外科の「常識」
素朴な疑問50

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雑誌 『臨床外科』 の好評連載を書籍化。胃腸手術後のドレーンは必要か? 虫垂炎にCT検査は必要か? 胆嚢の病理組織検査は必要か? 等々、これまで慣習的に行われてきた外科の“常識”をあらためて問い直す。外科医なら誰もが気になる素朴な疑問に対し、データと経験を踏まえ回答を示す。また、「医師に白衣は必要か」などユニークな視点から問題を提起する【番外編】を新たに追加。
編集 安達 洋祐
発行 2009年04月判型:A5頁:216
ISBN 978-4-260-00767-2
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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 ご好評いただいた『臨床外科』(医学書院)の連載「外科の常識・非常識:人に聞けない素朴な疑問」が,1冊の本になりました.
 外科の診療や手術手技がめまぐるしく変化する昨今,次代を担う若い外科医や研修医に読んでほしい「目から鱗」の1冊です.
 これまで疑いもなく行ってきた日常的な外科医の行為について,全国で活躍する27人の臨床医が挑み,情熱をこめて執筆しました.
 本書は過去に例のないユニークな本であり,将来,外科の歴史を振り返るときの「里程標 milestone」になると自負しています.
 外科医は技術者であるとともに科学者でもあり,つねに「本当か」「正しいか」と疑う姿勢,「なぜか」と考える習慣が大切です.
 この本を参考にして「疑う外科医」や「考える外科医」が増え,外科の診療や教育をリードする時代になってほしいと思います.
 「番外編」の中の10編は本書が初登場です.診療上のテーマではありませんが,外科医が直面している最近の問題を扱っています.
 最後に,『臨床外科』の連載から本書の作成までお世話になった医学書院の蔵田泰子さん,田村智広さん,林裕さんに,心から感謝申し上げます.

