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ケアと対人援助に活かす瞑想療法

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本書は、医療者や患者が実際に瞑想を行うことにより、ストレスのケアができることを目指して作られたもの。瞑想の仕方、応用場面、その裏づけとなる理論をそれぞれまとめてある。
大下 大圓
発行 2010年09月判型:A5頁:264
ISBN 978-4-260-01178-5
定価 2,640円 (本体2,400円+税)
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巻頭言(カール・ベッカー)/はじめに(著者)

巻頭言
瞑想をすすめます
 「瞑想」という言葉は,1つのことを示している語彙ではありません.まるで「宗教」のような言葉です.「宗教」は団体,教義,儀式,信仰などをも連想させてくれる言葉ですが,話し手は自分の信条を意味しているつもりでも,聞き手は団体や儀式しか連想しなければ,意思はまったく通用しなくなるでしょう.また「瞑想」は,内面的な意識を指しているので,外からは見ることができません.そういう意味では,「愛」という言葉にも近いものです.「愛する」という語彙には,「好きこのむ」「大事に護る」「欲しがる」「尊厳する」など,同じ「何々(誰々)を愛している」と言っても,話し手の心を正しく理解していなければ,とんでもない誤解につながりかねません.
 また言語圏によっても,「瞑想」の理解がまったく違っています.わかりやすく喩えて言えば,砂漠に住む民俗は,砂色を示す言葉を数多くもっていますが,青や緑についての言葉は乏しいのです.それに対して,漢字では,青,藍,紺,緑などを区別しますが,一字で砂色のさまざまなニュアンスを示す漢字は少ないのです.同じように,英語のmind,soul,heart,consciousnessというような語彙は,かなり厳密に区別しえますが,それらを梵語に翻訳しようと思えば,さらに細かい区別をしないと,単純に一語対一語の翻訳はできないのです.つまり,意識やその状態を示す意味として,梵語は英語よりもさらに多くの語彙をもつ言語です.逆に,英語のmind,soul,heart,consciousnessを和訳しようと思えば,意,魂,心,識などには訳しえますが,それらの日本語は厳密に区別されているわけではなく,あくまでも重なりの意味合いをもつ語彙群です.
 同じように,瞑想などについては,日本語の区別は曖昧であるということです.したがって,「瞑想は健康によい」とか「瞑想で何々がわかるようになる」とか「祈りは瞑想の一種である」と表現している場合,実はまったく違う過程の精神作用を,同じ語彙で混同使用しているわけです.
 少なくとも5,000年前に,インドのハラッパ文明では瞑想が使われ,3,000年前までに「瞑想」を厳密に区分する部類(範疇)が文献に納められていました.その後,ジャイナ教や仏教,ヒンズー教などで,何十種類もの瞑想の方法,対象,目的,効果などについても明記されています.
 また,仏教が中国に伝達された際,インドの瞑想に関する多くの理解や情報が伝わらなかった代わりに,道教や儒教的瞑想についての見解が加わってきました.たとえば9世紀に,中国の圭峰宗密〈けいほうしゅうみつ〉(華厳教)や日本の弘法大師(真言密教)のような僧侶は独自に諸宗教の瞑想を整理し,序列化の試みも多く現れてきたのです.ただし,そのいずれも,自分の理解を正当化して,自分好みの瞑想を最高位に置こうとする狙いもみられるので,中立的とは言いがたいものもあります.
 誤解を恐れずに大雑把に整理するならば,瞑想は4種類にわけられます.すなわち,(1)集中型,(2)観察型,(3)超越型,(4)忘我型と名づけられます.
 瞑想に関する医学的研究は,過去数十年の間,少しずつ成果が示され,注目を浴びてきています.恐怖症や躁うつに対する精神安定,ストレス過多に対する落ち着き,心筋梗塞や高血圧に対する症状改善・予防,イメージ療法によるがん・腫瘍の克服等々,薬理学で得られない効果まで得られている症例もあり,きわめて興味深いものです.しかし,基本的には,これらは皆,((1)集中型)瞑想の効果です.逆に,四苦八苦をありのままに受け入れる禅宗や,身体を含む娑婆〈しゃば〉・穢土〈えど〉を解脱〈げだつ〉しようとする原始仏教では,医学が研究する(1)の瞑想は一番初歩的で卒業すべきレベルともみなされます.
 あくまでも,瞑想の文化を育んできた古代インド人の世界観と,この世を中心に考える現代人の世界観との間には,さまざまな隔たりがあることをふまえておきたいのです.そして「瞑想によって,何々ができるようになる」と言われた場合,「何型の瞑想?」「その方法や目的,世界観などは何?」など,内容を整理・吟味したいものです.そうでなければ,間違った「処方箋」に及びかねず,素人理解だけでは逆効果に及ぶことすら往々に起こりうるからです.
 本著者の大下大圓先生は,私以上に上記のような瞑想の詳細について学ばれ,実践してこられました.少年期から出家して,スリランカなどで仏道修行を経て,医療と仏教に跨〈またが〉る日本初のスピリチュアル・ケア・ワーカー養成コースの創設にかかわってこられた活動家でいらっしゃいます.さらに,公立大学病院で僧侶が医師や看護師と共同作業を営む日本初の活動にも取り組んでおられ,多方面での先駆的な存在として,日本の誇るべき僧侶です.
 本書は,長年の瞑想経験や,医療やカウンセリングの現場や,京都大学をはじめとする大学での学術的研究を横断した大下先生ならではの著作であり,有用な人生の指南書でもあります.多くの方々が手に取って読まれることを期待しています.

