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臨床が変わる!
PT・OTのための認知行動療法入門

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認知行動療法(CBT)はエビデンスをもつ心理療法として、リハビリテーション分野へも応用が進んでいる。本書は英国で刊行され、理学療法士・作業療法士に向けてCBT活用を説いた初めての書籍。うつ病、不安障害などの精神科疾患をはじめとして、慢性疼痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群などの患者に対し、理学療法士・作業療法士がCBTの技法をどのように臨床に取り入れているかを学ぶことができる。
編集 マリー・ダナヒー / マギー・ニコル / ケイト・デヴィッドソン
監訳 菊池 安希子
訳者代表 網本 和 / 大嶋 伸雄
発行 2014年04月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-01782-4
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

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監訳の序本書に寄せてイントロダクション

監訳の序
 本書は,Marie Donaghy,Maggie Nicol,Kate Davidson “Cognitive-Behavioural Interventions in Physiotherapy and Occupational Therapy”(Butterworth Heinemann Elsevier刊,2008年)の邦訳である。
 題名にもあるとおり,認知行動療法を現代の理学療法,作業療法へと統合することを意図した入門書となっており,以下の内容を学べるように構成されている(原著帯より抜粋):

・病理の背景知識
・症状
・認知行動療法の原理
・介入の各段階別のアセスメント方法
・患者が参加することの重要性
・健康上の利益
・実践のためのエビデンス
・認知行動療法の実際を描き出すための症例提示

 認知行動療法は,不安障害,感情障害,物質使用,パーソナリティ障害,精神病性障害など幅広い精神保健の問題に対する効果のエビデンスが示されてきた。また,疼痛や,糖尿病,肥満,そして本書にもあるように線維筋痛症,慢性疲労症候群など,身体症状のマネジメントにおいても実践が広がっている。
 わが国においても,認知行動療法の臨床効果に関するエビデンスは,着実に積み重ねられている。平成22年度の診療報酬改定において「認知行動療法」が,一定の条件下とはいえ,保険点数化されたことは記憶に新しい。こうした流れに加えて,一般向けの認知行動療法の書籍が増えてきたことも手伝って,患者やその家族から認知行動療法を受けたいという要望が多く寄せられるようになってきた。ニーズは高いが,担い手の数が足りているとはいえないのが現状である。
 従来は,どちらかといえば心理士や精神科医が,認知行動療法の主な担い手だったが,チーム医療の流れのなかで,認知行動療法は多職種連携のもとで達成するという考え方が広がってきた。理論的枠組みをもち,この枠組みを用いた症状の見立てを行い,この見立てに基づいて使用することのできる一連の技法群が存在する認知行動療法は,系統的に学べば実施可能かつ再現性の高い心理療法だ。その意味では,多職種が,それぞれの独自性を保ちつつも(これがかなり大事である。目指すのは多職種総心理士化ではないからだ),専門性のなかに統合することができる。認知行動療法は,多職種の共通言語となりうるのだ。多職種医療の重要な一翼を担う理学療法士,作業療法士が,本書をきっかけにますます認知行動療法への関心と理解を深めていただければ幸いである。

 監訳作業は困難をきわめた。その分,ようやく,出版に至ったことへの喜びも大きい。気長に監訳をお待ちいただいた訳者代表の首都大学東京大学院人間健康科学研究科の網本和先生,大嶋伸雄先生,用語の統一に対する飽くなき情熱を傾けてくださった医学書院に深謝申し上げる。

