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スピリチュアリティは健康をもたらすか
科学的研究にもとづく医療と宗教の関係

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本書は、米国における著者の研究のみならず、欧州をはじめ世界中の研究にもとづいて、心身の健康状態や発病率と信仰心やスピリチュアリティとの関係を詳細に述べている。取り上げている宗教やスピリチュアリティは西欧に限らず、韓国や台湾などの調査研究を採用していることから、日本も無関係ではない。医療費が高騰している米国の現状は日本も看過できず、本書の内容が日本の医療費問題を考えるうえでも参考になるだろう。
ハロルド G. コーニック
杉岡 良彦
発行 2009年09月判型:A5頁:232
ISBN 978-4-260-00918-8
定価 2,860円 (本体2,600円+税)
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訳者 序

 本書は,Harold G. Koenig(コーニック)によるMedicine, Religion, and Health:Where Science and Spirituality Meet(Templeton Science and Religion Series, Templeton Foundation Press, 2008)の翻訳である.
 初めて本書を一読したときの感動は,忘れることができない.このような研究がすでに海外では非常に多くなされていたことに驚くとともに,Koenigの著書が(少なくとも訳者の知る限りでは),これまで日本語に訳されていないことにも驚いた.それゆえ,本書はKoenigの多くの著書のうち,日本で最初の翻訳書となる.
 本書の最大の特徴は,スピリチュアリティや宗教が健康に及ぼす影響をあくまでも科学的な立場から研究している点にある.本書はこの領域における科学的研究に基づく論文の研究結果を整理し,わかりやすく説明をしている.つまり,喫煙が肺がんリスクを高める研究と同じように,本書では礼拝出席頻度と寿命の関係をはじめとして,スピリチュアリティや宗教が健康におよぼす影響が検討されている.
 本書の内容は極めて興味深く,わかりやすく書かれており,それゆえ本書は,看護師や医師をはじめとする医療の専門家や医療系の学生のみならず,宗教者の方々,また宗教/スピリチュアリティと健康の問題に関心をもたれる幅広い読者にも読んでいただける内容になっている.
 本書の構成であるが,序章では全12章の要点がコンパクトにまとめられており,まず序章を読むことによって,読者は本書の全体像をつかむことができる.そして,第1章から第4章までが,宗教/スピリチュアリティと健康の問題に関する「総論」にあたり,第5章から第10章までが,具体的な疾患や健康問題に,宗教/スピリチュアリティがどのように影響をおよぼすのかを論じる「各論」にあたる.そして第11章では,実際の臨床現場でどのようにスピリチュアリティの問題を扱うのかを具体的に述べている.簡単なまとめを第12章で行った後,さらに「付録」があり,この領域での重要な論文,著書などの概要を手短に読むことができる.本書の最後には400近くに及ぶ文献や注が載せられており,読者はこれを手がかりに,本文で取り上げられた原文を直接調べることができる.
 お勧めするのは,序章を読んだ後,引き続き,第2章を読まれることである.第2章では,21世紀の医学において,宗教やスピリチュアリティの問題がなぜ重要になるのか,その理由が詳細に説明されている.その後は,関心のある章を各自読み,最後に第1章を読まれるのがよいかと思う.
 さて,簡単に著者Koenigを紹介しよう.彼は1951年12月25日,カリフォルニア州で生まれた.スタンフォード大学を卒業後,カリフォルニア大学医学部へと順調な人生を送ったが,その後自ら心の病気を患い,医学部を一度ドロップアウトしている.その後,再び大学に戻り,自らの使命を自覚し,医師として研究者として,宗教/スピリチュアリティと健康の分野での多くの研究を手がけてきた.彼は,名門デューク大学に宗教,スピリチュアリティ,健康の関係を研究するセンターを創設し,現在もそのセンター長である.これまでの著書は40冊,論文は300以上に及ぶ.まさしく,この分野での第一人者である.
 ところで,大学時代の心の病に加えて,現在Koenigは全身の関節が炎症を起こし,動きが制限される進行性の病「乾鮮性関節炎」を患っていて,日常では車椅子を使うこともあるという.Koenigの研究者としての業績と,一人の人間としての多くの苦悩は,互いに影響を与えあっており,彼の苦悩はこの分野での研究の発展をさらに促しているように思える.苦悩は,おそらく神が彼に与えた大きな試練であり,恩恵でもあるのだろう(たとえば,新約聖書,ヤコブの手紙1章2-4節参照).
 本書はこれからの医療に対して多くの問題提起を行っている魅力的で刺激的な書物である.スピリチュアリティと医療の問題に関しては,これまで日本(特に医学領域)では,ほとんど議論されてこなかったが,昨今特に緩和医療などの分野で避けて通れない問題となりつつある.さらに予防医学分野でもこの問題のもつ意義はますます大きくなるだろう.
 今後大切なのは,宗教/スピリチュアリティが健康におよぼすポジティブな影響とネガティブな影響の両方を正しく評価し,医療のみならず,哲学や宗教学を含めたさまざまな角度から,この問題のもつ意義を議論することであろう.
 最後になりましたが,スピリチュアリティと医学,宗教と医学の分野に関し温かいご指導と励ましを頂いている先生方,特に京都府立医科大学教授,棚次正和先生,ならびに京都大学大学院文学研究科教授,芦名定道先生に御礼申し上げます.また,この領域への理解と関心を示して下さった旭川医科大学の吉田貴彦先生に感謝いたします.
 今回の翻訳書を出版するご英断をしてくださった医学書院看護出版部部長,林田秀治氏に深く御礼申し上げます.さらに翻訳に関して詳細な検討を加えていただいた同出版部2課の藤居尚子氏にこころから感謝いたします.
 本書が1つのきっかけとなり,日本においても「宗教/スピリチュアリティが健康におよぼす影響」に関する科学的研究が進み,その結果がこれからの医療の発展に寄与することを切に希望しています.