 平成22年 初秋
 京都大学こころの未来研究センター教授 カール・ベッカー


はじめに
 本書は,広く現代人のための瞑想療法入門書です.
 とくに臨床現場や対人援助を主な活動とする医療関係者,福祉関係者,教育活動者,企業や会社で人事・労務・研修を担当する人,家庭教育の場,学生などを対象に,呼吸法を学び,瞑想や観想を仕事や生活のなかに活かしていただけることを目指しています.
 これまで,瞑想が人の心身の機能を高め,精神安定や健康増進に有効であるという研究報告は,多くの分野で明らかにされてきました.一方,日本では昔から“静かに座る”という伝統的生活習慣が情操の安定をもたらし,教育的な配慮からも人格形成に影響をもたらすとして,黙想や観想の機会が生活のなかに生きていました.
 しかし近代社会は,快適で物質的に豊かな経済生活の優先するあまりに,欧米的なライフスタイルが主流になって,価値ある伝統文化としての“座る”という瞑想習慣を忘れようとしています.それだけではなく,多くの現代人が,セルフコントロールにすぐれた機能をもつ瞑想感覚を学習しないまま成長しているのです.
 最近は,とくに家庭での人間教育力が低下し,ましてや学校などの教育現場においては具体的に黙想・瞑想を実習する教育プログラムは,一部の武道的活動においてしか採用されていません.全体的な空気としては,宗教意識に対する誤まった偏見から,十分に活用されないままになっています.多くの現場教師も管理教育のはざまで苦しんでいるのです.
 瞑想は従来,宗教伝統において心身の鍛錬に活用されてきました.しかし近年は,特定の民族,宗教や地域に偏ることなく,世界のあらゆる場所や空間で人間育成や健康生成のプログラムとして広く活用されています.こうした瞑想はホリステックな視点でとらえられて,セラピー(療法)やストレス緩和,病いへの気づき,心身の健康回復や,ストレスコーピングなど,より積極的に医学的,教育的に活用される傾向が増えています.
 本書は,実践編,活用編,理論編,未来編の4部構成になっています.
 第I部「実践編」では,瞑想をあまり難しく考えず,自身のセルフコントロールのツールとして役立つように,実践的な視点からその活用方法を,写真やイラスト入りで紹介しています.本書を読んですぐに,だれもが瞑想を実践できるように,瞑想の技法や心構えを解説し,私生活だけでなく,職場や臨床でも活用できるような実践プログラムを紹介しています.
 第II部「活用編」では,現代の臨床ケアや福祉,教育の分野で具体的に活用していただけるように,実際の事例や実施報告などを紹介しています.また医療の現場,精神保健,看護,緩和ケア,助産・子育て期,学童期,青年期,福祉,教育の現場,企業人,自死予防と家族支援などに関して,実際に療法的に活用できる方向性を紹介しています.さらには,治療中の患者が瞑想によって,健康生成に有効であった事例や,瞑想を臨床ケアや対人援助に活用し,日常生活において瞑想実践を心がけている知友の所見なども紹介しています.
 第III部「理論編」では,瞑想や瞑想療法の理論を私の視点から紹介しています.瞑想には洋の東西を問わず,さまざまな瞑想の理論や活用法があります.伝統的宗教では瞑想がどのような位置を占めたかを私の読み解き方で紹介しています.また近代の瞑想を,生理学的,精神医学的,教育学的など,学際的研究領域から考察しています.
 第IV部「未来を拓く瞑想療法」では,瞑想の未来に向けてのメッセージを織り込んでいます.近代のホリステックケアやスピリチュアリティ研究とも連携して,そのネットワークの意義と発展が期待されています.瞑想療法の定義に関する課題や,瞑想と健康生成の関連,成長モデルとしての瞑想療法,統合瞑想の方向性について語っています.
