感染症ケースファイル
ここまで活かせる グラム染色・血液培養

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本書は以下の5点の特徴がある。①著者自身の経験症例の詳細な情報と豊富な写真、②case conference 方式により、知らぬ間にプレゼン法が身につく、③リアリティのある塗抹標本、④どんな施設でも活用できる「適正使用の5原則」を遵守した抗菌薬の選択、⑤市中病院での抗菌薬の感受性表と、適正使用のDOs & DON'Ts の提示。本書は専門医のいない市中病院で、感染性疾患を当たり前にかつ楽しく診療することを伝えている。
監修 喜舎場 朝和 / 遠藤 和郎
執筆 谷口 智宏
発行 2011年03月判型:B5頁:272
ISBN 978-4-260-01101-3
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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監修の序(喜舎場朝和/遠藤和郎)/(谷口智宏)

監修の序
 新しい臨床感染症の本ができた.著者の谷口智宏氏は,沖縄県立中部病院での研修医時代から感染症に強い関心を示していた.彼は優秀な研修医であっただけでなく,強い信念と持続力のある若者だった.やっていたことは決して難しいことではない.自身の経験したすべての症例を自作のソフトウエアに入力する.同時に,実施したグラム染色をデジタルカメラで撮影し取り込む.この繰り返しにより,4年間の研修を終えるころには,膨大な症例集ができ上がっていた.

 本書は著者の感染症に対する明快な考え方で貫かれ,通常のマニュアル的な本とはっきりとした違いを示している.
 1つ目の特徴:すべての症例が,著者自身が診療してきた症例であること.詳細な症例提示と豊富な写真は,あたかも目の前に患者がいるような臨場感を与える.
 2つ目の特徴:全例がケースカンファレンス方式となっている.まず,主訴,現病歴,既往歴,生活歴,身体所見,検査結果を提示する.上記から読者に鑑別診断を想起させる.そして経過と治療を述べ,最後に疾患,起因微生物,さらに使用した抗菌薬の特徴を説明する.このパターンは全例に変わることなく貫かれており,読者は知らぬ間に標準的なプレゼンテーション方法を身につけることができる.
 3つ目の特徴:起因微生物の推定に,グラム染色を中心とした簡便な塗抹検査が徹底して用いられている.塗抹標本は著者自らが診療の流れの中で作成したものである.デジタルカメラで撮られているため,画質はよいとはいえないが,そこにリアリティがある.症例が一期一会であるのと同じように,塗抹検査も同じ像を観ることは難しい.研修医の諸君は,常にデジタルカメラをポケットに忍ばせ,塗抹検査や皮疹などを「収集する」ことを勧めたい.
 4つ目の特徴:抗菌薬の選択に際しては,「適正使用の5原則」を頑固に遵守している.(1)起因菌に有効,(2)可能な限り狭域スペクトル,(3)副作用が少ない,(4)安価,(5)感染臓器への移行性がよい.使われた抗菌薬はどの施設にもある標準的なもので,新薬とくに広域抗菌薬の出番が少ないのも特徴である.
 5つ目の特徴:各症例提示の最後に抗菌薬の感受性表がある.各抗菌薬が教科書的にカバーする微生物を示すのではなく,市中病院である沖縄県立中部病院で検出された微生物の感受性を示している.同時に,抗菌薬の適正使用の原則に基づいて,初期研修医に使って欲しい,あるいは使うべきでない抗菌薬を示している.

 習慣が人生を作るという.症例の記録と塗抹検査の繰り返しという平凡な日常業務を,非凡に続ける粘りが本書の誕生に繋がった.
 症例は,どこの病院でも遭遇する疾患が中心である.本書は専門医のいない市中病院で,感染性疾患を当たり前にかつ楽しく診療することを伝える良書である.