 2009年7月
 杉岡良彦

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序章

1 用語の定義
 宗教とは
 スピリチュアリティとは
 筆者が推奨する定義
 結び
2 21世紀の医学に求められるもの
 宗教と健康との関係は研究で明らかにされているのか
 臨床ではスピリチュアリティを取り入れているのか
 医師はスピリチュアリティをどのように捉えているのか
 21世紀の医療はこう変わる
 医療システムと信仰コミュニティのパートナーシップ
 結び
3 心から身体へ
 否定的感情が健康に与える影響
 社会的因子が健康に与える影響
 健康行動がもたらすもの
 結び
4 宗教と健康の関係
 宗教はコーピング行動となるのか
 宗教は社会的支援をもたらすのか
 宗教的信念によって行動は変わるのか
 向社会的行動がもたらす心身の健康
 結び
5 宗教とメンタルヘルスの関係
 宗教への関与がうつ病を軽減する
 宗教が自殺を予防する
 信仰によって不安は軽減される
 宗教はウエルビーイングをもたらす
 宗教への関与による楽観主義と希望の効能
 結び
6 免疫系と内分泌系を強化する信仰心
 液性免疫
 細胞性免疫
 コルチゾールと成長ホルモン
 結び
7 ストレスと心血管系の問題
 疫学研究が示す礼拝と高血圧の関係
 実験的研究によるスピリチュアリティと血圧との関係
 臨床試験が明らかにしたスピリチュアルな介入の結果
 スピリチュアリティがもたらす健康的な行動
 結び
8 ストレスと行動に関連する疾患
 冠動脈疾患
 心臓手術の経過
 脳卒中
 認知症
 糖尿病
 がん
 結び
9 スピリチュアリティと寿命の関係
 交絡因子と説明変数の違いとは
 宗教への関与と死亡率はどのように関係しているのか
 公衆衛生に与える影響
 最もすぐれた研究から得られた結果
 祈りが寿命と健康におよぼす影響
 宗教は死亡率を上げるのか
 結び
10 身体障害とスピリチュアリティの関係
 身体障害と信仰心との関係を考える
 障害をかかえた高齢者を対象とした研究
 礼拝で転倒への恐怖が軽減される
 信仰によって健康感がもたらされる
 障害をかかえた若年者とスピリチュアリティ
 結び
11 臨床でのスピリチュアリティケア
 なぜスピリチュアルニーズに対応するのか
 どのようにスピリチュアルニーズに対応するのか
 いつスピリチュアルケアを行うのか
 スピリチュアルケアから何が得られるのか
 何をしてはいけないのか
 結び
12 終章

