腹部血管画像解剖アトラス

もっと見る

血管の分岐、走行の理解は外科医の日常の手術に欠かせないが、それは個体によりかなり違いがあり、パターン認識では対応できない。本書は、実際の診断・治療において役立つ血管の分岐・走行の把握を目的として、写真・図を多用し、簡潔な文章で解剖および血管分枝の類型をビジュアルに示した。血管分枝のタイプ別のパーセンテージも明確にして、文献も豊富に提示した。多くの3DCT画像により、3次元の位置関係がよく把握できる。
衣袋 健司
発行 2017年10月判型:B5頁:160
ISBN 978-4-260-03057-1
定価 11,000円 (本体10,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く



 1991年にMD Anderson Cancer Center(MDACC)の放射線診断科で働く機会があり,その時に師事したのがChuslip Charnsangavej先生であった.最初の年はまだヘリカルCTが導入される前だったが,CT画像の血管を1つひとつ追いながらそれを指標としてリンパ節や病変の位置・由来を明確にする手法を教えていただいた.血管造影を行ってきた先生の経験をそのままCT読影に生かしたわけだが,自分にはこのような発想が全くなく非常に感銘を受けたことを覚えている.
 さて当時,松井修先生によって広められたCTAPをMDACCでも行っていた.次第にいろいろな偽病変が観察され,これが肝臓に出入りする今まで広く知られていなかった血管を再認識するきっかけとなった.
 我々はCTなどの画像を通して血管走行や病変を推測するのだが,多くの画像診断医はそれらが実際にどこにあるのかを見たことがない.見たことのない血管を指摘しても説得力がない.あるとき,多くの雑誌に解剖学講義の連載を書いておられた東京医科歯科大学の佐藤達夫解剖学教授のもとへ相談に訪れたところ,まずは実習用解剖体を使って自分で血管を剖出しなさいと指導された.これがきっかけとなり,肝臓の各種間膜の血管を中心に実体顕微鏡を用いた解剖を始めることとなった.それ以来20余年,同解剖学教室(現在は秋田恵一教授)の実習室で週末に解剖するという貴重な機会を与えていただいている.
 Michelsが述べているように,標準的な血管分岐は半分程度で残りは亜型であり,すなわち1体でもいろいろな血管を観察すればさまざまな亜型を見ることができる.一方,1日で行われるCT画像すべてを観察すれば,同じ血管でも多数の亜型を見ることができる.解剖体は元には戻せないが,CTではワークステーションを使えばいつでも血管をあらゆる方向から観察できる.本書で提示した画像は日々蓄積されたCT画像や血管造影からなり立っている.また,読者に少しでも実際の血管を見てほしいために解剖写真も掲載した.しかしこれらはあくまでも解剖後の写真であって,実際は血管周囲には結合組織があることを忘れてはならない.
 本書の執筆にあたり,日頃から撮影と画像管理に従事している三井記念病院放射線診断科技師の諸氏,ならびに実習用解剖体でお世話になっている東京医科歯科大学臨床解剖学教室の皆様に感謝する次第である.
 最後に,Charnsangavej先生をはじめMDACCで師事した先生の多く(Sidney Wallace先生,Cesar Humberto Carrasco先生)が既に逝去され,本書を見ていただけなかったことが心残りであるが,お世話になった先生方に心からの感謝の意を込めて本書を捧げたい.

 2017年8月
 衣袋 健司

開く

総論
  [1]腹部大動脈
   1.1 臓側枝
    1.1.1 腹腔動脈分枝
    1.1.2 上腸間膜動脈
    1.1.3 下腸間膜動脈
   1.2 外側枝
   1.3 壁側枝
    1.3.1 下横隔動脈
    1.3.2 腰動脈
    1.3.3 正中仙骨動脈
   1.4 総腸骨動脈
    1.4.1 総・外腸骨動脈閉塞時の側副路
  [2]下大静脈
   2.1 壁側枝
   2.2 臓側枝
   2.3 外側枝
   2.4 腸骨静脈
   2.5 発生
   2.6 閉塞時の側副路

