遺伝性婦人科癌
リスク・予防・マネジメント

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遺伝性婦人科癌のリスク・予防・マネジメントに関する包括的な解説書。本書は、BRCA 乳癌・卵巣癌症候群、Lynch症候群(HNPCC)による子宮内膜癌/大腸癌、その他の遺伝性婦人科腫瘍を網羅し、病理、疫学、臨床的取扱いを詳述。婦人科・乳腺科・消化器外科等の臨床医、病理医、遺伝外来関係者の必携書。原著者、訳者とも斯界の第一人者で、遺伝的ハイリスク者の同定と治療に尽力している。日本語版オリジナルコラムにより、翻訳書に生じがちな特有のギャップも解消。
編集 Karen H. Lu
監訳 青木 大輔
発行 2011年11月判型:B5頁:296
ISBN 978-4-260-01414-4
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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日本語版の刊行に寄せて(Henry T. Lynch)/監訳者序文(青木大輔)/前書き(Henry T. Lynch)/序文(Karen H. Lu)

日本語版の刊行に寄せて
 Karen H. Lu博士の編集による『遺伝性婦人科癌—リスク・予防・マネジメント』の日本語版の刊行を心からお祝い申し上げます.
 卵巣癌は予後が著しく厳しい疾患であり,早期発見のためのスクリーニングが提供されています.しかし,このスクリーニングに限界があることは遺憾であります.卵巣癌を引き起こす一因として,BRCA1BRCA2 遺伝子の過剰発現,およびミスマッチ修復遺伝子,特にMLH1iMSH2MSH6 の生殖細胞変異によるLynch症候群が知られています.一方,現在利用されているスクリーニングの感受性と特異性に拠っていては,卵巣癌の予後は惨憺たるものとなります.これらの事実により,大勢の研究者は次のような結論へと導かれています.BRCA1 /BRCA2 関連の遺伝性乳癌・卵巣癌(hereditary breast-ovarian cancer; HBOC)の患者において,最良の予後すなわちこの致命的な癌を避けうる手段はリスク低減卵巣卵管摘出術です.Lynch症候群のケースにおいても,同様にリスク低減卵巣摘出術がミスマッチ修復遺伝子変異の保持者に対して推奨されてきています.
 本書はLu博士ら斯界の第一人者である大勢の執筆陣により,卵巣癌の進展に伴う重要なすべての警告を,徹底的に深く議論しています.私は,本書が遺伝性婦人科癌に関心をもつ日本の医師とメディカルスタッフにとってエポックメイキングな1冊となることを固く信じています.

Henry T. Lynch, M.D.
Chairman, Department of Preventive Medicine and Public Health
Director of Creighton’s Hereditary Cancer Institute
Creighton University School of Medicine
Omaha, Nebraska