 本書はこころのケア(スピリチュアルケア)に瞑想を活用して,自身の生きがいに役立ててもらうための実践的指南書となるように心がけたものです.しかし,私の非力さゆえに解説できぬまま諦めた領域もあります.たとえば,日本仏教の禅宗の伝統です.臨済宗や曹洞宗で行われている禅生活の様子はあまりにも膨大で,本書に紹介することはできませんでした.この分野に関する参考書籍は,山のように出版されていますので,ぜひそちらをお読みください.
 仏教の瞑想も近代の瞑想も,実はさまざまな方法と目的を備えています.専門的な瞑想を実践するには,最初は必ず明師(すぐれた指導者)に従って瞑想を深めることをおすすめします.
 なお本書では,瞑想を対人セラピーとして解説するところで,患者や利用者などの対象者をすべて「クライエント」と表現しています.クライエントとは「セラピストと対等な立場にある人,自らの力で成長していく自己治癒力のある人,より大きな統合性と独立性を目指していく人」です〔カール・ロジャース『カウンセリングと心理療法』,1942より〕.これは仏教的な表現をするなら「同行二人〈どうぎょうににん〉」であり「自利利他〈じりりた〉」です.喜びも悲しみも慈悲喜捨〈じひきしゃ〉の精神で一緒に人生を歩んでいく関係性にほかなりません.
 本書を出版するにあたって,瞑想活動の研究報告に情報提供と協力をいただいたすべてのクライエントのみなさんにお礼を申し上げます.飛騨高山では,10年前から臨床スピリチュアルケアの現場を提供いただき,物心ともにお世話になっている高桑内科クリニックの高桑薫院長先生をはじめ,研究に協力いただいた有能なスタッフの方々一同に深謝申し上げます.また本書の構成に貴重な提案をいただいた京都大学大学院人間環境学研究室のみなさん,さらに京都大学こころの未来研究センターの共同研究者であった服部晃次さん(大阪教育大学大学院)には,さまざまなアンケート分析に多大な協力をいただきました.上越教育大学の得丸貞子教授とその研究室の方々にも,共同研究として高山市の小学生瞑想調査に何度も足を運んでいただき,その熱意に感動しました.
 拙い本書に巻頭言の玉稿を賜わりました恩師である京都大学こころの未来研究センター教授のカール・ベッカー先生と,お忙しいなか帯文を寄せていただいた日本ホリステック医学協会会長の帯津良一先生には,心より御礼と感謝を申し上げます.
 最後に,この企画出版の実現にあたり終始ご尽力とご教示をいただいた医学書院編集部の大野学さんには篤く感謝の意をお伝えします.
 ここに,本書を手にとったすべてのかたの平安と安寧を祈ります. 合 掌

 平成22年 初秋
 京都大学こころの未来研究センターにて 著者しるす

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第I部 実践編(とにかくやってみよう)
 第1章 瞑想の基本プログラム(1)-初めて瞑想する前に知っておくこと
  瞑想,その前に
  瞑想を始めましょう
  瞑想の第一段階をまとめておきましょう
 第2章 瞑想の基本プログラム(2)-瞑想中において必要なこと
  導入時,心身のバランスをとる
  瞑想中の雑念は気にしない
  瞑想の2つの段階
  瞑想を終えるとき
 第3章 瞑想の基本プログラム(3)-瞑想の種類
  瞑想を何人でするか
  さまざまな場での瞑想
 第4章 瞑想の実践プログラム(1)-自己の安定と観察のために
  時間に追われている人こそ,瞑想は必要
  時間別の瞑想
  瞑想によって人生を統合する
 第5章 瞑想の実践プログラム(2)-他者の援助やケアのための瞑想
  援助のための瞑想法とは
  援助やケアのための瞑想,5つのステップ