 2009年3月吉日
 安達 洋祐

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Chapter 1 くすり
 1.1 手術後の抗菌薬は必要か 抗菌薬の点滴は術後3日間?
 1.2 外傷治療後に抗菌薬投与は必要か 縫合したら3日分を処方?
 1.3 風邪にうがいは有効か ルゴール塗布は減ったけれど……
 1.4 急性腹症で鎮痛薬は避けるべきか 手術の判断を外科医が誤る?
 ■番外編 1 外科医に異動は迷惑か
Chapter 2 ドレーン
 2.1 胃腸手術後のドレーンは必要か(1) ドレーンには弊害もあります
 2.2 胃腸手術後のドレーンは必要か(2) 入れずに後悔したことはない?
 2.3 腹膜炎手術でドレーンは必要か 4か所に留置するのが当然?
 2.4 胃腸手術後の経鼻胃管は必要か 胃管の減圧効果って何だろう?
 ■番外編 2 EBMは絶対か
Chapter 3 CT検査
 3.1 手術後のCT検査は必要か 頻繁に検査すれば予後が改善?
 3.2 虫垂炎にCT検査は必要か(1) 虫垂切除術を決断するために
 3.3 虫垂炎にCT検査は必要か(2) 無用な虫垂切除が減る?
 ■番外編 3 医師は理系か
Chapter 4 虫垂切除
 4.1 小児虫垂炎に夜間手術は必要か 小児は「待ったなし」では?
 4.2 膿瘍性虫垂炎に緊急手術は必要か 腫瘍があるのに保存的治療?
 4.3 虫垂切除で断端埋没は必要か 腹腔鏡下手術では切りっぱなし
 4.4 虫垂の病理組織検査は必要か 何のための病理診断ですか?
 ■番外編 4 ピロリ菌は悪者か
Chapter 5 胆嚢摘出
 5.1 腹腔鏡下手術中の胆管造影は必要か 造影で胆管損傷が防げる?
 5.2 胆嚢管の貫通結紮は必要か 昔の外科医は用心深かった?
 5.3 胆嚢管の遺残は避けるべきか 腹腔鏡下手術では残すほうが安全
 5.4 胆嚢の病理組織検査は必要か 固定や切り出しは適切ですか?
 ■番外編 5 外科医は単なる職人か
Chapter 6 胃腸吻合
 6.1 胃腸吻合で漿膜筋層縫合は必要か 念を入れてやりすぎると狭窄?
 6.2 胃腸切離断端の消毒は必要か 粘膜に消毒薬を塗って大丈夫?
 6.3 胃腸手術後の絶食は必要か 絶食で縫合不全が防げる?
 6.4 胃全摘術後の吻合部造影は必要か とりあえず造影してない?
 ■番外編 6 医師の教育はこれでよいのか
Chapter 7 がん手術
 7.1 胃癌手術で網嚢切除は必要か 腹膜再発を防ぐため?
 7.2 乳癌手術で胸筋筋膜切除は必要か 局所再発や予後に影響する?
 7.3 乳癌手術は生検後2週間以内か 遅くなると予後に悪影響?
 7.4 乳房切除後のリハビリは必要か ハルステッド手術の遺産?
 ■番外編 7 外科治療とこの国のかたち
Chapter 8 術前管理
 8.1 手術前の肺機能検査は必要か 術前検査って何だろう?
 8.2 大腸手術前の腸管処置は必要か やりすぎてMRSA感染症?
 8.3 手術前の剃毛は必要か 新人ナースの通過儀礼?
 8.4 手洗いにブラシは必要か 揉み洗いは手抜きですか?
 8.5 手術野の消毒は必要か 皮膚を消毒しなくて大丈夫?
 ■番外編 8 「先生」に「御侍史」は必要か
Chapter 9 術後管理
 9.1 手術後の血液検査は必要か CRP値の推移に一喜一憂?
 9.2 手術後のガーゼ交換は必要か 外科の基本? ムダな儀式?
 9.3 抜糸はなぜ7日目か 1週間が7日だから?
 9.4 半抜糸(間抜糸)は必要か 傷が開くのが怖いから?
 ■番外編 9 外科医のメンタルヘルス
Chapter 10 開胸・開腹
 10.1 開胸は後側方切開が標準か 外科医は慣れた方法が安心?
 10.2 開腹は正中切開が標準か 横切開や斜切開は経験がない?
 10.3 胃全摘で剣状突起切除は必要か 視野や操作の邪魔だから?
 10.4 開腹手術で臓器検索は必要か 腹膜播種が見つかったら……
 10.5 腹部手術で腹腔洗浄は必要か 大切な細胞や分泌液も洗浄?
 ■番外編 10 医師に白衣は必要か
Chapter 11 憩室・肛門
 11.1 メッケル憩室の切除は必要か 見つけたら切りたくなります
 11.2 内痔核に結紮切除は必要か 外科医は根治手術が好き?
 11.3 減圧ストーマは結腸が標準か 一時的ストーマなら回腸?
 11.4 ストーマは後腹膜経路が標準か 血行が悪くなった経験は?
 ■番外編 11 外科医は常識が欠落しているか
Chapter 12 傷・爪・鼠径
 12.1 傷に消毒は必要か 毎日通院させていませんか?
 12.2 「濡らしてはならない」は本当か 入浴禁止していませんか?
 12.3 陥入爪に抜爪は必要か 爪も根治手術が必要ですか?
 12.4 鼠径ヘルニアの手術は必要か 放置して嵌頓する確率は?
 12.5 ヘルニア嚢の切除は必要か メッシュなら切除は不要?
 ■番外編 12 わが国のICはこれでよいのか

索引

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若い外科医,指導医の外科的教養の書
書評者: 武藤 徹一郎 (財団法人 癌研有明病院名誉院長/メディカルディレクター・消化器外科学)
 本書は『臨床外科』誌に連載され好評だった「外科の常識・非常識:人に聞けない素朴な疑問」に,番外編として12の設問を加えて一冊にまとめたものである。精選された設問と適切な解答のおかげで,小冊子ながら大変内容の濃い興味深い本に仕上がっている。内容に引かれて,しっかりと初めから終わりまで読まされるほど面白かった。

 本書の第一の特色は執筆者が2名の例外(昭和38年卒1名と病理医1名)を除いて平成14年から昭和44年の間の卒業で,いずれも若く第一線で活躍している現役の外科医だということである。彼らが各設問に関する文献をよく調べて解答してくれているので,期せずして文献的知識を豊富にすることができる。