 2011年1月
 喜舎場朝和/遠藤和郎



 この本は,臨床に携わる一人でも多くの方にグラム染色と血液培養の重要性を伝え,日常診療に役立てていただくために書き上げました.
 人類はこれまでさまざまな病原微生物による感染症に悩まされてきましたが,イギリスのフレミングが1928年にペニシリンを発見し,第二次世界大戦を機に臨床で使用されるようになってから一変しました.人体を傷つけずに病原菌のみを射抜くペニシリンは「魔法の弾丸」と称され,数多くの生命を救いました.その後抗菌薬の開発は飛躍的に進み,世界中に普及しましたが,一方で抗菌薬を大切にする姿勢が薄れ,不必要に広域な抗菌薬が多用される傾向にあります.その結果今日の日本でも,MRSAが市中感染として広がり始め,ESBL産生菌は増加し,病院内では治療薬のない多剤耐性緑膿菌さえみられるようになっています.
 この状況を改善するにはどうすればよいでしょうか.私たち臨床医ができることは,抗菌薬を適正に使用することです.そのためには抗菌薬の特性を正しく理解するだけでなく,感染病巣がどこなのか,起因菌は何であるのかを明らかにするよう日頃から努めなければなりません.そこで有用なのがグラム染色と血液培養です.グラム染色は,喀痰や尿など局所における菌と宿主の戦いの場を明らかにし,血液培養は,菌が全身に広がっているかを判定します.グラム染色を怠ると,起因菌を絞り込めず,広域な抗菌薬を選ばざるを得ません.血液培養をおろそかにすれば,敗血症の診断が遅れ,しばしば重症化します.

 筆者が内科研修医として4年間過ごした沖縄県立中部病院では,問診と診察に加え,医師が自らグラム染色を行い抗菌薬を選択し,治療を開始する前に血液培養を2セット採取することが当たり前に行われています.そのような環境であっても,感染症の診療は容易ではありません.グラム染色を駆使して狭域抗菌薬を開始したものの,翌日も発熱が続き,抗菌薬が効いているのか不安になることもしばしばです.そんなときはグラム染色をもう一度行い,菌量が減少していることを確認できれば,ほっと一安心できます.起因菌はおろか感染病巣もわからず,えいやと広域抗菌薬を開始したものの,今後どうしたものかと悩んでいたら,前日に採取した血液培養が陽性となり,一気に診断に結びつくことも少なくありません.
 グラム染色と血液培養を重視する施設は一部にとどまりますが,近年はその状況が変わりつつあります.ITの進歩により情報の検索は容易となり,臨床に重点を置いた良書が増え,経験豊富な指導医を交えた勉強会も全国で開かれており,やる気と向上心のある若手医師は,グラム染色や血液培養の重要性を認識しています.そのような臨床現場で奮闘されている方々に,この本が少しでもお役に立つことを願っています.

 本書ができあがったのは,今まで出会った患者さんはもちろんのこと,指導医や先輩医師からの教育,同期との切磋琢磨,後輩やコメディカルの方々からの鋭い指摘があってこそです.研修医の頃から厳しくも愛情のある指導をしてくださり,医学書院の総合診療月刊誌『JIM』への2年間にわたる連載と本書の監修を快く引き受けてくださった前沖縄県立中部病院内科部長の喜舎場朝和先生と,同院感染症内科の遠藤和郎先生(現内科部長)にまずお礼を述べさせていただきます.そして私のグラム染色のコレクションを御覧になり,その出版を勧めてくださった中部病院泌尿器科の新垣義孝先生(現医療部長兼泌尿器科部長),医学書院へ紹介してくださった前中部病院総合内科の徳田安春先生(現筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター総合診療科教授),細菌検査の基本を手とり足とり教えてくださり,貴重なデータも提供してくださった同院検査科細菌検査室の山里香代さん,宮里博子さん,仲間美香さん,八幡照幸さん(現沖縄県立北部病院検査科),照屋真利子さん,その他の中部病院や沖縄県立八重山病院でお世話になった皆さん,原稿のチェックを手伝ってくれた中部病院同期の豊川貴生先生(現国立感染症研究所感染症情報センターFETP),同院前エクスターンの丸山順子先生(現東京都立駒込病院膠原病科),同院後輩の松永諭先生(現佐賀大学医学部総合診療部助教),同院後輩の吉田真紀先生(現久留米大学医学部医学科病理学講座助教),独立行政法人国立病院機構大阪医療センター臨床検査科細菌主任の木下幸保さん,同院薬剤科の島本裕子先生,さらに現在HIV診療を中心に指導してくださっている同院臨床研究センターエイズ先端医療研究部長の白阪琢磨先生と同院感染症内科科長の上平朝子先生を始めとした大阪医療センターの皆さん,医学書院の月刊誌『JIM』担当安部直子さんと伍井さゆりさん,書籍担当の緒方美穂さん,制作部の福田亘さん,ありがとうございました.最後にいつも支えてくれている妻の愛子にこの場を借りて感謝致します.

