胃の拡大内視鏡診断

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胃の拡大内視鏡診断は「難解」とのイメージが拭い去れない。本書では、癌だけでなく、胃炎の拡大像も提示し、捉えられるさまざまな所見を解説。所見から診断へのアプローチの解説には、著者作成による胃癌診断フローチャートを用い、「簡潔に」解説した。また、実際の症例に当てはめ、拡大像と組織像との対比による検証もなされ、読者の診断能向上だけでなく、難解さも解きほぐされるに違いない。
八木 一芳 / 味岡 洋一
発行 2010年10月判型:B5頁:148
ISBN 978-4-260-01039-9
定価 11,000円 (本体10,000円+税)
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 筆者が医師になった1984年から現在に至るまで胃内視鏡学の分野にいくつかの新しい技術や病態概念が登場した.1980年代はEMRである.1990年代はH.pylori が胃疾患の概念を覆した.2000年代にはESDが大ブレークし,そして2010年代はIEE(image enhanced endoscopy)と拡大内視鏡が診断学を変えようとしている.
 H.pylori が胃疾患の概念を覆し始めたときに,筆者は「非感染・正常胃の存在」を世に示すために胃の拡大内視鏡観察を始めた.そして現在,IEEと拡大内視鏡の渦中にいるのは偶然ではなく必然だと思う.
 筆者が初めて握った拡大内視鏡は,Q200Zというスコープで1998年のことであった.H.pylori 非感染胃粘膜に観察される規則的な点状構造物が集合細静脈であることを証明したくて,慢性胃炎粘膜と対比して拡大観察していた.1999年からQ240Zになったが,その頃は大腸の拡大内視鏡観察が全盛期であり,胃の拡大内視鏡観察を行っていると言うと変人扱いされた時代であった.その後,H260Zに変わった.すなわち,これまで3世代の拡大内視鏡を使用してきた.
 Q240Zを使用し始めて間もなく,白色光のみの胃癌観察では物足りなくなり,酢酸撒布を用いてpit観察も行ってきた.NBIの登場とともにNBI併用が日常の拡大観察の大部分を占めるようになったが,しばらくは酢酸撒布でのpit診断も並行して行った.それは,NBI拡大で観察される血管像とwhite zoneで形成される粘膜模様(white zone unit)を,酢酸撒布で観察される立体的な像と比較対比するという現在に繋がる.
 12年間の拡大内視鏡観察で,筆者が一貫して行ってきたことは,拡大像と生検標本,外科切除標本,またはESD標本から得られるプレパラート組織像とのできる限りの一対一対比検討であった.
 生体内観察の色彩が強い臨床研究的な拡大内視鏡診断を行ってきたが,2006年に新潟拡大内視鏡研究会を立ち上げて以降は,大きく方向性が変わった.この研究会では,筆者が行ってきた拡大内視鏡診断の知識を基盤として,「みんなで使える拡大内視鏡診断学,用語,考え方」と「病理像との対話」を追求し,「新潟の拡大内視鏡診断学を確立し,全国,そして世界に普及させる有志の会」という方向性を打ち出した.筆者ら二名を中心に,本書にも症例を提示いただいた新潟大学第三内科の小林正明先生や竹内学先生,病理学教室の渡辺玄先生たちをはじめとして,新潟県の若手内視鏡医と病理医が集まり,水平面である拡大像と垂直断面である組織像を基に,多くの討論を交わしている.あるときは,夕食代わりのサンドイッチを片手に1例を2時間討論して,気づいたら夜の11時過ぎだったということもあった.内視鏡医と病理医それぞれが考える,用語や形態学的な概念の相違点を確認し,共有できる組織の3次元的構造をイメージしながら現在も討論を続けている.
 研究会での討論や検討から,様々な用語や読み方も生まれた.「white zone」もその1つである.内視鏡医が拡大像から垂直断面である組織像をイメージして,他の内視鏡医とそのイメージを共有したり,その仮想組織像を基に病理医と対話するために生まれてきた用語であり,概念である.
 この研究会で行われている拡大内視鏡診断学は全国の内視鏡医に伝えるべきであり,全国に普及すべきである,という信念のもとに本書は作成された.20例に及ぶ症例検討は研究会のエッセンスを伝えている.拡大像と組織像との対比から生まれてきた多くの所見や読みはまだまだ未完成であるが,筆者らの胃拡大内視鏡診断学はさらに進化すると約束する.
 本書を作成するにあたって,日常診療だけでも忙しい当院において拡大内視鏡の臨床研究を温かく見守って下さった新潟県立吉田病院の関根厚雄先生,学会や研究会などで病院を留守にすることが多い筆者に代わってしっかり病棟を守って下さった中村厚夫先生,水野研一先生をはじめとする新潟大学第三内科からの出張の先生方─有賀諭生先生,坪井清孝先生,渡邊順先生,佐藤聡史先生─にまずは心より御礼を申し上げたい.
 また,新潟拡大内視鏡研究会のコア・メンバーとして会を支え,今回,本書の症例呈示も快く引き受けてくれた小林正明先生,竹内学先生,橋本哲先生にも感謝したい.
 最後に,今や世界の共通用語となった「RAC」への命名のきっかけを作って下さった渡辺英伸先生に深甚なる感謝を捧げたい.研修医時代から内視鏡像と組織像の対比の重要性を教えていただき,気がついたら水平面の拡大像と垂直断面の組織像の対比検討を行っていたのは,まさに先生の影響以外の何ものでもない.
 紙面の都合上ここにはお名前を挙げることができなかったが,これまで筆者を支えて下さった多くの方々にこの場を借りて御礼を申し上げたい.

