婦人科病理診断トレーニング
What is your diagnosis?

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外科病理(診断病理:surgical pathology)という学問が日本でも見直され、その重要性が再認識されつつある。臨床においては、病理診断は最終診断であり、それに携わる者には広範な知識と判断力が要求される。近年、婦人科領域の病理においては新しい概念が次々と提唱されている。本書では、婦人科臨床においてよく遭遇する疾患を中心に、その病理所見をわかりやすく解説する。
編集 清水 道生
発行 2010年05月判型:B5頁:364
ISBN 978-4-260-00734-4
定価 13,200円 (本体12,000円+税)

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まえがき

 医療の現場はこの10年間に大きな変貌を遂げましたが,病理学という学問においても同様で,以前に比べると「病理診断」の重要性がかなり高まってきました.さらに最近では,各専門領域において治療に直結するレベルの高い診断が要求される時代になってきています.病理診断は臨床の現場における最終診断といえますが,その病理診断には広範な知識と判断力が要求されます.また,新しい疾患概念が次々と提唱されるため,臨床医,病理医ともにup-to-dateな知識の収集が不可欠となります.本書のもとになった原稿は,月刊誌 『臨床婦人科産科』 のなかの 「知っていると役立つ婦人科病理・What is your diagnosis ?」 として連載されたものですが,その連載が開始されたのは1999年7月であり,まさに医療の変革が起こる直前であったといえます.
 振り返ってみると,1999年7月から2005年12月までの6年半という長期間にわたり本シリーズが連載されたわけですが,多くの先生方の援助の賜物と考えています.特に当時『臨床婦人科産科』を担当されていた蔵田泰子さんの温かい励ましと,連載当初から積極的に協力してくださった故石倉浩先生(前 千葉大学大学院医学研究院病態病理学教授)には深謝いたします.連載が終わったあと,本書を出版するという話が持ち上がったのですが,実際の出版までには5年近くを要してしまいました.このため大幅に加筆・修正し,内容的にup-to-dateなものとし,さらに参考文献も載せることにしました.執筆者に関しては各項目2名までとし,最終原稿に携わった者を執筆者としたため,執筆者名から漏れてしまった方がおられるかもしれませんが,ご容赦いただきたいと思います.
 内容は,日常の産科婦人科領域においてよく遭遇する疾患,知っておくべき疾患を中心に取り上げています.子宮頸部,子宮体部,外陰部,卵巣,卵管,胎盤というように臓器ごとに分類し,重要な疾患はほぼ網羅し,1つの項目が4頁単位で構成されています.最初の頁ではその肉眼像や組織像のカラー写真が質問形式で呈示され,次の頁ではその写真についてどのような所見がみられるのかを詳細に解説しています.3,4頁ではそれぞれの疾患について知っておくべき事項が簡潔に記載されています.読者はまず1頁目の写真を見て,自分で診断をつけてから次の頁へと進んでいけば,自然とその疾患についての疾患概念,臨床病理学的事項が学べるようになっています.
 本書の出版にあたり,埼玉医科大学病理学教室,埼玉医科大学病院中央病理診断部および埼玉医科大学国際医療センター病理診断科の皆さんに,そして本書の編集に直接携わってくださった医学書院の川上真理さん,蔵田泰子さん,中田正弘さんに心から感謝いたします.また,2006年に51歳の若さで急逝された石倉浩先生にも,ようやく本書が出版できたことを報告したいと思います.最初の原稿から10年もの歳月を経て,本書を出版することができたのも,これら多くの方々の協力と叱咤激励があったからこそと思います.本書が多くの病理医,産婦人科医,そして研修医,医学生,コ・メディカルの方々に愛読されることを願ってやみません.