 2014年2月10日
 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
 菊池安希子


本書に寄せて

 認知行動療法はエビデンスに基づく治療法であり…それ以上である。

 認知行動療法は効く。よく効く。包括的に効果を発揮し,その効果は明快に立証されている。他の心理学的アプローチにこのようなことはあてはまらない。にもかかわらず心理療法の多くは認知行動療法ではないし,ほとんどの専門家は認知行動療法のトレーニングを受けていない。現在のような「エビデンスに基づくアプローチ」の時代にあって,なぜいまだにそうなのだろうか? 単純にいえば普及の問題である。普及は重要問題であり,本書はその解決の重要な部分を担っている。
 もちろん他の要因も存在する。認知行動療法は相対的に新しいし,その効力と効果の両者に圧倒的なエビデンスがあるにもかかわらず,依然として臨床には習慣的惰性と保守主義が根強い。専門家たちはこの手法がどれほど新しいかをよく忘れてしまうが,それはこの手法が科学的に多大なインパクトを与えたからだけではない。行動療法や認知行動療法がなければ心理療法は,せいぜい,ほとんど効果はないか(Roth & Fonagy 1996),最悪の場合,患者の時間と専門家の人的資源を無駄にしているとみなされていただろうといっても過言ではない。
 行動療法およびそれに続く認知行動療法の効果を理論的に実証する研究エビデンスが1960~70年代に出始めていたにもかかわらず,何がしかの意義のある臨床実践に移行するまでに長い時間を要したことに,その問題が象徴されている。初期の研究・実践のほとんどは,顕在的な行動をターゲットにできる問題に限定されていた(→第1章)。認知行動療法は,この20年の間に,認知的ストラテジーと行動的ストラテジーを理論的にも実践的にも統合することによって,保健サービスのなかで提供される心理療法の本格的な優勝者争いのなかに加わったばかりである(Salkovskis 1996)。「認知的」アプローチがはじめて精神科分野の適用対象としたのは「心の風邪」,すなわちうつ病であった(Beck 1979)。これは現在でも重要な領域である(→第4章)。研究の広がりは,続いてこのアプローチを不安障害の分野へと発展させた。不安障害の一部では,曝露療法やオペラント条件づけのような行動変容を促すアプローチではあまり効果があるとはいえず,気分を変化させ,問題行動を引き起こす否定的思考を理解し,修正するアプローチが必要とされていた(Clark 1999)。同時期に実施された,さらに幅広い臨床像に対して実施された研究から,心理的問題のみならず身体的問題の心理的側面についても,個別に理解し有効に治療することが重要であるとわかった。このうちのいくつかは本書のPart 2で紹介されている。その後さまざまな認知行動療法が発展し,同じ認知行動療法でも,うつ病治療の方法と神経性大食症や強迫性障害などに対する治療方法はかなり異なるようになった。
 治療方法の変化のペースは,期待だけでなく問題ももたらした。優秀な認知行動療法の臨床家がまだ少ない一方で,嫉妬深い中傷者と敵対勢力の数は多く,声も大きかった。21世紀初頭までに,認知行動療法の実証的裏づけの量は,他のほとんどの心理療法と比較しても,当惑するほどバランスを欠いた多さとなり,無視することはできなくなった。奇妙なことに,心理療法のエビデンスという概念を完全に却下するため,すべてが誤りであると主張する者まで出るほどだった(Marzillier 2004)。認知行動療法が「機械論的」であり,「全人的」というよりは症状を扱っているという言説もあった。このような批判者たちは,人を変容させるストラテジーとして実証に基づいた方法を用いることを,相手から距離をおいてしまうことと同一視しているようだ。本書の読者ならおわかりのように,真実はまさにその対極にある。すなわち,よい治療では,セラピストが実証的基盤のある専門的技術を用い,その技術を患者のものの見方(患者自身のおかれている状況や患者の抱える問題についての)に柔軟に融合する。このプロセスはフォーミュレーション(事例定式化)の協働的な作成につながる。そこでは患者の問題とそれを最良の方法で管理することについての共有された理解に達するために,患者とセラピストがともに作業する。これらは本書に一貫して書かれていることである。もし,エビデンスと,患者の価値観や経験とのバランスをとることに失敗すれば,それは悪い実践であり,最悪の場合,専門家にあるまじき怠慢ととられてしまうであろう。
