神経解剖集中講義

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◆勉強しにくい神経解剖学の理解・知識整理に役立つ。単元のいずれからも必要に応じて学べる。 ◆この神経解剖のエッセンス(米国国試基礎)は優れもの! 日本の医学教育コア・カリキュラムとの対応も明記。臨床とのリンク(画像、検査)も他書にない魅力。 ◆臨床実習の学生、国試対策のまとめ、忙しい研修医、関連職種等多くの読者に広く活用される書。
原著 ジェームス D. フィックス
監訳 寺本 明 / 山下 俊一
秋野 公造 / 太組 一朗
発行 2007年05月判型:B5頁:228
ISBN 978-4-260-00349-0
定価 3,850円 (本体3,500円+税)
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監訳者序
寺本 明・山下 俊一(監訳者)

 『21世紀は脳の時代,高次神経機能の全容解明の時代』と呼ばれている.ポストゲノムの科学社会において,『形態と機能』は常に不可分の生命科学研究の対象であり,その中でも神経解剖学の果たす役割は極めて大きく,複雑な神経系機能を理解するうえで最も重要な分野の一つである.

 本書の特徴は,第一に,神経解剖学で抽出された解剖学的事実に焦点を当てながら,臨床神経学への橋渡しを目指していることである.そのため,神経解剖の重要なポイントを集中的にまとめて,斬新かつ分かり易い教科書となっている.英文原本をはじめて見たとき,従来の教科書にはない簡潔明瞭な解剖用語の説明とイラストとの絶妙な対比,さらに関連する臨床事項とのリンクが綿密に練られた教科書であることに感心した.同時に,最新の画像診断図譜が満載され,神経解剖を学ぶ者にとり基礎・臨床を問わず大変興味を引くものである.しかし,緻密な学問体系である神経解剖学から得られる神経機能の理解は単純ではなく,学習途上の医学生には神経解剖の複雑さばかりが際立ち,頭を悩ませることが多いのも事実である.その点,本書でコンパクトにまとめられた一字一句と図表が理解できれば,すべての神経解剖学的事項と臨床的問題が有機的につながるであろう.本書が米国USMLE試験対策テキストとして,永年第一位の人気を誇っていることも容易に想像できる.

 本書は元来米国において医学生を対象としたものであるが,その翻訳に際して若干の工夫を加えることにより,臨床神経解剖を学ぶすべての人にとって有用な書とした.すなわち,
(1) 医学部学生が初めて神経解剖学を習うときの充実した教科書として.最近では解剖実習の一部に臨床医も参加して局所解剖の臨床的意義を解説する場合が多い.従来の解剖学の教科書では新しいカリキュラムに十分対応できず,その意味でも本書は最適なテキストである.
(2) 臨床系コース講義の神経コースでの教科書として.あるいは,神経内科や脳神経外科のBSL(bedside learning)での手引き書として.巻末に現行の「コアカリキュラム対応表」をつけた.これを参考にして関連する基礎的事項を検索すれば,症例への理解が一層深まるように工夫した.そのため原書には含まれない解説を付記し,わが国の臨床統計を追記している.
(3) 医師国家試験やUSMLE受験のための教科書として.
(4) 神経内科はもとより,脳神経外科・放射線科・リハビリテーション科などの専門医または専門医試験受験者の学習書として.これらの方々にとって本書の内容は覚えるべき基本的な必須事項である.そのため高度な臨床的事項への対応としては,脳神経外科専門医レベルの学習に必要な到達目標としてのキーワードを要所項に盛り込んだ.
(5) 言語療法士・臨床心理士・看護師・放射線技師・臨床検査技師やリハビリテーション系のコメディカルの方々の参考書として.
 本書の訳出にあたっては,長崎大学解剖学教室の秋野公造博士(現在は厚生労働省勤務)と日本医科大学脳神経外科学教室の太組一朗博士のお2人が超多忙な中で翻訳作業を行った.その訳出過程では活発な議論が重ねられたであろうことは容易に想像できるが,基礎医学者,臨床医と異なる専門的立場からまとめられた細かい訳出の工夫が随所に見られる.その結果,原書英文教科書の素晴らしさを十分に引き出しつつ現在のわが国の医学教育にも対応している.お2人の先生方の真摯な御努力に心から敬意と感謝を捧げたい.
 最後に,本書が神経学を学ぶすべての方々にとって,機能的な神経解剖を理解するための座右の書となることを願ってやまない.
 2007年3月

