新 ことばの科学入門 第2版

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ことばを話し、ことばを聞き取ることは人間に固有の機能である。本書は、ことばの音としての性質、生成、知覚のメカニズムを理解するために必要な広汎な知識を、統合的にかつわかりやすく解説した音声科学の入門書。言語聴覚士はもとより、音声言語医学に興味のある医師をはじめ、看護学、教育学、心理学、音声学、言語学などを学ぶ学生、初学者にも最適な入門書。
廣瀬 肇
発行 2008年10月判型:B5頁:328
ISBN 978-4-260-00715-3
定価 6,820円 (本体6,200円+税)

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日本語版第2版への序文第2版 訳者あとがき

日本語版第2版への序文
 本書の前身である第4版の日本語版刊行のために廣瀬 肇博士がその翻訳を担当された際,われわれ著者一同は,まさに適任者を得たと確信した.第4版が「新ことばの科学入門」として日本で広く受け入れられたことを知って,われわれの確信が裏付けられたと考えている.したがって今回,第4版をさらに改訂した第5版の日本語版刊行にあたり,博士が再びその翻訳を担当されることは,われわれにとって望外の喜びである.廣瀬博士が音声科学者としての深い知識に加え,ことばの音響学,生理学,聴覚心理学などの分野について医学的視点を備えておられることは本書の翻訳者として真に適格であるといわざるをえない.
 すでに第4版の序文において,ハスキンス研究所に廣瀬博士が滞在された折に,共同研究を通じて音声生成に関する多くの研究発表の基礎となる一連の独創的な生理学的実験の基礎を築いてこられたことを紹介した.また,博士が日本に帰国された後も引き続いて音声科学の分野に貢献されたことに敬意を表した.われわれは,本書に接する日本の学生諸君が明日の音声科学を担うと信じており,その意味でも今回の翻訳は廣瀬博士の音声科学への貢献のさらなる証左であると考えている.音声科学研究がきわめて盛んな国の一つである日本において,本書が翻訳され刊行されることは,音声科学の今後の発展への期待を高めるものであると信じている.
 われわれ著者一同として廣瀬博士の努力にあらためて謝意を表し,本書が引き続き日本の学生諸君ならびに教員諸氏に有用なものとなることを切望する.

 Lawrence J. Raphael
 Gloria J. Borden
 Katherine S. Harris


第2版 訳者あとがき
 本書は,先年医学書院から刊行された「新ことばの科学入門」の改訂第2版である.「新ことばの科学入門」のあとがきでも紹介したように,第1版は,アメリカで人気の高い音声科学の教科書である“Speech Science Primer”の第4版を邦訳したものである.最近になってその原書が,アメリカでさらに改訂第5版となって刊行されたので,その邦訳を行ったものが本書というわけである.
 第5版の著者は第4版と同じで,訳者はこれらの著者と旧知の仲であり,今回も当初から連絡をとって内容についての確認を図り,さらに日本語版の序文を入手したいきさつがある.第5版で注目されるのは,第1著者が,著者の中で最も若手のL. Raphaelに交代したことで,これに伴っていくつかの構成上の変更があった.まず,章立てが細かくなり,前の版で一つにまとめられていたことばの知覚の章や,研究機器の章が細分化されている.また各章に「臨床ノート」が付けられ,基礎的研究と臨床との接点を探るという配慮が払われている.それ以外にも加筆された部分が随所に認められ,第1版で未完の部分が残されていた「耳で聞く資料集」も今回は完全なものとなっている.
 翻訳上,用語の取り扱いについては,前版と大差はなく,例えばspeechを「ことば」と訳すという基本方針に変わりはない.ただし,speech scienceという研究分野ないし学問領域の呼称について,「音声科学」という硬い表現をとった場合もあることをお断りしておく.今回も翻訳は訳者ひとりで行い,日本語として自然であることを重視した.内容的な問題があれば,それはすべて訳者の責任と考えている.
 現在でも音声科学という学問領域は,わが国において独立したものとは言い難く,いくつかの分野,例えば言語学,音声学,音響学,心理学,言語聴覚障害学,臨床医学など,多くの専門分野をつなぐもの,あるいはそれぞれの分野の境界領域としての色彩が強い.これはもともと音声科学がこれらの各分野の要素を強く備えているからにほかならず,逆に言えば,どの分野からでもアプローチが可能であり,自分の中で他の分野からの情報を統合していく態度さえあれば,音声科学全般についての理解が深まると考えられる.その意味で,本書がそれぞれの領域に学ぶ学生諸君のみならず,多くの指導者,研究者のために役立つものとして受け入れられることを切望している.
 最後に,今回の改訂にあたっては第1版と同様,医学書院編集部ならびに制作部,とくに中根冬貴氏および平賀哲郎氏のご協力を賜ったことを付記し,謝意を表する.
 2008年秋
 廣瀬 肇

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 日本語版第2版への序文
 日本語版への序文
 原書第5版 著者序文
 著者の謝辞

