誰も教えてくれなかった
血算の読み方・考え方

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最低限の病歴と血算から、可能性の高い疾患を「一発診断する」力を身につけるための本。血算は、すべての臨床検査の中で最も基本的で頻用される検査。臨床現場では簡単な病歴と血算を中心とした情報だけで、診断を推定しなければならない場面は多く、また実際かなりの疾患の推定ができる。誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方が学べる本書は、研修医、若手血液内科医はもちろん、すべての臨床医、検査技師にも役立つはず。
岡田 定
発行 2011年04月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-01325-3
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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 血算(CBC;complete blood count)は「臨床検査のバイタルサイン」です.数ある臨床検査のなかでも最も基本的な検査です.
 それなのに,「血算の読み方」が系統的にまとめられているような本はありません.「心電図の読み方」,「胸部X線の読み方」といった本は溢れるほどあるのに.とても不思議な気がします.
 「血算の読み方には困らない」ということでしょうか.「白血球,赤血球,血小板のデータに大した情報はない」,「血算の読み方が大事なのは血液疾患だけ」と考えられているのでしょうか.
 私は長年,聖路加国際病院で入院・外来診療とレジデント教育に携わってきました.血液疾患や血算に異常のある患者さんを診療するだけでなく,臨床研修病院の指導医として毎日レジデントとディスカッションし,毎月1~2回の教育カンファレンスを行っています.
 その経験から痛感することは,「一般臨床医もレジデントも,意外なほど血算の重要な情報を読み取れない」ということです.患者さんの紹介状を拝見して「血算のここに注目してもらえば診断は容易だったのに」とか,教育カンファレンスで「血算のこの項目が診断に特異的なのに,なぜ気がつかないのだろう」と,何度,歯がゆく思ったかしれません.
 たとえば,(1)49歳女性.Hb 9.3 g/dl,MCV 74.7 fl.(2)72歳男性.手術歴なし,15 kgの体重減少.Hb 9.7 g/dl,MCV 121.7 fl.それぞれ,一発診断は何でしょうか? 「貧血はMCVから鑑別する」という原則を知っていれば,(1)は鉄欠乏性貧血,(2)は悪性貧血の可能性が高い,と即座に答えが出ます(解説はどうぞ本文をご参照ください).
 血算は実に豊富な情報をもっています.しかし,今の臨床現場は血算の情報が十分に生かせていないようです.血算の情報をもっと読み取って,病歴・身体所見・他の検査所見と総合的に考えることができれば,臨床現場の診断力は格段に高くなるはずです.
 「血算の読み方」が大事なのは,何も血液疾患だけではありません.感染症,癌,膠原病,肝疾患,内分泌疾患,腎疾患,消化器疾患,薬剤性などさまざまな疾患・病態の診断にも,血算は重大な情報を提供します.

 本書は総論と各論からなります.最初に,「血算の読み方・考え方」のスーパールールがあります.
 各論では69人の患者さんが登場します.血算の異常パターンから以下のI~Xに分類しています.I 赤血球減少症(貧血),II 赤血球増加症,III 白血球増加症,IV 白血球分画異常,V 白血球減少症,VI 血小板減少症,VII 血小板増加症,VIII 汎血球減少症,IX 汎血球増加症,X 治療に伴う血算の変化.
 実際の患者さんのデータを示しながら,日常の血液カンファレンスさながらに解説を進めています.解説には3段階あります.
(1)診断推論を楽しむ
 最低限の臨床情報と血算を提示 → 診断のポイントになる血算の項目は何? → 一発診断(最も可能性の高い診断)は何? → 診断を確定する追加検査は何? → 最終診断と進みます.
 一発診断できるかどうか,お楽しみください.
(2)診断力を高める
 診断に必要な知識を「ワンポイントレッスン」で確認します.
 現場で使える知識を強化してください.
(3)記憶する
 文章と図で「基本ルール」を最終確認します.
 ポイントをしっかり記憶してください.
 本書は,「正確で緻密」にこだわる学術書ではなく「妥当で有用」を目指した実践書です.生の血算をみて瞬間的に反応できる反射神経を養っていただきたいのです.
 特に研修医の皆さん,一般臨床医の先生方や血液専門医を目指す先生方に,活用していただければ幸いです.

