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精神科薬物相互作用ハンドブック

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精神科臨床に必須の薬物相互作用の知識をケーススタディ形式で学べるハンドブック。精神科を中心に内科、神経内科、外科などの175症例を掲載し、P450が関わる相互作用を6パターンに分けて解説。付録に主要な向精神薬の相互作用一覧、P450一覧など便利な表を収載し、データ集としても使える。薬剤名からひける相互作用索引付き。精神科臨床における薬物相互作用のリスクを回避するヒントが満載。
Neil B. Sandson, M.D.
監訳 上島 国利 / 樋口 輝彦
山下 さおり / 尾鷲 登志美 / 佐藤 真由美
発行 2010年05月判型:A5頁:424
ISBN 978-4-260-00959-1
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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監訳の序(監訳者)/(Neil B. Sandson, M. D.)

監訳の序
 一般に臨床各科の薬物療法においては,単一の薬物のみの使用より,2剤以上が併用されることが多い。その理由として患者の有する症状が多岐にわたり病態が単純でないことがあげられ,併用による効果の増大や副作用の軽減が期待されている。とくに精神科臨床では多剤併用が日常的に行われている。本来すべての向精神薬は単剤により適応症を取得しており,薬物併用の効果が実証されているのは,一部の抗てんかん薬を除けばきわめて少ない。多剤併用は難治症例への対応に苦慮する臨床医の苦渋の選択という見方もあろうが,併用による効果の増強や副作用軽減の実証データは乏しい。逆に併用による副作用の出現や増強の危険のほうが心配される。
 薬物相互作用とは2種以上の薬物の併用により,薬物同士が互いに作用し合って,単独で同用量を用いるときよりも作用の減弱・増強,物質的変化が生じることをいう。相乗作用は,薬物の併用により,各薬物単独効果の和より効果が強くなることをいい,作用機序の異なる薬物の間でみられ,耐性の出現を遅らせる。一方,相加作用は作用機序が同じ薬の間でみられ,その作用が各薬剤単独効果の和に等しい場合をいう。
 薬物相互作用はその作用機序から大きく2つの型に分けることができる。薬力学的(pharmacodynamic)相互作用は,薬物の作用部位への到達以降のそれぞれの薬物の標的受容体における結合や薬理反応を介した薬効発現などの過程における相互作用で,相乗作用や拮抗作用に相当する。薬物の作用機序と受容体占拠の基本的なことがわかっていれば予測ができ対応が可能である。薬物動態学的(pharmacokinetic)相互作用は,薬物の吸収,分布,代謝,排泄の過程で観察される。薬物の血中濃度や組織内濃度推移などに影響する。
 本書はこの薬物相互作用を175例の多数症例に即してさまざまな角度から検討したもので,薬物血中濃度の測定などにより,惹起されたイベントの原因を明らかにしている。また事情により諸検査が施行されなかった場合でも,各薬剤の持つ薬理学的特性からその発症機序を推理,推論している。個々のイベントに対して慎重に各方面の情報を駆使して薬物相互作用にその原因を求める過程は合理的,科学的,教育的であり,実際の症例をもとに応用可能な考え方を身につけることができる。
 再度われわれの日常臨床に立ち返ると,人口の高齢化に伴い精神科病院の入院患者や精神科クリニックの外来患者の高齢化が目立ってきている。これらの患者は精神疾患のみならず,合併する身体疾患があり,臨床各科の薬剤を服用している。必然的に多剤併用がなされているわけである。したがって精神科臨床においても医療者は,単に向精神薬だけでなく身体疾患の治療薬や検査薬についても十分な知識と危機対応の技術が要請される。
 また処方を受ける患者側の関心事がその薬効のみならず副作用にあり,「この薬は副作用はありませんか」「他の薬との飲み合わせは大丈夫ですか」という質問をしばしば受ける経験は多くの臨床医が有しており,的確な回答をし,その後の服薬アドヒアランスが良好に保てるような治療が期待されている。そのような方策での治療を行っていても,予期せぬイベントがしばしば発生する。その際,まず精神症状の悪化を考えるのが一般的であるが,忘れてならないのは,薬の副作用とくに薬物相互作用である。個々の薬物の副作用は熟知していても,薬物相互作用に思いを馳せなければ,更なる重篤な事態への発展を防ぐことができないのである。
 薬物相互作用の防止の方策として,以下の事項をあげてみたい。①正しい診断,薬物治療選択の理由や意義の確立,②十分なインフォームド・コンセント,③単剤処方,④用法・用量は漸増,漸減が原則,⑤何らかの有害事象の発生には,薬物の関与,とくに薬物相互作用に留意し,薬物の血中濃度の測定や他の必要な検査を行う,⑥向精神薬に関しては,いくつかの自家薬篭中の薬の他剤との主な薬物相互作用について熟知しておくこと,⑦治療薬に関する情報については,常に注意し,監視を怠らぬこと。
 本書の巻末には付録として,主要な「向精神薬の相互作用一覧」「P450一覧」「UGTまたは第二相反応(グルクロン酸抱合)一覧」「P糖蛋白質一覧」が掲載されている。また薬剤名から引ける「相互作用索引」も用意されている。これらの内容は非常に詳細,複雑であるが,折にふれてデータ集として利用するときわめて有用である。
 効果的で安全な薬物療法を行うためには,基本原則を守りつつ,患者の懸念,心配を除くような柔軟かつ弾力的な合理的薬物療法が望まれる。薬物相互作用の研究も着実に進歩し,将来的には定量的となり予測も可能となるものと思われるが,現時点では,本書の提供している多くの情報が,薬物相互作用回避のヒントになることを願っている。
 本書の出版に際しては,医学書院編集部の方々にご尽力願った。心より御礼申し上げたい。