監訳者序文
 この本の原著,Hereditary Gynecologic Cancer-Risk, Prevention and Managementは,テキサス大学M.D.アンダーソン癌センター(ヒューストン)婦人科腫瘍学部門のKaren H. Lu教授によって監修され,遺伝性要因で発症する婦人科腫瘍の臨床やその取り扱い方法,そして研究に出精する各分野の専門家らによって書き綴られたものです.
 本書は,遺伝性要因で発症する婦人科腫瘍に携わる各部門のスタッフに役立つばかりでなく,本邦と質を異にする海外の状況について詳述されており,大変有益であると考えます.遺伝性腫瘍の専門家だけでなく,広く医療スタッフ,癌予防やキャンサーサバイバーのQOLに関心をもたれる方をはじめ,多くの方に読んでいただくことを期待しております.
 一般に婦人科癌の多くは遺伝因子と環境因子の両者が要因となります.しかしながら同じ癌のphenotypeを有していても,遺伝因子により発生する婦人科癌もあります.代表的なものとしては,遺伝性乳癌・卵巣癌(HBOC)に関連した卵巣癌,Lynch症候群に関連した子宮体癌と卵巣癌,さらにPeutz-Jeghers症候群に関連した悪性腺腫などがあげられます.
 HBOCの原因遺伝子であるBRCA1 は本邦の三木義男博士(東京医科歯科大学難治疾患研究所教授,癌研究会研究所遺伝子診断研究部部長)により同定されたことは特筆すべきことです.本遺伝子の発見が端緒となり,現在ではHBOCの遺伝子診断とそれに基づいたサーベイランス法,癌予防は実地臨床ですでに実践の段階に入っております.
 また元来より常染色体優性遺伝であるLynch症候群家系に子宮内膜癌が高率に発生することが知られており,近年では新たな診断基準であるアムステルダムクライテリアIIに子宮内膜癌も組み入れられるようになりました.日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会内に設置された「本邦における遺伝性子宮内膜癌の頻度とその病態に関する小委員会」において,本邦における新アムステルダムクライテリアを満たす子宮内膜(体)癌の頻度が検討されました.調査に参加した施設における家族歴調査を継続的に実施し,全子宮内膜癌2,457症例中34例(1.38%)に新アムステルダムクライテリアを満たす子宮内膜癌が存在することを明らかにしました.
 なおこの翻訳本の発行に関しては,当委員会での終盤に市川喜仁先生(霞ヶ浦医療センター産婦人科)より本書が紹介されたことが端緒となりました.そのなかで本邦における婦人科遺伝性腫瘍の診断体系や実臨床における実践は検討の緒についたばかりであり,最終的には遺伝子変異保持者の癌発症リスクの評価とカウンセリング,そして早期介入などによる支援策を具体化することもふくめ,まずは知識を広く啓発することが必須であるという議論になりました.当小委員会は,終了しましたが,そのメンバーの多くは翻訳作業のメンバーにも加わっていただいております.その当時の熱意が少しでも伝わり,本書が実地臨床において広く活用されることを願っております.

 日本産科婦人科学会「本邦における遺伝性子宮内膜癌の頻度とその病態に関する小委員会」(平成17~20年度)
  委員長:青木大輔(平成19~20年度)
  委員:宇田川康博,大和田倫孝,長谷川清志,平井 康夫
  参加施設と研究協力者:
     慶應義塾大学:青木大輔,進 伸幸,阪埜浩司
     癌研有明病院:平井康夫
     自治医科大学:鈴木光明,大和田倫孝
     藤田保健衛生大学:宇田川康博,長谷川清志,安江 朗
     奈良県立医科大学:小林 浩,金山清二
     筑波大学:吉川裕之,松本光司
     浜松医科大学:金山尚裕,杉原一廣
     国立病院機構霞ヶ浦医療センター:市川喜仁
     広島大学:工藤美樹,藤原久也
     四国がんセンター:日浦昌道,松元 隆

 本書の出版にあたり,翻訳作業を分担していただきました諸氏に心から謝意を表します.