第I部 イントロダクション
 第1章 ことば,言語,思考
  1.ことば
  2.言語
  3.思考
  4.言語とことばの発達
  5.思考からことばへ
 第2章 ことばの科学の先駆者達
  1.Helmholtz:ことばの音響的性質
  2.Sweet:記述音声学
  3.Bell:難聴者教育
  4.Stetson:音声生理学
  5.Dudley:ことばの合成
  6.Cooper,Liberman,Delattre:言語音の認識とパタンプレイバック
  7.最近の情勢

第II部 音響学
 第3章 ことばの音響学
  1.純音:単振動
  2.複合音
  3.周波数とピッチ
  4.デシベル:相対的な音の強さ
  5.音の強さとラウドネス
  6.空間を伝わる音の速度
  7.波長
  8.共鳴
  9.ことばと音響学

第III部 ことばの生成
 第4章 生理学的基盤―神経支配,呼吸
  1.神経生理学
  2.呼吸
 第5章 生理学的基盤―発声
  発声
 第6章 母音の構音とその音響学
  1.声道:共鳴腔および音源としての働き
  2.声道内の各部位について
  3.母音生成の音響理論
  4.音源とフィルタ
  5.二重母音の生成
 第7章 子音の構音と音響学,韻律
  1.構音と共鳴:子音
  2.音源の種類:子音
  3.子音の生成
  4.前後の音がことばの生成に及ぼす影響について
  5.超分節的素性
 第8章 フィードバック機構とことばの生成モデル
  1.ことばのフィードバック機構
  2.ことばの生成のモデル
  3.文の生成

第IV部 ことばの知覚
 第9章 聴覚:ことばの知覚の入り口
  1.ことばの聞き手
  2.聴覚
 第10章 ことばの音響的特徴
  1.ことばの知覚
  2.ことばの知覚に関与する音響的特徴
 第11章 ことばの知覚機構とモデル
  1.カテゴリー知覚
  2.ことばの知覚の神経生理学
  3.ことばの知覚に関する学説

第V部 ことばの科学の研究機器
 第12章 ことばの音響分析と音声知覚の研究機器
  1.観察記録と実験的研究
  2.研究機器としてのコンピュータ
  3.ことばの知覚
  4.ことばの生成の音響分析
 第13章 音声科学と音声生理学の研究機器
  1.生理学的計測
  2.筋活動
  3.呼吸運動の解析
  4.喉頭機能
  5.構音運動の解析
  6.神経系の機能の測定

補章:耳で聞く資料集

 付録A アメリカ英語の音声字母(国際音声字母による)
 付録B ことばと聴覚に関連して重要な脳神経
 付録C ことばに関連して重要な脊髄神経
 用語解説
 第2版 訳者あとがき
 第1版 訳者あとがき
 訳者略歴
 索引

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音声言語病理学を学ぶ人のために
書評者: 澤島 政行 (横浜船員保険病院名誉院長)
 本書は,2005年に出版された同名の初版本の第2版である。その原本(英語)は,1980年に出版され,1984年にその第2版が今回と同じ訳者で出版されている。通算では本書は第5版となる。本書は,米国の大学学部生を対象に書かれた音声科学の入門書である。著者は米国ハスキンス研究所の研究員で,訳者および評者とは知り合いの仲である。2005年の改訂で従来の著者に加えて,若手のL. J. Raphaelが加わり,内容の整理,補足がなされている。

 今回の第2版は,基本的な内容に変更はないが,章立てにかなりの工夫をこらし,学生に理解しやすく,興味を持たせるような配慮が行われている。本書の構成は,第I部序論(イントロダクション),第II部音響学,第III部音声生成,第IV部音声知覚,第V部音声研究機器となり,それぞれの中で,比較的細かい章立ての下に内容が記述され,全体で13章となっている。全体で7章立ての初版と目次を比べてみると,内容的には大差はないが,第2版のほうが章立てがすっきりして,各章の中身が明瞭でわかりやすくなっている。

 各章に「臨床ノート」が挿入されているが,これは,音声科学と音声言語病理学の接点を示そうという著者たちの意欲を表すものであろう。著者の序文によれば,本書の対象として想定されているのは,主に音声言語病理学を勉ぶ学生である。また,初版から置かれた補章「耳で聞く音のサンプル」も,より完成されたものとなり,医学書院のホームページにアクセスして聴取できるようになっている。

 本書の著者たちは,ハスキンス研究所の,音声生成および知覚研究の中心的スタッフである。同時に大学教官として学生や大学院生の教育指導にも優れた実績を持っている。本書が,1980年の初版以来今回まで,着々と改訂,出版を続けていることは,著者たちの並々ならぬ熱意と多くの読者からの高い評価と信頼を示すものである。わが国においても,言語聴覚士の資格制度制定以来,養成校・学生も増加,それを対象にした図書,教科書なども,数多く出版されるようになった。本書も,その中の優れた入門書として,学生および教官に有用な図書である。

