心臓突然死を予知するための
不整脈ノンインベイシブ検査

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非侵襲的(ノンインベイシブ)に心臓突然死、失神を予知する種々の検査法についてまとめた1冊。運動負荷試験、ホルター心電図、Head‐Up Tilt Test、心拍変動解析(HRV)、頸動脈洞反射感受性試験(BRS)、加算平均心電図(心室遅延電位)、QT/RR dynamics、T-wave alternans(TWA)、T-wave variability(TWV)、Heart Rate Turbulence(HRT)、Deceleration Capacity(DC)などを挙げ、その具体的な検査方法と診断の実際についてわかりやすく紹介している。
編集 田邉 晃久
発行 2010年03月判型:B5頁:312
ISBN 978-4-260-01058-0
定価 8,250円 (本体7,500円+税)
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 心臓突然死は年間,米国では約30万人,わが国では3~5万人と推定され,その約80%は心室頻拍・細動による。心臓失神も心臓突然死の数倍は存在すると推測され,突然死の前兆としての意義をもつ。このような観点から,心臓突然死・失神の予知は重要であり,多くの医師,とくに不整脈専門医の関心は高い。実際,2009年6月,31カ国からの参加者のもと横浜で開催された「第13回国際ホルター・ノンインベイシブ心電学会」(会長 田邉晃久)における3日間の410余題の講演・発表では,心臓突然死・失神が36題,突然死層別化・予知手法が49題と多数を占めた。
 しかし,現在,容易な心臓突然死予知の決定的な策はなく,不整脈が誘因と考えられる場合,まず,12誘導心電図,ホルター心電図,運動負荷心電図や基礎病態を把握するための心エコー,冠動脈CT,MRIなどの検査を行う。さらに,必要に応じ,診断,重症度把握,カテーテルやデバイス治療の要否のための侵襲的(インベイシブ)検査である心臓電気生理学的検査を施行する。しかし,心臓電気生理学的検査は入院を要し,数本のカテーテルを心臓内に留置し,高額な費用を要すなど,患者や家族にとって肉体的,精神的,経済的負担は大きい。
 近年,インベイシブな心臓電気生理学的検査を行うことなく非侵襲的(ノンインベイシブ)に心臓突然死を予知する種々の検査法が欧米を中心に考案,開発され,わが国でもデータが蓄積されている。このような検査法は,広く,わかりやすく紹介されるべきであるが,この領域の専門家が学会,論文,解説書などで報告している程度に留まり,不整脈を専門とする医師でさえ造詣が深くないのが現状と思われる。
 以上を鑑み,本書を発刊する必要性を感じた。本書では,まず心臓突然死の実情,突然死を起こす不整脈について述べた。次いで突然死・失神予知のための検査法としてのホルター心電図(植込み型ホルター心電図を含む),head-up tilt test(HUT),心拍変動解析,baroreflex sensitivity(BRS),加算平均心電図(心室遅延電位),QT/RR dynamics,T-wave alternans(TWA),T-wave variability(TWV),heart rate turbulence(HRT),さらにはごく最近発表されたdeceleration capacity(DC)などを挙げ,最新データを加味しながら概説した。各課題の執筆者はわが国におけるそれぞれの代表的な専門家であり,わかりやすい内容になったと自負している。
 本書は,心臓突然死の予知のみでなく,不整脈検査法として必要かつ普及が確実な内容を多く含み,心電学,不整脈学を学ぶ医師,さらに検査法としての書から臨床検査技師の皆様にもお役に立てると確信する。
 最後に,本書の発刊によせて,終始ご協力をいただいた大野智志氏はじめ医学書院のスタッフの皆様に感謝し,御礼を申し上げたい。

 2010年3月
 田邉晃久

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第1章 心臓突然死を予知するための検査の進め方
第2章 心臓突然死・失神と不整脈
 A 心臓突然死を起こす不整脈,その発生率と現状
 B QT延長症候群における突然死
 C QT短縮症候群における突然死
 D Brugada症候群における突然死
第3章 心電図
 A 12誘導心電図
 B 運動負荷試験
 C ホルター心電図 記録中の突然死例の検討を含めて
 D 植込み型ホルター心電図
第4章 自律神経機能評価
 A 心拍変動解析(heart rate variability:HRV)
 B 頸動脈洞反射感受性試験(baroreflex sensitivity:BRS)
 C ティルト試験(head-up tilt test:HUT)
 D heart rate turbulence(HRT)
 E deceleration capacity(DC)of heart rate
第5章 QT dynamics,QT/RR関係
 A QT dynamics
 B QT/RR関係
第6章 微小電位
 A 心室遅延電位(late potential:LP)
 B ウェーブレット変換解析
 C T-wave alternans(TWA)
 D T-wave variability(TWV)
第7章 ベクトル合成187チャネル加算心電図による致死的不整脈のリスク評価

付録
 A 心臓突然死予知あるいは予防治療に関するガイドライン
 B 主な検査機器一覧

 和文索引
 欧文索引

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ノンインベイシブな検査法を最新情報まで網羅
書評者: 早川 弘一 (日医大名誉教授/四谷メディカルキューブ院長)
 わが国において,心臓突然死のうちで不整脈によるものは年間約2万人の多数にのぼると推定されている。それゆえ,不整脈突然死の予知は極めて重要な課題である。予知する方法として従来から用いられてきたのは,心臓内にカテーテルを挿入して行われるインベイシブな電気生理学的検査法であった。しかし,本法は経験を積んだ専門家のみしか施行できず,患者の負担も大であることが難点であった。