第II部 活用編(瞑想はどんな活用方法があるのか)
 第1章 瞑想の活用法
  瞑想療法実践,その前に
  医療現場への導入にあたって
  精神科病院での導入は慎重に
  看護の現場には積極的に
  緩和ケア病棟での重要な役割
  周産期の現場においてできること
  育児時と子どもの成長に合わせた瞑想
  福祉と教育の現場においての瞑想療法
  自死予防と家族支援のための瞑想はスピリチュアルケア
  寺院での瞑想療法はNPO活動
 第2章 瞑想の治療的活用
  治療的・療法的瞑想の活用を求めて
  疾患という事実に向き合う瞑想療法
  がん末期における瞑想療法
  うつ病と瞑想療法
 第3章 瞑想の健康生成的活用
  健康観を探るグラウンデッド・セオリー
  飛騨千光寺における瞑想療法
  子育て期にある母親の瞑想療法
 第4章 瞑想の教育・トレーニング的活用
  公立小学校における瞑想
  国体スポーツ選手の瞑想トレーニング
 第5章 医療者の健康生成と瞑想療法
  緩和ケア認定看護師のための瞑想活動
  研修医のための瞑想活動
 第6章 生活に瞑想を取り入れた医師,看護師らの生き方は
  瞑想を取り入れることの有用性を検証
  生活に瞑想を取り入れる生き方は

第III部 理論編(瞑想について深く考えるには)
 第1章 瞑想の機能と応用
  瞑想とは何か
  瞑想の科学的側面と課題
  瞑想の心理的側面と課題
  瞑想の科学的考察に対する批判
  瞑想療法の構造と現状
 第2章 仏教以外の宗教伝統と瞑想
  一神教と瞑想
  ヨーガと瞑想
 第3章 仏教と瞑想
  仏教における瞑想の位置づけ
  「四諦八正道」と瞑想
  中国とそこから渡ってきた瞑想
 第4章 密教と瞑想
  密教における瞑想の位置づけ
  密教瞑想の目指すものと科学的知見

第IV部 未来を拓く瞑想療法(これからの活用のために)
 第1章 欧米の科学的理論と瞑想
  ニューマンの看護理論と瞑想
  瞑想と健康生成論
 第2章 瞑想療法を改めて定義する
  瞑想療法定義のための8つの課題
  成長モデルとしての瞑想療法
  瞑想療法の対人援助的役割
 第3章 新時代を拓く統合瞑想へ

 付録資料
  瞑想のための参考文献(和文)
  瞑想のための参考文献(英文)

 索引

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心の平穏と癒しを導く実践の書 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 内木 美恵 (葛飾赤十字産院 看護副部長)
◆心のケアとしての活用

 私は“瞑想”と聞くと宗教をイメージしてしまい,近づきがたい印象をもっていました。しかし,大学院在学中,親友からヨーガと共に勧められ,実践するうちにそのイメージは変わりました。暝想は心に平穏を取り戻し,自分の進む道に戻る心のケアの一つだといえます。

 肉体的な病は痛みを伴い,出血などで他者にもわかりますが,心の病は,痛みはなく,他者にもわからず,自分自身でも自覚するまでに時間を要します。大学院在学当時の私が,課題に追われ自分自身を見失い,現実から逃げたいと思っていたように,現在私の周りでも,人間関係や,環境への不適応などで心の病を患う人が少なくありません。これは一部の組織に限ったことではなく,日本の多くの組織で問題になっています。

 ヒトは,肉体が病気にならないよう気遣って運動したり,睡眠をとったり,食品を選んだりします。同様に,心が病気にならないように,そして,自分らしく生きるために瞑想を活用します。本書では,第I部で自分自身へのケアを,そして第II部で同僚や患者さんへの支援や,ケアとしての瞑想の活用法が紹介されています。