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1 断面像から見た脳解剖
2 髄膜,脳室,脳脊髄液
3 脳の血管支配
4 神経系の発生
5 神経組織学
6 脊髄
7 脊髄路
8 脊髄の病変
9 脳幹
10 三叉神経系
11 聴覚系
12 前庭系
13 脳神経
14 脳幹の病変
15 小脳
16 視床
17 視覚系
18 自律神経系
19 視床下部
20 辺縁系
21 基底核と線条体運動系
22 神経伝達物質
23 大脳皮質
24 失行症,失語症,韻律障害

付録:脳神経の一覧
付録:参照図
付録:コア・カリキュラム対応内容一覧
付録:専門医のためのキーワード(上級篇)

索引

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神経解剖がそのまま神経臨床につながる良書
書評者: 松村 明 (筑波大教授・脳神経外科学)
 このたび,寺本明先生・山下俊一先生・監訳,秋野公造先生・太組一朗先生・訳による『神経解剖集中講義(High―Yield Neuroanatomoy, 3rd edition, by James D. Fix, Ph.D.)』の訳本が出版された。本書の原題でまず目を引くのが“High―Yield”という言葉であるが,訳本では“集中講義”となっており,翻訳にあたっての工夫が感じられる。“High―Yield”とは,直訳すれば高収益,高利益,高収率といった意味があるが,本書はまさにそのような著者の哲学がふんだんに盛り込まれている。実際に内容を拝見すると単なる神経解剖書とは異なり,解剖図譜,MRI画像,CT画像などがふんだんに盛り込まれており,臨床に即した実用的な記載になっている。

 さらには疾患の画像や疾患の病態の説明が随所に盛り込まれており,基礎的な神経解剖と実際の疾患の結びつきが一気に学習できるように工夫されている,まさに“High―Yield”,もしくは“集中講義”といった表現がぴったりとあてはまる好書である。

 近年,日本でも趨勢をきわめている,臓器別統合型カリキュラム,PBLチュートリアルのためのよい教科書はなかなか見つからず,それぞれの解剖書,生理学,臨床症候学の教科書を並べて学習しなければならない場合も多い。本書は神経解剖から神経症候についてすべてが網羅されており,神経解剖講義・実習から臨床症候学までを一冊で網羅できることは教える側からも教わる側からしても非常にありがたい。学部の神経解剖実習においても,最近では基礎医学教官に臨床医学の教官も加わって神経解剖実習を行っているところもあると聞いている。神経解剖がそのまま神経臨床につながっていくことを実感することにより学習のモチベーションが高まったり,解剖の知識をその場で神経症候の理解に用いることができるといった学習の効率化という意味合いでも,本書は神経系のコースには最も適した著書といえよう。

 本書の最後の付録に脳神経の一覧,参照図,コア・カリキュラム対応内容,専門医のためのキーワードなどが追加されており,訳者らが本書をさらにグレードアップさせるための意気込みが感じられ,原著にも増して充実した内容にパワーアップしている。

 本書は医学部学生の神経系コースのテキストとしては必須の書であるが,看護師,理学療法士,作業療法士,その他神経解剖に関連する医療分野の学生にも推薦できる良書である。さらには,忙しい中で受験勉強を行わなければならない脳神経外科や神経内科専門医受験生の医師にも効率よく学習のできるテキストとしてぜひ活用いただきたい。
最小のページ数で最大の内容 神経解剖学の理解と知識整理に
書評者: 渡辺 英寿 (自治医大教授・脳神経外科学)
 本書は,ユニークな原書英文タイトル(High―Yield Neuroanatomy)が示すように,臨床に必要な脳の解剖に関する基礎知識を効率よく理解して記憶することをめざして執筆されている。本書の序文にも“最小のページ数で最大の内容”とあるように,究極の効率をめざしている。

