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論文を正しく読むのはけっこう難しい
診療に活かせる解釈のキホンとピットフォール

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ランダム化比較試験には実に多くのバイアスや交絡因子が潜んでいる。“結果を出す”ために、それらはしばしば適切に処理されない、あるいは確信犯的に除去されない。一方で、臨床研究を行う際の規制は年々厳しさを増している。臨床研究の担い手として、実施する側のジレンマも熟知した著者が、それでもやっぱり見逃せない落とし穴を丁寧に解説。本書を読めば、研究結果を診療で上手に使いこなせるようになる!
植田 真一郎
発行 2018年03月判型:A5頁:240
ISBN 978-4-260-03587-3
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

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 診療の現場ではたくさんの疑問が生じますが,答えを出すのはそんなに簡単ではありません。だいたい世の中の何にしても“100%正しい”,とか“100%の正義”というのはあまりなくて,どちらかというとそういうことを振りかざす人は胡散臭いのですが,とりあえず目の前のことには対応しなければなりません。そこで多くの医療従事者は過去の研究成果から何か解決に向けたヒントを探そうとします。しかしそれが十分に信頼できて,かつ今の問題に使える結果なのかを考察することは容易ではありません。
 本書は「週刊医学界新聞」(医学書院発行)の連載「論文解釈のピットフォール」がもとになっています。当時とは日本の臨床試験を取り巻く状況も変わり,人を対象とする医学系研究に関する倫理指針の改訂,臨床研究法の施行など「被験者の保護」「データの正確さ」や「お金の流れの透明性」に関しては改善されつつあると思います。しかし,臨床研究の本質は,たとえそれが治験のような開発型,シーズに基づいた研究であっても臨床的疑問の解決にあります。どんなに立派に見える「新たな治療法」でも,それを適用するところを間違えたら大変ですね。疑問を研究仮説に落とし込み,信頼性(正確さとは異なります)のある結果を出すこと,結果から正しい結論を導くこと,そしてそれをなるべくなら一般化すること,最後に1人ひとりの患者に推奨できる解決方法かどうかを十分に吟味することなどが実現できて,ようやく1人の患者における疑問が解決に向かうと思います。これは法律や規制で云々できるものではなく,結局医療従事者や研究者が疑問にどのように対応するかが問われることになるのです。
 本書では,臨床研究のデザイン,結果の解釈などについてこれらの視点から解説を試みています。基本,寝転んで読めるように書いていますし,数式なども一切出てきません。斎戒沐浴して書いたわけではなく,何となく論文を読んでいて気がついたことを書き散らしてそれをまとめていただいた感じです。
 私が卒業した高校には「われらの信条」というものがあり,その一節に“幾千年にわたる,人類苦心の業績―この高貴なるものに寄せる愛情と尊敬,これを学びとるための勤勉と誠実,これを伝え,これに寄与するための忍耐と勇気とは,われら学徒の本分である”という言葉があります。ランダム化比較試験が開始され,今年で70年ですが,言うまでもなくそのずっと前から医療,医学はさまざまな試行錯誤を重ねてきたと言えます。最新の論文もこの先人の業績があってこそですし,それを正しく学び,常に疑問を持つことをやめず,思考停止せず,安易な解決に逃げないことが大切なのだと思います。話が大きくなりましたが,本書が「医療における疑問を考え続けること」に少しでも役に立てば嬉しいです。

 2018年3月
 植田真一郎

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第1章 導入
 1 臨床研究の論文を正しく読むことはけっこう難しい
  医学研究論文は正しいのか
  図の提示の仕方で結果の印象が変わる
  臨床研究論文の落とし穴に気づこう
 2 アブストラクトと図の斜め読みはあぶない
  誰が対象なのか,何で評価しているのか
  エビデンスの限界

第2章 RCTと観察研究
 3 RCTこそ信頼できるエビデンス?
  RCTの必要性
 4 観察研究も,RCTも,ある一部分を見ている
  RCTと観察研究の結果が異なるとき
  なぜRCTと観察研究の結果が異なるのか?
  観察研究とRCTの結果が異なる-UKPDSの例
  RCTの弱点
  臨床試験では安全でも……
 5 臨床試験の結果は簡単には患者に適用できない
  治療として確立するにはどのような研究が必要か?
  RCTと観察研究の位置づけ

第3章 臨床試験の結果を適用する
 6 臨床試験の患者は,あなたの外来の患者と同じ?
  HYVETの結果は一般化できるか?
  研究ごとに異なる患者背景
  患者選択除外基準も論文解釈における注目ポイント
 7 RCTも観察研究も,臨床における精密なナビゲーターではない
  臨床試験の規模は年々大きくなっている
  何が長期の臨床研究を妨げているのか
  短期間の試験で結果を得るには
  糖尿病薬を心血管イベントから評価する
  低~中リスク患者に適用できる明瞭な結果を得るのは困難
 8 「用法・用量」に注意しよう
  薬剤開発の過程で行われる数多くの臨床試験の意義
  薬剤の用法・用量はどこからきているのか

第4章 臨床試験のエンドポイントを読む
 9 「打率や防御率で得点を補正」していないか
  エンドポイントは大切なルールである
  「心血管イベント」の多様性と複合エンドポイント
  複合エンドポイントは客観性と重要性が異なる項目で構成されている
 10 エンドポイントの設定では検出力が重視される
  複合エンドポイントは重要なものでは差がつかない?
  腎臓病のアウトカムでも複合エンドポイントが多い
  薬剤の効果が一貫していない
 11 複合エンドポイントではより重篤なイベントが見逃されている?
  複合エンドポイントの落とし穴
  重要なイベントの総数を見るべき
  死亡原因は区別が難しい
 12 同じエンドポイントでも試験によって診断基準が異なる
  エンドポイントの客観性
  治療内容を知っていたらバイアスが発生するかもしれない
  二重盲検法なら大丈夫?
 13 客観性の低いエンドポイントで治療効果を過大評価する
  割り付けの隠匿で起こり得る問題
  不適切な割り付けの隠匿や二重盲検化が行われると……
  それでもPROBE法は必要なのか

