かかりつけ医のための
精神症状対応ハンドブック

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一般外来や在宅医療の現場で遭遇する高齢者の精神疾患や慢性精神疾患患者の治療や対応方法についてまとめたもの。精神症状の基本知識はもちろん、かかりつけ医が遭遇する機会の多い認知症やうつ病、せん妄などの疾患を100以上の症例をもとにわかりやすく解説。かかりつけ医にも精神疾患への対応が求められる現在、ぜひ手元に置いておきたい1冊。
本田 明
発行 2011年04月判型:A5頁:248
ISBN 978-4-260-01228-7
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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はじめに

 医師になって初めて訪問診療に従事したのが卒後5年目の時であった.統合失調症の引きこもりなど純粋な精神科の在宅医療ではなく,全身を診るかかりつけ医として精神症状を診ていたので,老年期の精神疾患が多かった(本書もかかりつけ医が多く遭遇する,老年期の精神症状に多くのページを割いている).当時はそのような形で精神科医が心も身体も診ながら,かかりつけ医として訪問診療に参加していたのは都心でも珍しかったので重宝され,筆者自身も様々なケースを扱うことで大変勉強になった.
 その後,しばらくかかりつけ医という立場から離れて総合病院で精神疾患患者の身体合併症に対する医療を専門に行っていたが,精神疾患患者の高齢化に伴う身体疾患の増加,そして治療後の後方医療機関の受け入れ困難が問題となっていた.つまり精神疾患と身体疾患の両方を持つと,精神科医は「身体疾患があるから診られない」と言い,精神科医以外の医師は「精神疾患があるから診られない」と言うため,患者の行き先がなかなか見つからないのである.精神疾患を持つと十分な医療を享受できない厳しい現実に遭遇することがあるのである.
 話をかかりつけ医に戻すと,専門に特化せずプライマリケアを実践する医師は全人的医療を志向する者が多いため,比較的精神疾患患者の受け入れが良い.ただ,それらの医師でも精神科のトレーニングを十分に受けたことがある者はまだ少数であり,日々悩みながら精神症状と格闘しているのが現状である.筆者は現在かかりつけ医として診療に従事しているが,精神科の専門家でない同僚の医師,看護師は実に多くの精神疾患の治療を受け入れかつ自身の対応能力を高める努力を行っている.そのような同僚の姿を見ると,一層の一般医療における精神科教育の必要性を実感するのである.
 認知症への啓発が広まったことにより,認知症に対するかかりつけ医のための実践書は多数存在するものの,精神症状全般にわたって解説した書籍がなかったことから,今回本書を上梓することとなった.認知症やうつ病の社会的啓発活動や厚生労働省の精神障害者退院促進支援事業により,今後もかかりつけ医が受け持つ精神疾患患者数は増加することが予想されることから,本書が一般外来や訪問診療を行う医師の役に少しでも立つことができたら幸いである.
 なお,本書ではプライマリケア,一般内科,かかりつけ医の医療などの用語が混在して出てくるが,厳密に定義はしておらずだいたい同義語として扱っている.また「うつ病」の用語はDSM-IV-TRの「大うつ病性障害」を,「躁うつ病」は同じくDSM-IV-TRの「双極性障害」のことを指している.

 2011年3月
 本田 明

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総論 かかりつけ医が身につける精神科の基本的素養
1 かかりつけ医が遭遇する精神科医療の特徴
 1 かかりつけ医が扱う精神症状の範囲
 2 寝たきりの患者に対する精神症状の治療
 3 家族病理へのアプローチがしやすい
 4 精神症状に関する複数の情報提供者
 5 家族・介護職への教育の必要性
 6 かかりつけ医による医療の最終目標
2 問診のコツと様々な精神症状
 1 問診のコツ
 2 様々な精神症状
3 かかりつけ医が行う基本的な精神療法
 1 精神療法を行うにあたって
 2 話の聞き方
 3 支持的精神療法とは
 4 精神療法で気をつけること
 5 転移と逆転移はどうすればよいのか
4 かかりつけ医が行う基本的な精神科薬物療法
 1 一般内科外来・在宅医療での薬物療法の考え方
 2 精神科における薬物の分類
 3 抗精神病薬
 4 抗うつ薬
 5 抗不安薬
 6 睡眠薬
 7 抗認知症薬
 8 気分安定薬
 9 向精神薬の副作用
5 精神科医との連携
 1 精神科医への紹介のタイミングが遅れる要因
 2 精神科への紹介の際に気をつけること
 3 どこの精神科に紹介するか
 4 精神科医にできないこと
 5 その他の精神科医の利用法
6 かかりつけ医が利用する社会的資源
 1 介護保険
 2 成年後見制度
 3 障害年金(精神障害)
7 家族のメンタルケア
 1 家族を不安,うつ状態にさせる原因
 2 家族を不安,うつ状態にさせないために
 3 家族がうつ病になってしまったら
8 医療者自身のメンタルケア
 1 話す
 2 自身の問題に気づく
 3 自分でうつ病を疑う時
9 対応に苦慮するケース
 1 患者からの頻回の電話
 2 患者の妄想の対象になった
 3 患者が暴力をふるう
 4 患者・家族の過大な要求
 5 担当者(医師,ケアマネジャー,ヘルパー)を替えたいとの希望
 6 贈り物の多い家族
 7 患者が薬を飲まない

