生涯人間発達論 第2版
人間への深い理解と愛情を育むために

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情報通信技術の進化と国際化、加速する少子高齢化。近年、「乳児虐待」「ニート」「社会的引きこもり」「熟年離婚」「高齢者の犯罪」など、人間の成長発達や生き方に関連した数々の見過ごせない問題があらわれてきている。これらの問題を「発達における現代的課題」として加筆した第2版は、医療介護福祉のみならず教育の現場で人間理解を深めるために、また子育てや自らの人生のふり返りのガイドとしても必読の1冊である。
服部 祥子
発行 2010年09月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-01170-9
定価 2,090円 (本体1,900円+税)
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第2版によせて

 人間の発達について考えることは,私にとってつねに刺激的である。どんな年齢の人であっても,発達のチャンスはあると思えるからである。
 もし人間の発達を量的により増大し,質的により高く優れていくプロセスととらえるなら,ある一定の年齢でそれは頂点に達し,あとは衰退という下り坂のみで,発達という視点はなくなる。
 しかし発達は本来的に変化の過程のことである。身体的,知的,情緒的,社会的等,人間のもつ諸相が互いに機能的に関連し合い,プラス面もマイナス面も包含しつつ全体としてダイナミックに変化をしていく過程である。それは年齢を重ねる中で,今までの自分の上に新たな自分を立ち上がらせていく深みと味わいのある道程でもある。
 そうした発達の理念を中核に置き,ライフ・サイクルにそって一生涯という長さの中で,人間がいかに発達をするのかを論じるために2000年3月,私は本書(初版)を上梓した。
 以来10年。この間に日本でも世界でもさまざまなできごとや現象が起こり,その影響が社会にそして個々人にも及んでいる。
 生涯人間発達論は,E. H. エリクソンの学説を源流として精神社会的な発達論を展開するものである。そうであるからには社会の変化に無関心ではおられない。学説の骨格そのものはゆるぎないが,各発達段階で社会の変化により新たに突出してきた課題があることを鑑〈かんが〉み,それを学問的に考察することは,きわめて時宜にかなっていると考えた。
 そこで第2版においては,基本の枠組みは初版と同じだが,序章で「21世紀初頭10年目の節目に」の総括を加筆している。またライフ・サイクルにそった各章においても,各期の発達における現代的課題として具体的なテーマをあげ,データを用いながら解析・検討を加えている。
 本書(初版)は多くの読者に支えられ,励まされて元気に歩き,今回の改訂を迎えることができた。寄せられた貴重なご意見,ご感想に心からの謝意を表したい。また医学書院の今に至るまでのあらゆるバックアップ,編集担当の伊藤直子さんの温かい励ましに深く感謝する。
 新たな出発をする第2版が,元気よく歩いて行くことを心より願ってやまない。

  2010年9月
  服部祥子

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 第2版に寄せて
 はじめに

序 生涯人間発達論序説
 1.生涯人間発達論とは
 2.発達の定義
 3.人間発達に関する諸理論
 4.生涯人間発達論の基本的視点
 5.「生涯人間発達論」の新しい課題[21世紀初頭10年目の節目に]
01 乳児期(0~1歳)
 1.乳児期の発達危機
 2.乳児期の人格的活力
 3.乳児期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.乳児期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.乳児期の発達における現代的課題[母性的養育の危うさ]
02 幼児前期(1~3歳)
 1.幼児前期の発達危機
 2.幼児前期の人格的活力
 3.幼児前期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.幼児前期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.幼児前期の発達における現代的課題[生活習慣(しつけ)の変化]
03 幼児後期(3~6歳)
 1.幼児後期の発達危機
 2.幼児後期の人格的活力
 3.幼児後期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.幼児後期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.幼児後期の発達における現代的課題[幼児らしい生活の喪失]
04 学童期(6~12歳)
 1.学童期の発達危機
 2.学童期の人格的活力
 3.学童期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.学童期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.学童期の発達における現代的課題[学びの困難さ]
05 思春期(12~18歳)
 1.思春期の発達危機
 2.思春期の人格的活力
 3.思春期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.思春期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.思春期の発達における現代的課題[人間関係の変質]
06 青年期(18~22歳)
 1.青年期の発達危機
 2.青年期の人格的活力
 3.青年期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.青年期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.青年期の発達における現代的課題[社会参加の遅延]
07 成人前期(22~30歳)
 1.成人前期の発達危機
 2.成人前期の人格的活力
 3.成人前期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.成人前期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.成人前期の発達における現代的課題[終わらない青年期]
08 成人中期(30~50歳)
 1.成人中期の発達危機
 2.成人中期の人格的活力
 3.成人中期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.成人中期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.成人中期の発達における現代的課題[少子化とそれの及ぼす影響]
09 成熟期(50~65歳)
 1.成熟期の発達危機
 2.成熟期の人格的活力
 3.成熟期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.成熟期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.成熟期の発達における現代的課題[たそがれどきの迷いと不安]
10 成人後期(65歳~)
 1.成人後期の発達危機
 2.成人後期の人格的活力
 3.成人後期の発達に関する興味深い学説・知見
 4.成人後期の発達的な問題とケア[事例を通して]
 5.成人後期の発達における現代的課題[シニア世代の孤独と絶望]