 2011年10月1日
 青木大輔


前書き
 筆者が1960年代中期に記述したLynch症候群と,1970年代初期に記述した遺伝性乳癌・卵巣癌(hereditary breast-ovarian cancer;HBOC)症候群に強く焦点を合わせた,遺伝性高発癌疾患(hereditary cancer-prone disorders)の婦人科学的特徴をテーマとする本書の前書きの執筆者に選ばれ,嬉しく思っている.この比較的短い期間に,これらの疾患に関してみられた臨床的・分子遺伝学的な進歩は非常に大きなものであった.
 これらと他の一部の遺伝性癌症候群(hereditary cancer syndrome)の婦人科学的要素が各セクションで取り上げられ,それぞれを世界的権威が執筆している.こうした症候群と婦人科癌との臨床的および遺伝的な関係が,長年の懸案となってきた.各例において,診断,分子遺伝的リスク,予防,およびマネジメントについて適切に焦点が当てられている.これら当該領域に対する配慮は,全体として実臨床の場面が軽視されていることもあり,まだ十分とは言えない.言い換えれば,遺伝的リスク評価が家系の所見に基づいた単なる推論の段階を脱し,HBOCやLynch症候群のような疾患における婦人科癌感受性を高い確実性で判定できるまでになったという現実を考慮するなら,臨床医と遺伝カウンセラー(genetic counselor)は遺伝性癌症候群の遺伝学と自然史をしっかり把握すべきである.
 本書は5つのセクションで編成されている.1番目は遺伝性癌について概説しており,ここでJohnathan Lancasterは遺伝性卵巣癌の臨床的意義とハイリスク女性同定の必要性を強調している.彼は,卵巣癌のスクリーニングはまったく不適切であるという事実を述べており,家系調査を完了した女性に対し,HBOCにおいてBRCA 変異が明らかな場合,あるいはLynch症候群家系においてミスマッチ修復変異が明らかな場合には,外科的予防の選択肢を提示すべきであるとしている.
 Lancasterの概説に続いて,Karen LuはLynch症候群を考慮した場合に特に重要な疾患である子宮内膜癌に焦点を当てている.子宮内膜癌は,Lynch症候群におけるセンチネル癌(sentinel cancer)としての役割を示したKarenの最近の一連の論文のおかげで,本疾患の診断およびマネジメントにおいて正当な位置づけを与えられるようになった.本疾患を重視する必要性が言われ始めたのは,1960年代半ばのLynch症候群に関する初期の記述においてであるが,当時の注目の的はもっぱら大腸癌にあり,そのアプローチは1913年のAldred Warthinによる「癌家系」に関する論文を踏襲するものであった.「遺伝性非ポリポーシス大腸癌」(HNPCC)という用語がその後に造られたが,この用語はこの症候群の記述としては不適切と認識されている.特に,この疾患は家族性腺腫性ポリポーシスに認められるような過剰の大腸ポリープを伴うことはないが,一般集団で想定される割合の大腸ポリープが認められる.結腸直腸癌に加えてさまざまな型の癌が認められ,この症候群において2番目に多い癌である子宮内膜癌が特に重要視されている.その他には,卵巣癌,胃癌(特にアジア諸国の家系),小腸癌,膵臓癌,上部尿路上皮の癌や,変異型Muir-Torre症候群における皮脂腺病変,および変異型Turcot症候群における脳腫瘍(膠芽腫)がある.
 2番目には,Cris Crum執筆のBRCA 関連卵巣癌の病理学,Dr. Cass執筆の卵巣癌スクリーニングの欠点,Dr. Barnes執筆の癌予防の期待,およびDr. Kauff執筆のリスク低減手術の有効性をカバーした一連の章を含んでいる.次いで注目はHBOCの終局的診断の履歴上の手掛かりとなる乳癌に向けられ,これは筆者が1970年代の初期に初めて記述したものであるが,その際,乳癌と卵巣癌の両方の分離パターンとHBOCとの関連性が明らかになり,頭字語のHBOCが用いられるようになった.
 3番目では,Eamon SheridanがLynch症候群(HNPCC)について,分子遺伝学と癌リスクの概説を含めて記述しており,このなかで子宮内膜癌および卵巣癌に関する本書の冒頭のコメントと同様の診断および管理パターンを確認している.本セクションは,家系調査を完了し,疾患の文書資料が完全に揃ったLynch症候群を有する女性における子宮内膜癌および卵巣癌に対する予防的手術の選択をテーマとした,Kathleen Schmelerによる最先端の章で締めくくられている.
 4番目では,StrongとWalshがLi-Fraumeni症候群とCowden症候群について概説している.
 5番目では,BRCA1 /BRCA2 という背景における卵巣癌について記述したSheri Babbによる章,およびLynch症候群における分子診断の検査法と使用について記述したMolly Danielsによる章とともに遺伝リスク評価(genetic risk assessment)が取り上げられている.Patrick Lynchは,多くのハイリスク患者が不幸にも悪いイメージを抱いており,彼らに既往歴の公開とDNA検査の受診をためらわせる要因となりがちな遺伝的差別(genetic discrimination)について記述している.Susan Petersonは遺伝子検査(genetic testing)の心理学的影響について適切に記述している.
 本書は,臨床および基礎科学両方のコミュニティに対し,遺伝性癌症候群の診断を確立するため,癌の家系を注意深く評価し,婦人科癌およびすべての解剖学的部位の癌に適切な注意を払う必要があるとの警鐘を鳴らしている.残念ながら,本書で言及された家系の検討は,癌患者の臨床的精密検査において最も軽視されている分野の1つとして残されている.さらにこの問題を混乱させているのは,適応がある場合であっても,ハイリスク患者に確定的な分子遺伝的評価を勧める割合が低いことで,その結果,患者から高度に的を絞った診断,スクリーニング,およびマネジメントの機会を奪っている.本書の内容に注意を払えば,これら公衆衛生の懸案事項を改善するのに役立つにちがいない.

