摂食障害の認知行動療法

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「摂食障害患者への認知行動療法」の実施やテクニックについて詳しく紹介。原因を問うよりも、病状を持続させているプロセスに注目し、まず摂食行動異常、そしてその背景にある精神病理についても扱っている。摂食障害患者にかかわる医師、臨床心理士にとって、日常臨床をより効果的に進めるための参考書。
監訳 切池 信夫
原著 Christopher G. Fairburn
発行 2010年05月判型:A5頁:392
ISBN 978-4-260-01056-6
定価 6,050円 (本体5,500円+税)

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監訳者 序

 Fairburn C.G. 博士の過食症の認知行動療法を知ったのは,確か1990年代にシカゴで開催された国際学会である.博士がシンポジウムでこの治療法の有効性について報告していた.「こんな治療法もあるのかな,ほんとに効くのかな」という印象をもった.その頃の私は摂食障害の原因追求のための生物学的研究が中心で,患者さんからは「吸血鬼」と囁かれるほど採血を繰り返していた.しかしそれと同時に,「患者さんに協力してもらうためには,治療に上達せねば」との思いも募り,効くといわれている治療法を手当たり次第行っていた.そして神経性食思不振症には行動療法を,神経性過食症患者の治療には,薬物療法も効果なく打つ手がないという状態であった.
 その後「Handbook of psychotherapy for anorexia nervosa & bulimia」(Garner D.M. &Garfinkel P.E.,The Guilford Press, 1985)の中にFairburn C.G. 博士による「Cognitive Behavioral Treatment of Bulimia」を見つけ,これを中心に認知療法の本を参考にしながら,神経性過食症患者さんにこの治療法の試行錯誤を繰り返した.そしてそれまで得たことのない効果を実感でき,この治療法の考え方や実践にのめり込んでいった.そして拙著「摂食障害―食べない,食べられない,食べたら止まらない」(医学書院,初版2000年)の中で,Fairburn C.G. 博士の認知行動療法を紹介した.これは2009年の第2版においても掲載している.
 一方Fairburn C.G. 博士は,その後もこの治療法の改良を重ね,神経性過食症だけでなく摂食障害の精神病理に焦点を当てた治療法として集大成し,本書を2008年に上梓した.したがって,本書の内容は,拙著で紹介している神経性過食症の認知行動療法を進化させ,さらに強化したものである.そして摂食障害の診断にかかわらず使える内容となっており,Fairburn C.G. 博士の慧眼にうなずく思いである.というのはDSM-IVの摂食障害の診断基準ほど,使用者を戸惑わせるものはない.それは同じ1人の患者が診る時期で診断名が異なるからである.例えばある患者が神経性食思不振症の制限型から始まり,過食と嘔吐を生じて過食/排出型になり,体重が回復すると神経性過食症の排出型になる.さらに嘔吐が止まると神経性過食症非排出型になるからである.このようなケースは決してまれでなく,むしろこのような経過をたどる場合が多い.それはあたかもブリ(鰤)が,「ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ」(関西圏)と成長にあわせて呼び名が変わるごとくである.本書はこのような難しい診断の問題を超えたところにあり(超診断的),今後,診断基準が変わっても耐えられる治療法となっている.
 本書についての読み方,使い方については,第1章で詳しく書かれているのでここではふれない.本書の魅力は,なんと言っても第5章から第12章までで,摂食障害の中核の精神病理に焦点を当てた認知行動療法の実施法について詳しく具体的に説明している点である.摂食障害の原因を問うよりも,これを持続させている過程に焦点を当て,まず摂食行動異常,そしてその背景にある精神病理を扱っている.治療技術面が前面に出ているが,治療を成功させるにはまず治療者と患者との良好な関係がなければならないことを忘れてはならないことはFairburn C.G. 博士も強調している.
 本書を摂食障害の臨床に関わっている医師,心理士にぜひとも一読を薦めたい.この治療法の考え方や手順を理解するだけでも役に立ち,他の行動異常の治療にも応用できるのではないか.本書が刺激となり,さらにこれを改良発展させる治療者が出ることを期待したい.
 この度,医学書院の西村僚一氏からこの本の翻訳の機会をいただき,医局スタッフ全員で翻訳することになった.みんな翻訳には苦労したようであるが,大変勉強になったと思う.悪戦苦闘していただいた教室の諸先生方にここに謝意を表したい.また監訳にあたり,私の力不足もあり必ずしも流暢な日本語に訳せたとは思っていないし,誤訳もあると思う.この点については,この場を借りて,読者の皆様方にご寛容の程をお願いする次第である.