 2010年4月
 監訳者 



 第2版は,筆者が執筆した初版を自ら改訂する,生涯でめったにないチャンスである。筆者はこのチャンスに,『Drug Interactions Casebook:The Cytochrome P450 System and Beyond』で部分的にしか探求できなかったテーマを発展させて楽しんだ。また,初版の中での不注意による間違いを正すことができた。これらは初版をより良いものにするためのある種の挑戦である。
 改訂の結果,多くの変化が生じることになった。29の新たな症例を加え,31の初版の症例を削除したが,それは最近になって明らかになった症例の重複と不備を整理したためである。また,第2版でまったく違った観点から加えた症例もある。初版ではもっぱら相互作用の機序ごとに症例を配列したが,改訂版では臨床の実態に合わせて章立てを行い,症例は医学の専門分野ごとに関心が高いものをまとめた。だからと言って,読者にはそれぞれの専門領域に関係した章にのみ目を通していただけば良いということではない。ある章に割り当てられた事柄が他の2,3の章の症例の中でも扱われているのであり,このような症例からは誰でも何かを学ぶことができるのである。特に興味深いのは付録Aである。これは2005年のJournal Psychosomatics誌のScott Armstrong's and Kelly Cozza's“Med-Psych Drug-Drug Interactions”コラムに筆者が投稿したレビューの再掲である。このレビューには抗うつ薬,抗精神病薬,気分安定薬の代謝経路と,それぞれの薬剤の代謝阻害あるいは代謝誘導の図表と,よく知られた臨床上有用な薬物相互作用(DDI)の詳細を記載した表が含まれている。また,この3つの向精神薬の分類に当てはまらないいくつかの向精神薬と,向精神薬以外のいくつかの相互作用にかかわる作用物質(タバコ,エストラジオール,スタチンなど)のDDIについても表で示してある。
 筆者は,無味乾燥で教訓めいた資料にはない生きた資料をもたらすのに,症例集のフォーマットが役立つことを期待している。患者は一人ひとり異なる。ある患者には面倒な,場合によっては恐ろしい有害事象を引き起こすDDIが,他の患者では耐えることができるどころか有益にすらなる場合がある。すべてのケースは確かな臨床の事実から生じるのであって,薬剤の特性に関する成書の情報からはなんの推定も引き出せないのである。まれに憶測に基づく,理論で組み立てられたケースが紹介されているが,その場合には考察のところで明確にそのことに言及されるであろう。私の考えでは,『The Concise Guide to Drug Interaction Principles for Medical Practice:Cytochrome P450s, UGTs, P-Glycoproteins, 2nd Edition』(Cozza et al. 2003)が,この課題(薬物相互作用)の唯一最高の資源であり引用文献である。しかし,本書の最新改訂版は,ほかのどこにもない,よりオリジナリティに富む情報を提供してくれる。
 はじめて本書を読む人には第1章「概念と定義」からお読みになることをお勧めする。そうすることにより,DDIをどのように考え,膨大な量の情報にどのように取り組み始めればよいかを早く理解できるであろう。前述の付録Aに加えて,P450,第二相,P糖蛋白質の基質,阻害物質,誘導物質の詳しい表も付録に掲載してある。もちろん,本書には,特にDDIを学ぶために簡便に調べることができる索引が十分整備してある。また,興味のある方のために,本書はplasma protein binding-mediated DDIについて詳しく追及している。もし,あなたがバルプロ酸,アスピリン,フェニトインを含んだ症例を見つけたいと思って,この索引を使えば,より早くその症例を見つけることができるだろう。
 このことから,もう一度私はあなたを,この複雑で,興味深く,重要なDDIの世界への旅に心より誘いたいと思う。そしてその旅があなたに有益なものをもたらすことを願う。