Henry T. Lynch
Creighton University School of Medicine
Omaha, Nebraska




序文
 1993年にBRCA1 がクローニングされたというニュースが発表された時,私は産婦人科のレジデントであった.名称自体(BR:乳房,CA:癌)は遺伝性乳癌との関連を意味しているが,私たち卵巣癌患者のケアに携わってきた者は,これら多くの家族にとって,卵巣癌診断も同様に衝撃的なものであると考えていた.過去15年にわたり,BRCA1 およびBRCA2 と関連がある特異的癌リスクの決定,リスク低減のために特異的な取り扱い方法の選択,および遺伝子検査(genetic testing)にまつわる社会心理的問題点の理解において,急激な変化がみられた.さらに,疾病スペクトルの一部として婦人科癌を伴うLynch症候群(DNAミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞変異),Li-Fraumeni症候群(p53 の生殖細胞変異),およびCowden症候群(PTEN の生殖細胞変異)など,その他の遺伝性癌症候群(hereditary cancer syndrome)に関しても大きな発見があった.
 臨床癌遺伝学(clinical cancer genetic)というこの若々しい分野が現在どういう段階にあり,これからどこに向かうべきなのか? 婦人科癌の死亡率と罹患率を最終的に低下させるための遺伝子検査の性能をどのように発揮させればよいか? 臨床的な遺伝子検査に関連した基本的パラダイムの1つは,最初に検査を受ける必要がある人は癌を有している者であるのだが,遺伝子検査によって最も大きな恩恵を受ける家族のメンバーは病気にかかっていない人であるということである.母親が卵巣癌の治療を受けているのを目の当たりにし,自分にリスクがあるかどうかを知るために遺伝子検査の受診を望む若い女性に対し,遺伝カウンセラーは決まって「検査を意味のあるものにするため,卵巣癌を有するあなたの母親が最初に検査を受けるべきである」と話す.癌がある母親に変異が確認されれば,変異を受け継ぐリスクが50%ある娘はその特定変異に対する検査が受けられる.答えは非常に明確で,yesまたはnoである.しかし,癌のない娘が最初に検査を受けた場合,結果の解釈はより難しいものになる.陽性結果は陽性であるが,陰性結果の場合,①彼女の母親にBRCA 変異はない,つまり,遺伝型の卵巣癌を有していなかった,②彼女の母親はBRCA 変異を有するが,娘はそれを受け継いでいなかった,③彼女の家族に検査で検出できない未確認の変異が存在する,といった解釈が考えられる.癌を有する人に遺伝子検査を行うことは重要なので,われわれは最初に癌患者の家族歴をいかにうまく聞き出すか,そしていかにして適切な患者に遺伝カウンセリング(genetic counseling)および遺伝子検査を受けさせるようにするかについて自問する必要がある.私の施設での手応え,および他施設の同僚との会話から判断すると,遺伝性癌症候群の特定を目的とした,卵巣癌および子宮内膜癌を有する患者の系統的なスクリーニングは行われていないように感じる.
 本書の目的はここにある.どの患者が遺伝性癌症候群を有しているかを特定する際の癌専門医の役割を理解するため,婦人科癌を有する患者の診療に携わっている医師に実地教育を行う必要性がある.現在では卵巣癌患者のBRCA 変異検査をすることで,家族のメンバーだけでなく患者自身にも役立つ可能性がある.われわれは,BRCA 変異を有することは卵巣癌患者の生存率の改善に結びつくことを知っている.さらに現在,BRCA 変異を有する卵巣癌患者を標的とした新しい卵巣癌治療法の臨床試験が行われている.臨床医は,遺伝的素因(predisposition)を有する可能性がある卵巣癌または子宮内膜癌患者をいかに特定し,その患者にどのように遺伝カウンセリングを勧め,検査結果が陽性であった場合にはどのように管理するかについて知る必要がある.本書は,変異があるが癌のない患者をケアしている産婦人科医,内科医,かかりつけ医,および看護師を含む臨床家に対し,リスク低減戦略およびスクリーニングと早期発見のための選択肢に関する知識と情報を提供するものである.読者のご意見をいただければ幸いである.
 本プロジェクトで私を支援して下さった多くの方々にお礼を申し上げたい.まず,明確でわかりやすい形で重要な情報を提供してくださった各セクションの著者の方々に感謝したい.2番目に,有益な洞察と変わらぬ協力を提供してくれた遺伝カウンセラーのMolly Danielsと,私を含む本プロジェクトの関係者全員をサポートしてくれたJeannette Upshawにお礼を申し上げる.3番目に,私の仕事に大きく貢献していただいたDr. GershensonとM.D. アンダーソン癌センターの同僚に感謝したい.“銘記すべき点”と“症例報告”の記述を手助けしてくれたフェローのRobin Lacour,Shannon WestinとLarissa Meyer,および私の研究に参加してくれたフェロー全員に感謝したい.遺伝性癌の研究においてさまざまな示唆を与えてくれた私の患者にも大変多くを負っている.すべての患者には畏敬の念を起こさせるような話があり,それを聞くのに飽きることはなかった.最後に,私の夫のCharlieと私の子どものNed,David,およびKateに対する深い感謝の一言を.私の人生にもたらしてくれたあなたたちの愛と喜びに感謝申し上げる.