 脳の解剖学は構造も複雑であるにも関わらず,羅列的にそのままを記憶しようとすると,平板であり,非常に苦労するものである。しかし,この平板な内容も,いったん疾患や障害を理解しようとして解剖学を見直すと,それぞれに重要な構造物が立体的に浮かび上がってきて,容易に記憶ができるものであったことに気付くものである。これは多くの臨床家が実体験していることではないだろうか。これを教育に生かさない手はない。本書はおそらくこのような経験をもとに,臨床を切り口として,読者の理解と記憶を促しているようである。さらに,最大限に効率よく記憶できること(High―Yield)をめざしてあらゆる努力が注入されていることが手に取るようにわかる,学習者にとっては大変頼もしい一冊である。その点で,数多い他の脳解剖学の教科書とは一線を画している。

 本書はもともと米国の医師国家試験の受験生向けに執筆されたものであるが,訳者らの努力により,日本の臨床医,神経系の専門医の受験用にも活用できる独自の工夫が加えられている。他の翻訳書とは違い,放射線科,脳神経外科の実地臨床家が内容を一度咀嚼したうえで,日本の読者向けに翻訳していると思われる部分があちこちに見られ感心させられる。さらに,訳者のオリジナルな追加図譜や,日本語の語呂あわせでの記憶法などもさりげなく追加されており,ほほえましい。ぜひ探してみていただきたい。

 さて本書は24章からなる。章立ては,血管系,髄液系,解剖学的部位別,さらに,各神経機能系に従って分けられ,さらに,神経発生,神経伝達物質,失語など,別の観点からの章も特別に設けられ,バランスのよい緻密な設計思想が伺える。また,各図表の下には,通常の解説と,それぞれの図の中で記憶すべきポイントが必ず一言二言記載されているのが,心憎い。加えて,各章のタイトルにはしゃれた副題が付記されており,例えば脳幹の章では“すべての脳が手をつなぐ場所”などとあり,学習中の緊張をほっと緩めてくれる著者の優しい心遣い,エンターテイメント精神が感じられる。

 さて,内容であるが,第1章は脳の断面解剖,第2章は膜,髄液腔の解剖であり,これにかかわる脳ヘルニアなどの臨床的な部分も大きく取り上げられて解説されている。解剖から臨床症状までが上手く結び付けられているので,臨床経験のない学生にも,これらの解剖学の知識が将来役に立つことが実感できるようになっている。第3章は血管支配で,脳梗塞と症状との関連が詳しく示される。第4章は神経系の発生で,詳細にこだわらず臨床的に重要な部分を大づかみにわかりやすく解説したうえで,臨床で問題となる数々の奇形の発生機序もわかりやすく解説される。第5章は組織学で正常構造は簡単に済ませた後,神経修復機構や,脳腫瘍の組織学さらには放射線学的な特徴まで,要領よくまとめられている。また,訳者により,日本での腫瘍統計に基づき数値の加筆が明示されている。

 第6,7,8章は脊髄で,正常構造から脊髄疾患までがまとめられる。第9章と14章は脳幹の正常と病変に当てられている。第10,11,12,17章は三叉神経,聴覚,視覚,前庭系と,機能系ごとにまとめられている。第13章は脳神経で各脳神経の核から神経根までの解剖と,それらの障害による臨床像が解説されている。第15,16,19,20,21章は小脳,視床,視床下部,辺縁系,基底核で,特にパーキンソン病などの不随意運動障害の発生機序が神経回路をもとにわかりやすく解説されている。第22章は神経伝達物質を軸に脳を再分割して,それぞれの伝達物質ごとに基礎から臨床まで簡潔にかつわかりやすい解説が進む。第23,24章は大脳新皮質の構造から,運動,知覚,言語,認知などの機能的な分布と障害に関して,豊富な図を駆使して解説されている。

 巻末には日本語版の付録として,神経内科学会や脳神経外科学会の専門医認定試験向けと思われる学習すべきキーワードが,それぞれの章の中から抜き出され,受験生のための基本的な知識のチェックリストとして使用できるよう,念の入れようである。

 本書は解剖を始めた医学生はもとより,医師国家試験をめざした受験生,専門医試験を目前にした臨床医などには必携の一冊である。さらに,言語療法士,臨床心理士,看護師,放射線科技師など神経関連のコメディカルの方々の簡便な参考書としてもお勧めしたい。一方,臨床で有用な図表が多いので,実地臨床家にとっても日々の臨床の手元に常に置き,さっと参照するときにも大変役に立つと思う。

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