 当院の内科は,12の専門科(血液,感染症,腫瘍,循環器,消化器,呼吸器,内分泌・代謝,アレルギー・膠原病,腎臓,神経,一般,心療)が1つの内科になっています.当院の理念にある「生きた有機体」です.
 本書に登場する患者さんは,血液内科だけでなく12の専門科の患者さんです.「12の専門科が1つの内科」でなければ,この本は生まれませんでした.当院内科のすべての先生方に感謝いたします.
 また,医師の道を歩み始めて以来いつも臨床医のあるべき姿を指し示していただいた日野原重明先生と,血液内科医の道に導いてくださった寺田秀夫先生に,深甚の感謝を申し上げます.
 最後に,当院血液内科の樋口敬和先生,シニアレジデントの山口典宏先生,医学書院の安藤 恵さん,増江二郎さんに感謝申し上げます.

 2011年 春
 聖路加国際病院 内科統括部長・血液内科部長 岡田 定

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 血算の基準値

総論
 スーパールール 血算の読み方・考え方
 実際の血算
 血算とは
 血算の略語,単位,基準値

各論
I 赤血球減少症(貧血)
 スーパールール 貧血の読み方・考え方
 症例1 人間ドックで貧血
 症例2 発熱,意識障害,貧血
 症例3 骨髄異形成症候群疑い,輸血依存性貧血
 症例4 高齢者の貧血
 症例5 下腿浮腫,正球性貧血
 症例6 原因不明の貧血,血尿,蛋白尿
 症例7 心疾患,進行性の貧血
 症例8 軽度ヘモグロビン低下,赤血球数増加
 症例9 原因不明の貧血,体重減少
 症例10 意識レベル低下,高度の貧血
 症例11 胃全摘後,人間ドックで貧血
 症例12 胃全摘後,正球性貧血
 症例13 黄疸,貧血
 症例14 高校生のころから貧血
 症例15 貧血,血小板減少
 症例16 脳梗塞,4年前から貧血
II 赤血球増加症
 スーパールール 赤血球増加症の読み方・考え方
 症例1 ヘモグロビン18.4 g/dl
 症例2 ヘモグロビン18.6 g/dl
 症例3 白血球増加,赤血球増加
III 白血球増加症
 スーパールール 白血球増加症の読み方・考え方
 症例1 発熱,白血球増加
 症例2 肺炎,白血球増加,貧血
 症例3 前胸部違和感,白血球増加
 症例4 ゆっくり進行性の白血球増加
 症例5 数年来の軽度白血球増加
 症例6 腎盂腎炎,高度の白血球増加
 症例7 慢性の白血球増加
 症例8 慢性の異常リンパ球増加
IV 白血球分画異常
 スーパールール 白血球分画異常の読み方・考え方
 症例1 異型リンパ球1.5%
 症例2 異型リンパ球38%
 症例3 異型リンパ球9.0%
 症例4 異型リンパ球0.5%
 症例5 骨髄球,異型リンパ球
 症例6 高度の疼痛,白血球増加,貧血,血小板減少
 症例7 軽度の貧血,白赤芽球症
 症例8 再発性乳癌,高度の白赤芽球症
 症例9 貧血,血小板減少,白赤芽球症
 症例10 リンパ腫治療後,好酸球増加
 症例11 咽頭痛,好酸球増加
 症例12 血痰,好酸球増加
 症例13 足のしびれ,好酸球増加
 症例14 下腿浮腫,好酸球増加
 症例15 超高齢者,進行性の貧血
 症例16 発熱,労作時呼吸困難,単球増加
 症例17 好塩基球13.5%
V 白血球減少症
 スーパールール 白血球減少症の読み方・考え方
 症例1 紅斑,白血球減少
 症例2 下痢,白血球減少,血小板減少
 症例3 軽度の白血球減少,貧血
 症例4 肺炎,高度白血球減少
VI 血小板減少症
 スーパールール 血小板減少症の読み方・考え方
 症例1 高度の血小板減少
 症例2 変動する血小板減少
 症例3 軽症再生不良性貧血,急な血小板減少
 症例4 年単位で進行する血小板減少
 症例5 腰痛,貧血,血小板減少
 症例6 軽度の血小板減少
 症例7 黄疸,貧血,高度血小板減少
VII 血小板増加症
 スーパールール 血小板増加症の読み方・考え方
 症例1 貧血,血小板増加
 症例2 健診で高度の血小板増加
 症例3 著明な血小板増加,白血球増加
VIII 汎血球減少症(赤血球↓ 白血球↓ 血小板↓)
 スーパールール 汎血球減少症の読み方・考え方
 症例1 軽度の白血球減少,血小板減少
 症例2 汎血球減少
 症例3 高齢者,ゆっくり進行する汎血球減少
 症例4 骨髄異形成症候群,ゆっくり進行する貧血
 症例5 発熱,高度汎血球減少
 症例6 子宮筋腫,汎血球減少
 症例7 関節痛,出血傾向,発熱,高度汎血球減少
 症例8 “肺炎”,汎血球減少
IX 汎血球増加症(赤血球↑ 白血球↑ 血小板↑)
 スーパールール 汎血球増加症の読み方・考え方
 症例1 白血球増加,血小板増加
X 治療に伴う血算の変化
 スーパールール 「治療に伴う血算の変化」の読み方・考え方
 症例1 鉄欠乏性貧血
 症例2 急性骨髄性白血病

