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カラーアトラス 子宮頸部腫瘍

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子宮頸癌検診の重要性が高まっているなか、子宮頸部の病変診断に特化してまとめられた。症例ごとに細胞診断・コルポスコピー診断・病理診断の写真が呈示され、三位一体で学ぶことができる。標本作製方法、分類記載法ともに最新の情報を掲載した待望の1冊。
井上 正樹 / 尾崎 聡
発行 2009年04月判型:A4頁:176
ISBN 978-4-260-00697-2
定価 9,020円 (本体8,200円+税)

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 今わが国の臨床細胞診断学が大きく変わろうとしている。創生期の細胞診断学から臨床検査学への進展である。臨床検査としての細胞診断がより客観性・再現性・科学性をもち信頼度がより高いものへと進化しつつある。最近の分子生物学的知見を得て,新しい診断基準や最新の技術を導入し,より簡便で実用的な方向へ脱皮しつつある。特に婦人科領域ではスクリーニング検査として細胞診が重要であるが故により高い精度管理が求められている。

 膣の離細胞形態による子宮癌の診断は1928年George N. Papanicolaou(1883~1962)やA. Babes(1880~1962)によって初めて示された。この成果は1600年初頭に顕微鏡の開発,1838年に離細胞での癌診断,1847年には月経周期による細胞形態の変化の観察,1855年R. Virchow(1821~1902)の病理学の確立,など一連の病理形態診断学の大きな進展の中で達成されたものである。欧米では1950年初頭から細胞診断による子宮癌検診が始められた。わが国においても,1961年日本臨床細胞学会が組織され,1982年には老人保健法で行政支援による細胞診による子宮頸部癌検診が開始され,子宮癌死亡の減少に大きな役割を果たしてきた。
 これまで子宮頸癌の発生機序に関する多くの研究がなされてきたが,1983年,zur Hausenらは子宮癌組織にhuman papillomavirus(HPV)が高率に存在することを報告した。その後,多くの疫学調査や一連の基礎研究により原因ウイルスと断定された。この成果も1907年,Ciuffoによる乳頭腫がウイルス感染に起因することの発見に始まるウイルス発癌研究や1970年代から勃興してきた分子生物学領域の技術革新の礎に築かれた成果である。現在HPV予防ワクチンが実用化され子宮頸癌ゼロの日も夢ではない状況にある。これらの成果を背景に2008年のノーベル医学生理学賞がzur Hausenに与えられた。

 一方人々には予防健康医学の意識が広がり,癌検診が社会に定着するにつれ,その診断精度に多くの問題点が指摘されている。癌検診としての細胞診断に精度管理が求められている。精度管理を目的としてHPVによる発癌を考慮した細胞診断の新分類が1985年に採択された。パパニコロ分類からベセスダ分類への進化である。対費用効果も考慮する必要がある。そのため,絶え間ない技術革新の努力がなされている。細胞検体処理方法の改新,分子標的診断マーカーの開発,細胞診自動化,などである。同時に個人の診断能力の自己管理から検査施設としての精度管理が求められている。
 細胞診断以外にも,子宮頸部病変を直接観察して診断する努力もなされてきた。コルポスコープは子宮膣部の拡大鏡として開発され,その簡便性ゆえに広く普及した。1975年には所見の国際分類が統一され,2002年にはより簡略化された。わが国でも2005年日本版が作られ,婦人科腫瘍専門医が習得すべき重要な技術となっている。
 病理診断に関しても2006年新WHO分類が示され,分子生物学の研究成果を取り入れる一方で,より臨床に対応した簡略化・実践化の方向にある。
 細胞処理技術が進歩しても,診断基準が変わっても,検査者の診断力はいつの時代においても最も重要な事柄である。個々の症例を正しく診断し,正しく治療するには総合的に症例を診ることである。そのためには,細胞診断,コルポスコープ診断,病理組織診断を三位一体で学ぶ必要がある。一個人の診断能力は診断機器の改新や新しい診断概念にはしばしば遅れがちである。個人の診断能力を磨きながら時代に即応して臨床診断を学ぶための教科書を企画した。本を作成するに当たって多くの先生方から資料提供や助言を頂いた。特に,丹後正昭(金沢医療センター産婦人科),全 陽(金沢大学付属病院病理部),山崎 洋(市立敦賀病院産婦人科),久冨元治(金沢大学付属病院病理部),田中百合子(金沢城北病院病理部)の諸先生には感謝いたします。

 医学研究は“砂浜に小石を積む”様なものである。積んでは波に洗われ,真に必要なものだけが残ってゆく。残った小石の山も流れ去った小石の礎に築かれたものである。本書も砂浜の小石と成らんこと願っている。

