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PT・OTのための
これで安心 コミュニケーション実践ガイド

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PT・OTの学生や若手、さらに教員に向けたコミュニケーション力を高めるための書。本書では、対人コミュニケーション力を高める具体的な方策を示すだけでなく、読者自身が自己肯定感を高め、自他共に肯定的に尊重できる自律した医療職者となることを目指している。構成は「学内編」と「臨床編」とに分けられ、それぞれにおいて身に付けておくべき基本的なコミュニケーション技術を、実際の場面に即しながら分かりやすく解説している。
山口 美和
発行 2012年10月判型:B5頁:232
ISBN 978-4-260-01569-1
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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はじめに(山口美和)/推薦のことば(沖田一彦)

はじめに
 “自分は本当にPT/OTになれるのだろうか?”
 “実は自分はこの職業に向いていないのではないか?”

 誰でもこんな問いを自分自身に投げかけることが一度くらいはあるものです。それは養成教育を受けている学生時代であっても,国家試験に合格して仕事をし始めてからであってもです。そしてこの問いの答えを出すのは誰でもない,自分自身であることを,私達は知っています。職業への自分の適性に関する問題は多くの人にとって永遠のテーマであり,これとどう付き合うかで自分の職業人生は大きく違ったものになります。選んだ仕事を何の苦労もなく天職としてまっとうできる人は稀であり,どのような仕事に就くにせよ,それぞれの分野の知識・技術を努力して学び,身につけることに加え,その職業に期待される人間になるよう自分を育てていく必要があります。
 本書の内容はPT/OTのコミュニケーション力についてであり,自己成長を最大のテーマとしています。医療職としてのコミュニケーション力は,多様化する患者さんのニーズに応えるために不可欠なものであり,基本的臨床技能といえるものです。そして同時に,このコミュニケーション力を自律性を持って発揮できる自己が備わっていなければ,持っている力は十分に活かされません。こうした課題に必要なのは,自己を肯定し自ら進んで取り組む力を涵養する教育であり,実際に役立つコミュニケーション力を具体的に身につけていくことである,と私は考えています。そのために本書では,第I部の学内編に「医療者になるための準備:自分作り」として,自分を理解し成長課題に取り組む内容を,そして第II部の臨床編に「どんな相手でもOKのプロを目指そう」として,社会人のマナーをはじめ,臨床現場で役立つコミュニケーションスキルについてまとめました。これらは,私自身が理学療法士・作業療法士養成校の教員生活の中で日々感じていた,教育上の課題と学生さん達からの要望,そして学内で実施した「コミュニケーションスキル演習」などの授業内容が基礎になっています。
 学生さんの個人学習教材として,また学内のコミュニケーション教育の場で,あるいは臨床の現場において本書を活用していただき,お役に立つことができれば幸いです。
 読者の皆さんのお一人お一人が,自己を肯定しながら職業人生を主体的に生きること,そしてコミュニケーション力を発揮しながら専門職としての知識や技術を活かし,心身ともに健康で自律した医療者として活躍されることを心から願っています。

 2012年9月
 山口美和


推薦のことば
 こんな書籍を待っていた

 このたび,山口美和氏による著書である『PT・OTのための これで安心 コミュニケーション実践ガイド』が出版された。一読して,本書には大きな価値が3つあると感じた。1つ目は,理学療法や作業療法の領域にこれまで,コミュニケーションに特化した書物がほとんどなかったことだ。医療におけるコミュニケーションが社会情勢の変化によって大きな問題となっているのは周知のとおりである。医学教育や看護教育では早い段階からこの問題が取り上げられ,医療面接や客観的臨床試験(OSCE)など,教育現場でのさまざまな対策が講じられているし,それらに関するテキストも豊富にある。しかし,理学療法士(PT)や作業療法士(OT)向けの教科書では,評価の項目の一部として,ほんのわずかな分量しか割かれていない。私も医療面接に関する授業を担当しているが,医師向けに書かれた書籍をテキストにしているのが現状である。
 しかし,それらのテキストでは質問のしかたや共感の示しかたなど,いわゆる「コミュニケーションスキル」についての記載が中心になっていることが多い。本書の2つ目の価値は,医療におけるコミュニケーションの問題が,単にそのスキルの向上で解決するものではないことを強く意識して構成・執筆されている点にある。最近,指導的立場にあるPTやOTから,実習生や新人が患者から担当を拒否されることが多くなり,その対応に苦慮しているという話を聞く。この問題の根は深い。それはコミュニケーションが人と人との関係性を築くためのツールだからである。本書ではこのことが前半から強調されている。とくに第I編に書かれている内容は,上記の根深い問題を解決するための大きなヒントとなるはずだ。
 3つ目の価値は,本書が単に「医療コミュニケーション論」の体裁を取っていない点にある。コミュニケーションに関するさまざまな理論を解説することは,勉強さえしていればいくらでもできる。しかし著者は,それらを医療現場での実践の問題に的確に翻訳し,さまざまな工夫をほどこすことで,読み手の成長を促すものに仕上げている。だから,学生や新人だけでなく,成長を促す立場にあるPT・OTにも読んでほしい。
 最後に,余談になるが,著者は私が理学療法士養成校の教員になって間もない頃の教え子である。医療コミュニケーションに関するこのような新しい形の書籍を世に出してくれた著者に,「こんな書籍を待っていた」というエールを送りたい。本書を,コミュニケーションの問題に関心があるすべてのPT・OTおよびその学生に推薦する。