 2010年4月吉日
 切池信夫

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監訳者序

第I部 総論
 第1章 本書の使い方
 第2章 摂食障害-超診断学的な見方と認知行動療法
 第3章 摂食障害に対する認知行動療法改良版(CBT-E)の概要
 第4章 患者-評価,治療への準備,身体治療
第II部 CBT-Eのコアプロトコール
 第5章 始め上手
 第6章 早期変化の達成
 第7章 治療評価と今後の計画
 第8章 体形へのこだわり,体形確認,肥満感と思考態度
 第9章 摂食抑制,食事規則,摂食コントロ-ル
 第10章 出来事,気分,食行動
 第11章 不食と低体重
 第12章 終わり上手
第III部 CBT-Eの適用
 第13章 病的完全主義,中核の低い自尊心,対人関係問題
 第14章 CBT-Eと若年患者
 第15章 入院患者,デイ患者,外来患者用CBT-Eの2タイプ
 第16章 複雑な症例と併存症
あとがき
 将来に向けて
付表
 付表A 摂食障害評価法(EDE 16.0D版)
 付表B 摂食障害評価質問票 (EDE-Q 6.0)
 付表C 臨床的障害評価法 (CIA 3.0)

索引


この本に含まれているすべての複写可能な表や図は,www.psych.ox.ac.uk/credo/cbt_and_eating_disordersにある.

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摂食障害患者の治療的アプローチを丁寧に紹介
書評者: 大野 裕 (慶大保健管理センター教授・臨床精神医学)
 「いたれりつくせり」というのが,『摂食障害の認知行動療法』を読んだときの私の率直な感想だ。摂食障害の認知行動療法の第一人者であるChristopher G. Fairburn博士が,実に丁寧に,そして具体的に,摂食障害患者の治療的アプローチを紹介している本である。本書を読むだけで,Fairburn博士のスーパービジョンを受けているような感覚になる,素晴らしい出来だ。

 認知行動療法は,摂食障害に効果的であるエビデンスが多く報告されている治療法であり,3分の2の患者が改善していることが本書でも紹介されている。本書には,そうした治療法の臨床的実践に基づく最新の情報がふんだんに盛りこまれている。

 この本を読みながら,私は,認知療法の創始者のAaron T. Beck博士の言葉を思い出していた。Beck博士は研究会で,どのような方法を使っていても,患者さんが良くなったら認知療法ができたということだし,良くならなかったら認知療法ができなかったということだ,という趣旨のことを言っていた。すべての治療の効果発現の背景に認知の修正があるという趣旨の発言だが,同時に,認知療法は型にとらわれずに柔軟に実践されるべきだという意味でもある。

 そのBeck博士の言葉を思い出したのは,本書で提唱されているアプローチでは「(認知療法の基本的技法とされる)認知再構成法をあまり用いない」と書かれていたからだ。Fairburn博士は,自動思考やスキーマといった認知療法特有の概念をあまり使わないで,行動を通して患者の思考態度を変えていくというアプローチを取る。そのアプローチは,すべてが一体として働いて効果を現すとも言う。それもまた認知行動療法だ。

 本書で紹介されているそうしたアプローチがFairburn博士の豊富な臨床体験に裏付けされていることは,本書で紹介されている言葉かけから生き生きとした臨床感覚が伝わってくることからも,十分にわかる。こうした言葉には,一般臨床ですぐにでも使えるものが多く含まれており,臨床家にとってとても刺激的で有意義な内容だ。その実際を知ってもらうためには本書を読んでいただくしかないが,そのような生の言葉が伝わるような訳文も本書の魅力になっている。それは,本書の監訳者や訳者の臨床家としての力量によるものに違いない。摂食障害の治療者だけでなく,多くの臨床家に読んでいただきたい好著である。

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