体重減少,無月経が出現しました…
 case 6 経口糖尿病治療薬に反応しません…
 case 7 インスリンを嫌がっていて…
 case 8 インスリノーマかもしれません…
 case 9 半年も治療を中断しています…

Ⅱ章 糖尿病だけじゃないんです!
 糖尿病と悪性腫瘍・認知症
〔精査の依頼〕
 case 10 視力が低下した患者さんです…
 case 11 ぶどう膜炎の患者さんです…
 case 12 喉頭癌で経過観察中の患者さんです…
 case 13 心不全の患者さんです…
 case 14 拡張型心筋症の患者さんです…
 case 15 胃瘻を造設している患者さんです…
 case 16 胃炎と脂肪肝のある患者さんです…
 case 17 腎機能障害を認める患者さんです…
 case 18 糖尿病壊疽の患者さんです…
〔合併症のマネジメント〕
 case 19 むくみが認められます…
 case 20 腎機能が悪化してきました…
 case 21 下肢のしびれと下痢を訴えています…
 case 22 筋萎縮が進行しています…
 case 23 体重が減少し,活動性も低下してきました…
 case 24 認知症があります…
 case 25 精神科で加療中です…
 case 26 糖尿病合併妊娠の患者さんです…
〔入院中および周術期の管理〕
 case 27 硝子体切除を予定しています…
 case 28 血管新生緑内障で入院中です…
 case 29 バイパス術後です…
 case 30 急性膵炎で入院中です…
 case 31 膵腎同時移植を希望しています…

Ⅲ章 エマージェンシー!
 低血糖への対応
 case 32 昨日も低血糖発作を起こしました!
 case 33 低血糖が遷延します!
 case 34 意識障害です!
 case 35 胸部不快感で救急外来受診!

 おわりに-外来における糖尿病患者のコンサルテーション

 索引

 column
  A lot of water under the bridge
  過去は未来に生かせるか?
  ゆっくり走る
  忘れられないレジデントの頃
  糖尿病はわからない…

開く

糖尿病診療のあらゆる場面が網羅された良書
書評者: 赤井 裕輝 (東北労災病院副院長/糖尿病代謝センター長)
 吉岡成人先生は日本糖尿病学会誌「糖尿病」編集長,医学書院専門誌 「糖尿病診療マスター」 編集委員などの仕事を常時こなされる多忙な先生である。加えて来春札幌市で開催される日本糖尿病学会主催のpostgraduate course「第48回糖尿病学の進歩」世話人として準備に当たっておられる。このように最も忙しい糖尿病専門医であるが,日々実によく勉強しておられる。まさにスマートに仕事をこなす達人であり,出張先でもジョギングを欠かさない。だから吉岡先生は当代きっての臨床糖尿病学の論客なのである。その理詰めな考え方,アプローチ法は「糖尿病診療マスター」誌の毎回の編集会議で評者はよく知っている。

 その吉岡先生が北大病院,NTT東日本札幌病院で,かかりつけ医や院内他科から紹介された症例を一例一例大事にして,最も新しい考え方で診断するとどうなるのか,そのプロセスが示され,その診断に基づく治療の流れを,他科のドクターにもわかるように書かれた記録をまとめたのが本書である。内科医にとってはまたとない懇切丁寧な実習書となるであろう。

 さて目次を見てみよう。第一線の臨床医が遭遇する糖尿病診療のあらゆる場面が網羅されている。本書はどこから読んでも構わないし面白い。その患者の背景が,吉岡先生の驚くべき知識量に裏打ちされた洞察力で分析され,奥深い考察となってまとめられている。ありきたりの症例のように見えても,一例読む度にそうだったのか,読んでよかった,儲け儲けとなるのである。私はコラムにこそ吉岡先生らしさ出ているなと思った。イングリッド・バーグマン主演の映画「カサブランカ」のセリフ「A lot of water under the bridge.」は鴨長明の「ゆく川のながれは絶えずして,しかももとの水にあらず。……世の中にある人とすみかと,またかくの如し」とまさに同じ表現であると喝破しておられる。西洋にも無常の表現があるとは……! 医学書としてはまれな味わい深い余韻に浸ることができる素晴らしい良書である。
「溜飲が下がる」とはまさにこのこと
書評者: 難波 光義 (兵庫医大主任教授・糖尿病科)
 『糖尿病診療のカリスマ,吉岡成人がついに禁断の書を!?』というと大げさかもしれませんが,一気に読み通せてまさに溜飲の下がる指南書が上梓された感があります。これまでにもさまざまな診療領域の専門医が,研修医・レジデント・非専門医に向けてガイド・マニュアル・スタンダード・必携……とあまたの指南書を発刊されてきました。その中で「先生の診療の奥義を一言で」と言われて一番困っているのが,糖尿病の専門医ではないでしょうか。その理由は,このような例えでご理解いただけると思います。すなわち,糖尿病患者さんのある時点の病態は名匠の手になる総桐箪笥のようなもの,あちらの引き出しを押し込めば(ex. インスリン分泌促進系薬で血糖コントロールを下げたつもりが?),こちらが飛び出てくる(肥満したおかげでかえってインスリン抵抗性が助長されてしまう)。しかもそれがどの引き出しかの予想すら結構困難な患者さんが多いのです。反対にどんな手でも取りあえず打ってみると,思いのほかコントロールが良くなって,主治医のほうが驚くこともしばしばです(血糖コントロールがとんでもなく悪いソフトドリンクシンドローム例に対して,せめて食後血糖だけでもと超速効型インスリンのみで治療を始めたのに,間もなく空腹時血糖まで良くなり,やがてインスリン治療から離脱できたというのも一例)。碁盤の目のような札幌の街で北東の地点に行きたいとき,取りあえず北上して東に転じても,東に行ってから北に折れてもゴールは同じなのです。

 すなわち糖尿病専門医の一人でもある評者が,『溜飲が下がる』と言ったのは,まさに本書の底流をなす吉岡成人先生の流儀? 作法? あるいは,「専門医にだってこれが一番,これが定石といえる手はありません。行き詰っておられるなら,『次の一手』は取りあえずこれでいかがでしょう?」という,一種の『照れ』に近いスタンスが見て取れます。本書を通読した読者は,これからは意を強くして目の前の患者さんに対峙できるようになられるのではないでしょうか?

 それでは,吉岡先生が“続,次の一手”を上梓されることに期待して筆をおきます。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。