Karen H. Lu

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第1章 遺伝性卵巣癌の臨床的意義
 背景および歴史
 遺伝性卵巣癌に対する遺伝学上の基盤
 遺伝性卵巣癌:遺伝子と疾病パターン
 卵巣癌感受性遺伝子の変異に関連したリスク
 遺伝性卵巣癌のリスクがある女性の把握
 遺伝的評価の利点とリスクに関連する疑問
 臨床的利点および遺伝的評価(genetic assessment)後の取り扱い(management)の選択
 遺伝的評価のリスクと限界
第2章 遺伝性子宮内膜癌の臨床的特徴
 はじめに
 Lynch症候群とは?
 Lynch症候群の個人の同定
 Lynch症候群の人の識別方法
 全生存率
 まとめ
第3章 BRCA 遺伝子関連卵巣癌の病理
 はじめに
 BRCA 変異関連骨盤癌の概略
 遺伝性骨盤癌の病理組織像と発見時の進行期
 BRCA 変異陽性癌の発生部位
 卵管遠位部の上皮内癌
 卵管遠位部における発癌過程(p53サイン)
 BRCA 変異陽性女性における骨盤漿液性腫瘍の発癌モデル
 BRCA 変異陽性骨盤癌は散発性癌とは異なるか?
 臨床的配慮
第4章 卵巣癌スクリーニング
 卵巣癌スクリーニング検査のための挑戦
 有効な血清腫瘍マーカー
 新しい腫瘍マーカー
 低リスク群における卵巣癌スクリーニング
 ハイリスク群における卵巣癌スクリーニング
 ハイリスク女性における卵巣癌スクリーニングプログラムの容認性
 結論
第5章 卵巣癌の化学予防についての現在の考え方
 はじめに
 一般の人々での卵巣癌のスクリーニング
 歴史的にみた卵巣癌の原因論
 化学予防の可能性
 自然発生卵巣癌モデルの開発
 卵巣癌のリスクのある人での化学予防薬の評価
 結論
第6章 遺伝性乳癌・卵巣癌予防のためのリスク低減卵巣卵管摘出術
 はじめに
 リスク低減卵巣卵管摘出術にかかわる歴史
 BRCA1 およびBRCA2 遺伝子変異保持者におけるリスク低減卵巣卵管摘出術について
 BRCA1 あるいはBRCA2 遺伝子変異を明らかに認めない女性に対するRRSOについて
 結論および将来の展望について
 謝辞
第7章 遺伝性乳癌のリスクマネジメント
 はじめに
 スクリーニング
 化学予防
 予防的乳房切除術
 予防的卵巣摘出術
 乳癌治療に向けての遺伝的リスク情報の統合
 心理社会的な側面
 結論
第8章 BRCA 遺伝子変異陰性患者のマネジメント
 はじめに
 BRCA 遺伝子変異陰性の遺伝性乳癌が生じる原因
 臨床的取り扱い
 結論
第9章 BRCA 遺伝子関連卵巣癌の治療と予後
 はじめに
 卵巣癌におけるBRCA1 およびBRCA2 遺伝子の役割
 BRCA 遺伝子関連卵巣癌の予後
 BRCA 遺伝子関連卵巣癌が予後良好であるメカニズム
 BRCA 遺伝子関連卵巣癌の治療
 まとめ
第10章 Lynch症候群の分子遺伝学的知見と発癌リスク
 はじめに
 DNAの複製
 ミスマッチ修復(MMR)
 マイクロサテライト不安定性(MSI)