 第二の特色は何といっても設問の選び方であろう。12のChapterに3~5の設問が合計50。その内容は,くすり,ドレーン,CT検査,虫垂切除,胆嚢摘出,胃腸吻合,がん手術,術前管理,術後管理,開胸・開腹,憩室・肛門,傷・爪・鼠径の12章から成る。設問の2~3を紹介すると,「胃腸手術後のドレーンは必要か」「虫垂切除で断端埋没は必要か」「手術後のガーゼ交換は必要か」等々,筆者の世代では常識であった処置に対する疑問ばかりであるが,それらに対して親切に文献的考察に基づいた解答が提示されている。“昔の常識は今の非常識”といわれるように,昔こうすべしであった処置のほとんどが,今ではほとんど必要でなくなった。血管だって結紮せずに切離できる時代である。本書で選ばれたかつての常識50のほとんどが,現在の非常識となりつつあることがよくわかる。

 本書では文献的考察が詳しく行われているので,常識から非常識への変遷の歴史を知ることができる。読者は結果のみでなく,その経過をよくたどってみる必要があるだろう。器機吻合,腹腔鏡手術などの新技術の導入が新しいエビデンスを生み常識を変えた。RCTによる証明は,残念ながらほとんど欧米製である。将来,現在の常識が再び常識ではなくなる可能性がある。執筆者の1人が述べているように,まず先輩の医療行為(今の常識)を必死で“まね”ることが大切であり,一通りの型ができあがった後は,一生にわたってクリティカルに“問い”を発し続けることが必要である。これをhealthy skepticismと呼ぶ人もいるが,healthyであることが大切である。この姿勢が科学の進歩を生み新しい常識をつくることになろう。本書はそんなことまで考えさせられる本である。

 第三の特色は12の番外編で,「ピロリ菌は悪者か」「医師の教育はこれでよいのか」「外科医は常識が欠落しているか」等々のさまざまな医療問題に関するトピックスが取り上げられ,エッセイ風に意見が述べられている。登場するエッセイストは執筆者の中の長老組であるが,特にしばしば登場する38年卒の朔先生のエッセイが素晴らしい。筆者と同年代ゆえに共感するところが多いのかもしれないが,若手現役とは一味違う完熟した一世代前(失礼?!)の外科医の意見も“温故知新”としてかみしめて欲しいと思う。

 本書は小冊子ながら,そのサイズ以上の内容を含んだ本であり,若い外科医,指導医の外科的教養の書として推薦したい。
惰性に流されず常に自分で「なぜか」と考える
書評者: 馬場 秀夫 (熊本大大学院教授・消化器外科学)
 かねてから『臨床外科』(医学書院)誌上で連載中であった「外科の常識・非常識」がついに書籍として発刊された。ついに,と書いたのは,以前よりこの連載企画には興味があり,一度まとめて読んでみたいと思っていたからである。

 本書はわが国の外科医が日常診療を行うにあたり,一般的に常識化(もしくは非常識化)している内容を,最新の知見を交えた上で改めて検討し,その真偽を問い直すことに主眼を置いている。誌上掲載時には「人に聞けない素朴な疑問」というサブタイトルをもっていたが,もはや同僚外科医師の間では論議にならないほど当然のことになっている外科診療上の一種の決まりごとを今一度分析し,その「常識」にメスを入れているのである。

 おそらく私もそうであったように,ここで取り上げられている「常識」には,外科の新人研修医時代から先輩医師を通じて,臨床の現場で経験的に身につけてきたものが多数あり,外科医として一人前になる過程で必要不可欠な事項ともいえる。だからこそ,今さら「人には聞けない」ということなのだが,逆にある程度臨床経験が豊富になるとともに,時には本当にそうなのかと感じる外科の慣行が含まれることも事実である。

 そんな外科医の疑問に答えるべく,国内で活躍する27名の臨床医が各項目を執筆され,基本的な外科の常識に改めて正面から取り組まれている。内容をみると,「虫垂切除で断端埋没は必要か」「胃腸切離断端の消毒は必要か」「抜糸はなぜ7日目か」「半抜糸は必要か」など基本的な概念がずらりと並んでいる。もちろん,一般外科医は“常識の範囲”でこれらに反射的な回答を用意できるわけだが,中には疑問を感じてもそれを隅に追いやってきたことに気づく方もいらっしゃるのではないだろうか。