 一方,ここ20数年来,ホルター心電図を含むノンインベイシブな心電図記録法の工夫から,不整脈突然死につながるとある程度予知できる,あるいは逆に突然死は発生しないだろうという予測が可能になりつつある。しかし現在のところ,かかるノンインベイシブな検査法を網羅したテキストは殆どなかった。ご本人自身もこの領域のパイオニアである本書の編者の前東海大学教授の田邉晃久氏は,この種のテキストの必要性を以前より主張されていたが,今回やっとそれが実現したことになる。

 不整脈突然死の原因としては冠動脈疾患,各種心筋症,心筋炎,重症心不全,高血圧性心疾患などがあり,特異な不整脈発生病態としてTorsades de pointesを含むQT延長症候群,QT短縮症候群,Brugada症候群,特発性心室細動,洞不全症候群,高度房室ブロックなどが挙げられる。

 これらの致死的不整脈の発生を概ね予知するノンインベイシブな検査としては田邉氏によれば,現在のところ,12誘導心電図,運動負荷心電図,ホルター心電図(応用したものとしてQT dynamics),QT/RR関係,加算平均心電図(late potential),T wave alternans,T wave variability,心拍変動解析,心拍turbulence,長期間使用可能な植込み型ホルター心電計などの多数の新しい方法が採用されつつある。

 本書ではこれらの検査が,どの種類の不整脈突然死を予知できるかについて,あるいは予知できないかについて25人の研究者により詳細な記述が行われている。さらに,致死的不整脈を除外するためのBaroreflex sensitivity,head-up tilt testなども取り上げられている。他方,187チャネル加算心電図などの新しい研究も収められている。付録の小林義典氏による「心臓突然死予知および予防治療に関するガイドライン」は極めて有用である。巻末には上記検査のための最新の機器が紹介され,購入の際には大変役立つであろう。

 これらの検査は今後ますます研究発展するであろうが,現時点における最新情報が本書に収められており,これらを応用することが不整脈突然死の予知,予防に役立つと確信できる。田邉教授の熱意に敬意を表するとともに,多くの医師,技師に精読を薦めたい。
突然死を予知するさまざまな検査法について詳述
書評者: 杉本 恒明 (関東中央病院名誉院長)
 大変興味深い本が上梓された。本書は今日,日常的に行われている体表面心電図に由来する検査記録が,突然死の予知にどこまで役に立っているのか,役立ち得るのか,現状を語り,将来を展望したものである。

 心臓性突然死の多くは電気的失調なのであるから,その前触れは心電図のどこかに潜んでいないだろうか,と考えるところである。第一に特異な心電図波形がある。QT延長症候群,QT短縮症候群,ブルガダ症候群などである。T波変動性(TWV)もその一つである。これらを検出するためには,各種の負荷試験が行われる。

 第二には,波形に秘められた微小な信号の検出がある。加算平均心電図,ウェーブレット変換解析などである。

 第三には,トリガーとしての自律神経機能変調がある。これには,心拍数変動性,heart rate turbulence(HRT)があり,圧受容体感受性や,ティルト試験の役割もある。

 突然死予知のために,それぞれどのような評価があるのであろうか,と思いながら,本書を一読した。巻末に,「心臓突然死予知あるいは予防治療に関するガイドライン」があった。安静時心電図のエビデンスレベルはクラスAとあった。長時間心電図もQT変化やT-wave alternans(TWA)の観察のためという意味もあって,クラスAであった。クラスBには運動負荷試験,植込み型ループ心電計,平均加算心電図,心拍変動,圧受容体反射,HRTが含まれていた。

 リスク層別化のための有用性は基礎心疾患によって異なる。これらの指標が危険因子である可能性は高いものの,「治療法を選択するためのガイドとしての臨床的有用性は確認されていない」場合が多いようであった。

 本書の各項を覗いてみる。QT延長症候群では1,2,3型のそれぞれで約1%,4~7%,14~17%の事故発生率とあった。QT短縮症候群では,34%に心停止の既往があった。ブルガダ症候群では,心室細動経験例では年10%に心事故の発生があった。心筋梗塞症例において,TWAは不整脈イベントを感度92%,陰性的中率99%で予測した。TWVを59microV以上とすると,致死的不整脈を予知する危険因子となる。

 近年,特に関心を持たれているのは,ブルガダ症候群における遅延電位やウェーブレット変換心電図などといった,いくつかの予測的要素の重なり,あるいは相互関係であった。本書では診断基準となる数値についての解説は行き届いているように思われた。

 ホルター心電図の項の基礎には,編者,田邊先生の「Case Studiesホルター心電図記録中の急死例」という報告書があり,44の事例を収集したものである。前述のガイドラインでは,ホルター心電図ではQT変化やTWAの経時的観察ができる点に有用性を評価している。ぜひ,今後,この視点からの解析もお願いしたい。

 非侵襲的検査法はコメディカルの職種の方々にもお馴染みの検査法である。基準となる数値は本書に詳述されている。本法が心臓突然死を予知し,予防を工夫させるために,可能性があることを信じたい。そのためには,これらの方法の理解が一段と深まり,普及され,さらに新たな発見と追加がみられるようであってほしい。その前提として,本書が広く読まれ,多様な分野で実践されていくことを期待したいと思っている。

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