 2011年1月
 谷口智宏

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監修の序

本書の利用法と注意事項

総論
I 感染症診療の流れ
II グラム染色
III 抗菌薬

各論
I 呼吸器感染症
 CASE-01 「市中肺炎と最多の起因菌」
  グラム染色の所見から狭域抗菌薬で攻める
 CASE-02 「市中肺炎と2番目に多い起因菌」
  耐性機序により抗菌薬の感受性パターンが異なる細菌
 CASE-03 「尿路感染症を合併した高齢者の市中肺炎」
  グラム染色に基づき呼吸器と尿路を同時にカバーする
 CASE-04 「嚥下機能が低下した発熱患者」
  培養だけでは起因菌をとらえきれない
 CASE-05 「入院不要の呼吸器感染症」
  経口抗菌薬の選択にもグラム染色を活用する
 CASE-06 「重症肺炎」
  重症感染症でもグラム染色を駆使し,抗菌薬の種類と量を決定する
 CASE-07 「頻回の入院歴がある発熱患者」
  過去の培養結果も参考にして抗菌薬を選択する
 CASE-08 「咽頭痛がある発熱患者」
  咽頭の膿もグラム染色を行い起因菌を明らかにする
 CASE-09 「COPDと直近の入院歴がある発熱患者」
  起因菌の情報を少しでも早く得るには,細菌検査室に足を運ぶ
 CASE-10 「胸水が貯留した発熱患者」
  臭う検体はグラム染色を行い,好気培養だけでなく嫌気培養も行う
 CASE-11 「慢性咳嗽がある発熱患者」
  グラム染色では染まらない細菌
 CASE-12 「急性の呼吸苦で来院した患者」
  グラム染色で細菌が見つからないことも重要な所見

II 皮膚軟部組織感染症
 CASE-13 「視診で診断する感染症」
  まず2種類の菌をカバーしておく

III 尿路感染症
 CASE-14 「腎盂腎炎と最多の起因菌」
  CRPが低値でも悪寒戦慄があれば,速やかに血液培養を採取する
 CASE-15 「腎盂腎炎と2番目に多い起因菌」
  忙しくてもトイレは我慢しないように
 CASE-16 「中高年男性の尿路感染症」
  抗菌薬の臓器移行性が重要となる疾患
 CASE-17 「糖尿病患者の尿路感染症」
  熱がなくとも感染症は否定しない
 CASE-18 「既に広域抗菌薬が開始された尿路感染症」
  抗菌薬開始後のグラム染色でも,隅々まで探せば起因菌が見つかることも
 CASE-19 「尿路結石を伴う尿路感染症」
  この腎臓を見たら画像評価を
 CASE-20 「若い男性の尿路感染症」
  思い当たるふしがあるはず

IV 消化器感染症
 CASE-21 「急性腸炎と便グラム染色」
  便グラム染色ではカモメを探せ
 CASE-22 「黄疸を伴う腹腔内感染症」
  腹痛と肝機能障害があれば画像評価を
 CASE-23 「抗菌薬曝露歴のある腸炎」
  便培養よりもC. difficile によるトキシンを調べる