 ミスマッチ修復(MMR)系
 ミスマッチ修復(MMR)遺伝子とアポトーシス
 ミスマッチ修復(MMR)の破綻
 生殖細胞変異
 ミスマッチ修復(MMR)遺伝子の生殖細胞変異のアウトカム
 プロモーター領域のメチル化
 ミスマッチ修復(MMR)の破綻による発癌への影響
 「hMLH1 のメチル化を示す婦人科腫瘍」と
  「ミスマッチ修復(MMR)遺伝子の生殖細胞変異を示す婦人科腫瘍」との比較
 ミスマッチ修復(MMR)の破綻による腫瘍患者の予後
 卵巣癌
 おわりに
第11章 Lynch症候群関連婦人科癌の病理
 はじめに
 子宮内膜癌の病理
 Lynch症候群における子宮内膜癌の病理
 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-high)子宮内膜癌の顕微鏡的特徴
 Lynch症候群における卵巣癌
 予防的手術標本の取り扱い
 Lynch症候群女性を同定するための組織診査
第12章 Lynch症候群女性における子宮内膜癌と卵巣癌のスクリーニングと予防
 はじめに
 サーベイランス
 化学予防
 まとめ
第13章 大腸癌とその他のLynch症候群関連癌のスクリーニングと予防
 はじめに
 サーベイランスと予防
 まとめ
第14章 Lynch症候群女性における子宮内膜癌と卵巣癌のリスク低減手術
 はじめに
 子宮内膜癌と卵巣癌に対するリスク低減手術
 まとめ
第15章 他の症候群
 はじめに
 Peutz-Jeghers症候群(PJS)
 Cowden症候群(CS)
 Li-Fraumeni症候群(LFS)
 Peutz-Jeghers症候群の症例報告
 Cowden症候群の症例報告
第16章 遺伝性卵巣癌の遺伝的リスク評価:BRCA1 およびBRCA2 遺伝子
 はじめに
 遺伝的リスク評価への紹介
 BRCA1 およびBRCA2 に対する遺伝カウンセリングと遺伝子検査
 正確な癌の家族歴を入手する
 将来に役立つクライエントのためのリソース
 結論
第17章 遺伝性子宮内膜癌の遺伝的リスク評価:Lynch症候群
 はじめに
 Lynch症候群のリスク要因としての子宮内膜癌の発症年齢
 Lynch症候群のリスク要因としての他癌の既往歴
 Lynch症候群のリスク要因としての癌の家族歴
 Lynch症候群を同定するための腫瘍のMSIとIHC解析の役割
 Lynch症候群のための遺伝子検査
 Lynch症候群のための遺伝カウンセリング
 結論
第18章 遺伝子検査の法的側面
 はじめに
 遺伝的差別に関する立法
 医師の義務と責務
 結論
第19章 遺伝性婦人科癌における遺伝カウンセリングと遺伝子検査の心理的影響
 はじめに
 遺伝性乳癌・卵巣癌とLynch症候群の遺伝カウンセリングと遺伝子検査の活用
 遺伝カウンセリングと遺伝子検査による心理的影響
 遺伝子検査と癌の遺伝的リスクに関する家族コミュニケーション
 BRCA1 /BRCA2 とLynch症候群関連の変異保持者に対する
  リスクマネジメントの推奨:意思決定と心理的影響
 将来の研究と臨床実践への影響