 2009年春
 金沢市宝町にて
 井上正樹
 尾崎 聡

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第I章 膣および子宮頸部の正常形態
 1 女性性器の構造
 2 膣上皮
 3 子宮頸部上皮
第II章 子宮頸癌発生の分子機構-Human Papillomavirusの果たす役割-
 1 子宮頸癌とHPV
 2 HPVの構造と機能
 3 HPV感染と子宮癌リスク
 4 子宮頸部前癌病変の考え方
 5 HPVに対する宿主免疫応答
 6 臨床検体のHPV検出法
第III章 コルポスコピー
 1 コルポスコピー検査
 2 コルポスコピー検査機器
 3 コルポスコープによる観察の手順
 4 コルポスコピー所見
 5 組織生検
第IV章 細胞検体の標本作製
 1 細胞診検査の精度向上のために
 2 塗抹法から液状法へ
 3 細胞診検査の品質管理と品質保証
 4 液状法の有用性
 5 液状法の種類
 6 液状法の実際
第V章 細胞診断(ベセスダ分類)と病理診断の対比
 1 細胞診断におけるベセスダシステム
 2 ベセスダシステム(TBS)による分類の実際
 3 組織診断と細胞診断の対比
 4 CINの生物活性
 5 癌の浸潤程度(進行期)の診断
 6 細胞診断の精度を保つために
第VI章 非腫瘍性変化-炎症,萎縮,刺激,修復などの良性化生変化-
 1 非腫瘍性変化 NILM
 2 病原微生物 Organisms
 3 反応性細胞変化 Reactive Cellular Finding
 4 化生細胞と病理組織診断の対比
 5 混入物
第VII章 子宮頸部扁平上皮病変-ASC,SIL,SCC-
 1 異型扁平上皮細胞 Atypical Squamous Cells(ASC)
 2 細胞診ASC に対応する腫瘍性病変
 3 軽度扁平上皮内病変 Low-grade Squamous Intraepithelial Lesion(LSIL)
 4 高度扁平上皮内病変 High-grade Squamous Intraepithelial Lesion(HSIL)
 5 SIL診断上の注意点
 6 細胞診断SILに対応する病理組織像
 7 浸潤を疑う細胞像
 8 浸潤性扁平上皮癌 Frank Invasive Squamous Cell Carcinoma
第VIII章 子宮頸部および体部の腺病変-NILM,AGC & Adenocarcinoma-
 1 腺系細胞のベセスダ診断
 2 悪性所見なし Negative for Intraepithelial Lesions or Malignancy(NILM)
 3 異型腺細胞 Atypical Glandular Cells(AGC)
 4 内膜細胞 Endometrial Cells
第IX章 子宮間葉系病変とその他の腫瘍
 1 稀な子宮原発腫瘍
 2 膣・外陰の稀な腫瘍
 3 他臓器癌からの転移
 4 腹水細胞診・尿細胞診

文献
索引

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ベセスダシステム2001に基づく本邦初の教科書
書評者: 平井 康夫 (財団法人 癌研有明病院・細胞診断部部長)
 井上正樹,尾崎聡の共著『カラーアトラス子宮頸部腫瘍』を拝読した。本書は,子宮頸癌検診に携わる細胞診従事者を対象とした,細胞診断学の好著である。細胞診従事者が子宮頸部腫瘍について必要にして十分な知識を身につけることを目的に編纂された秀逸な解説書でもある。子宮頸部腫瘍の深い理解に不可欠な,細胞診,コルポスコープ診,組織病理診の三者が入念に著述されている。さらにそれぞれが美麗なアトラス写真として視覚化され,多数呈示された。

 今日,世界のそしてわが国の臨床細胞診断学は大きく開化し変貌しようとしているかにみえる。開化の先がより洗練され,より厳しい精度管理に耐えうる臨床検査学としての細胞診の方向なのか。それともより形態と病理に根ざした細胞病理診断学としての完成をめざす方向なのか。混沌とした中で種々の新規技術が積み上げられて,実学としての細胞診は進歩し続けているかにみえる。現在わが国では子宮頸部細胞診報告様式において,旧来の日母クラス分類からベセスダシステム2001への切り替えが急ピッチに求められている。米国に端を発したベセスダシステムの取り入れは,黒船襲来と揶揄されるかもしれない。また,同じく米国が主導した新規技術としての液状化処理細胞診(LBC)は,日本でも確実な広がりをみせつつある。LBCの一時期世界的にみられた礼賛は影を潜め,代わって,LBC本来の細胞自体の保存性の高さに着目した,地道な評価研究や臨床への応用が進みつつある。

