作業療法学概論 第2版

もっと見る

作業療法士を目指す学生のための「標準」教科書シリーズの1冊。導入編として、原理・理論、歴史など作業療法の基本的知識の紹介から始め、対象者援助に必要な知識・技術・態度について分かりやすく解説。さらに、各領域の典型的な症例を通して作業療法過程の概要が理解できる。第2版では社会情勢の変化と法制度の改正に合わせた変更を行い、理解しやすいように章の構成も改めた。作業療法の面白さ、深さ、広さを知るための1冊。
*「標準作業療法学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 岩崎 テル子
発行 2011年02月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-01210-2
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

第2版 序

 言葉が不要の世界がある.スポーツ,音楽,舞踊,絵画,書道,工芸….芸術の世界だけではない.農林漁業やものづくりも自分の身体と対象との無言の対話で成り立つ.このような世界では自分が主役で責任も重いが,成果も自分のものである.喜びも苦しみも深く身体に刻まれ心に響く.ものと向き合い,やるべきこと,やりたいことに集中するこのような無言の一瞬は今,言葉の洪水のなかで消えつつある.高度ネット社会のなかで,人とのつながりに神経を尖らせる若者は,言葉の要らない世界の安らぎと癒し,自己との対話の深さと豊かさを知ることができるのであろうか.
 作業療法の原点は,“作業”に集中して取り組むことで心身機能の回復を促すことである.“作業”を通じて自分の心と身体の状態を自分自身で確認することからすべてが始まる.作業療法が重視するコミュニケーション能力は,むしろ今の学生のほうがもっていると感じることが多い.学生時代は自分探しの時期でもある.自己の能力や価値を確かめ,人の意見や評価で自分を見失わないように,自己の心と身体を鍛える時期である.身体を使うという生活体験の不足,きょうだいや祖父母という年代の違う者との生活経験の少なさは,さまざまな年齢層を対象とする作業療法の実践に困難をもたらす.家の手伝い,自炊,部活動,趣味,ボランティア活動などを行う機会を自らつくって貪欲に体験してほしい.このような“作業”体験のなかで何を体得すべきかは,本書が案内役を務めるはずである.
 本書は初版の発行から6年が経過したこともあり,社会情勢の変化と法律・制度の改正に合わせて追加修正をし,理解しやすいように章立ても変更した.第1章「作業療法とは」では,作業の意味と,作業療法が人々の健康と生活に寄与するための治療の一領域として成立した歴史的意味について解説した.定義・原理・適応範囲は必須の知識であるのでしっかり理解してほしい.第2章「専門職としての作業療法士」では,専門職となるための覚悟を促し,必要とされる人間性や知識・技術,専門性を立証するための研究法や法律・制度などについて述べた.さらにリハビリテーション・チームメンバーの一員として能力を発揮するための基礎的事項を解説した.臨床実習で問題につきあたったときに,あるいは卒業研究で疑問をもったときなど,在学期間を通じて,必要なときに再読してほしい.第3章「作業療法の過程」では,作業療法を行うプロセスについて述べた.種々の疾患と障害をもった異なる年齢層の人々が,満足できる生活に戻れるよう援助するための問題解決法が述べられている.第4章「作業療法の実際」は,第3章で述べたプロセスを代表的疾患の症例を通して述べたので,見慣れない専門用語にめげず目を通して概要を理解してほしい.第5章「作業療法部門の管理・運営」は,臨床実習前後に学ぶとさらに理解が深まるであろう.作業療法士数が5万人を超えた現在では働く場も多様化し,管理・運営能力がますます問われることになる.今回,介護保険領域で“起業”の例を追加した.将来の挑戦に役立つはずである.
 本書ではそれぞれの章で豊かな経験をおもちの方々に御執筆いただいた.心から感謝申し上げたい.また,教科書としての体裁と本シリーズの位置づけに留意して,常に根気強く的確な助言とチェックをしていただいた医学書院編集部に深謝申し上げる.