 2012年9月
 県立広島大学保健福祉学部理学療法学科・教授
 沖田一彦

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はじめに
推薦の序
本書の概要と使いかた

第I編 学内編 医療者になるための準備-自分づくり
第1章 PT/OTを目指すあなたへ
 1 PT/OT養成教育は異文化教育
  1-1.PT/OT養成教育の現実
  1-2.リアリティ・ショック
  1-3.PT/OT教育は異文化世界
 2 対人援助職としてのPT/OT
  2-1.対人援助職
  2-2.バーンアウト
  2-3.感情労働
 3 PT/OT学生に必要なコミュニケーション力
  3-1.コミュニケーションって何だろう?
  3-2.“コミュニケーション能力”ってどんな能力?
  3-3.PT/OT学生が臨床実習で必要とされるコミュニケーション能力
 4 心身ともに健康な医療従事者になるには
  4-1.自分を大切にしよう
  4-2.自己管理能力を身につけよう
  4-3.自律した人間になろう
  4-4.メタ認知能力を身につけよう
第2章 自分を理解しよう
 1 自分を知る
  1-1.自己概念
  1-2.自己肯定感
 2 自分の性格と傾向
  2-1.性格
  2-2.性格を知る利点
  2-3.性格診断
  2-4.自己存在についての意
 3 自分の態度
  3-1.態度
  3-2.人生態度
  3-3.ポーターの態度類型
  3-4.PTS(理学療法学生)/OTS(作業療法学生)に求められる態度
第3章 コミュニケーション力を育もう
 1 みる力
  1-1.みる
  1-2.観察する目を養おう!
  1-3.何を観察するのか
  1-4.観察した内容をどうやって臨床現場で活用するか
  1-5.臨床現場における観察の際の注意点
 2 きく力
  2-1.きく
  2-2.傾聴
  2-3.自分の聴きかた
  2-4.よい聴き手になるために
  2-5.言葉以外の情報をいかに聴くか
  2-6.相づち(あいづち)
  2-7.頷き(うなずき)
 3 伝える力
  3-1.伝えるということ
  3-2.伝えるための3つのステップ
  3-3.自分の「伝える力」を知ろう
  3-4.「伝わる」ための確認ポイント
  3-5.相手を傷つけない伝えかた
  3-6.「伝えかた」の極意
第4章 自律した自分になろう
 1 自己管理
  1-1.人生管理は時間管理!?
  1-2.スケジュール管理
  1-3.健康管理
 2 自己実現
  2-1.自己実現
  2-2.ビジョンを描く
  2-3.目的と目標の違い
  2-4.目的と目標をもつ
 3 自分の使命
  3-1.ミッション・ステートメント(mission statement)
  3-2.自分のミッション・ステートメントを作成する
  3-3.行動指針と行動目標を決める
  3-4.アファーメーション
  3-5.アファーメーションを習慣にする
 4 就職活動
  4-1.仕事をするということ
  4-2.社会人基礎力
  4-3.キャリア
  4-4.就職活動
  4-5.就職活動において大切な事柄