 こうした時期にあたり本書は,ベセスダシステム2001の報告様式を詳述し,その臨床的使用と実地の運用について詳細に解説した。よって本書は,現時点で日本で唯一,最初の,ベセスダシステム2001に基づく子宮頸部細胞診断学の教科書となった。

 本書はまた,LBCの実際についてその手技を詳しく解説した。各章では自験例に基づいた多数のLBCによる症例写真を呈示し,供覧している。この点においても本書は,直接塗抹法による細胞診の症例写真を主とした,旧来の子宮頸部細胞診断学教科書とは一線を画す快挙を成し遂げた。

 第II章の「子宮頸癌発生の分子機構」は純学問的にも,まさに著者らの真骨頂ともいえる一章に仕上がっている。ここでは,頸癌発生の分子機構の最新知見が多数の図表に基づいて視覚化され,簡潔に述べられている。これらの知見の多くは,子宮頸癌を予防し撲滅する最終兵器として期待を集める最近のHPVワクチンの開発や発展につながるものである。

 各章の自験症例に基づくコルポスコープ写真と病理組織写真は,細胞診断学における細胞像の理解に欠かすことができない。これらは細胞診の形態的理解の基盤を提供するに足る網羅性と美麗さを備えている。

 本書はまさに,扉に記された「三位一体で学ぶ細胞診断学」アトラスとして,細胞診従事者必携の一冊として各所で永く残る秀逸な名著である。
子宮頸部腫瘍に関する手引書
書評者: 長谷川 壽彦 (財団法人 東京都予防医学協会検査研究センター長)
 本書は,臨床医,病理医,細胞診専門医や細胞検査士が日常診療で把握しておかなければならない事項について,最新の知見も加えながら,豊富な写真を駆使してわかりやすく解説している子宮頸部腫瘍に関しての手引書である。子宮頸部病変を扱うものとしては期待を持って手にする書物である。

 わが国では,HPV検査は一般的に普及していない段階にあるが,HPVが子宮頸癌の原因ウイルスであることに疑問の余地は無く,必然として,近々にHPV検査は子宮頸癌検診や日常診療に取り入れられ,さらにHPVワクチン接種も開始されるであろう。著者の1人井上正樹教授は,HPV研究の第一人者として活躍されているが,豊富な知識を基にHPVと頸癌との関連性について,研究成果も示しながら解説している。基礎的事項から臨床に直結する事項まで幅広く取り上げているので,HPVに興味のある読者には時宜を得た読み物である。主として臨床や細胞診実務にかかわっている,それほどHPVに興味をもてない読者が,HPVに関する第II章を拾い読みしても本書の目的とする「三位一体で学ぶ細胞診断学」として問題は無い。HPVについては,第VII章の症例提示でも取り上げられているので,HPV感染と症例を見ながら第II章に戻って読み直せばより理解が深まると思われる。

 誤解を受けると思われる記載を指摘する。レーザー使用の切除標本は組織診断に不向き(p.44)とあるが,現在,わが国の多くの施設でその利便性からレーザー切除標本で病理診断を実施しており,不向きと言い切るのは問題であろう。コルポスコピー白斑について,白斑が移行帯外にあるときはコンジローマと診断する(p.36)とある。コルポスコピー所見分類では,白斑とコンジローマ,パピローマは別所見であり,移行帯と関連していない。

 これまで長らく使用されていた旧日母クラス分類は細胞診報告として問題があるとして,日本産婦人科医会を中心に日本臨床細胞学会など関連学会がベセスダ方式の取り入れについて検討した。その結果,ベセスダ方式をわが国で使用できるように多少の手直しを行い,これを今後の細胞診報告様式として周知することになった。本書はベセスダ方式による和文での細胞診教科書として極めて有用である。本書の病変と細胞像等の解説は,ベセスダ方式に沿った形での記述であり,量的問題からかHSILを細分していない。わが国で,これから周知させようとしている報告様式では,中等度,高度異形成,上皮内癌を再分類し,臨床医が症例を扱う際の参考としているので,違和感を覚える読者もいるかもしれない。ただし,HPV検査,特にHPVの型別検査が容易に行われるようになれば,HSILの再分類についての議論は別の展開を迎えると予想している。

 ベセスダ方式制定の一番の目的は,細胞診の質の保証であり,本書では第IV章で液状検体の紹介を含めて,細胞診の質保証はどのようにあるべきかを記載している。将来を見据えているとの印象を得た。

 本書は,疑問症例や調べたい症例に遭遇したときにコンサルトできる性質の書籍と思われるので,通読後仕舞い込むのでなく常に手元に置いて活用すべきである。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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