TIAと脳卒中

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脳卒中の前駆症状であるTIA(一過性脳虚血発作)や、minor strokeに対し、正確な診断、検査、治療を行うことで脳卒中の重症化を防ぎ、患者のよりよい予後を維持することができる。Oxford Vascular Study(OXVASC)の研究者らによる、TIAをはじめとした脳卒中の臨床全体にわたるエビデンスをまとめた貴重なレビューをここに翻訳。脳卒中を診る神経内科医、脳神経外科医の必読書。
原著 Sarah T. Pendlebury / Matthew F. Giles / Peter M. Rothwell
監訳 水澤 英洋
発行 2014年05月判型:B5頁:384
ISBN 978-4-260-01523-3
定価 8,800円 (本体8,000円+税)

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監訳の序

監訳の序
 脳卒中医療を語るうえで,TIA(transient ischemic attack,一過性脳虚血発作)は,いまや欠くことのできないトピックであることは論を俟たない.脳卒中の前駆症状であるTIAに対して,正確な診断,検査,治療を行うことで,脳卒中の重症化を防ぎ,患者のよりよい予後を維持することができるためである.臨床医にとっての脳卒中の知識として,また,患者の初期症状として「TIAを知ることは,脳卒中を知ること」と言っても決して言い過ぎではないだろう.
 本書は,原著者が英国で足掛け30年にわたり行ってきた疫学研究であるOxford Vascular Study(OXVASC)をはじめとして,TIAおよび脳卒中診療の全体にわたるさまざまなエビデンスをレビューしたものである.特にTIAから,minor stroke(軽症脳卒中),major stroke(重症脳卒中)の,各病態における,それぞれの臨床的特徴,診断,検査,予後,治療が詳細に記されていることは特筆すべき点である.
 本書は必ずしも脳卒中の専門医でなくても十分に読み通せる内容であると思う.また,外科的手術やリハビリテーションにも言及されているので,それらの関連領域に従事する医療職の方々にも,ぜひ手にとっていただきたいと考える.
 本書の翻訳は,土浦協同病院神経内科で行われていた,原書抄読会に端を発している.同部長の小寺 実氏をはじめとする訳者とともに,翻訳協力者として尽力いただいた安斎 翔,安藤史顕,市野瀬剛,伊藤陽子,江川 聡,片倉麻衣,金子 綾,坂倉孝紀,菱山富之,星野雄介,町田静香,宮川明哲,松村 雄,吉井雅美の諸氏には,この場を借りてあらためて感謝申し上げる.

 2014年4月
 水澤 英洋



 本書で紹介する脳卒中に関する研究のはじまりは,Peter Rothwell氏が,エディンバラにあるわれわれの脳卒中研究グループに加わった1990年代にさかのぼる.その後Rothwell氏は老年医学研究者のSarah Pendlebury氏と結婚し,ともにオックスフォードに拠点を移したのち,本書第3の執筆者であるMatthew Giles氏(私が1980年から行っていたOxfordshire Community Stroke Project(OCSP)にプロジェクト初期から加わり,その後OCSP を基にRothwell氏により立ち上げられた,Oxford Vascular Study(OXVASC)のリサーチフェローとなった)とともに研究を続けた.その研究は30年に及ぶ.その間,脳卒中のマネジメントはすっかり様変わりした.その手法はより洗練され,迅速化し,英国政府も含む行政も脳卒中を医療に関するトピックとして最優先するようになった.専門スタッフの揃ったstroke unitができ,脳卒中が疑われる全患者に医療機関でCT検査を行い,その後数週間後どころか,数時間後にMRI検査も行うケースも増えている.30年前,アスピリンが脳卒中の二次予防に効果的な薬であるとは知られていなかったし,スタチンはまだまったく出現していなかったうえに,脳卒中発作後長期にわたって血圧を下げることについては議論されている段階で,頸動脈手術は技術的に不安定であり,血管性認知症に対する関心も低く,頭蓋内動脈瘤を塞ぐコイルも存在していなかった.現在それらのすべてが変わり,その変化の様相は,本書のいたるところにみることができる.言うまでもなく,こうした変化は本書著者らの実践に基づいた研究に多くを負っている.しかし,すべてが変化したとは言えず,依然として当時と変わらない部分もある.臨床スキルはなお重要であるが,何気なく本書を手に取った読者でも,著者らが格別の関心を寄せていることがわかるであろう,臨床疫学の一般的な知識もいまや必要である.脳卒中医療が次の30年でどのようになっていくか想像することは難しい.しかし現在のところは,本書の内容が脳卒中医療のあるべき姿である.