 批判者のなかには,認知行動療法は「単純な」症例に対してのみ有効であり,より複雑な問題には,別のもっと複雑なアプローチが必要だと主張している者もいる。認知行動療法は複雑な問題に対しても高い治療効果を示す強いエビデンスがある(本書の多数の例から容易に例証される)ことをさておいても,この前提には明らかな欠陥がある。「より複雑な特性」をもつ心理療法が単純なケースに対して効果がないとすれば,どうして複雑なケースには効果があると考えられようか? 実際には複雑な問題を(たいていの場合)より単純化された要素に還元し,フォーミュレーションの展開のうえに治療が実行されることにより認知行動療法は発展してきた。このようなフォーミュレーションが修正されるのは,経験的に実証された概念に導き出された患者個々の反応によるものであり,教条主義的に患者を縛るものではない。患者が問題の複雑性に圧倒されるのではなく,問題を理解しそれを変化させることを選べるように援助するプロセスは,それ自体が複雑な技能である。このプロセスの複雑さは無視も誇張もされてはならない。治療法は可能な限り単純にすべきであるが,単純すぎてはならない。
 では,認知行動療法の成功の「秘密」とは何だろうか? 私の考えでは,現在の認知行動療法の基本的な適用を理解する鍵が2つある。1つ目は,認知行動療法が患者の臨床的問題点を「持続(maintenance)」させている要因に対応することの重要性を強調していることである。例えば,誰でも時折は悲しくなるもので,とくによくないことがあればなおさらである。しかし,臨床的なうつ病となるとそのエピソードが長引き,(否定的に)歪曲化された特有の思考パターンが起こり,その結果,問題行動と非生産的行動が正常な回復プロセスを妨げることとなる。似たような持続要因がさまざまな問題についての系統的な研究により明らかにされてきた。特定の,または一般的な持続要因について,実験研究と臨床研究が進められており,認知行動療法の最重要ターゲットの評価,および修正方法について検討されている。
 2つ目に,異なる複数の臨床的問題を横断した特異性を明らかにすることが非常に重要であった。今日では認知行動学的理論と治療法は,重要な診断横断的な要素をもつものの,研究の知見によれば,個々の臨床的問題の間には重要な違いが存在することが明らかとなっており,個別の問題には具体的なストラテジーを柔軟に適用する必要がある。理論的かつ実証的に効果が証明された作業をこうして柔軟かつ人間中心的(person-centered)に応用することで,援助を必要とする人々を効果的にエンパワーできる。認知行動療法はエビデンスに基づいているという以上のものであり,経験に基づいた臨床介入法である(Salkovskis 2002)。
 しかしながら,新しい領域に認知行動療法が広がり,従来と異なる臨床的問題に幅広く適用されるようになったため,新たな問題が出てきている。認知行動療法に対する需要は,正しく訓練された臨床家の供給が間にあわないほど大きい。この問題に加えて認知行動療法の発展も急速で,臨床家には常に技能のアップデートと修練が求められる。不安障害,うつ病,疼痛症候群,慢性精神疾患,摂食障害,薬物乱用,その他すべての広範囲にわたる認知行動療法技能を身につけられるセラピストはいない。しかしながら,解決方法は,段階的なケアと個別の訓練という考え方で手にできよう(→第11章)。最後になるが,セラピストが認知行動療法をさらに効果的に用いるために専門的技術を発展させ,サービス利用者をエンパワーしていくなかで解決方法は徐々に発見されるであろう。重要な健康問題をコントロールしようと患者が適切に求めるなら,認知行動療法はエビデンスに基づく患者の選択肢(evidence-based patient choice)の重要な要素となるだろう。本書は読者に,訪れてきた患者を支援するだけではなく,支援を最大限に活用するように患者自身をエンパワーすることの必要性の理解を促すことであろう。認知行動療法は究極的には,人々がより効果的な解決方法を自分自身で見出すことができるよう支援することである。この考えは本書の読者にとってとても親和性があるはずである。