欧文索引
和文索引

Column(日本語版オリジナル)
 卵管采への注意とその取り扱い方法
 漿液性腺癌をいかに検出できるか
 卵巣癌の予防について訳者の意見
 本邦の現状
 わが国における遺伝性乳癌の診断および治療の現状と今後の課題
 日本におけるLynch症候群に発生する子宮内膜癌
 Lynch症候群関連婦人科癌の病理学的遺伝学的特徴
  -特に本邦のLynch症候群子宮内膜癌について
 卵巣癌検診の有益性について
 Lynch症候群の癌サーベイランス
 「予防的手術」という訳語について
 婦人科と消化器科の連携
 稀な家族性腫瘍の現状
 遺伝的リスク評価への紹介-referral for genetic risk assessment
 子宮峡部癌とLynch症候群
 遺伝子検査のわが国における法的問題,諸状況
 遺伝カウンセリング,遺伝子検査の実施時の課題

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婦人科腫瘍専門医,臨床遺伝専門医,遺伝カウンセラーに待望の書が登場!
書評者: 小西 郁生 (京大大学院教授/婦人科学・産科学 )
 女性固有の癌である卵巣癌,乳癌,子宮内膜癌は一定頻度で家族性発生があることが知られていたが,原因遺伝子のBRCA family遺伝子およびミスマッチ修復遺伝子が同定され,遺伝子診断の時代が到来した。この間,日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会では本書監訳の青木大輔教授らによってわが国の家族性子宮内膜癌の実態調査も行われている。

 本書は,遺伝性の卵巣癌,乳癌,子宮内膜癌,そのほかの遺伝性疾患に関して,M. D.アンダーソン癌センターのKaren H. Lu教授が中心となり,現時点における最新情報を提供しているもので,この度,青木教授が中心となりその日本語訳版が刊行された。あのLynch症候群で名高いHenry T. Lynch博士も原書の序文および章の執筆を担当している。

 本書の特徴は,症例も交えながら,とてもわかりやすく書かれていることである。読み通してみると,この分野の最新知識をアップデートできる歓びが沸いてくる。BRCA1 遺伝子変異を有する女性の乳癌および卵巣癌リスクを正確に述べられるようになるし,Lynch症候群女性の大腸癌や子宮内膜癌のサーベイランスを学べる。それだけでなく,遺伝子診断に必須の婦人科癌に関する深い知識が得られる。卵巣癌スクリーニングは可能か? BRCA 変異卵巣癌は本当に予後良好か? 漿液性腺癌の起源として卵管采上皮か? などなど。

 さらに特徴的なことは,翻訳に当たられた先生方が独自のコラムを設けており,これにより,米国とは異なる,わが国における遺伝子診断の現況が理解しやすくなっている。翻訳を担当された先生方に深く敬意を表したい。

 産婦人科専門医,婦人科腫瘍専門医,臨床遺伝専門医,および遺伝カウンセラーにとって,ぜひとも手元に置きたい書である。

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