◆暝想療法の広がり

 著者の大下大圓氏には,私が高山の病院で働いているときに出会いました。当時,世界では虐殺などにより多くの難民が隣国に流出し,日本では大地震と地下鉄内の無差別殺人事件で多くの人々が命を失い,世紀末が現実にやってきたのかと思わせるような時代でした。そんな生きることに希望を失いそうなとき,大圓氏は袈裟姿で病院入院中の末期患者さんを訪問し,ターミナルケアを積極的に実践していました。当時はまだ,病院と僧侶という組み合わせにポジティブなイメージはなく,むしろ忌み嫌われるものでした。それでも,大圓氏の信念はゆがむことはありませんでした。一途な思いと優しい心は,周囲でみている私たち病院のスタッフにも希望を与えてくれました。

 今ではその活動は病院から地域へと広がり,さまざまな人が実践しています。社会の大きな流れに身を任せて流されるのではなく,自分の信じた道を貫くことの大切さを本書から感じました。大圓氏自身の強い思いの根底にも瞑想の実践があります。大圓氏の瞑想への思いは,宗教を超えて,瞑想の活用による人の心の平穏,それによるQOLの向上といえます。ぜひ本書を手にとり,実践してみてください。


 ここまで書いたあと,東日本大震災が起きました。私は赤十字社の一人として支援活動に従事しました。目に入る瓦礫の山に心が痛み,やるべきことを見失いそうになりました。そんなとき,姿勢を整え邪念を払い呼吸に集中しました。赤十字社の使命は“被災者の苦痛を軽減すること”です。瞑想は,一歩も譲らない活動を決意させ,窮地から救ってくれました。私は今,自身の心のケアとして瞑想を活用しています。

(『看護管理』2011年6月号掲載)
書評(雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 野崎 加世子 (岐阜県看護協会訪問看護ステーション)
 「瞑想療法」というと、私たち訪問看護師や介護職には無縁の領域、精神世界や心理学における特別な治療法と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 しかし、著者の大下氏は「心」や「魂」のケアを意味するスピリチュアルケアの領域において、瞑想は重要なツールとしての価値をもつと語っています。また、瞑想は難しいことではなく誰でも楽しくできることであると記されています。

 本書の実践編には、瞑想を行なうための基本が写真や図で非常にわかりやすく記載されていますので、まずは自ら実践してみるとよいでしょう。「自心」との対話、内なる自分からのメッセージに耳を傾けることから始められると思います。私も瞑想を実践して、何とも言えない不思議な「安らぎと平安なひととき」に出会うことができました。

 最初は、訪問看護業務の日常のつらいことや、ネガティブな思いが浮かんで集中できないこともありましたが、続けていると自分自身のさまざまな執着が少しずつ解けていくような気持ちになり、自分で自分を癒していると思えるようになりました。時間に追われている人、どのような場所、どのような状況でも、心の安定が得られると説かれています。

 次に活用編として、瞑想の活用方法が記されています。病院や福祉の介護施設、ご自宅や屋外で、少人数から多人数でも可能とのことです。看護や介護、福祉のさまざまな場面で活用できると思います。私がとくに興味をもったのは、緩和ケア病棟での瞑想療法です。

 緩和ケア病棟は、患者さんやご家族の最善のQOLを確保することを目的としています。そのためには、患者さんの苦悩や生きる目標も見出せるようなスピリチュアルケアを目指すべきだと思います。「自分の体の声を聴く」こと、「言葉にできない思いを意識化する手助けをする」ことがこの瞑想療法の目的というところに深い意味を見出しました。

 理論編では、瞑想について深く考える意味、ヨーガや宗教との関係についても、千光寺住職としての知識や経験、多くの文献をもとにわかりやすく説明してあります。実際の臨床場面での瞑想療法の役割、どのような方にどのような方法で実践するかについても言及されています。

 医療従事者が患者さんに指導するときには十分なインフォームドコンセントが必要であり、実践編のアセスメントをしっかり行なうことでより効果が上がるということも書かれており、今後、実践者となったときに有効だと思います。