第II編 臨床編 どんな相手でもOKのプロを目指そう
第5章 社会人のマナーとしてのコミュニケーション
 1 挨拶は自分から
  1-1.挨拶は自分からする
  1-2.挨拶には心が表れる
  1-3.挨拶の基本=言葉+表情(笑顔)+お辞儀
  1-4.臨床現場での挨拶と声かけ
 2 相手の領域に入るということ
  2-1.教員室を訪問する
  2-2.研究室を訪問する
  2-3.臨床実習施設で他部門を訪問する
  2-4.病室を訪問する
  2-5.患者さんの自宅を訪問する
  2-6.エレベーターに乗る
 3 実習先への電話のかけかた
  3-1.電話をかける際のチェックポイント
 4 スタッフルームで電話に出る
  4-1.電話応対のマナー
 5 実習先へのお礼状の書きかた
  5-1.実習先に手紙を書くタイミング
  5-2.気をつけたいこと
  5-3.宛名の書きかた
  5-4.本文の書きかた
  5-5.文例集
 6 電子メールのマナー
  6-1.ネチケット(メールのマナーの基本)
  6-2.メールの基本構成
  6-3.メール文書でよく使われるフレーズ
第6章 臨床で役立つコミュニケーションスキル
 1 コミュニケションスキルを学ぶ前に
  1-1.基本的臨床技能としてのコミュニケーションスキル
  1-2.コミュニケーションスキルの前提になるもの
  1-3.コミュニケーションスキルを活用するうえでの注意点
 2 医療面接での対話のしかた
  2-1.医療面接
  2-2.医療面接における基本的知識
  2-3.医療面接の準備
  2-4.医療面接の実際
  2-5.注意したいこと
 3 相手との関係を築く方法
  3-1.ラポール
  3-2.観察のためのスキル
  3-3.対話のためのスキル
 4 質問のしかた
  4-1.情報収集のために必要な質問
  4-2.質問形式
  4-3.質問をする際の注意点
 5 相手を会話にのせる方法
  5-1.会話
  5-2.会話が弾まないときのアプローチ法
 6 話題の提供のしかた
  6-1.話題
  6-2.話題が目指すもの
  6-3.話題がもたらす影響
  6-4.TPOに合わせた話題の重要性
  6-5.話題提供におけるポイント
  6-6.話題を提供する方法
 7 相手から話を引き出す方法(聴く技術)
  7-1.“本当は話したい”
  7-2.話を引き出す技術
 8 話を上手に切り上げる方法
  8-1.なかなか治療にならない場合
  8-2.次の患者さんの治療時間になってしまった場合
 9 答えにくい質問に応じる方法
  9-1.質問には質問で返す
  9-2.話をずらす(そらす)
  9-3.答えられないことについてははっきりと伝える
 10 否定的な話に対応する方法
  10-1.リハビリ拒否の背後にあるもの
  10-2.リフレーミング
 11 認知症の方とのコミュニケーションの方法
  11-1.認知症の患者さんへの対応
  11-2.バリデーション
  11-3.家族への対応のしかた
 12 患者さんの家族とのコミュニケーション
  12-1.学生として家族に接するということ
  12-2.家族との関わりの重要性
  12-3.家族の関係性への配慮
  12-4.家族の本音に対応する
  12-5.家族支援のためのヒントとなる考えかた
 13 スーパーバイザーとのコミュニケーション

引用文献・参考文献
付録(ワークシート(1)~(8)・資料)
謝辞
索引

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大人のプロフェッショナルになるために
書評者: 吉井 智晴 (東京医療学院大准教授・理学療法学)
 コミュニケーションスキルに関する成書は近年増えている。それだけ問題意識を持つ人が増えていることの表れだろう。即効性を求めるあまりマニュアル本に飛びつくと,一瞬,簡単に自分でもできそうだと錯覚してしまうが,現実はそんなに甘くないのである。

 「学んだはずなのに……教えたはずなのに……できない」,このような状況が蔓延している。そして次に手にするのが,だいたい社会学系や心理学系の本。これは奥が深く読み物としては面白いが,ではいったい何をすればよいかを読み取ることが一朝一夕には難しい。

 そんな迷い多き人に福音を与えてくれるのがこの本である。コミュニケーション能力は医療職にとって基本的臨床技能の一つである。しかし,その前に“人として”の部分がとても大事である。コミュニケーションとは何か。「言葉のやりとり」「気持ち(感情)のやりとり」のどちらも正しいが,「相互作用(interaction)」が重要なキーワードである。コミュニケーションの場は,お互いの影響を受けながらつくられていくのである。したがって,人として自己を肯定し,自分の成長を信じ,主体的に生きることができる「大人」でなければならない。今はそうでなくても「そうなりたい」と思うことがすべての始まりである。本書には「自律性を持った自己を目指そう」という著者のメッセージが底流にあり,その上に具体的な内容が書かれているので,マニュアル本とは隔世の感,安心感がある。付け焼刃のコミュニケーションスキルでは,患者さんに真摯に向き合うことができない。「大人のプロフェッショナル」を目指そう,そう思える人にぴったりの本である。