Neil B. Sandson, M. D.

文献
Cozza KL, Armstrong SC, Oesterheld J:Concise Guide to Drug Interaction Principles for Medical Practice:Cytochrome P450s, UGTs, P-Glycoproteins, 2nd Edition. Washington, DC, American Psychiatric Publishing, 2003

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 監訳の序
 謝辞
 序

第1章 概念と定義
第2章 精神科ケーススタディ
第3章 内科ケーススタディ
第4章 神経内科ケーススタディ
第5章 外科・麻酔科ケーススタディ
第6章 婦人科・腫瘍科・皮膚科ケーススタディ

付録A 向精神薬の薬物相互作用-総論
付録B P450一覧表
付録C UGTまたは第二相(グルクロン酸抱合)表
付録D P糖蛋白質関連の一覧表

薬物相互作用索引
事項索引

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薬物相互作用への関心の高まりに応える書
書評者: 下田 和孝 (獨協医大教授・精神神経医学)
 抗ウイルス薬であるソリブジンと代謝拮抗薬であるフルオロウラシル(5-FU)との薬物相互作用による重篤な副作用が問題となったのは1993年である。ソリブジンの代謝物であるブロモビニルウラシルが5-FUの代謝酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenaseを不可逆的に阻害する結果,5-FUの血中濃度が上昇,5-FUの副作用である白血球・血小板減少などの重篤な血液障害を惹起するというメカニズムである。わが国で開発されたソリブジンが市場から姿を消すことになったこの薬害事件や1990年代にcytochrome P450(CYP)を中心とする薬物代謝酵素の解析が急速に進んだことを背景に,薬物相互作用に関する関心は高まってきたといえる。

 精神科領域では,1999年にわが国最初の選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)としてフルボキサミン,2000年にはパロキセチンが臨床現場に導入された。これらのSSRIは従来の三環系抗うつ薬などとの副作用プロファイルの差異が認められるが,さらに薬物代謝酵素の阻害作用という点でも特徴があり,薬物相互作用の知識は精神科薬物治療において必須であろうと思われる。

 本書の主な部分は精神科,内科,神経内科,外科・麻酔科,婦人科・腫瘍科・皮膚科の5つのセクションにわたって,計175の症例によって構成されている。本書の原題は“Drug-Drug Interaction Primer. A Compendium of Case Vignettes for Practicing Clinician”というものであり,psychiatryという言葉は出てこないが,ほとんどの症例で向精神薬が絡んでおり,『精神科薬物相互作用ハンドブック』という訳としたのであろうと推察される。これらの症例について,薬物血中濃度の測定結果などにより,さまざまな角度から検討し,症例で認められた問題となるイベントの原因を明らかにしようと試みている。また諸検査が施行できなかった場合でも,各薬物の特性からその発現機序を推論し,また,症例ごとに参考文献を付している。