付録 追加情報源
注釈および文献

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医療と宗教・スピリチュアリティの統合が健康をもたらす (雑誌『看護学雑誌』より)
書評者: 鈴木 聖子 (武蔵野大学 看護学部)
 私は宗教、そのなかでも仏教思想を学んでおり、日々、この考えを看護に取り入れることはできないものかと思案しているため、本書のタイトルを見たとき、「とうとう、目に見えない!形の無い! スピリチュアリティや宗教について、医療が真剣に取り組むようになったんだ……、ブラボー!」と、拍手喝采を送りたくなりました。

 たとえば、いわゆるスピリチュアル・ペイン(霊的痛み)と呼ばれる苦しみを体験している患者にどのように接したらよいのかわからず、もどかしい思いをした経験がある看護師は多いと思います。また、患者やその家族から「病室で祈りたいのですが、よいでしょうか?」と言われて当惑したこともあるかもしれません。

 スピリチュアリティや宗教が人間の根幹にかかわり、生きていくうえで大切な信条や指針であることは理解できても、目に見えず、たとえ介入できたとしても結果が明確に現われにくいものであるため、看護師はそれらに対して、二の足を踏んでしまいがちなのです。

◆「信じる者は救われる」はほんとうだった

 本書は、患者の健康やウエルビーイング(安寧)を考えるうえで、スピリチュアリティや宗教を尊重することは必須である、という著者の固い信念に貫かれています。さらに、スピリチュアリティや宗教がどのような影響を医療や健康に与えるのかを科学的に実証しようとした意欲作です。

 まず1章において、宗教とスピリチュアリティに関する用語の定義がされており、2章では「21世紀の医学に求められるもの」と題して、現在の医療において、スピリチュアリティや宗教へのニーズがあり、医療者が対応していく必要があるという主張が述べられています。この後から10章までは、うつ病や自殺などのメンタルヘルスの問題、免疫・内分泌系疾患、心理的ストレスに起因するといわれている高血圧や冠動脈疾患、脳卒中、認知症、糖尿病、がん、身体障害、寿命などに関して、スピリチュアリティと宗教がどのような役割を果たすのかについて、科学的エビデンスに基づき簡潔明瞭に論じられています。

 たとえば、うつ病的症状を呈している内科入院患者865人を対象に、12~24週間にわたって追跡調査を行った結果、少なくても週に1回は礼拝に出席し、週に3回聖書か宗教的な聖典を読み、毎日お祈りをするという患者の50%以上は、宗教的行動を行わない患者よりもうつ病的症状からの回復が早かったという結果が述べられています。また、HIV陽性患者を対象に、宗教と免疫の関連を調査した研究では、祈りや礼拝出席、スピリチュアルな話し合いなどの宗教的行動を行うことがヘルパーT細胞数の増加と明らかに関連することがわかりました。

 スピリチュアリティや宗教といろいろな疾患の関係を研究した結果が示されており、信仰者や生きていくうえでなんらかの信念(スピリチュアリティ)をもっている人は、そうでない人と比較すると(いくつかの例外は存在しますが)、一般的に疾病罹患率が低かったり、また治癒率が高いなど明らかによい影響が認められたのです。つまり、信じる者は救われることが、目に見える形で実証されている点がとても興味深いのです。

◆患者のスピリチュアリティや宗教的思いに寄り添う

 スピリチュアリティや宗教が、人々の健康に明らかによい影響を与えることが科学的に実証されたということを受け入れるならば、私たち看護師がすべきことが見えてきます。11章には、患者のスピリチュアルニーズへの対応方法(実践)として、スピリチュアル・ヒストリーの作成、チャプレンへの紹介、患者とともに祈ること、信仰コミュニティとの関係を築くことなどが論じられています。ただ、日本の多くの病院にはチャプレンはいませんし、神道や仏教思想が日本文化として深く根づいているにもかかわらず「自分は無宗教です」と答える日本人に、これらの対応方法が必ずしも即しているとは言えないでしょう。