 Professor Charles Warlow

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Section I TIAと脳卒中の疫学,危険因子,病態生理,原因
  1 疫学
  2 危険因子
  3 遺伝
  4 解剖学と生理学
  5 急性脳虚血の病態生理
  6 TIAと脳梗塞の原因
  7 特発性脳内出血の原因

Section II 臨床的特徴,診断,検査
  8 TIAの臨床的特徴と鑑別診断
  9 急性脳卒中の臨床的特徴と鑑別診断
  10 TIAと軽症脳卒中のブレインイメージング
  11 重症脳卒中のブレインイメージング
  12 TIAと脳卒中の血管画像
  13 TIAと脳卒中における非放射線学的検査

Section III TIAと脳卒中の予後
  14 予後診断法
  15 TIAおよび軽症脳卒中における短期予後
  16 重症脳卒中後の短期予後
  17 TIAと脳卒中の長期予後

Section IV TIAと脳卒中の治療
  18 治療法の評価方法
  19 TIAと軽症脳卒中の急性期治療
  20 重症脳卒中の急性期治療:一般原則
  21 重症急性脳梗塞に対する特殊療法
  22 急性期脳出血の特異的治療
  23 脳卒中後の回復とリハビリテーション

Section V 二次予防
  24 内科的治療
  25 頸動脈内膜剥離術
  26 頸動脈ステント留置術と他のインターベンション
  27 頸動脈インターベンション適応患者の選択
  28 無症候性頸動脈狭窄に対するインターベンション

Section VI 種々の疾患
  29 脳静脈血栓症
  30 自然発症性くも膜下出血
  31 血管性認知障害:定義と臨床診断
  32 血管性認知障害:検査と治療

索引

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脳卒中の臨床試験による経験と信念が如実に表れた書
書評者: 山口 武典 (国立循環器病センター名誉総長/日本脳卒中協会理事長)
 Sarah T. PendleburyとPeter M. Rothwell夫妻,それに臨床疫学者のMathew F. Gilesら3人による『TIAと脳卒中』の日本語版が,このたび東京医歯大神経内科グループ(水澤英洋教授監訳)によって出版された。著者の一人であるRothwell教授は,さまざまなメタ解析で有名なエディンバラのCharles Warlow教授の下で研究を続け,その後オックスフォードに移ってOxford Vascular Study(OXVASC)を立ち上げた。その後の活躍は目覚ましく,極めて多数の脳卒中の臨床および臨床疫学に関する研究成果を報告している。中でも最近注目されているのが,「TIA(一過性脳虚血発作)を早期に治療することによって,3か月後の転帰が著しく好転する」というOXVASCの臨床成績である。TIAが脳梗塞の警告症状であることはかなり以前(1950年代)から言われてきたにもかかわらず,一般臨床家の間ではあまり重要視されてこなかった。本書の表題にTIAという言葉を付けていることは,この点を意識しての命名であろう。

 TIAと脳梗塞は一連の病態であるので,その定義あるいは診断基準を定めることは極めて難しい。最初に米国で定められた定義は「24時間以内に症状が消失し,脳に器質的病変を残さないもの」とされているが,最近の画像診断の発達によって症状持続時間と画像上の変化による定義付けは困難との考えから,米国心臓協会(AHA)/脳卒中協会(ASA)では「持続が短時間で画像所見を残さない」というあいまいなものとなっている。しかし,本書では最も古典的な「24時間」という定義を採択しているため,われわれにとっては親しみやすい。ちなみに厚労科研による研究班(班長:国立循環器病研究センター峰松一夫副院長)でも,現在のところ24時間という定義を用いることを提言している。

 本書では脳卒中患者での血管検査の重要性を強調しており,非侵襲的検査だけに頼りすぎて脳動脈瘤の存在を見逃す危険性,頸部の頸動脈の評価におけるduplex超音波検査の有用性など,単なる検査法の羅列ではなく具体的に評価がなされているのがありがたい。中でも,頭蓋外の頸動脈病変に対する血栓内膜剥離術の問題を具体的に提示していることは極めて有用である。

 これまでの(特に日本の)教科書にない内容も少なくない。中でも虚血性脳卒中を「TIA・軽症脳梗塞」と「重症脳梗塞」に分けて記述されていること,いろいろなリスクスコアを用いた「予後の診断法」について極めて実用的な解説がなされていることは新鮮である。また,「治療法の評価方法」の項は圧巻である。大規模臨床試験での無作為化の必要性をさまざまな角度から解説し,またその臨床試験で得られた結果の解釈に当たっての注意点を細かく述べている。著者らの経験と信念を如実に表しており,本書のハイライトであろう。

 高血圧性脳出血に関する記述が少ないという難点はあるが,上に述べた数々の素晴らしい内容を考えると,ぜひとも座右の書として(バッグに入れて持ち歩きも可能)備えられることをお薦めしたい。

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