 参考文献
 おわりに
 人名索引/事項索引

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「人間が全体として発達していくこと」を読者が味わう書 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 柳原 清子 (東海大学健康科学部看護学科教授)
 私は成人看護学概論の授業を担当していて,青年期にある学生たちに対して,「成人期」を説明するのに四苦八苦している。あるとき,グループワーク課題に,親世代へのインタヴューを通して成人後期の発達課題を整理せよ,を出した。人々の姿と共に「ミドルエイジクライシス」と呼ばれる様相が,グループで浮き彫りにされると期待したのだけれど,結果は,学生たちはさっさとありきたりの文語を箇条書きに並べていっただけだった。「待て,待て~い!君たちはインタヴューしてその人の話を聞いてきたのでしょ。その人の生き様をとらえずして,何をやっているの!」と活を入れた(つもりだった)。学生たちは「はあ~,生き様!?(何をオーバーなことを言って)」と場は一瞬にして白けた。

 いま私は決意している。今度からは,「生涯人間発達論」で紹介されていたアガサ・クリスティ『春にして君を離れ』を読ませ,今一度「生涯にわたる人間の発達」という視点から見える,人間の奥深さと,その存在への敬意を学生たちに伝えなければ,と……。

 本書を手にしたとき,私が迷うことなく最初にページを開いたのが「成人後期」の章だった。そして我を忘れてのめりこむように一気に読んだ。青年期の発達課題,それは同一性(identity)の確立であり,そして熟年とよばれる人々の発達課題と危機は「『同一性再確立対消極性』である」と筆者は述べる。つまり,青年期に確立した(かに見える)「自己の存在」を,成熟期にもう一度その深淵を覗き込みながら再確立を試みる年代だという。言い方を変えれば,社会的な役割を多く担うなかで生まれる自信と,同時に「空の巣」と呼ばれる役割減少の狭間で,「私の人生はこれでよいのか」の問いを大きくしていく年代だというのである。こうした問いの中で行く手に感ずる,「一歩踏み出しのときだ」や「変化の主体となる必要性」のささやき。しかし平穏さ,安穏さへの回帰が,分別・あきらめ・嘆息と共に,この人々を日常性に落とし込んでいく。このことを筆者は『同一性再確立対消極性』と指摘した。そう,その通り。熟年とは,「私はあと何ができるのか」の問いと「青臭い自分への自嘲」でゆれる心情の人々なのである。

 それにしても,本書に挿入されている写真には見とれてしまう。ライフサイクルの象徴を1枚の写真が表していて,人々の喜び(乳児期),ほほえましさ(幼児前期),生活習慣(幼児後期),わんぱくの力強さ(学童期),ピュアなかわいさ(思春期),意気込み(青年期),そして門出と拡大・キャリア(成人期)が伝わってくる。また最後の老年期の写真からは,暮らしの中の支えあいと,交し合うことばと笑顔のハーモニー─それらどれもの素敵さに感じ入ったのだった。

(『看護教育』2011年2月号掲載)

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