 Paul M Salkovskis
 BSc MPhil (Clin Psychol) PhD C Psychol FBPsS
 Professor of Clinical Psychology and Applied Science,
 Institute of Psychiatry, King’s College, London, UK
 Clinical Director, Maudsley Hospital Centre
 for Anxiety Disorders and Trauma,
 South London and Maudsley Foundation Trust, London, UK


Reference
Beck A T 1979 Cognitive therapy of depression. Guilford Press, New York
Clark D M 1999 Anxiety disorders: Why they persist and how to treat them. Behaviour Research and Therapy 37(S1):S5-S28
Marzillier J 2004 The myth of evidence-based psychotherapy. The Psychologist 17:392-395
Roth A, Fonagy P 1996 What works for whom? Guilford Press, New York
Salkovskis P M 1996 Resolving the cognition-behaviour debate. In Salkovskis P M(ed) Trends in cognitive-behaviour therapy. John Wiley, Chichester
Salkovskis P M 2002 Empirically grounded clinical interventions: Cognitive-behavioural therapy progresses through a multi-dimensional approach to clinical science. Behavioural and Cognitive Psychotherapy 30:3-9


イントロダクション

本書の目的とは?
 本書の目的は,理学療法士と作業療法士の臨床現場における理論的枠組みのなかにどのように認知行動療法が適用できるかについての知識と関心を増やすことである。心理学的モデルについて説明し,理学療法と作業療法の介入の効果を高める1つのツールとして認知行動療法を適用する際の根拠を提供するものである。

本書のユーザーは?
 本書はもともと作業療法と理学療法の学生および臨床家を読者対象としているが,認知行動療法を行う看護師および他の医療関連職にも役立つだろう。
 本書は他の「認知行動療法書」とはまったく異なっている。本書は理学療法士と作業療法士の専門業務において,認知行動的介入を適用する際に関係する要因について述べたものであり,認知行動的介入が作業療法と理学療法の実践モデルにいかに結びついているかについて説明するものである。
 本書は認知行動療法の専門家を養成するためではなく,多彩な障害に直面した患者への適切な認知行動的介入を,作業療法士と理学療法士がより効果的に適用するために組み立てられている。

作業療法士と理学療法士になぜ認知行動的介入の知識が必要か?
 心理学的モデルは作業療法と理学療法の臨床に適用される理論的知識基盤としてその重要性を高めつつあり,このことは多くの学術集会においても最新の論文においても強調されている。しかしながら,心理学的モデルが作業療法と理学療法にいかに適用されるかについては,専門的文献においては明確には述べられてこなかった。エビデンスに基づく実践がますます強調されるなかで,理学療法と作業療法においても,認知行動療法などの元来別の領域由来である介入法を用いる必要性が認識されてきた。とくに精神保健分野において,認知行動療法のエビデンスの起こりは20年前にさかのぼる。
 本来の意味での治療介入としての認知行動療法と,別の治療介入に認知行動的ストラテジーを役立てようとすることの違いは明確に区別する必要がある。

認知行動的介入は作業療法と理学療法のどの領域で役立つか?
 作業療法士と理学療法士は認知行動療法を主として2つの領域で適用している。
1.精神保健分野での情動障害,不安,嗜癖,そして,それより効果はやや劣るが,持続性の精神疾患において認知行動的介入は役立つことが知られている。
2.慢性疼痛:線維筋痛症および慢性疲労症候群。とくに慢性疼痛は作業療法士と理学療法士双方にとって重要な領域を形成してきた。