 参考文献
 索引

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血算をみて瞬間的に反応できる反射神経を身につけられる一冊
書評者: 宮崎 仁 (宮崎医院院長)
 本書は,「KYな医師」であるあなたを救う本です。

 えっ,「自慢じゃないが,空気は読める」ですって? ごめんなさい,わたしの辞書では,KYとは「血算読めない」という意味なんです。

 おや,「失敬なっ! 血算ぐらい,教えてもらわなくたって,自分で読める」なんて言ってますけど,ほんとに大丈夫ですか。そんな人に限って,貧血患者を見つけた途端に,平均赤血球容積(MCV)には目もくれず,ほぼ自動的に鉄剤を処方するような診療をしていることを,わたしはちゃんと知ってますよ。ほら,「MCVって何だっけ」なんて情けないことを言ってないで,早くこの本を買って読みましょう。

 そもそも,KYな医師ほど,血算のことを軽んじていると思います。「鉄欠乏性貧血以外の血液疾患が,自分の外来を受診するはずがない」と信じているのか,フェリチンの測定もしないで,鉄剤の大安売りをしている姿を見ると,血液内科医としてはとても悲しい。あっ,申し遅れましたが,わたしは診療所の開業医でありながら,血液内科医という,一種の「珍獣」であり,著者の岡田定先生とは,聖路加国際病院内科レジデントの先輩・後輩という間柄なんです。ええもちろん,わたしのほうがずっと後輩ですが。

 いま,「血算を読めと言われても,読み方をまともに教えてもらったことなんてないぞ」という声がどこからか聞こえてきました。まったくお恥ずかしいことですが,わたしも大学教員時代に,卒前・卒後の医学教育の中で,「血算の読み方・考え方」を系統的に教えたことはありません。めったにお目にかかることのないまれな血液疾患は熱心に講義しても,最もベーシックな血算の読み方は教えない。なぜでしょう? 答えは簡単。「誰も教えてくれない」わけではなく,「誰も教えられない」からなんです。

 一口に,「血算を読む」と言いますが,ありふれた血算のデータ,すなわち赤血球数,ヘモグロビン濃度,ヘマトクリット値,白血球数,血小板数を目にした途端に,その数字の裏に隠された意味をくみ取り,病態を解き明かしていく作業には,臨床医学全般に精通するセンスと深い経験が必要となります。さらに,血算の読み方・考え方を系統的にまとめて,実践的なテキストを作り上げるには,「わかりやすく教える」ことに関する技能や熱意を持っていなければなりません。残念ながら,これまでそういう才覚を持った血液内科医が(世界中を見渡しても)ほとんどいなかったので,「誰も教えてくれなかった」という状況になっているのです。