各論 かかりつけ医が遭遇する各疾患
1 認知症
 1 認知症とは
 2 認知症の症状
 3 認知症と間違えやすい症状・疾患
 4 認知症への対応
 5 アルツハイマー型認知症
 6 脳血管性認知症
 7 レビー小体型認知症
 8 前頭側頭型認知症
2 うつ病(大うつ病性障害)
 1 うつ病とは
 2 うつ病と間違えやすい症状・疾患
 3 対応と治療
3 せん妄
 1 せん妄とは
 2 身体疾患の治療を優先すべき注意を要するせん妄
 3 せん妄と間違えやすい症状・疾患
 4 対応と治療
4 身体表現性障害
 1 身体表現性障害とは
 2 身体表現性障害と間違えやすい症状・疾患
 3 対応と治療
5 睡眠障害
 1 睡眠障害とは
 2 精神疾患に伴う睡眠障害
 3 対応と治療
6 全般性不安障害
 1 全般性不安障害とは
 2 全般性不安障害と間違えやすい症状・疾患
 3 対応と治療
7 妄想性障害
 1 妄想性障害とは
 2 妄想性障害と間違えやすい症状・疾患
 3 対応と治療
8 パニック障害
 1 パニック障害とは
 2 パニック障害と間違えやすい症状・疾患
 3 対応と治療
9 躁うつ病(双極性障害)
 1 躁うつ病とは
 2 躁うつ病と間違えやすい症状・疾患
 3 対応と治療
10 統合失調症
 1 統合失調症とは
 2 統合失調症と間違えやすい症状・疾患
 3 対応と治療
11 アルコール依存症
 1 アルコール依存症とは
 2 対応と治療
12 パーソナリティ障害
 1 パーソナリティ障害とは
 2 パーソナリティ障害の特徴

付録
 1.精神科で主に使用する薬剤一覧
 2.主な薬物相互作用一覧
 3.知的機能検査(HDS-R,MMSE)

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プライマリ・ケア現場の必然から生まれた書籍
書評者: 和田 忠志 (あおぞら診療所高知潮江院長)
 今日のわが国では,精神症状と身体症状の双方を有する患者さんの行き場がなかなか見付からないという現実がある。この現実に苦慮する臨床家は多いであろう。このことに心を痛める著者は,プライマリ・ケアを実践する医師が精神症状を有する患者さんと果敢に対決する現実を見て,「一層の一般医療における精神科教育の必要性を実感」したという。この動機から生まれた本書は,プライマリ・ケア現場の必然から出た本であるといえよう。

 本書は,精神科の書らしからぬ精神科の書である。著者は書名に精神科という言葉をあえて使わず,「精神症状対応」という言葉を使用した。しかし,本書は,「症状対応」のみならず,より深い内容を取り扱っており,精神科領域の実用的な基礎的知識や方法を学ぶのにも適した書である。とりわけ,著者の幅広い臨床経験から,さまざまな臨床の知恵を学ぶことができる。

 著者は精神科と救急医学の専門医でありながら,幅広い身体疾患を対象とする在宅医療にも豊富な経験を有する。著者はプライマリ・ケアの深い造詣を持ち,精神科以外の多くの医師が遭遇する精神症状や,精神疾患に対する対応を簡潔にまとめている。