本書から何を学ぶか?
 本書は2つのPartで構成されている。
 Part 1は,認知行動療法への入門に始まり,読書はその鍵となる重要概念になじむことができるだろう。次に実践モデルとしての作業療法と理学療法における認知行動的介入の適用を,特異的かつ学際的な領域のなかで考察する。ケーススタディを用いて,これらのモデルを説明する。認知と行動とが生物医学的につながっているということを,精神機能が神経系の「ハードウェア」によってのみ作られ得るという認識から探っていく。このセクションの意義は,脳,身体,信念,感情および行動の相互作用がもつ複雑さをより深く理解できるようにすることである。
 Part 2は,より実践的である。認知行動的介入が特定の問題・障害にいかに適用できるかに焦点を当てている。認知行動的介入のエビデンスに各章で言及している。エビデンスの構築は,領域によって程度に差がある。
 これらの応用的な章では,その介入の内容をケーススタディや症例エピソードによって説明することを試みた。これらの例は,特定の個人というよりはむしろ臨床的経験から導き出されてきたものである。ケーススタディに使用されている「名前」は特定の個人とは無関係である。
 本書の執筆陣はさまざまな学問領域から参加している。このことはある意味,認知行動的介入が多領域にわたって応用可能であることの証である。認知行動的介入をいかに適用するかについてのアイデアと理解を深めることができるため,医療関係者であればだれもが本書から有用な情報を得ることができると確信するものである。
 Part 2は精神保健に焦点をおいて開始し,うつ病への認知行動療法の章へ展開する。そこでは読者に認知療法の適用を詳しく説明するため,より詳細なケーススタディを提示する。この第4章を最初に読まれることを強く勧めたい。というのは個別の患者に対していかに認知行動療法が適用されるかについての徹底的かつ明確な説明がなされているからであり,このモデルに不慣れな読者がより深く認知行動療法のプロセスを理解する助けになるはずだからである。続いて本書の焦点は他のよく遭遇する障害への認知行動療法の適用へと移ることになる。残りのすべての章においてもより簡潔ながら症例エピソードがあり,その章で扱っている症候群に特有の焦点と適用法を強調し,他の章の内容のくり返しとならないようになっている。Part 2で扱う臨床領域が,作業療法士と理学療法士に
 とって認知行動療法適用のすべてとはいえないが,多彩な障害をもった患者それぞれにいかに認知行動療法を適用するかについて読者諸氏の理解を深めることができるだろう。

 Marie, Maggie and Kate

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 監訳の序
 本書に寄せて
 イントロダクション

Part 1 理論的背景を学ぶ
第1章 認知行動療法-起源と展開
 認知行動療法の起源
 認知療法の基本的な前提
 認知行動療法の主な特徴
 認知行動療法の実証的基盤
 精神保健における認知行動療法の展開
 認知行動療法に関するよくある勘違い
 すべての医療従事者は認知行動療法を学ぶことで利益があるだろう

第2章 認知行動的アプローチを実践モデルに組み込むには
 イントロダクション
 実践モデルとは何か?
 人間作業モデル(MOHO)
  ケーススタディ2-1
   意志
   習慣化
   遂行能力
 生物心理社会モデル
  ケーススタディ2-2

第3章 認知と行動の生物医学的関連
 イントロダクション
 大脳生理学的側面
 不安障害の神経生理学
 うつ病の神経生物学
 結論

Part 2 実践に応用する
第4章 うつ病の認知行動療法
 有病率
 うつ病とは?
  資料4-1 大うつ病エピソード
 大うつ病性障害に対する認知行動療法の効果
 認知行動療法は再発率を下げることができるのか?
 要約
  ケーススタディ4-1 うつの女性に対する認知行動療法の適用
   地域の精神保健チームの評価
   認知行動療法のセッション
  資料4-2 ジョアンの典型的な1日の例

第5章 不安障害に対する認知行動療法
 イントロダクション
 不安障害の類型
 有病率
 併存障害
 不安障害の方に会う文脈
 不安の認知モデル
 アセスメント-関係構築
 アセスメント-評価方法
 不安治療の禁忌
 治療
 認知的要素への治療
 生理学的要素への治療
 行動的要素への治療
 再発への対応
 結論