 2010年4月
 清水道生

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Ⅰ.子宮頸部
 1.Tunnel clusters
 2.Microglandular hyperplasia(微小腺過形成)
 3.Adenomyoma, endocervical type(頸管腺型腺筋腫)
 4.Lobular endocervical glandular hyperplasia(分葉状頸管腺過形成)
 5.Hyperplasia of mesonephric(wolffian)remnants(Wolff管遺残の過形成)/
   Blue nevus of the cervix(子宮頸部の青色母斑)
 6.Koilocytosis(コイロサイトーシス)/Mild dysplasia(軽度異形成)
 7.Adenoma malignum(minimal deviation adenocarcinoma, and extremely well
   differentiated adenocarcinoma)of the uterine cervix(子宮頸部悪性腺腫)
 8.Papillary squamous cell carcinoma(乳頭状扁平上皮癌)
 9.Adenocarcinoma in situ of the uterine cervix(子宮頸部上皮内腺癌)
 10.Clear cell adenocarcinoma of the cervix(子宮頸部明細胞腺癌)
 11.Villoglandular papillary adenocarcinoma(絨毛腺管状乳頭腺癌)
 12.Adenoid basal carcinoma of the cervix(子宮頸部腺様基底細胞癌)
 13.Glassy cell carcinoma(すりガラス細胞癌)
 14.Small cell carcinoma(小細胞癌)

Ⅱ.子宮体部
 15.Endometrial metaplasia(子宮内膜細胞診における化生性変化)
 16.Hobnail cell metaplasia of endometrial glands〔内膜腺のhobnail化生(明細胞化生)〕/
   Luteal phase defect(黄体期不全症)
 17.Disordered proliferative phase(不調増殖期内膜)
 18.Endometrial ossification(子宮内膜骨化)
 19.Atypical polypoid adenomyoma(ポリープ状異型腺筋腫)
 20.Atypical endometrial hyperplasia, complex(子宮内膜異型増殖症,複雑型)
 21.Foam cells in endometrioid adenocarcinoma(類内膜腺癌にみられる泡沫細胞)
 22.Adenosarcoma of the uterus with sarcomatous overgrowth
 23.Endometrial stromal tumor with sex cord-like elements
   (精索成分を伴う子宮内膜間質性腫瘍)
 24.Endometrial stromal sarcoma, low grade(低悪性度子宮内膜間質肉腫)
 25.Metastatic adenocarcinoma, suggestive of breast cancer(乳癌からの転移性腺癌)
 26.Adenomatoid tumor(腺腫様腫瘍)
 27.Lipoleiomyoma of the uterus(子宮脂肪平滑筋腫)
 28.Mitotically active leiomyoma
 29.Bizarre leiomyoma(変形平滑筋腫)
 30.Leiomyosarcoma of the uterus(子宮平滑筋肉腫)
 31.Granulocytic sarcoma of the uterus(子宮顆粒球肉腫)

Ⅲ.外陰部
 32.Lichen sclerosus et atrophicus of the vulva(外陰部硬化性萎縮性苔癬)
 33.Cyst of Bartholin's gland(バルトリン腺嚢胞)
 34.Verruciform xanthoma(疣状黄色腫)/Hidradenoma papilliferum(乳頭状汗腺腫)
 35.Aggressive angiomyxoma
 36.Trichomonas vaginitis(トリコモナス腟炎)/
   Amelanotic malignant melanoma of the vagina(腟原発の無色素性悪性黒色腫)
 37.Vulvar intraepithelial neoplasia 2(VIN 2)(外陰部上皮内腫瘍,中等度異形成)
 38.Bowenoid papulosis(ボーエン様丘疹症)
 39.Extramammary Paget's disease(乳房外Paget病) and syringoma(汗管腫)
 40.Proximal type epithelioid sarcoma of the vulva(外陰部近位型類上皮肉腫)

Ⅳ.卵巣
 41.Rete ovarii(卵巣網)/Adrenocortical rests(副腎皮質迷入)
 42.Pelvic actinomycosis(骨盤内放線菌症)
 43.Serous borderline tumor(漿液性境界悪性腫瘍)/
   Invasive implant(浸潤性インプラント)
 44.Mucinous cystic tumor of borderline malignancy, intestinal type
   (粘液性嚢胞性境界悪性腫瘍,腸上皮型)
 45.Endometrioid cystadenofibroma of borderline malignancy
   (類内膜嚢胞腺線維腫,境界悪性)
 46.Clear cell borderline adenofibroma(明細胞境界悪性腺線維腫)
 47.Hepatoid yolk sac tumor(肝様卵黄嚢腫瘍)/
   Clear cell adenocarcinoma(明細胞腺癌)
 48.Transitional cell carcinoma(移行上皮癌)
 49.Mixed-epithelial papillary cystadenoma of borderline malignancy of
   müllerian type/Yolk sac tumor with functioning stroma,
   mucinous cystadenoma with functioning stroma
 50.Juvenile granulosa cell tumor(若年型顆粒膜細胞腫)
 51.Adult granulosa cell tumor(成人型顆粒膜細胞腫)
 52.Ovarian fibroma in patient with Gorlin syndrome
   (Gorlin症候群の患者に認められた卵巣線維腫)
 53.Sclerosing stromal tumor(SST)(硬化性間質性腫瘍)
 54.Sertoli-stromal cell tumor with heterologous elements
   (異所性成分を伴うセルトリ・間質細胞腫瘍)
 55.Steroid cell tumor, not otherwise specified(ステロイド細胞腫瘍,分類不能型)
 56.Dysgerminoma(未分化胚細胞腫)
 57.Yolk sac tumor(卵黄嚢腫瘍)
 58.Primary choriocarcinoma of the ovary(卵巣原発性絨毛癌)
 59.Immature teratoma(未熟奇形腫)
 60.Cystic struma ovarii(嚢胞性卵巣甲状腺腫)
 61.Strumal carcinoid of the ovary(卵巣の甲状腺腫性カルチノイド)
 62.Small cell carcinoma of the ovary, hypercalcemic type
   (卵巣小細胞癌,高カルシウム血症型)