 まず私たちは、患者のなかに潜んでいて、言語化されることはないかもしれないスピリチュアルな、あるいは宗教的な側面に注意を傾け、根気よく聞き取り、お互いがそれらを理解し受け入れていく必要があります。そして、患者のスピリチュアリティや宗教的ニーズを、患者が望む形で叶えられるように助けていくことが大切だと私は思います。そのためには、私たち自身が無心になり、患者に心を込めて“寄り添う”ことからはじめなければいけません。

 本書では、スピリチュアリティや宗教の概念が少し曖昧であったり、ここで述べられている宗教のほとんどがキリスト教であるなどといった問題点がありますが、日本において本書が翻訳されるということ自体に大きな意味があります。医療や看護は身体だけを診ればよいという時代が終焉を迎えたことのひとつの表れだと思えるのです。医療と宗教・スピリチュアリティの統合が求められる時代が到来している今、看護師に本書をお勧めしたいと思います。きっと、スピリチュアリティと宗教と看護に関して、新たな関心がわいてくると思います。

(『看護学雑誌』2010年6月号掲載)
医療の中でのスピリチュアリティ
書評者: 加藤 眞三 (慶應義塾大教授・消化器内科学)
 わが国でも,医療の中で「スピリチュアリティ」という言葉がようやくホスピスなどの緩和医療の分野で認識され始めています。しかし,「スピリチュアリティ」とか,「宗教」といえば,何かうさんくさいものと,とらえる人がまだまだ多いのが現状ではないでしょうか。実際にテレビや週刊誌などで「スピリチュアル」という言葉が乱用され,その言葉がもたらすイメージが,非科学的なもの(すなわち贋物)と結び付いてしまっているのは残念なことです。

 ハロルド G. コーニック博士は,そのような疑念を晴らすために,本書において「スピリチュアリティ」や「宗教」と医療や健康との関係を,最近の評価に耐える科学的論文を数多く紹介しつつ,12章にわけて解説し,一つ一つを丁寧に明らかにしています。スピリチュアリティに関心のあった筆者も,このテーマでこれほど多くの科学的研究がなされていることに驚かされました。

 米国は資本主義,マテリアリズムの先進国である反面,宗教が建国のときからその建国の精神の根底にあり,政治や経済にも大きな影響を持つ宗教大国でもあります。そのような中で公的な病院であっても,礼拝堂を持ち,チャプレンやシスターが常駐し,臨床パストラル教育の制度が整備されています。わが国と米国との環境の違いはあまりにも大きく,本書の内容がわが国ですぐに適応できる状況にはありません。

 例えば,第11章で提案されているように,スピリチュアル・ヒストリーを医師がとり,そのニーズを確かめたとしても,日本にはそれを託すべきチャプレンはいないし,病院内に設備もシステムもないからです。これからスピリチュアルケアのシステムをどう作り上げていくかの議論から始めなくてはならないのです。日本の医療者も宗教者もスピリチュアルケアに関心を持ち始めていますが,まだまだその交流は活発とはいえません。医療者と宗教者の新しい関係の構築が必要とされています。

 本書のような社会的,精神的,内面的なものを含む内容を翻訳することは大変な困難を伴う作業であったことと推察します。翻訳に当たられた杉岡良彦先生のご尽力により,日本語で容易に読める機会を与えていただいたことは大変ありがたいことです。医療の中でのスピリチュアリティに関心を持つ人が,一人でも多く本書を読む機会を持ち,日本の医療にどのようにスピリチュアルケアを持ち込むことができるかについての議論が盛り上がり,そしてスピリチュアリティに関する研究が発展することを祈念いたします。何よりもそのことが日本の医療をよくし,真の「患者中心の医療」を実現することにつながることと信じるからです。

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