 2010年8月 蝉しぐれの新潟にて
 八木一芳
 味岡洋一

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序章 正常胃粘膜とは?慢性胃炎とは?
 1.Helicobacter pylori 発見以前
 2.Helicobacter pylori 発見後
 3.RAC誕生!
 4.RAC誕生以後
 5.RACの拡大像を基本に発展した慢性胃炎拡大分類(A-B分類)
第I章 正常胃粘膜の通常および拡大内視鏡像
 1.H. pylori 非感染症例の幽門腺,胃底腺,噴門腺の分布
 2.正常前庭部内視鏡像
 3.正常胃体部内視鏡像
第II章 慢性胃炎の拡大内視鏡像
 1.胃炎の拡大分類(A-B分類)
 2.A-B分類の詳細
第III章 分化型早期胃癌の拡大内視鏡像
 1.分化型胃癌のNBI拡大パターン分類
 2.Mesh pattern
 3.Loop pattern
第IV章 未分化型早期胃癌の拡大内視鏡像
 1.未分化型胃癌には,表層を非癌上皮が覆うことが多い
 2.未分化型胃癌に出現する血管像
 3.未分化型胃癌におけるwhite zoneの変化
 4.未分化型胃癌の粘膜内進展範囲診断は,NBI併用拡大観察で可能か?
第V章 NBI併用拡大観察時の胃癌診断のフローチャート
 1.なぜフローチャートを作成したか
 2.フローチャートの解説
第VI章 「化学的」色素法-酢酸併用法
 1.酢酸併用法の概略
 2.酢酸エンハンス拡大内視鏡観察
 3.酢酸ダイナミック・ケミカル法
 4.酢酸・インジゴカルミン・サンドイッチ法
 5.酢酸撒布下NBI観察法
第VII章 症例
 1 Mesh pattern症例(1)
 2 Mesh pattern症例(2)
 3 Loop pattern症例(1)
 4 Loop pattern症例(2)
 5 White zoneの模様から癌と診断し,範囲診断を行ったloop pattern隆起型病変
 6 White zoneの模様から癌と診断し,範囲診断も行ったloop pattern陥凹型病変
 7 中分化管状腺癌症例(loop pattern症例)
 8 IIb病変
 9 萎縮粘膜模様類似の拡大像を呈するIIa病変
 10 中分化管状腺癌症例
 11 小型隆起を示し,びらんなど炎症性変化との鑑別が困難な中分化腺癌
 12 病変境界部で胃炎類似の拡大内視鏡像を呈した中分化腺癌
 13 分化型・未分化型混合胃癌症例
 14 中分化管状腺癌から低分化型腺癌症例
 15 未分化型胃癌症例(1)
 16 未分化型胃癌症例(2)
 17 WOSが観察される症例
 18 WOSが消失した症例
 19 WOSとmesh patternが混在する内視鏡治療後の再発症例
 20 血管パターンから認識できた2mmの微小高分化管状腺癌

文献
索引

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病理所見との対比検討で論理的に解説
書評者: 山部 茜子 (福島県立医科大学会津医療センター準備室・消化器内科)
 私が胃拡大内視鏡を学び始めたころ,異常粘膜を見た際に“何となく変だ”というのはわかっても,どうして変なのか,なぜそういった像になるのかということは全くわからなかった。理詰めではなく,こういうものなのだと納得していくしかないのかと諦めかけていた矢先に出合ったのが本書である。拡大内視鏡に関しての参考書はいくつかあるが,拡大内視鏡所見をここまで詳しく論理的に説明している本はないと思う。

 本書の特徴は,何をおいても各症例の拡大内視鏡所見と病理所見の一対一の対比検討であろう。局所的,表面的観察にとどまりがちな内視鏡所見を,病理所見と細かく対比・検討し,著者らの正確で豊富な知識に基づいた説明が加えられている。平面である内視鏡所見と,病理所見を対比することで3次元的構造をイメージしながら勉強することができ,新たな世界が広がってくる。まさに目からうろこである。本書の流れとしては,まずは基本となる正常粘膜の拡大内視鏡像の説明から始まり,次に慢性胃炎,分化型早期胃癌,未分化型早期胃癌と順序立っており,最終的には拡大内視鏡観察時の胃癌診断のフローチャートが示されている。必要な場所には親切な解説やシェーマ,細かい用語解説が添えられ,これから拡大内視鏡を始める人,あるいは初心者にとっても極めてわかりやすい内容となっている。写真や実際の症例を多数掲載することによって,系統立った理解に加えて視覚的な理解も十分得られる。また,拡大内視鏡の他にも,胃内視鏡診断学において重要な酢酸併用法の解説もされており,酢酸撒布で観察される立体的な像を加えることでさらに理解を深めることができる。