Ⅴ.卵管
 63.Walthard nests/Ectopic pregnancy(子宮外妊娠)
 64.Non-tuberculous salpingitis(非結核性卵管炎)
 65.Pseudoxanthomatous salpingitis(偽黄色腫性卵管炎,仮性黄色腫性卵管炎)
 66.Adenocarcinoma in situ of the fallopian tube(卵管上皮内腺癌)
 67.Female adnexal tumor of probable wolffian origin
   (Wolff管由来と考えられる女性付属器腫瘍)

Ⅵ.胎盤
 68.Amnion nodosum(羊膜結節)
 69.Chorioamnionitis(CAM)
 70.Multiple placental infarction of antiphospholipid syndrome
   (抗リン脂質抗体症候群に伴う胎盤多発梗塞),abruptio placentae(胎盤早期剥離)
 71.Chorangioma of terminal placenta(末期胎盤の絨毛血管腫)
 72.Placental site nodule and plaque(着床部結節)/
   Exaggerated placental site(過大着床部)
 73.Placental site trophoblastic tumor(PSTT)
 74.Early complete hydatidiform mole(早期の全胞状奇胎)
 75.Invasive mole(侵入胞状奇胎)

Ⅶ.その他
 76.Glandular inclusions in the lymph node(リンパ節内迷入病変)
 77.Peritoneal keratin granuloma(腹膜のケラチン性肉芽腫)
 78.Deciduosis of the peritoneum(腹膜の脱落膜化生)
 79.Florid mesothelial hyperplasia(過剰反応性中皮増生)
 80.Gliomatosis peritonei(腹膜神経膠腫症)

和文索引
欧文索引

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知識や経験を積むときの羅針盤となる書
書評者: 向井 萬起男 (慶大准教授・病理学)
 最近,日本の医師不足が声高に言われている。臨床各科の中で特に不足している科の名が挙げられてもいる。でも,病理医の不足については声高に言われていないようだ。病理医も不足しているのに。……数の少ない日本の病理医が医療の現場でどれだけハードに働き,医療レベルの向上にどれだけ寄与しているかわかっている人が少ないのだろう。

 それでも,日本の病理医は頑張り続けるしかない。そして,自分が専門とする臓器・分野だけに専念しないで(そんな余裕なんてあるわけがない!),どの臓器・分野の病理診断でもできるオールラウンド・プレイヤーをめざしていくしかない。

 ここで,問題が1つある。病理診断が易しい臓器・分野なんて1つもないということだ。一見すると易しそうに見える臓器・分野でも,実は奥が深くて,正確で臨床に役立つ病理診断を下すのはけっこう難しい。病理医は,経験を積めば積むほど,その難しさと怖さがわかってくるものだ。

 そこで,婦人科領域の病理診断。これは,一見しただけでも難しい。もし,婦人科の病理診断なんて易しいなどと言う人と出くわしたら(そんな人はいないと信じたいけど),相手になんかしないことです。

 で,日本の病理医は婦人科領域の病理診断についてコツコツと勉強していかなくてはならない。婦人科領域のいろいろな疾患についての臨床病理学的知識を身に付け,組織標本も実際に顕微鏡でのぞいてみるということをコツコツとやっていくしかない。そして,こうしたことをやっていくうえで羅針盤となるような優れた本があれば言うことなしとなる。