 本書の優れた点は,精神科領域に対する基礎的知識がほとんどなくても円滑に読める点である。身体疾患に起因する精神症状や,薬物を使用した場合の身体的な副作用などにも配慮がちりばめられており,かかりつけ医が使用しやすい内容になっている。家族対応の要諦や,介護保険に携わるスタッフに対する留意点も記載されている。また,各項目には,使用すべき薬物の解説が随所に書かれており,すぐに使える知識が得られる。

 また,介護保険の主治医意見書,障害年金の診断書,成年後見制度の鑑定書などの書き方や,認知症の鑑別診断別対応など,プライマリ・ケア現場で多くの医師が経験する事柄をうまく記載している。アルコール依存症やパーソナリティ障害など,一般医療現場の臨床家の頭を悩ます問題もしっかり言及されている。さらには,医療者自身のメンタルケアにも言及しているところは圧巻である。

 ハンドブックというとおり,本書は項目ごとに独立した構成をとっており,どこから読んでも学べるようになっている。読者は,その都度,自分が出会った患者さんの症状に合わせてその対応を学ぶことができる。本書では冒頭の目次の後に提示症例一覧が挙げられており,読者が悩むときの事例対応に便宜を図っている。巻末には,向精神薬の一覧,知的機能検査(HDS-R,MMSE)が挙げられており,これも便利である。

 おそらく,著者は比較的若い世代で,プライマリ・ケアや在宅医療を志す医師を読者対象としたと思われるが,経験を積んだ医師が読んでも著者の経験に照らして多くを学ぶことができる。もちろん,プライマリ・ケア現場で臨床に携わる若い医師にとっては,よい入門書になるであろう。
精神疾患全般の診断と対応,薬物治療を網羅
書評者: 松村 真司 (松村医院院長)
 うつ病を代表とする精神疾患患者は,専門医の前にかかりつけ医を受診し,そしてその多くが適切に対処されていないという事実はこれまで何度も指摘されている。また,超高齢社会を迎えたわが国では,認知症を持つ患者への対応は,今や専門にかかわらずほとんどすべての医師が獲得すべき診療能力となった。認知症を持つ高齢者には慢性疾患が併存していることが多く,認知症への対応がなくては身体疾患の管理も困難になるからである。

 しかし,適切な初期対応をしつつ必要時に専門医へ紹介することは,専門医が考えるほどたやすいことではない。多くの疾患や症候の初期段階に対応することの多い私のような地域の医師の場合は特にそうである。さまざまな健康上の問題に対応する中で,精神症状に対応し,かつ患者の周囲にいる家族に対応していくことはとても難しいことである。多くの医師はそのような状況の中,手探りで精一杯対応しているのが現状であろう。一方で,精神科専門医にしてみれば,もう少しかかりつけ医がきちんと対応してくれれば,と思うことが頻繁にあることも想像に難くない。

 本書は,そんな初期対応を担うかかりつけ医の立場と,紹介を受ける精神科専門医の双方の立場を理解する本田明先生の手による本である。認知症やうつ病だけではなく,精神疾患全般について診断から基本的対応,薬物治療に至るまでを網羅した,コンパクトなハンドブックである。まず,かかりつけ医が身につけるべき精神科の基本的素養から始まり,精神科医との連携の上での注意点や,医療者自身のメンタルケアについてまで,精神症状を来す患者の診療にあたる上で陥りやすい問題点を取り上げると同時に,認知症・大うつ病・せん妄からパーソナリティ障害に至るまで,よく出会う精神疾患について解説している。本書の最大の特徴は,私たち家庭医・かかりつけ医が診療にあたる上でどのようなアプローチが適切か,という解説が,豊富な症例を通じてなされている点である。本書では,200ページ程度の中に,116もの症例が呈示されている。それらの多くは,外来や訪問診療,あるいはデイサービスなどの高齢者施設などにおける症例である。これらの患者にどのように対応するか,その方法が解説とともに簡潔にまとまっている。さらに,対応に苦慮する場面についての解説もあり,本書を読むことで,基本的な対応法についての知識が得られると同時に,どのような問題が解決しにくい問題なのか,そしてどう専門医に委ねるべきかが理解できるようになっている。

 著者自身が述べているように,今後もかかりつけ医が担当する精神疾患患者の数はさらに増加することが予想され,さらなる連携が鍵になる。著者のような,かかりつけ医・精神科医の双方の視点をもつ医師の手による解説書が多く世に出ることを今後も期待したい。

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