 本書では,臨床場面での例示が大変具体的に描かれているので,学生にとってはこれからの臨床実習場面を想像する有益な手がかりになると思う。現在の理学療法士,作業療法士の教育課程では,臨床実習が減少傾向にあり,臨床現場で多くの経験を積むことがとても難しい。そこで本書にあるような「場面を読み,自分なりに考えておくこと」は経験不足を補う一助となる。そして,本書でさらに良いのは「なぜ,そうしなければならないのか」の理由が丁寧に書かれている点である。人は,納得しないと真の理解は得られないし,知識も技術も定着しない。本書はじっくり考えて読み進められる構成になっている。

 最後に,書名に「これで安心」とある。いったい誰が安心するのか。まずは,コミュニケーションを学ぼうとしている学生,新人理学療法士,作業療法士のみなさん,それに何より,コミュニケーションを教えようとしている教員や臨床指導者ではないだろうか。

 本書は,今まで教えたくてもどのように教えればよいのかよくわからなかった方々に有益な本となるであろう。そして,本当に安心してもらわなくてはいけないのは患者さん,利用者さんである。ぜひ,安心を提供できる大人のプロフェッショナルが増えることを切望するし,自分もそうなりたいと思わされる1冊である。
時代が求めているテキスト
書評者: 中山 孝 (東京工科大教授・理学療法学/学科長)
 「見事なコミュニケーション・テキストを書いてくれて,本当にありがとう」と,著者の山口美和氏に素直に伝えたい。私は著者と同じ専門学校に勤務していた時代,共に学生教育に悪戦苦闘した同僚教員として,著者がこの素晴らしい本を世に送り出したことへの称賛を惜しまない。

 本書は「コミュニケーション臨床応用学」と呼べるほど,首尾一貫した理念と体系に基づいて記述されている。理学療法・作業療法領域では,往々にして用語の定義があいまいな書籍が多いが,本書は登場する用語をまず明確に定義し,次に論点を展開して解説しているため,読者にとって非常に理解しやすく,著者のメッセージがダイレクトに伝わってくる。普段の何気ない会話の背景に存在する確固たる「コミュニケーション理論」が根底にあることを読者に気付かせてくれる。このような観点から眺めると,本書は科学的理論に裏打ちされた実践書といえる。

 一方で,本書には入学した学生が成長と共に遭遇すると予測されるコミュニケーション場面や具体例がふんだんに盛り込まれているため,臨場感にあふれ,読み進むにつれ読者を釘付けにする豊富な展開には目を見張るものがある。本書はいわゆる“How to本”とは異なり,コミュニケーションがTPO(時,場所,状況)によりダイナミックに変化し得ることを強調しながら,解決すべきは当事者にあることを論理的に説いている。そして著者は,コミュニケーションは「理論を並べ立て,その筋書き通りに事を運べばすべてめでたしである」という単純な解決法を提示するのではなく,実践・経験を通して自ら学ぶことが重要であると訴えている。さらに著者は,自分だけで解決できないときには援助を求めることが決して間違いではなく,“自己肯定感”を高めるために必要なことであるとも述べている。本書に貫かれている著者の「学生への応援メッセージ」を随所で読み取ることができる。

 テキストとしての構成も魅力的である。“節”ごとに要約を設けて強調したいエッセンスをリフレインしていること,ポイントがチェック式になっていること,“Work”という名の読者が与えられた課題を実際に解いていくことなど,本書には学習者の技能が定着することを意識した知恵と工夫が施されているのも特筆すべき点である。さらに本書では,コミュニケーションの場に応じた優先順位が明確に示され,わかりやすくまとめられている。長い年月にわたり臨床指導者として,また教育者として,つぶさに学生の成長を支援してきた著者の力量がここに結実した。

 本書には,著者の「コミュニケーション」に対する幅広い知識と,これまでに携わってきた臨床・教育・研究場面での生きた経験を基にした深い洞察が凝縮されている。そして,学生への愛情,あらゆる人に対する温かいまなざしと博愛の精神に満ちた著者の人間性に触れることができる。正しい日本語の語法と場に応じた言葉遣いの達人が,コミュニケーションの重要性を伝えるために満を持して本書を世に送り出した。学生はもとより,複雑な人間関係,個別性の高い臨床現場の中で働く理学療法士・作業療法士のみならず,あらゆる関係者にぜひ一読していただきたい珠玉の1冊である。

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