 では,なぜ本書の著者である岡田先生には,それができるのかという理由を説明します。第一に,聖路加国際病院の血液内科部長として,長年にわたり(つい最近まで,ほとんど一人で!)入院・外来の診療や,院内の血液疾患に関するコンサルテーション業務を続けられていること。その膨大で上質な臨床経験が,本書の土台となっています。第二に,内科統括部長として,12のサブスペシャリティーを束ねるポジションにあること。「12の専門科が1つの内科」という聖路加のよき伝統が,本書の中でも生かされており,提示されるケースは,血液内科領域だけでなく,内科全般にわたる疾患が網羅されていて,まさに壮観です。第三に,レジデント教育に対する真摯な姿勢と情熱をお持ちであること。日本を代表する教育病院の中で,若い医師たちを鍛え育てることに,特別なエネルギーを注いでこられた岡田先生のパッションを,本書のどのページからも感じることができます。このような特質を併せ持つ,たぐいまれな臨床家だからこそ,「血算の読み方・考え方」を,楽しく実践的に教えることが可能となったわけです。

 医局やわが家に漂う不穏な空気は読めるのに,毎日オーダーしている血算は読めないあなたは,岡田先生のレッスンを受けて,「生の血算をみて瞬間的に反応できる反射神経」を身につけましょう。心配はいりません。血算データのどこに注目して,どう考えればよいかという勘所は,ケースごとに明示されており,名探偵の思考プロセスを追うだけで,確かな実力を身につけることができるようになっています。さらに,随所に盛り込まれた血液疾患をめぐる物語(ナラティブ)を読むと,あなたが毛嫌いしていたはずの血液内科のことが,きっと好きになるでしょう。
血算の読み方・考え方をマスターするための最短コース
書評者: 神田 善伸 (自治医大さいたま医療センター教授・血液科)
 岡田定先生が執筆された『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』が届いた。岡田先生といえば,学生・レジデントの人気No. 1である聖路加国際病院で内科統括部長・血液内科部長として活躍され,教育に熱心であることでも有名で,数多くの教育的著書を執筆・編集されている。特に『内科レジデントアトラス』は今,私の目の前の本棚のすぐ手が届くところに並んでいる。「血算」だけをテーマに一冊の書籍にまとめ上げたという本書にもおのずと期待が高まる。

 血液の疾患というと,難しい,怖い,という印象が先行し,専門医以外からは敬遠されがちである。日常診療においても,白血球が少ない,ヘモグロビン値が低い,血小板が少ない,ということだけで,自分でしっかりと考察することなく即座に専門医に紹介されてくることが多い。もちろん,重篤な疾患が潜んでいる可能性があるので,診断に自信がない場合に専門医に紹介することは重要であるが,実際にはこれらの多くは少し考えれば自分自身で診断にたどりつくことができるものである。教科書に書かれていることをしっかりと読めば,初期対応としての鑑別診断は容易に実施できる。しかし,インターネット全盛の時代において,分厚い文字だらけの教科書を読み解くことは簡単ではないのかもしれない。

 書籍全般の売り上げが低下しているインターネット時代においても,本書は,血算の読み方・考え方をマスターするための最短コースとなることであろう。既存の書籍との違いは明確である。これまでにも血算の異常に対してどのように対応すべきか,ということは多くの書籍に記述されてきたが,それらは一冊の書籍のごく一部分として記載されたにすぎない。2011年4月28日現在,Amazonのホームページで「血算」のキーワードで検索を行うと,当然のごとく本書が1番に表示され,以下,書名に「血算」の二文字が含まれるものは一冊もない。そして,なによりもの特徴は,さまざまな血算の異常のパターンに対して「スーパールール」という血算の読み方の原則についての紹介があり,それに続いて多数の実際の症例に基づいて診断までの思考過程を1ステップずつ丁寧に解説している点である。その後,もう一度,「ワンポイントレッスン」「基本ルール」で確認する。予習,復習がワンセットになり,いや応なしに血算の読み方・考え方が頭にたたき込まれる。図表が多く,読み続けることになんら苦痛を感じさせない配慮もありがたい。「脱水」のワンポイントイメージとして用いられている砂漠のらくだの写真は岡田先生がご自身で撮影されたものだろうか? 機会があれば伺ってみたい。