 実は国内外科医のそうそうたるメンバーが同じような疑問を感じていたということにひそかな興奮を覚え,さらにそれに対し,執筆者らが豊富な経験と知識,かつ最新のエビデンスをもって解析を加えていく内容は,外科医として極めて興味深く,結論まで一気に読んでしまうことになる。今までの常識が真となるか偽となるか,一つの疑問に対して簡潔にまとめられた3ページで外科医は十年来(数十年来?)のパラダイムシフトを迎えることになり,新鮮な感動を覚えることが少なくないのである。また,番外編では外科医の直面する最近の問題が取り上げられ,本書をさらに魅力ある書に仕上げている。

 本書は,中堅以降の外科医,これからの外科医の教育にあたる方々に柔軟な姿勢と広い視野で読んでいただきたい一冊である。と同時に,次代を担う若手外科医や研修医には,先輩医師の経験則を新たな視点で考え,一気に見直すチャンスを与えてくれる今までにない外科教科書ともいえる。また,外科の診療を知ってもらうという意味では他科の医師や一般の方にも興味深い内容ではないだろうか。

 もちろん,外科医が身につけた経験と慣習が重要であることには変わりはなく,それを素直に吸収し,外科のセオリーに徹する時期も必要である。一方で,やはり,時にはその惰性に流されず常に自分で「なぜか」と考え,検証する姿勢も併せ持たねばならない,そんなことに改めて気づかされる内容の深い一冊であり,若い研修医から指導者まで幅広い層にぜひとも読んでいただきたい外科医必携の書である。
その「当たり前」は本当に正しいのか?
書評者: 森 正樹 (阪大大学院教授・消化器外科学)
 これまで外科学の中で当たり前と考えられてきたことに対し,本当にそうか? という素朴な疑問を投げかけ,それを多くの医学論文で検証し,その成果を本にまとめてこられたのが安達洋祐先生です。安達先生は医学という硬くなりがちな分野に,柔らかい発想で新しい感覚の本を提供し続けています。これらの本は多くの若い医師の心をつかみ,愛読する外科医が急増していると聞いています。その安達先生がまたもやってくれました。雑誌『臨床外科』の「外科の常識・非常識 人に聞けない素朴な疑問」という連載を一冊の本にしたのです。

 本書は今までの安達先生の本と同様に,とてもインパクトが強く,なるほどと思わずひざを打ちたくなるところが多々あります。序文に記されているように「将来,外科の歴史を振り返るときの『里程標milestone』になると自負してい」ることが,うなずけます。本当に痒いところに手が届く内容で,若い医師だけでなく,指導者にもぜひ一読していただきたいと思います。そして間違いなく読む価値のある本です。

 その題目の一部を挙げると,「風邪にうがいは有効か」「腹膜炎手術でドレーンは必要か」「手術後のCT検査は必要か」「胃腸切離断端の消毒は必要か」「乳癌手術は生検後2週間以内か」「手術野の消毒は必要か」「抜糸はなぜ7日目か」「減圧ストーマは結腸が標準か」「鼠径ヘルニアの手術は必要か」など本当に素朴な疑問が並んでいます。しかし私たちの多くはそのような疑問を感じても,先輩から引き継いできた外科の歴史の中で,検証することなく従来の方法を踏襲してきました。あらためて「それはなぜか?」と問われて,「どうしてだろう」と思う内容ばかりです。安達先生を筆頭にその分野で活躍中の若い先生が関連の医学論文を探して吟味し,質問に小気味よくコンパクトに答えているため,わずかの時間で読破することができます。慣習としてやってきたことが本当に正しいのか,あらためて考える癖をつけてほしいとの編者の願いが具現化された本といえます。そしてそのような志こそがより良い医療の提供につながっていくと期待していると思います。

 また国立病院機構九州医療センター名誉院長の朔元則先生や済生会八幡総合病院院長の松股孝先生などのベテランが安達先生とともに「番外編」として12編のエッセーを書いています。「外科医に異動は迷惑か」「医師は理系か」「外科医は単なる職人か」「『先生』に『御侍史』は必要か」など,執筆者らの長年の思いが凝集されており,大変読み応えがあります。(安達先生はもとより)朔先生,松股先生ともに,文筆家顔負けの素晴らしくわかりやすい,そして含蓄のある文を書かれますが,その実力がいかんなく発揮されています。思わず少し立ち止まって考える内容ばかりです。小さな疑問を題材にしていますが,その奥には大きな問題を含んでいます。ちょうど氷山を見るような具合です。これからの若い外科医がこれらの問題をも解決してくれるだろうとの期待感が感じられます。