V 血管内感染症
 CASE-24 「全身倦怠感以外の症状に乏しい発熱患者」
  血液培養を採らなければ診断できない
 CASE-25 「悪寒戦慄を繰り返す発熱患者」
  血管内カテーテルが留置されていれば,血液培養が必須
 CASE-26 「人工物への感染症」
  持続的菌血症を呈するときは,まず血管内感染症を疑う

VI 骨関節感染症
 CASE-27 「腰を痛がる発熱患者」
  発熱の原因がわからないときこそ血液培養を採取する
 CASE-28 「臀部を痛がる発熱患者」
  起因菌不明のまま治療を始めるときは,血液培養は3セット以上採取しておく
 CASE-29 「膝を痛がる発熱患者」
  関節液のグラム染色が非感染症の診断に寄与することもある

VII 手術部位感染症
 CASE-30 「手術後の発熱患者」 創部の膿もグラム染色する

VIII 中枢神経系感染症
 CASE-31 「意識レベルが悪い発熱患者」
  中枢神経系へ移行する抗菌薬を大量に投与する
 CASE-32 「神経症状のある発熱患者」
  抗菌薬で小さくならない膿瘍は外科的ドレナージを

IX 補足
 その他の重要なグラム染色写真

参考文献
索引(事項,細菌・ウイルス・真菌・原虫・寄生虫別,抗菌薬・薬剤別)

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グラム染色の素晴らしさを教えてくれる本
書評者: 藤本 卓司 (市立堺病院・総合内科部長)
 このたび沖縄県立中部病院の卒業生である谷口先生の手によって,感染症の学習を身近なものにしてくれる素晴らしい本が発刊された。「感染症を分かるようになりたい。でも繰り返して勉強してもなぜかうまく頭に入らない」と悩んでいる人は少なくないと思う。私自身も若いころそのような数年間を過ごした経験を持つ一人である。感染症のとっつきにくさの原因の一つは,“相手(=原因微生物)の顔”が見えないことではないだろうか。臨床は五感を働かせて進めてゆくものであるから,もし自分の眼で原因微生物の姿を見ながら診療を進めることができれば,感染症診療はずいぶん身近に感じられるはずである。この本はグラム染色の素晴らしさ,特にグラム染色が臨床上の方針決定に直結する重要な情報源となることを教えてくれる。

 すべての症例が問題形式になっており,見開き2ページが問題に,3ページ目以降が解説に充てられている。問題文の右ページには検体のグラム染色写真が示されていて,読者は病歴,身体所見,初期検査のデータ,そしてグラム染色像を見ながら,「さあどうしよう?」と検査や治療の方針を考える,という仕様になっている。抗菌薬を始めるべきなのか,もし開始するならどの薬剤を選ぶのか,という判断にとどまらず,投与中の抗菌薬は効いているのか,続けてよいのか,変更すべきなのかなど,グラム染色の情報を基に考えを進めてゆく手順が丁寧に解説されている。そこでは感染症診療の基本事項や思考過程が症例ごとに省略されることなく何度も述べられていて,読者は症例をこなしながら繰り返して頭に叩き込むことができる。谷口先生の工夫を強く感じるのは抗菌薬の解説である。一つ一つの薬剤が症例に散りばめられて登場する。本をすべて読み終わってみると,いつの間にか抗菌薬もすべて勉強し終わっているという巧みな構成となっている。

 ところで,グラム染色の写真はいずれも顕微鏡の接眼レンズから直接デジタルカメラで撮影したものだという。にもかかわらず画像が美しい。この方法であれば,検査室のデジタル顕微鏡でなくても誰でも気軽にグラム染色像を撮影・保存することができる。

 独りで学ぶにはもちろんのこと,小グループで行う学習会などにも最適の本である。この本を読み終わったときには,きっと読者は「自分も染めてみたい」と感じられることと思う。そして感染症診療がぐっと身近なものに変わっているに違いないと確信する。

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