第6章 慢性精神疾患の認知行動療法
 イントロダクション
 慢性精神疾患とは何か?
  ケーススタディ6-1
 認知行動療法と慢性精神疾患
  ケーススタディ6-2
 実践のための重要な各段階
 結論

第7章 アルコール嗜癖の認知行動的アプローチ
 イントロダクション
 認知行動的アプローチによる治療
 アルコール嗜癖への認知療法の効果
 エクササイズと認知行動的アプローチ
  ケーススタディ7-1
   アセスメント
   動機づけ面接法
   ストラテジー
   認知的要素の扱い
 結論

第8章 慢性疼痛
 イントロダクション
 生物心理社会モデル
 思考と感情
 認知行動療法
 教育
 ペース配分とゴール設定
 疼痛管理プログラム
  ケーススタディ8-1

第9章 認知行動的原則を用いた線維筋痛症の管理-実践アプローチ
 イントロダクション
  ケーススタディ9-1
   患者プロフィール
   アセスメント過程

第10章 慢性疲労症候群の認知行動療法
 イントロダクション
 臨床像
 診断
  資料10-1 CDC基準
   大基準
   症状基準
 若年者
 治療とアウトカムの基準となるエビデンス
 患者にとって利用可能な情報源
 理学療法と作業療法のなかにCBTを取り入れる
 慢性疲労の認知モデル
 治療技法
 若年対象者とその家族との関わり
 学校との連携
  ケーススタディ10-1
 結論
 患者の利用できる情報源

第11章 まとめ

 付録 誘導的発見法とソクラテス式質問法
 訳者あとがき
 索引

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PT・OTの精神心理領域参加で治療効果が高まる
書評者: 仙波 浩幸 (豊橋創造大教授・理学療法学)
 認知行動療法は心理職や精神科医による介入から,チームにより展開し提供する新たな段階に突入した。理学療法士や作業療法士は臨床においてそれぞれの専門性を発揮し治療を進めるが,それぞれの専門領域に認知行動療法の理論を取り入れることで治療効果をさらに高め,エビデンスを確立し,それを多職種連携で統合的に展開していくというものである。それは認知行動療法士になるのではなく,各専門職の実践に認知行動療法の理論を理解し治療実践に積極的に活かしてくださいという提言である。

 これは精神心理領域における,理学療法士と作業療法士の治療参加への期待が大きく,患者中心の医療を実現するためには理学療法と作業療法とのコラボレーションが不可欠というメッセージであると受け止めた。治療において身体障害,精神障害,社会的側面,患者本人の主体的参加のいずれかが欠けても最良の結果を残すことができない。このメッセージはイギリスで発せられ,すでに6年が経過している。

 本書はMarie Donaghy, Maggie Nicol, Kate Davidson “Cognitive-Behavioural Interventions in Physiotherapy and Occupational Therapy”の邦訳である。認知行動療法が新たなパラダイムに突入し,新たな治療の視点や枠組みを提示し,理学療法士と作業療法士を対象に執筆された初めての入門書である。

 構成は,Part 1 は理論的背景を学び,Part 2 は実践に応用するという構成である。うつ病,不安障害,慢性精神疾患,アルコール嗜癖,慢性疼痛,線維筋痛症,慢性疲労症候群の各論構成で,今なお精神科医療の中心である精神病からクリニックで頻繁に遭遇する疾患,それも患者数が増加している疾患まで幅広く網羅され,理論(総論)と各論もバランスよく執筆されている。

 訳文がとてもわかりやすく,読み進めてもストレスが全く感じられず,すらすら読み切ってしまう。訳者の能力の高さと苦心が伺える。精神障害への考え方,評価,対応について,丁寧で内容が濃く最新の知見もふんだんに書かれている。評者個人的には「共感」について,至るところに腑に落ちる記述がある。