 2011年1月
 岩崎テル子

開く

序章 作業療法学概論を学ぶ皆さんへ
第1章 作業療法とは
 I 作業とは-作業療法にとっての“作業”の意味
 II 作業療法の原理・理論
 III 作業療法サービスの適応範囲
 IV 国際生活機能分類(ICF)-対象者の全体像を把握するために
 V リハビリテーションの歴史と作業療法の位置づけ
 VI 作業療法の歴史
第2章 専門職としての作業療法士
 I 対象者中心のサービスとは
 II 作業療法の精神と作業療法士に求められる資質・適性
 III 作業療法専門職の教育体系
 IV 専門職の備えるべき条件
 V チームメンバーの役割とチームアプローチ
 VI EBMと作業療法
 VII 作業療法士に関係のある法・制度・サービス
第3章 作業療法の過程
 I 作業療法の過程
 II 評価の利点および問題点の抽出
 III 治療・指導・援助計画の立案
 IV 作業療法実践の臨床現場理解に向けて
第4章 作業療法の実際
 I 身体機能分野における作業療法過程
 II 精神機能分野における作業療法過程
 III 発達過程分野における作業療法過程
 IV 高齢期分野における作業療法過程
 V 地域分野における作業療法過程
第5章 作業療法部門の管理・運営
 I 作業療法部門の管理・運営
 II 記録と報告
 III コスト意識をもつ-日本の医療福祉政策と診療報酬
 IV 作業療法部門の開設と起業
作業療法教育への取り組みと今後の発展に向けて

さらに深く学ぶために
【資料】国際生活機能分類(ICF)第2レベル分類
索引

開く

学生の目線に立ってまとめられた良書
書評者: 古川 宏 (神戸学院大教授/総合リハビリテーション学部長)
 作業療法士をめざす学生の道案内である『《標準作業療法学 専門分野》作業療法学概論 第2版』が,初版から6年,社会情勢の変化と法制度の改正に合わせ,理解しやすいように章の構成も改めて出版された。執筆者は臨床経験・教育経験が豊富なベテランばかりであり,学生の目線に立ったわかりやすい文章で解説してある。また,教科書としてシリーズの統一を図るために,学習内容の到達目標を一般教育目標(General Instructional Objective; GIO),行動目標(Specific Behavioral Objectives; SBO)ごとに明確にし,修得チェックリストで学習者が確認できるような方式になっている。学生,教員が編集者の意図をくんで有益に利用することで教育効果も上がるものと考える。

 「作業療法」とは,「身体又は精神に障害のある者,またはそれが予測される者に対し,その主体的な生活の獲得を図るため,諸機能の回復,維持及び開発を促す作業活動を用いて,治療,指導及び援助を行うこと」(日本作業療法士協会)と定義され,対象,目的,方法が明確に定められている。残念ながら「作業活動」の解釈が受け手によって違うため,一般社会,学生,専門職の間でも「何となくわかり難い」と言われてきた。地域リハビリテーション施設の施設長から「理学療法士がいなかったので初めて作業療法士を採用したら,私たちの施設では作業療法士のほうが利用者・患者のニーズに合っていることがわかった。来年は複数採用します」といった話を聞く機会が多い。実際体験して初めて作業療法の良さを理解してもらえた例である。しかし,これでは困る。学生は在学中に作業療法を他人に説明できるようになっていること,臨床現場では対象者にわかりやすく説明できること,作業療法士協会は関連職種,一般社会に作業療法を正しく伝えること,それによって評価される必要がある。そのためにも本書が必要である。

 第2版の内容を紹介すると,序章では学習マップを用いて,第5章および終章までのSBOを列挙し,学生に対し内容説明,知識などを100字程度で解説している。第1章「作業療法とは」では,作業の意味と作業療法の歴史,原理・理論,サービス適応範囲,国際生活機能分類(ICF)について必須知識を解説している。第2章「専門職としての作業療法士」では,専門職の心構え,必要とされる人間性,知識,技術,チームアプローチ,研究法,EBM,法制度を解説している。第3章「作業療法の過程」では,資料収集,面接,評価,問題点の抽出,治療・指導計画の立案,実施の具体的な内容をまとめている。第4章「作業療法の実際」では,身体,精神,発達,高齢期,地域の各分野における作業療法の実例を学ぶ。第5章「作業療法部門の管理・運営」では,部門の管理運営,診療報酬など,および医療経済学を学ぶ。最後に,作業療法教育と今後の展望を解説している。

 本書は,編者の岩崎テル子氏の緻密〈ちみつ〉で隅々まで配慮された気配り,情熱でまとめられた良書であり,作業療法関係者はもちろんのこと,関係専門職者にもぜひお薦めしたい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。