 ところどころに診療現場での逸話を紹介する「ちょっと休憩」というコーナーも挿入されている。「Paraneoplastic love」なんて,タイトルだけで引き込まれてしまうではないか。このように,医学書というだけでなく,一般文芸書のような感覚で,一冊の読み物として楽しむこともできるのである。そうして最後まで読み終えると,こう感じるはずだ。

 「なんだ,血算って簡単じゃん。」
 私だけでしょうか?
 いいえ,誰でも。
血算の読み方・考え方をプラクティカルに解説
書評者: 徳田 安春 (筑波大附属病院水戸地域医療教育センター教授/水戸協同病院・総合診療科)
 「血算は臨床検査のバイタルサイン」と序文にある。血算はほとんどの診療科でほぼルーチンに行われている検査であり,血算データの異常は重篤な疾患に伴ってみられることが多いので,検査のバイタルサインと呼ぶべきという著者の意見に賛成である。本書は血算の異常データのパターンに基づいた読み方・考え方を症例ベースで,幅広い疾患の診断と治療について解説している。

 一読して,印象に残った点をクリニカルパールとして以下に挙げてみた。

 貧血の鑑別ではまずMCV(平均赤血球容積)とRet(網赤血球)に注目。網赤血球は絶対数≧10万/μlで増加していると判断する。二次性貧血の8大原因は,悪性腫瘍,感染症,膠原病,肝疾患,腎疾患,内分泌疾患,低栄養,妊娠。長期TPN(中心静脈高カロリー輸液)の正~大球性貧血では銅欠乏貧血も考える。鉄欠乏性貧血(鉄欠)+二次性貧血の合併はFe/TIBC<16%に加えてフェリチン30~100ng/mlで疑う。Hb7g/dlならEPO≧100 mIU/mlが予想され,それ未満なら腎性貧血を考慮。サラセミアはMCV高度低値が特徴で,サラセミアインデックス=MCV/RBC(×106)≦13。B12欠乏→ Hunter舌炎(舌表面がてかてか)→味覚障害→食欲不振→体重減少。胃切除後貧血ではB12欠乏+鉄欠で「正球性」のことあり。TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)疑いではADAMTS13とそのインヒビターをチェック。溶血性+鉄欠乏(溶血で尿中に鉄喪失)ではPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)を考える。尿中ヘモジデリン(血管内溶血)が特徴。フローサイトメトリーでCD59欠損を確認。鉄欠乏に伴う異味症(氷かじり)は鉄剤投与後数日で消失する。

 真性赤血球増加症(PV)ではMCV小となる(自律性赤血球産生による鉄欠乏)。入院時(臥位)採血で軽度Hb低下は体位性偽貧血を考慮。慢性骨髄性白血病(CML)を否定するには,分画評価(骨髄球,後骨髄球,好塩基球の増加),好中球アルカリホスファターゼ(NAP),B12を測定。人間ドックで引っ掛かる赤血球増加症+喫煙者→相対的赤血球増加症,軽度白血球増多症。人間ドックで引っ掛かる軽度白血球増多症+喫煙者→喫煙関連白血球増多症。ITP(特発性血小板減少性紫斑病)の診断では,偽性,肝硬変,薬剤性,DIC,SLE,先天性を除外する。鉄欠ではフェリチン>25ng/mlまで鉄剤は続ける。

 上記以外にもたくさんのパールが,豊富な図解入りで,スーパールール,基本ルール,ワンポイントレッスン,ワンポイントイメージ,としてまとめられている。また,コラム「ちょっと休憩」では著者が得意とするナラティブな物語を展開しており,楽しく読みやすい。

 血算データの異常を来す原因には,造血器以外の疾患の場合も多く,血算の異常データに遭遇しない診療科はない。血算の軽微な異常値が実は重篤な疾患の発症を示唆していることもあり,見逃してはならない。逆に,喫煙が血算の異常の原因になっていることがあり,禁煙指導の根拠にもなる。血算の異常データへのアプローチをプラクティカルに解説した本書は,内科系の研修医や指導医,勤務医,開業医のみならず,全診療科の医師に役に立つと思う。

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