 大下氏は25年前から「いのち」についての学習会や、緩和ケア、ホスピス運動、がん末期の方への支援等、さまざまな活動をされており、日々実践されているからこそ、このように瞑想療法の入門から応用まで幅広くわかりやすい内容で書くことができたのだと思います。

 看護師として、方法は違えど患者さんのために尽力する著者に尊敬を覚え、説得力ある内容だと感心しました。ぜひ多くの方に読んでいただきたいと思います。そして、まずは実践してみてください。きっと何かが得られるはずです。

(『訪問看護と介護』2011年3月号掲載)
自己を見つめ直し新たな歩みを始めるために (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 隅田 真理子 (アルプスベルクリニック)
 1960年代以降,アメリカのフェミニズム運動の流れから,医療に管理されず,女性自身に備わっている産む能力を発揮して,自分自身で産むことを目的とした1つの手段として「ラマーズ法」が生まれました。その後,呼吸法による身体のリラックスだけでなく,心理面を考慮した心身両面のリラックスが必要とされ,自立訓練法や東洋修行法であるヨーガが自然出産法として採用されてきました。ソフロロジー,アクティブバースもまた,ヨーガの流れをくむものと言われています。

 本書に書かれている瞑想もまた,ヨーガの流れをくむものです。著者の大下氏は,医療の現場や教育の現場で,さまざまな人たちを対象にした瞑想を実践・活用し,効果をあげていると聞いています。

 当クリニックでも,マタニティヨーガを取り入れ,心を穏やかにすることや,胎児に思いをはせるなどの心と身体のリラックス法をすすめています。妊娠・出産は女性にとって,いわば人生における素晴らしいイベントの1つですが,体調の変化とともに不安などを抱えることもあります。そこで妊産婦にとって瞑想を実践することは,出産前の不安や陣痛が始まった場面でのリラクゼーションなどの効果が期待されます。また瞑想は妊産婦だけでなく,私たち助産師自身のメンタルなサポートをするうえでも興味深い方法です。

 著者の大下氏は岐阜県高山市にある千光寺の住職ですが,その活動は住職としての本職のみならず,スピリチュアルケアワーカーや大学講師,さらには地域医療を考える会のメンバーとして,また自死遺族を支える活動への取り組みやボランティア活動など多岐にわたっています。さらに岐阜県看護協会や看護学校の講師として看護職への教育にもかかわっています。そしてその活動は飛騨地域にとどまらず,北海道から沖縄まで,そのフットワークのよさはよく知られています。また講演でのユーモラスな語り口には定評があり,難しい内容もわかりやすく話すことから,高齢者から小学生まで幅広い支持を得ています。

 いま,女性の社会進出が当たり前の時代となり,ストレスによるさまざまな問題を抱えている人は多いと思います。そんなとき,多忙な日常の中でふと立ち止まり,自己を見つめ直し,リセットしてまた新たな歩みを始めるために,「瞑想」をツールの1つとして取り入れてみる価値は大きいと思います。本書は瞑想の入門書としてだけでなく,表題にもあるようにケアの現場での実践を考慮して書かれています。自分を見つめ,肯定し,命の尊さを心から感じたとき,周りの人たちにも優しくなれるのだと思います。

(『助産雑誌』2011年2月号掲載)
瞑想療法がいつでも,どこでも,誰でも実践できる (雑誌『看護教育』より)
書評者: 明石 惠子 (名古屋市立大学看護学部教授)
 本書を読み終えて,私には3つの驚きがありました。瞑想療法の実践・活用の多様性,瞑想療法の科学的・心理的機能の深さ,そして,瞑想という目に見えない行為をわかりやすく記述された大下大圓先生の見識の高さです。

 ところで,瞑想という行為は,宗教家の修行を連想させます。また,著者がご住職であるため,宗教を意識して本書を手に取ることを躊躇する人がいるかもしれません。しかし,本書を読むと,瞑想は宗教家だけのものではなく,自分自身と向き合って生き方を考えたり,教育や医療において他者を援助したりする場合に有効であることがよくわかります。