 安達先生は,若い外科医が自ら考えることができ,そしてサイエンスとしてみても正しいことができる医師に育ってほしいとの強い願いを持っています。この本はそのような観点で書かれており,ぜひ一読をお勧めします。
外科の「常識」を見直す
書評者: 白水 和雄 (久留米大教授・外科学)
 私が外科医になったのは1974年であるが,当時は外科医をめざす医学生が多かった。外科医が多忙を極めていることは,当時も今も変わらないが,内科医には治せない難治性の良性疾患や癌の手術を行う姿にあこがれ,外科に入局する者が多かった。私も一人前の外科医になるため先輩に厳しく指導され,知恵と技術を学んできた。35年の年月が過ぎ去った今,科学的なエビデンスが蓄積され,これまで諸先輩が築いた外科の「常識」を見直す時期にきている。

 本書は,『臨床外科』誌(医学書院)の好評連載「外科の常識・非常識:人に聞けない素朴な疑問50」と,外科医が直面している最近の問題について,非常にユニークな視点から解説する[番外編]12編から構成されている。編者の安達洋祐氏は,九州大学,大分医科大学,岐阜大学の外科を勤務された後,現在,私どもと同じく久留米市でご活躍中である。

 [素朴な疑問50]では,全国の第一線で活躍中の27人の医師が,これまで外科の「常識」として慣習的に行われてきた処方,処置,検査,手術手技,術前・術後管理を徹底的に問いただし,内外の最新かつ質の高い論文を引用しながら再検証し,根拠のない「常識」を「非常識」としている。例えば,「胃腸切離断端の消毒は必要か 粘膜に消毒薬を塗って大丈夫?」という項があるが,胃腸切離断端の消毒は,私が外科医になるはるか以前から行われていた。私も疑問を持たずに,おまじないのような気分で切離断端のイソジン消毒を行ってきたが,創傷治癒をかえって障害するのであればやめなければならない。一方,「胃腸手術後のドレーンは必要か?」という疑問はいまだに解決されておらず,分担執筆者でも意見が分かれている。松股孝氏は,ドレーンには弊害もあるために不要とする立場,朔元則氏は合併症を皆無にできないことからドレーンを必要とする立場で,それぞれ根拠を挙げて述べている。私の専門は大腸外科,特に直腸外科であるが,例外なく吻合部周囲にドレーンを入れており,朔氏の“To err is human”“fail safe”の考え方に賛成の立場である。

 [番外編]では,「医師の教育はこれでよいのか」「外科医のメンタルヘルス」「外科医は単なる職人か」「外科治療とこの国のかたち」など,タイムリーで関心を引くテーマが多い。医療崩壊,勤務医離れ,外科離れが深刻な問題となっている昨今,医学教育を考え直さなければならないのと同時に外科医を取り巻く環境の改善が急務である。「EBMは絶対か」のテーマでは,近年,殴米において大規模臨床試験が盛んに行われ,得られた多くのエビデンスによるEvidence-Based Medicine(EBM)が,日本の臨床の場でもそのまま通用するかといった問題を取り上げている。朔氏は,個人がこれまでに培ってきた物語に基づいた医療Narrative-Based Medicine(NBM)もEBM同様重要で,EBM絶対主義を戒めている。「外科医は常識が欠落しているか」では,自己反省をせずに医療崩壊を社会のせいにしてしまう医師,裁量権の乱用,倫理規定違反などを問題として挙げている。

 安達氏は,現在,外科臨床の場で行われている根拠のない「常識」と医療をめぐる問題を取り上げ,どのように考えたらよいかの指針を本書で示した。本書を参考にして,「疑問を持つ外科医」「考える外科医」が増え,外科の診療や教育をリードする時代になってほしいという思いで本書を発行したのである。

 本書は,外科研修医,研修を終えた次代を担う若手外科医の必読の書といえよう。

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