各論
 1章 肝臓
  [1]肝動脈
   1.1 肝動脈の分岐形式・分類
   1.2 肝区域分類
  [2]肝内動脈枝と門脈との位置関係
   2.1 右葉門脈枝と動脈の関係
   2.2 右葉前区域における門脈と動脈
   2.3 右葉後区域における門脈と動脈
   2.4 肝左葉における門脈と動脈
   2.5 尾状葉枝
  [3]肝内外の肝動脈吻合(側副路形成の解剖)
   3.1 肝動脈間吻合
   3.2 靱帯・間膜を介する動脈
    3.2.1 鎌状靱帯
    3.2.2 冠状靱帯
    3.2.3 小網(肝胃間膜・肝十二指腸間膜)
   3.3 肝動脈閉塞時の側副路
  [4]肝内門脈
   4.1 肝内門脈枝
   4.2 門脈左枝欠損
   4.3 右肝円索
  [5]肝静脈
   5.1 右肝静脈
   5.2 中肝静脈・左肝静脈
   5.3 肝静脈吻合
 2章 門脈
  [1]門脈
   1.1 門脈本幹
   1.2 脾静脈
   1.3 上腸間膜静脈
   1.4 下腸間膜静脈
  [2]肝外門脈側副路
   2.1 肝鎌状靱帯
    2.1.1 上鎌状靱帯静脈
    2.1.2 下鎌状靱帯静脈(傍臍静脈)
   2.2 冠状靱帯
    2.2.1 左三角靱帯
    2.2.2 右三角靱帯
   2.3 小網(肝胃・十二指腸間膜)
    2.3.1 肝胃間膜
    2.3.2 肝十二指腸間膜
   2.4 その他の門脈大循環吻合
    2.4.1 胃静脈から食道静脈・奇静脈へ
    2.4.2 胃静脈・左腎静脈交通路
    2.4.3 脾静脈・左腎静脈交通路
    2.4.4 veins of Retzius
    2.4.5 下横隔静脈を介した静脈吻合路
 3章 総胆管・胆嚢
  [1]胆嚢動脈
  [2]胆嚢静脈
  [3]総胆管動脈
  [4]総胆管静脈または胆管周囲静脈
 4章 膵臓・脾臓
  [1]膵臓
   1.1 動脈
    1.1.1 膵頭部
    1.1.2 膵体尾部
   1.2 静脈
    1.2.1 膵頭部
    1.2.2 膵体尾部
    1.2.3 median arcuate ligament compression(MALC)
  [2]脾臓
   2.1 脾動脈
   2.2 脾静脈
   2.3 膵炎または膵癌による静脈閉塞時の側腹路
 5章 腎臓・副腎・性腺
  [1]腎臓
   1.1 腎動脈
    1.1.1 起始部
    1.1.2 腎内枝
   1.2 腎静脈
   1.3 腎被膜・腎盂・尿管動脈
   1.4 腎被膜・腎盂・尿管静脈
  [2]副腎
   2.1 副腎動脈
   2.2 副腎静脈
  [3]性腺動静脈
   3.1 性腺動脈
   3.2 性腺静脈
 6章 消化管
  [1]胃
   1.1 動脈
    1.1.1 短胃動脈
    1.1.2 左胃動脈
    1.1.3 後胃動脈
    1.1.4 右胃動脈
    1.1.5 胃十二指腸動脈・右胃大網動脈
    1.1.6 左胃大網動脈
   1.2 静脈
    1.2.1 短胃静脈
    1.2.2 左胃静脈・副左胃静脈
    1.2.3 後胃静脈
    1.2.4 右胃静脈・副右胃静脈
    1.2.5 右胃大網静脈
    1.2.6 左胃大網静脈
  [2]十二指腸
   2.1 動脈
   2.2 静脈
  [3]小腸
   3.1 動脈
   3.2 静脈
  [4]大腸
   4.1 辺縁動脈と終動脈
   4.2 回結腸動脈
   4.3 右結腸動脈
   4.4 中結腸動脈・副中結腸動脈
   4.5 左結腸動脈
   4.6 S状結腸動脈
   4.7 上直腸動脈
   4.8 静脈
 7章 骨盤
  [1]総腸骨動脈
  [2]外腸骨動脈の分枝
   2.1 下腹壁動脈
   2.2 深腸骨回旋動脈
  [3]内腸骨動脈
   3.1 内腸骨動脈の分類
   3.2 上殿動脈,下殿動脈
   3.3 腸腰動脈
   3.4 閉鎖動脈
   3.5 中直腸動脈
   3.6 下直腸動脈
   3.7 子宮動脈
   3.8 前立腺動脈・精嚢腺動脈
   3.9 前立腺静脈:サントリーニ静脈叢
   3.10 膀胱動脈
   3.11 膀胱静脈
   3.12 内陰部動脈