 本書は,第1部「実践編」,第2部「活用編」,第3部「理論編」,第4部「未来を拓く瞑想療法」となっています。最初に理論,次に活用法が記述されている書籍が多いなかで,この構成は新鮮でした(読みながら,瞑想の第一段階である呼吸法を行ってしまいました)。また,時間に追われている人こそ瞑想が必要であるとし,「5分間瞑想」が提案されているところにユニークさを感じました。第1部を読むと,瞑想療法がいつでも,どこでも,誰でも実践できることがわかります。

 第2部では瞑想の活用方法が述べられています。瞑想は,自分自身の生活に取り入れることも,他者への援助に活用することもできます。そしてその効果は,(1)能力の開発,(2)ストレスの解消,(3)人格の発達・自己実現とされています。大下先生ご自身のボランティア活動やご研究の成果,瞑想を実践している方々の生の声などで具体的に記述されていますので,とてもわかりやすい内容となっています。

 第3部と第4部では,瞑想の意味や構造,効果に関する理論がさまざまな視点から述べられています。生理学,精神医学,心理学,そして看護学(マーガレット・ニューマンの看護理論と瞑想との類似性が説明されています)が取り上げられています。宗教における瞑想の位置づけや意味も記述されています。多くの研究結果が引用されているため,それらの理解は容易ではありませんが,現代の医学において補完代替療法に位置づけられている瞑想療法の効果に関する科学的根拠・心理学的根拠が数多く示されています。

 私自身もそうですが,仕事やプライベートで余裕のない日々を過ごしている人は少なくないと思います。あるいは学生や同僚との関係で悩むこともあります。瞑想は,「自心」との対話,「自分のための大切な時間を確保する」という自己コントロールの実践的ツールと述べられています。深い瞑想の体得には優れた指導者が必要とも記述されていますが,「5分間瞑想」であれば,落ち着かない自分をいつでもリセットできそうです。

(『看護教育』2011年2月号掲載)
学生たちが今の自分の有り様に気づくきっかけに瞑想を (雑誌『看護教育』より)
書評者: 安藤 詳子 (名古屋大学医学部保健学科教授)
 私は日本死の臨床研究会の活動を通して,著者である大下氏の数々の著書や取り組みを知りました。大下氏は,研究会等で「スピリチュアル・コミュニケーション」等のワークショップを開催したり,ご自身の飛騨千光寺における研修を企画したり,大変,精力的に活動されています。

 本書は,僧侶である著者が実践してきた瞑想を医療者や患者・クライアントが行うことで,心の安らぎを得ることが容易になることから,その実践を勧める内容になっています。看護基礎教育に携わる私の立場から考えてみますと,学生に対する教育的関わりの一つとして活用できると思います。

 実際に,医療の現場において,医療職,とりわけ看護職は,患者さんの生活場面に触れる機会が多く,患者さんと家族が心身の苦痛に苦悩するさまざまな姿に出会います。手術を受けることになったが,不安でどうしようもなく眠れない患者さん,障害をもって生活する将来をイメージできず,諦めの心境に陥りリハビリに取り組むことができない患者さん,がんを告知されて戸惑う患者さんや家族,がんの再発を告げられ,治療困難な状況を説明されて,大切な人を近い将来に失うという予期的悲嘆に苦悩する家族など……。また学生たちも,実習で初めてこのような場面に遭遇していきます。

 ベテラン看護師の場合,まずその状況を察知しながら周囲の環境を考慮し,その患者さんや家族に対処できるように,時間と場所を調整して設定します。そして,患者さんや家族の気持ちにしっかりと向き合い,その語りに耳を傾けて受け止めます。患者さんや家族は,自分の気持ちを確実に受け止めてくれた看護師が存在したこと,またその後もサポートされることによって,次第に元気を取り戻し,その場を乗り越えられたりします。

 しかしながら,このような援助の実践は容易なことではありません。その場の状況を適切に判断できる能力,患者さんや家族と関われる表現力,場と状況を考慮した調整力も必要です。そして,最も必要なことは,患者さんや家族の語りを受け止めようとする自分自身の態度です。では,そのような態度はどのように形成されるかと言えば,それは,他者を理解するための自己理解,自己洞察であるということです。この自己洞察を深めるために,大下氏による瞑想が役立つと考えます。