第5章 二重盲検法とオープン試験
 14 二重盲検法にも弱点はある
  Efficacyを厳密に評価する
  比較的客観性の低いエンドポイントを治療法の二重盲検試験で評価する
  Effectiveness評価の必要性と用いられるデザイン
 15 治療方針を比較する研究を治験と同様に評価しても意味がない
  ストレプトマイシン研究におけるバイアスの除去
  適切なエンドポイントの評価法
  SPRINTにおける信頼性
 16 二重盲検化の方法の詳細は案外記載されていない
  プラセボ比較試験でも二重盲検が困難な薬剤がある
  二重盲検法の詳細は論文に明記する
  どのように比較すれば信頼性の高い結果を得られるのか
 17 上乗せ試験のメリット・デメリット
  上乗せ試験における落とし穴
  上乗せ試験をプラセボ対照比較試験で行う利点と欠点
  プラセボを用いた上乗せ試験でも問題が生じることがある
 18 非劣性試験は誰のために?
  糖尿病薬の治験の限界とロシグリタゾン問題
  非劣性試験のロジックと解釈
  非劣性試験の正当性
  結局誰のための臨床試験か

第6章 中間解析と早期終了
 19 中間解析の「劇的な効果」は過大評価となっていないか
  臨床試験を早期終了する理由
  早期終了の動機
  JUPITERにおける早期終了
 20 その有意差は「Random high」かもしれない
  Rimonabant臨床試験の早期終了
  CHARMはなぜ早期終了に至らなかったか
  Proof beyond a reasonable doubt
 21 イベント発生数が少ない早期終了試験は要注意
  早期終了試験の結果は過大評価されていないか?
  Random highはイベント数が200以下の試験で起きやすい
 22 早期終了を決定づけたのは一次エンドポイント?
  ASCOT-LLAとCARDSの早期終了
  二次エンドポイントで早期終了したASCOT-BPLA
  SPRINTにおける早期終了
 23 早期終了では長期の治療による影響,副作用が評価できない
  研究の過大評価は誰にどのような不利益をもたらすのか
  治療の安全性と有効性は慎重に,長期にわたり検討する
 24 有益性が過大に,危険性が過小に評価される
  EMPHASIS-HFの背景と概要
  イベントは十分に発生しているものの……
  観察期間への疑問
 25 Intention to treat(ITT)解析の持つ意味
  何を評価したいのか?
  ITT解析を用いる意味

第7章 サブグループ解析
 26 サブグループ解析は患者への結果の適用をより可能にするか
  サブグループ解析の目的は結果の一貫性の証明
  サブグループ解析の落とし穴
 27 サブグループ解析の結果はあくまで探索的なもの
  サブグループ解析は本来探索的なもの
  サブグループ解析のもう1つの存在意義

終章 論文における不適切な記述
 28 結果と結論は必ずしも一致していない-臨床研究論文におけるSPIN
  臨床試験におけるSPIN
  国内第III相試験におけるSPIN
  たとえ有効性は証明されても
  重要な結果は「付録」と別の論文に?

終わりに
索引

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「正しく論文を読む」ための数々のパールに溢れた一冊
書評者: 本村 和久 (沖縄県立中部病院総合内科)
 インターネットの普及で情報が溢れる世の中となって久しいが,「フェイクニュース」の声や文字が最近多いのも評者が感じるところである。何が正しい情報なのかを見極める眼力を得るのは「けっこう難しい」。自分自身の反省にもなるが,膨大な情報の海の中で自分にとってわかりやすくて,都合の良いように情報を切り貼りしがちである。一次論文の結果の要約がまるでニュースのようにインターネットやメールで配信されているが,そのような時代であるからこそ,「正しく論文を読む」のは医療者にとって必須の技術であると思う。

 本書をひもとけば,私のような粗忽者が陥りやすい一見信用してしまいそうなトラップが何かたちどころに理解できる。導入には「アブストラクトと図の斜め読みはあぶない」の章がある。これは私がいつもやってしまっていることではないか! 「臨床試験のエンドポイントを読む」では「『打率や防御率で得点を補正』していないか」とある。なるほど,「心血管イベント」とか一見わかりやすそうなエンドポイントが実は「打率や防御率」みたいに複合されたエンドポイントになっていないか,注意が必要なのか! など数々のパールに溢れている。

 私が論文を読むときに読み落としていた項目を挙げればいくら文字数があっても足りないが,特に意識していなかったのが,「『用法・用量』に注意しよう」である。1日1回なのか2回なのか,10 mgなのか20 mgなのか,用量設定試験が当然あって「用法・用量」が決められているが,それが当たり前に決まっているように今まで文献を見ていたと目を開かされた。

 評者が勤務する沖縄県立中部病院は研修医のみならず私のような指導医も,臨床研究に関する植田真一郎先生のご指導を直接受けることができる恵まれた環境にあるが,積極的に情報発信,教育をされている植田先生のおかげで「難しい」ことがわかりやすく本書で理解できるのはありがたいことと思う。序文にある「正しく学び,常に疑問を持つことをやめず,思考停止せず,安易な解決に逃げないこと」を肝に銘じて日頃の臨床,教育,研究にかかわっていきたいと強く思わせる名著である。

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