 本書のもう一つの特徴は,「ちょっと一息」や「拡大豆知識」などのコラムが記載されていることだろう。胃拡大内視鏡診断学の先駆けとなられてきた著者の先生方ならではの秘話が記載されており,非常に興味を引く。また,「拡大豆知識」においては,本書を読み進めていく上でのちょっとした疑問にまで言及されており,まさにかゆい所に手が届く内容となっている。著者の先生方の熱い思いが伝わってくる1冊である。

 本書は自然な流れで胃拡大内視鏡の世界へ導いてくれるものであり,読み終えるころには基本的な考え方が身につくようになっている。今後,胃拡大内視鏡診断はさらに大きく発展することは間違いなく,本書は内視鏡診断学に携わる者にとって,拡大内視鏡所見を理解するのに欠かせない書であると思う。多くの方々がこの本を手にし,ここから学ばれることを心より願う。
胃の拡大内視鏡所見から組織像を想起可能とする教科書の登場
書評者: 小澤 俊文 (佐藤病院消化器科)
 10年ほど前になるだろうか,成書にて胃の拡大内視鏡写真を見た。白色光にて捉えられた画像は胃炎粘膜のきれいな画像ではあったが,それ以上琴線に触れることなく時間が過ぎた。

 それから消化器内視鏡は飛躍的に光学的進歩を遂げ,NBI併用拡大観察がハイビジョンで可能となった。70年代の故吉井隆博先生による実体顕微鏡観察や榊信廣先生による胃の拡大観察粘膜分類(ABCD分類)はあったものの,H. pylori の発見前の時代であり,観察機種の問題もあり普及には至らなかった。90年代後半に細径の拡大内視鏡が開発されてからは各地の学会,研究会で胃の拡大観察に関する話題が取り上げられるようになったが主に癌が対象となったのは胃癌大国の日本では当然の流れといえる。

 そんな折,近隣で八木一芳先生の講演会があり40km離れた街に車を走らせ参加した。膨大かつきれいなスライドと拡大観察の動画に魅せられたのは確かだったが,何よりも内視鏡画像と病理組織との対比の繰り返し,そこから所見を構成する要素,すなわち病理組織構築像を「想定」する理論に驚倒した。会終了後に,八木先生から新潟での拡大内視鏡勉強会開催を伺いすぐに参加を決めた。そこから拡大内視鏡観察の奥深さに魅せられることになった。

 2010年10月に上梓された『胃の拡大内視鏡診断』は,前述した研究会に途中から参加させていただいた者として真に鶴首していた教科書である。きれいな内視鏡写真がふんだんに使用されており,ほぼ同じ数の組織像との対比は八木診断理論の真骨頂が貫かれている。

 全ページの約1/3が胃の正常粘膜と慢性胃炎という“異常粘膜”の解説に費やされる様は壮観であり,初学者の理解を深めるにはうってつけの書である。拡大観察で見られる血管と構造とをそれぞれ分析,分類する方法論は諸家と通ずるものであるが,氏は恒常性の高い“構造”に重きをおいてwhite zone(WZ)なる“光学的用語”を用いる。豆知識にはWZが観察される氏なりの想定理論が記されているが,本書を読了後に膝をたたく想いをするのは小生だけではあるまい。

 胃癌診断にはWZと異常血管の組み合わせからなるフローチャートが用いられる。2つの高分化型腺癌のパターン(mesh血管+不鮮明WZ,loop血管+顆粒・乳頭状WZ)を基本とし,それに合致しない所見(irregular mesh pattern, wavy micro vessels, ghost-like disappearance of WZなど)では他の組織像を考慮するとしている。胃癌の多様性に対処する優れたstrategyであり,理解するには多少の時間を要するものの,WZの可視性と組織の成り立ちを理解できれば自らの切除標本を顕微鏡で覗く衝動に駆り立てられる。

 最後に新潟での研究会コアメンバーによる20症例が呈示されているが,ここまで読み進めた読者は会参加の疑似体験ができるはずだ。“何を観ているのか”が理解できたときの喜びを,本書を通じてぜひとも感じていただきたい。またいくつかのコラムには,用語誕生の秘話などが書かれており興味は尽きない。

 八木先生は,胃炎があまり注目されていない時代から静謐にも愚直なまでに拡大内視鏡を用いて病態を追求してきた。時には心ないやゆもあっただろう。Helicobacter 診療が当たり前となった現在,その先見性は正しく,胃炎とは“非癌という正常粘膜”ではなく「炎症細胞浸潤を来した異常な粘膜」であることを改めて認識すべきである。八木先生の想いは辛酸入佳境に違いない。

 大腸や食道領域における拡大観察の有用性の後塵を拝しつつも,胃には胃炎という炎症(異常)の場が存在することが多いため,癌の範囲診断や深達度診断など興味も尽きないし,また課題も多い。新潟における八木先生を中心とした臨床と病理とのタッグがこの問題の答えに近づくことを期待し,気は早いがさらなる充実した内容の第二版を心待ちにしている。

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