 特に,看護基礎教育においては,演習などの時間を用いて教育プログラムに反映できるでしょう。臨床実習に出る前の演習で学ぶとステップとしても効果的かもしれません。学生たちが今の自分の有り様に気づき,それを了解できる感覚を持つことができれば,それを土台として,実習中や卒業後,よりその場にあった対人援助を実践していくことができるようになると思います。

(『看護教育』2011年1月号掲載)
瞑想の入り口に立つ
書評者: 眞嶋 朋子 (千葉大教授・成人看護学)
 本書の筆者,大下大圓氏は,平成20,21年度千葉大学の普遍教育教養展開科目「いのちを考える」の講師としてお招きし,宗教を超えたスピリチュアルケアの考え方,方法について講義をしていただいた。人の苦悩に寄り添い,その人の内側からの力を引き出す大下氏の実践例から多くの学生が大変感銘を受けたというレポートの内容は,今も記憶に新しい。

 今回出版されることとなった『ケアと対人援助に活かす瞑想療法』は,医療,福祉,教育,企業,家庭内において,心身の安定,健康増進をめざすため活用可能な瞑想の具体的な実践方法とその理論的背景を紹介したものである。

 第I部は瞑想療法の実践編である。本格的に実践するためには,的確な指導者が必要とされているが,初心者であっても挑戦したい人であれば,瞑想するときの座り方,呼吸の仕方,身繕いなど,始める前の準備が具体的に記載されているので,本書をみながら,瞑想への具体的なイメージが可能で,自分もやってみようかなと取り組みへのハードルが下がる。

 第II部では実践事例が示され,精神保健,緩和ケア,助産・子育て期,学童期,青年期,福祉,教育の現場,企業人育成,自死予防と家族支援を行う上での方法と留意事項が紹介されている。私は昨今の大学生の問題を見聞する立場にあるので,青年期の項に関心を持った。青年期においては「この時期,一番に気をつけてほしいのは,言葉巧みなカルトからの誘いです」と述べられ,正しい瞑想活動を身につけることの大切さが強調されている。瞑想はカルトによるマインドコントロールにより,人の心をしばるものではなく,青少年が自由な選び取りの中から,瞑想の有用性を知り,実践することの大切さが示されており,大圓氏の勧める瞑想療法の妥当性が表されている。

 医療関係者は瞑想療法の効果の科学的根拠を求める者が多い。本書はその期待に応えるために,数多くの事例を用いて,瞑想療法の効果を示している。看護師に関連する内容でみると,第II部5章に,2009年に開催された千光寺における「自由な心の道場」で,緩和ケアに従事する看護師のバーンアウトを回避するトレーニング例が紹介されている。瞑想セッションに参加した緩和ケア認定看護師(13名)のアンケート結果によると,「瞑想はあなたの個人的感情(怒りとか悲しみ)などを調整するのに,有用であると思いますか」「瞑想の活用は,人生の意味や目的を考えるのに有用であると思いますか」に対し13名全員から肯定的な評価が示され,本トレーニングが効果的であることがわかる。本書はこのようなアンケートや,体験の内容の質的分析を通じて,瞑想療法による参加者の変化を詳細に例示していることは興味深い。

 本書の後半部分は理論編となっているが,瞑想法に関連するストレス研究なども紹介されており,がん医療などの代替補完療法に関心のある研究者が瞑想療法やそれに類似した方法を採用する際の参考になる学術的内容が示されている。

 また仏教のみならずユダヤ教,キリスト教,イスラム教等多くの宗教と瞑想との関連性にも触れられ,私のような仏教徒でないものであっても,瞑想に取り組むことが可能であると大変励まされた。最後の部分にマーガレット・ニューマンが本書で紹介されていることは看護研究者として感銘を受けた。大圓氏は,ケアされる者とケアする者が共に拡張され統合された意識に至ることの意義を,マーガレット・ニューマンの理論を通じて説明されている。個人の意思決定を優先する医療における現代の価値観とは異なるように思うが,個人主義的な考え方だけでは,医療者は健康への支援は難しいことを痛感する。このように,本書の理論編は著者の本領域の豊富な知識と実践的技量がうかがえる。しかしながら,あまり深く頭を悩ませることもなく,本書を読ませていただきながら,静かな心になり,花や鳥や山や空の風景が心に浮かび,目を開けていても穏やかに過ごすことができ,瞑想の入り口に立った気がした。

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