 理学療法士にとっても,精神心理領域の重要性が少しずつではあるが浸透し始めている。日本理学療法士学会に精神心理領域理学療法部門が立ち上がり,2014年4月現在1500名弱の日本理学療法士会員が登録している。

 本書は,精神心理面の評価・アプローチを医療機関勤務のみならず,地域在宅で活躍する理学療法士や作業療法士も理解・実践できるようになるための最適な入門書である。

 理学療法士や作業療法士にとって,座右の書の一つになるべき書籍である。
理論的背景・実践への応用を事例を基にわかりやすく紹介
書評者: 田島 明子 (聖隷クリストファー大准教授・作業療法学)
 去る2014年4月26,27日に第1回認知作業療法基礎研修会が行われた。「認知作業療法」とは作業療法実践に認知行動的アプローチを導入することを意図した新語である。本書の訳者代表である大嶋伸雄教授(首都大学東京大学院)が,やはりそれが作業療法の発展に欠かせないと考える仲間や大学院生らと共に編み出した言葉であると聞いている。

 作業療法に認知行動療法を取り入れた実践を紹介した本として,『患者力を引き出す作業療法——認知行動療法の応用による身体領域作業療法』(三輪書店,大嶋伸雄教授編著)がすでに公刊されている。こちらでは日本の作業療法士が身体領域の作業療法において認知行動的アプローチを取り入れ,自らの身体の使用法や可能性に気付き,自己効力感が高まった事例などが豊富に紹介されている。

 日本の作業療法業界に関して言えば,そのような流れを受けて本書が邦訳,出版されたことの意味は深いと筆者は感じる。つまり本書は,認知行動療法と作業療法・理学療法の融合についての意義と具体的展開方法がレシピされた世界的な入門書であり,日本での上述の動きも本書の日本での出版を受け,ようやくスタートラインに立てたと言えると思うからである。

 本書は大きく2部構成になっている。Part 1 は「理論的背景を学ぶ」と題され,認知行動療法の起源,前提,特徴,実践的基盤,展開方法,生物医学的知識から認知と行動の関連についてなどの説明がなされたり,作業療法の主たる実践モデルである人間作業モデルやGeorge Engelによって開発された生物心理社会モデルとともに認知行動的アプローチを使用する方法について,事例を基にわかりやすく紹介がなされたりしている。

 Part 2 は「実践に応用する」と題され,うつ病,不安障害,慢性精神疾患,アルコール嗜癖,慢性疼痛,線維筋痛症,慢性疲労症候群において,認知行動療法と作業療法・理学療法の実践モデルを生かしたアプローチの仕方が詳細に描かれている。筆者が特に興味深いと感じたのは,各章の事例紹介の中で治療技法についても丁寧に紹介がなされていることである。「認知再構成法」「心配のマネジメント」「リラクセーション法」「活動計画表の作成」「現実曝露」「日記・日誌をつける」「ペース配分とゴール設定」などなどである。これらはクライエントの自分自身を苦しめる否定的な自動思考を軌道修正し,ネガティブで息苦しい思い込みから自分自身を少しずつ自由にするための技法として用いられる。それは,クライエント自身が肯定的な自己像を獲得し,充実した作業的存在となることを助けるのである。
複雑な問題を抱える患者の心理療法にチームで取り組む
書評者: 二木 淑子 (京大大学院教授・生活機能適応学)
 本書は,イギリスの心理学科,理学療法学科,作業療法学科,地域・病院のセラピストらにより執筆され,わが国の同職種チームにより訳された,認知行動療法の入門書である。

 監訳者や執筆者の序に,「多職種総心理士化ではなく,チーム医療に関わる他の専門職の専門性の中に認知行動療法を取り込んで統合してもらうためのテキスト」とある。各自の治療の枠組みに認知行動的ストラテジーをどう取り込むかは,読者自身が読み取らなくてはならない。攻めて読む本といえる。