索引

開く

学問の王道を歩んだ成果
書評者: 佐藤 達夫 (有明医療大学長)
 画像機器とカラー写真印刷技術の驚くべき発達により,有用な画像診断アトラスが多数出版され,応接に暇がないほどである。このような状況はもちろん医学の進歩にとって歓迎すべきことではあるが,少し不満を抱かざるを得ないのも事実である。

 19世紀のはじめ,フランスの内科医ラエンネック(1781-1826)は聴診器を発明・開発し,当時の医学に大きな進歩をもたらした。彼は,患者の生前の詳しい聴診所見と死後の剖検所見の照合を重ね,その成果を900頁に及ぶ大冊(間接聴診法,または,この新しい探究法に主として基づいた肺と心臓の疾患の診断に関する研究,1819)にまとめた。このような間接所見と直接所見を統合した書物が後ろに控えておれば,安心この上もない。

 本書の著者・衣袋健司氏が,血管画像で遭遇した珍しい所見について,まだ解剖学教室に勤めていた私のもとに相談に来られたのは,もう30年ほども前のことである。そのとき私は「本当に知りたいことは本には書いてないものだ。自分の手を下ろして解剖することからはじめてみなさい」と,半ば突き離し,解剖実習遺体を提供することにより,半ば協力することにした。それ以来,金曜の夜になると,一週間の激務を終えた衣袋氏の姿を実習室の片隅に見ることになった。

 本書の序文にあるように,「標準的な血管分岐は半分程度で,残りは亜型」である。血管画像には異常と思われる所見が無数に見出されるであろう。しかし一見,異常所見なるものも亜型の中に取り込む視野を持つことが望まれる。また血管の問題だけに矮小化できないこともあろう。血管は標的器官があっての存在であるし,周囲の構造物や神経との位置関係に影響を受けることも少なくあるまい。解剖体にすがり付いて,どのような小さな変異でも見逃さずに位置関係も含めて剖出し,その詳細所見の吟味と過去の膨大な文献の渉猟を重ねながら実態の解明に取り組まなければなるまい。

 本書にみる,日常の読影所見に問題点を見出し,実際の剖出を通じて理解を深めていこうという研究態度は,ことのほか貴い。それは,われわれ解剖学サイドからアプローチした局所解剖学に欠落しがちなところでもある。また,世に臨床と解剖学との協力を説く声は多い。実際にここ10年余りの間の臨床解剖学の進歩は著しいものが認められる。しかし,進化はしたが深化は不十分であったのではないか。この労作『腹部血管画像解剖アトラス』をひもとくと,そう感ぜざるを得ない。

 著者・衣袋氏の金曜日夜の解剖は現在も続いている。一言でそういうが,これは大変なことであり,類いまれな努力と研鑽を称えたい。そして,数多くの画像アトラスの中で最も長い生命を約束されたこの本格書に触発されて,腹部以外の部位でも,画像と解剖を高度に結び付けた研究書を世に問おうとする若い学徒が少しでも増えることを期待している。
腹部血管に関わる全ての医師座右の書として推薦する
書評者: 松井 修 (金沢大名誉教授)
 私の畏友,三井記念病院放射線診断科部長 衣袋健司先生が,待望の腹部血管画像解剖の教科書をついに出版された。世界初ともいえる腹部の最新の画像解剖と肉眼解剖の対比から成る画期的な教科書といえる。

 先生は長く臨床の第一線で腹部を中心としてinterventional radiology(IVR)と画像診断に従事され,示唆に富む知見や新しい技術を報告されてきた。その独特の視点や理論的背景の確かさから,“知る人ぞ知る”気鋭の臨床放射線科医としてわれわれの間では高く評価されてきた。その背景に深い肉眼解剖学の研究があることを知り感銘を受けたことを思い出す。先生は,第一線臨床の傍ら,週末には母校・東京医科歯科大の解剖学教室で実際に死体解剖を長年行い,臨床放射線科医の立場から,肉眼解剖に基づいた新しい画像解剖所見を見出し発表されてこられたのである。その重みは計り知れない。