 『婦人科病理診断トレーニング―What is your diagnosis?』は,そうした羅針盤となり得る本であることは間違いないだろう。

 まず,構成が実にイイ。80の疾患を選び,そのおのおのについて疾患概念,臨床像,組織像,鑑別診断をコンパクトにまとめてくれているのだが,どの疾患についても簡単な臨床経過と組織像からなるクイズ形式の問いから始まるので,つい興味を惹かれてしまうようになっている。さらに,この80疾患の選び方が的を射ている。婦人科領域の数多い疾患の中から羅針盤として選んだ最高の80疾患と言えるかもしれない。一つひとつの疾患から他の疾患に考えを広げていくことができるからだ。こうした点は,鑑別診断の項目に多くの疾患が挙げられていることでよくわかる。また,関連用語とか関連事項という興味深い項目を設けた疾患が多いことでもよくわかる。

 経験豊富な病理医であれば,この本のもう1つの特徴にすぐに気付くだろう。組織像を示す写真の質の高さだ。肝心なことがよくわからない組織写真が載っている本がけっこうあるが,この本に載っている写真は倍率の適切さ,像の明瞭さという点で抜群と言える。プロがやった仕事,プロにしかできない仕事というのが伝わってくる。
婦人科腫瘍専門医に最適な病理診断のテキスト
書評者: 八重樫 伸生 (東北大病院副院長/産婦人科教授)
 本書の特徴は,各疾患・病態が4ページでまとめられていること,各疾患のトップページに質問形式で臨床データと病理像のカラー写真が提示されその裏ページにその解答があるQ&A形式をとっていること,その後2ページで病態と病理学的事項などの簡明な解説があること,全体を通した書式の統一が素晴らしいことなどにある。以下,本書を通読した直後の率直な感想を述べる。

◆病理医と臨床医の共通理解のために

 日本婦人科腫瘍学会では卵巣がん,子宮体がん,子宮頸がんの3つの治療ガイドラインを発刊し,数年ごとに改訂を繰り返している。ガイドライン作成委員長をしながら改めて感じることは,「治療のスタートは常に病理診断にある」ということである。一方で,科学の進歩に伴い,婦人科腫瘍の領域でも疾患の病態理解は年々変化し続けており,それをフォローしつつガイドラインに反映していくことは重要である。例えば,子宮頸部病変でいえば悪性腺腫と分葉状頸管腺過形成(LEGH)の概念がそうであるし,卵巣の境界悪性腫瘍での浸潤性インプラントがそうであろう。こういった疾患概念の提唱や病理診断基準の変化を理解する病理医による的確な病理診断が治療のスタートになり,臨床の場にも即座に反映される。

 つまり,治療ガイドラインというものは,病理診断が共通でかつ的確であるという前提のもとに作成されているわけである。そして,病理医と臨床医がともに疾患概念を正確に理解し,疾患の共通理解のもとに診療を進めることが重要である。そのためのテキストが必要となるのは言うまでもないが,本書の素晴らしい病理写真の数々と秀逸な解説がそういった役目を果たすのではないかと考える。

◆婦人科腫瘍専門医試験のために

 日本婦人科腫瘍学会では,5年前から婦人科腫瘍専門医試験を行っている。婦人科腫瘍専門医制度は主に臨床医を育成するためのものであるが,その要求する到達目標はたいへん高く,幅が広いものである。修練カリキュラムをざっと眺めてみると,臨床腫瘍学の総論的事項,婦人科腫瘍の診断と進行期決定,婦人科腫瘍病理組織・細胞診診断,婦人科臓器の疾患とその評価法・治療法の選択,婦人科腫瘍に関連する手術などがあり,これらすべてを網羅して修練することは並大抵のことではない。専門医を取得する者の多くが産婦人科専門医を取得した後のいわゆる一般的な産婦人科臨床医である。忙しい日常診療の合間にこのような幅広い知識をどう得るか,特に病理診断トレーニングをどう効率よく受けるかという点は大変重要である。

 これまでも病理医のためのテキストのようなものは多く刊行されていたと思われるが,婦人科腫瘍専門医向けに最適と思われる婦人科病理診断のテキストはなかったように思う。Q&A形式をとる本書は,まさにそういった婦人科腫瘍専門医を目指す先生方のバイブルになるのではないだろうか。

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