 訳者の廣瀬博士は,1970年から3年間ハスキンス研究所で,著者たちと一緒に研究生活を送っている。したがって本書の日本語訳に際しては,訳者というより,共著者に近い立場で内容を検討されたことと思う。廣瀬博士は,日本における音声言語医学,および言語聴覚士教育の第一人者としてよく知られている。博士はまた,翻訳者としても厳しい見識の持ち主である。原本の内容の正確な理解とともに,的確な日本語の表現と記述が必要である。博士の訳による本書は,その意味でも読者にとって,良い教科書となるであろう。
思考からどのようにことばがつながるか
書評者: 加我 君孝 (東京医療センター・臨床研究(感覚器)センター長)
 本書は,原題『Speech Science Primer, 5th Edition, Physiology, Acoustics, and Perception of Speech』で,元東京大学医学部音声言語医学研究施設,音声言語病理部門の教授であった廣瀬肇先生が渾身の力を込めて翻訳された第1版をさらに明快でわかりやすく第2版に改訂したもので,学生や初学者の理解を容易にしている。第2版はさらに充実し,頁数も約1割増えている。第2版には臨床ノートがコラムとして新たに加えられ,初心者にも理解しやすくなっている。

 言語は思考と情報伝達の道具である。失語症で言語中枢が障害されると,言語の“聴く・話す・書く・読む・計算する”5つの要素が同時に障害される。そのために思考力あるいは思考表現が困難となる。とりわけ考えて話すことが難しくなる。『新 ことばの科学入門 第2版』は,思考表現の方法としての“話す”行為に伴う“音声”に関する入門書である。原著は2007年エール大学の音声生理学のハスキンス研究所の研究者によって発行された。原著そのものとしては第5版となる。訳者の廣瀬肇先生は同研究所に留学されていた。

 本書の構成はユニークで第I部のイントロダクション,第1章“ことば,言語,思考”で始まる。われわれはことばなくして深く考えることはできない。話しことばも思考の過程を経て相手に情報として伝達する手段である。ここでは難解なことばと思考について,思考からことばがどのようにつながるか,わかりやすく,かつ興味が持てるように記載されている。第2章は“ことばの科学の先駆者達”が紹介されている。ことばの音響的性質についての研究は19世紀のドイツのHelmholtzがパイオニアであり,現代の研究者についてまで紹介しているのは歴史的発展がよくわかる。Helmholtzは検眼鏡の発明,耳音響放射の一般式の提案など天才的な医師であり物理学者であった。

 第II部はことばの“音響学”で,第3章“ことばの音響学”として音の生理学的側面について聴覚音響生理学的な立場から解説されている。第III部は“ことばの生成”,第4章“生理学的基盤―神経支配,呼吸”,第5章“生理学的基盤―発声”で,神経生理学的,呼吸生理学発声の生理学の基礎的な解説である。第6章は“母音の構音とその音響学”,第7章は“子音の構音と音響学,韻律”,第8章は“フィードバック機構とことばの生成モデル”に分けて構音がどのようにして作られるか解剖学的な側面と音響的な面,さらに何種類ものフィードバックのメカニズム,そしてことばの生成モデルと文の生成モデルへと展開する。本書の1/3がここで費やされている。難しい内容がわかりやすく記述されている。第IV部は“ことばの知覚”について取り上げている。ことばには意味があるが,これがどのように聴覚認知されるのか内耳から大脳に至るまでわかりやすく説明されている。音声によることばの意味の理解がどのような仕組みで認知されるか,神経科学および神経生理学的に解説されている。第V部は“ことばの科学の研究機器”である。この領域の研究にはコンピュータが不可欠であること,他覚的な研究方法として中でも音声を目で見るスペクトグラムが重要であることがわかる。他にわが国で開発された電気的パラトグラフも紹介されている。神経学の機能の測定法として事象関連電位,PET,f-MRIも解説されている。

 本書を便利な手引きとして,補章の“耳で聞く資料集”があるのは理解のために便利である。本書は“音声”を扱っているので,医学書院のホームページにアクセスすることによってウェブサイトで本書の音声サンプルを聞くことができるようになっている。巻末の用語解説も便利である。

 本書はもともと米国の聴覚言語障害や音声科学のコースを選択する学生用に書かれたもので,わが国では言語聴覚士の教育テキストとして,さらに医学や音声・言語の心理学を学ぶ学生の基礎テキストとして,座右の書として重宝がられるであろう。小生は研修医の頃,ベル電話研究所のデニッシュとピンソンの書いた『話しことばの科学――その物理学と生物学』(原題:The Speech Chain)を愛読したが,それ以来20世紀後半の40年を経て本書で“話しことばの科学”自体が神経心理学や神経科学,音楽・聴覚認知心理学とともに広く深く発展したことに感銘を受け,ここに推薦する次第である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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