 血管解剖は画像診断の基本として極めて重要であることは論を俟たないが,多くの肉眼解剖書は主たる(太い)血管の解剖を記載するのみであり,また観察個体数にも限りがある。一方で,最新のCTや血管造影診断では造影剤を用いれば0.5~1 mm前後の脈管も同定が可能で,また多くの症例での解析が可能である。さらに種々の病的な状態では画像診断で初めて観察が可能であることも少なくない。こうした状況下で,その容易さも相俟って,画像診断での血管解剖解析が主流となり,肉眼解剖での研究はほとんどなされなくなりつつある。しかしながらここには重大な盲点がある。画像診断では血管周辺の実質臓器は描出されるものの,間質組織や血管が走行する靭帯や間膜,これらに随伴するリンパ管や神経などは認知が容易ではない。血管とその周辺環境の理解から初めて明らかになる病理・病態は多い。またその理解の上で手技を行うことは,外科手術やIVRには必須である。グレイスケールのデジタル画像で得られた血管像とともにその周辺の肉眼解剖を想起することは臨床医にとって必須であろう。しかしながら,画像診断の進歩が逆にこうしたアナログの重要性の理解を低下させている危惧がある。本書はこうした点で極めて重要でかつ画期的な意義を有するといえる。加えて,画像診断では,従来の肉眼解剖や外科手術では認知や解析が困難であった微細な血管が種々の病態で明らかになることがある。これらの解析には,専門的な意図を持って改めて肉眼解剖を観察することで,肉眼解剖の立場で新しい知見が得られることになる。例えば,肝外動脈からの側副血行路の肉眼解剖は近年まで明確に記載されていなかったが,画像診断からの知見を基に改めて肉眼解剖で観察すれば,靭帯や肝被膜を介する肝動脈終末枝と肝外動脈の吻合の存在やルートを容易に明確にすることができる(本書中p.37~43)。本書にはこうした点でも極めて有用な知見が多く記載されている。

 腹部疾患に関わる全ての医師,特に画像診断,IVRや外科手術にかかわる若い医師に座右の書として強く推薦するものである。
最新の画像診断情報と臨床にどう役立つかを見事に融合
書評者: 吉満 研吾 (福岡大主任教授・放射線医学)
 本書は衣袋健司先生が,腹部の血管についてご遺体の解剖所見と最新の画像診断所見を組み合せた膨大なデータをまとめられた単著である。忙しい臨床の間を縫ってこれだけの量の情報をすべてお一人で収集し,お一人でまとめられたことは信じがたいことであるが,それだけに本書の隅々にまで衣袋先生独特の緻密さやセンスが行き渡り,内容に凸凹のない,良質に均一な仕上がりとなっている。

 血管解剖,変異,吻合など肉眼解剖で証明して終わるのではなく,最新の画像診断情報と関連づけ,臨床に(特にわれわれ放射線科医に)どう役立つか,どういう症例にどう反映されるかが,見事に融合して表現されている。
 正直,内容的には多分にマニアックで万人受けするものではないと思う。しかしながら,腹部を専門としている放射線科診断/IVR医にとっての上級者向けバイブルとなる良書であることは間違いない。例えば,医学講義では腹壁,腹腔,後腹膜をコンパートメントとして個別に教える傾向にあるが,これらが間膜,もしくは癒着部の結合組織を介して極めて密に連続した血管のネットワークでつながっていることが,非常に大きなダイナミックレンジで語られ,提示されている。個人的にも本書を通して,改めて人体解剖の不思議や美しさに感じ入った次第である。
 特に,腹部の静脈系(門脈も含め)についての詳細なデータが記されていることは特筆に値する。動脈系の解剖については,従来の医学書にも良書が散見されるが,静脈系まで網羅したテキストは限られ,いまだ満足のいくものに巡り合ったことはない。本書はそのgapを埋める,極めて重要な役割を果たすと考えられる。

 私事で恐縮であるが,衣袋先生と私は同じ時期に米国MD Anderson癌センターに臨床フェローとして留学し,一緒に働かせていただいた。本書の序文にもあるように,そこでChusilp Charnsangavej教授らの教えを受け,そのangiographerとしての血管解剖に根ざした精緻なCT読影に感銘を受けた一人である。その後,私はその知識を自らの診療や教育に役立たせているだけであるが,衣袋先生は本書を完成させたことで,その教えをさらに大きく花咲かせ,世に出したと言える。共に学んだ同期のフェローとして大きな拍手で称えたいと思う。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。