 身体障害領域や地域・高齢者領域で仕事をしている,ある程度専門性が確立したセラピストの多くは,疾患による障害に対して従来の解釈では問題が解決しないことや,まずアウェアネス,自己洞察を深めるようなアプローチの必要があることに気付いている。なんとなく心理的問題にアプローチしないといけないとわかってはいても,心理療法はこうした入門書のガイドがないと登れない山である。

 本書のPart 1 (1~3章)では,非常にコンパクトに理論背景について解説してある。初期のオペラント学習理論のような行動療法に感情認知理論,論理情動療法などの認知療法が統合されて認知行動療法となる流れや,うつ病の認知モデルのキーコンセプト,認知行動療法の特徴(ソクラテス式質問法や認知的フォーミュレーションなど)の概説があり,次いで認知行動的アプローチをPT・OTになじみのある実践モデルに取り組むための解説がされている。

 Part 2 (4~11章)は,実践応用の各論であり,認知行動療法効果のエビデンスが高いうつ病,不安障害などの精神疾患だけでなく,慢性疼痛や線維筋痛症などに対するアプローチが,ケーススタディと共に解説されている。慢性疼痛例ではセラピストのボヤキにもしっかり応えてPT・OTの実践への取り入れ方のコツが書かれ,SMART(Specific, Measurable, Activity-related, Realistic, Time-related)なゴール設定など,認知リハビリテーションでもなじみの方法も紹介されている。

 担当すると不思議に良くなるといった実践家は,無意識にここで紹介されている方法を使いこなしているのかもしれない。現在のリハビリテーション対象者は一つの職種や領域別の特技で何とかなるというよりも複雑な問題を抱えている。チーム医療に関わる多くのセラピストに読み込んでいただきたい一冊である。
“知って得する”治療理論・技法
書評者: 松原 貴子 (日本福祉大学教授・リハビリテーション学科)
 認知行動療法は認知療法に行動療法を融合させ,系統的に構造化された心理学的治療の一つである。20世紀終盤より認知行動療法は学習理論や条件付けに基づく行動療法を取り入れながら,うつ病や不安障害など主に精神心理的問題に対し精神科領域にて発展を遂げてきた。現代医療において,治療概念が生物医学的モデルから生物心理社会的モデルへとパラダイムシフトし,認知行動療法は精神科領域にとどまらず,身体科領域へ広く開放されるようになった。

 現在では,慢性疼痛,糖尿病,心血管疾患など幅広い難治性患者に臨床応用されるようになってきている。その理由の一つとして,身体科疾患患者であっても精神心理社会的問題を包含していることで治療に抵抗性を示す場合が多いからであろう。認知行動療法では,患者を局所的なパーツの集合体として取り扱うことはせず,“whole body”(一人の個全体)として包括的に相対する。つまり認知行動療法は,疾患を治療するのではなく,患者(人)とともに考え引導する道筋を探し出すアプローチといえよう。したがって,認知行動療法は治療に難渋する患者を救済する道標になるとともに,治療者にとってもコーピングスキルの幅を広げる貴重なデバイスとなり得る,“知って得する”治療理論・技法である。

 身体科領域において局所的な対症療法に追われてきたPT・OTにとって,今こそがパラダイムを変革すべき時であり,まさにそのタイミングで本書が出版された。本書では,認知行動療法理論について心理学的および神経科学的に丁寧に解説した上で,うつ病や不安障害などの慢性精神疾患の病態生理と具体的アプローチを紹介し,世界的国民病であって認知行動療法の奏効例が多数報告されている慢性疼痛や慢性疲労症候群についても解説がなされている。

 評者である私自身のような,臨床で認知行動療法をフル活用し,その恩恵をすでに受けている者であっても,本入門書は新たなエビデンスの発見と理論の体系化に役立った。本書は認知行動療法に興味を持っているものの手を出せないでいる初学者からすでに認知行動療法を実践している者まで,全ての臨床家にとって十分に納得させてくれる一冊であり,有益な著書としてぜひとも推薦したい。

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