 薬物相互作用を推測できるようにするためには,薬物相互作用のパターンを学ぶことが必要であるが,実際の症例を通してそのパターンを会得するのが近道であろう。本書に収載された各症例では,薬物相互作用の6つのパターン((1)基質となる薬物に阻害薬が追加投与された場合,(2)阻害薬に対し基質が追加投与された場合,(3)基質となる薬物に誘導物質が追加投与された場合,(4)誘導物質に基質が追加投与された場合,(5)阻害薬の中断,(6)誘導物質の中断)のどれに当たるのかということも示されている。

 また,本書の巻末には向精神薬の各カテゴリーに分けた「向精神薬の相互作用-総論」,各CYP,uridine diphosphate glucuronosyltransferase(UGT),P糖蛋白質の基質,阻害薬などをまとめた「P450一覧」「UGTまたは第二相(グルクロン酸抱合)表」「P糖蛋白質関連の一覧表」が掲載されている。また薬剤名から引ける「薬物相互作用索引」も用意されている点も特筆すべきである。
薬物療法を行う医師必携の書
書評者: 兼子 直 (弘前大大学院教授・神経精神医学)
 本書では精神科,内科,神経内科,外科・麻酔科,婦人科・腫瘍科・皮膚科領域において薬物治療中に見られた症状をケーススタディとして示し,それを薬物相互作用の観点から解析している。

 薬物相互作用の理解は患者が訴える症状を適切に診断し,対処する上で極めて重要である。つまり,薬物相互作用の理解は薬物治療中に見られる症状を「新たな症状ととらえ不要な検査や追加処方」を避ける上で重要であり,かつ,その知識は適切に対応する上で必要不可欠である。関連する知識は最近の分子遺伝学の発展で大きく進歩しており,本書はかかる進歩を踏まえて合理的に理解できるように工夫して書かれている。

 第1章の定義に関する内容では臨床家がしばしば誤解する基質,阻害薬,誘導物質などの解説が平易に記載されており,理解を助けている。

 本書の特徴の1つはケーススタディごとに考察があり,さらに解説に関連する参考文献が明記されていることである。精神科医が処方する薬剤だけでなく,他科の医師により処方される薬剤がどのような機序で相互作用を起こすかの記述は,臨床経験の深い医師でも参考となる点が少なくない。その解説は平易かつ理論的に記載されており,これは医師が自らの症例の症状の理解に役立つだけでなく,さらにその知識を深める上でも有用である。また,引用された論文は自らが論文を書く上でも基盤となる文献である。

 第2の特徴はP450の陰に隠れて議論されることの少ないグルクロン酸転移酵素に触れていることである。例えば,バルプロ酸のように,多くに疾患で使用される薬剤の中にはグルクロン酸転移酵素に対する作用を無視できない薬剤があるからである。

 第3の特徴は本書の最後にまとめられている4つの付録である。A)向精神薬の薬物相互作用―総論,B)P450一覧表,C)UGTまたは第二相(グルクロン酸抱合)表,D)P糖蛋白質関連の一覧表である。付録B~DではP450各分子種で代謝される薬剤,阻害薬,誘導物質が見事に整理されており,この付録だけでも本書を入手する価値は十分にある。付録Aには精神科で汎用される薬剤についての解説があり,これも若手読者の理解を高める。臨床に多忙な医師にとり,多数の原著を読み,考えをまとめることは時間的に困難さを伴うが,本書はそれを解決してくれる。

 薬物療法を行う医師にとり本書は必須の書となった。ケーススタディで相互作用を理解するだけでなく,本書を外来,病棟に置き,処方をするとき,あるいは予期せぬ症状が現れたときには付録が大いに役立つものと考える。

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