認知症ケアの考え方と技術

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認知症(痴呆)の人と接するには,一般の高齢者と同じでよいところと違ったところがある。認知症が増えるなか,そのケアに対する考え方や技術を知るのに,現場を多く経験し,ケアの指導にもあたってきた著者がわかりやすく説明した書。認知症を理解した上で,日々のケアにあたってほしい。
六角 僚子
発行 2005年04月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-33400-6
定価 2,640円 (本体2,400円+税)
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  • 目次
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序章
 1. 認知症の人との出会い-自分の世界を生きる
 2. 認知症ケア現場の実情-クリスマス会にて
 3. ケア提供者の混乱-認知症の進行に拍車
 4. 本書の特徴
1 自分の世界を生きる認知症の人
 1. 認知症の今
 2. 認知症とは
 3. アルツハイマー型痴呆と血管性痴呆
 4. 認知症に伴う症状
2 認知症の人と家族
 1. 高齢者と家族の今
 2. 認知症という親(身内)を家族が受け止める過程
3 認知症ケアに求められる姿勢
 1. 人間としての高齢者を理解する
 2. 当たり前の生活の大切さをわかること
 3. 高齢者の体の変化を,自分自身の体を眺めながら理解していく
 4. 時代を知る-百年の歴史を勉強し,高齢者を知る手がかりとする
 5. 共感すること-1本の足はその人の世界に,もう1本の足は自分自身に
 6. 自分自身もいずれは高齢者になるという自覚をもつ
 7. チームで働く
4 認知症ケアの基本的対応
 1. 見守り・観察ケア
 2. 健康管理のケア
 3. かかわりケア
 4. 五感を刺激するケア
 5. 興味・関心を探るケア
 6. 気分転換のケア
 7. チームケア
 8. 行動変容を促すケア
 9. リハビリテーションケア
 10. 基本的欲求を満たすケア
 11. 家族へのケア
5 認知症の人の日常生活を支える援助技術
 ケアを始める前に
 1. 生活環境-安心して過ごしたい
 2. 姿勢と動作-背筋を伸ばして
 3. 食事-安全に楽しく食べる
 4. 排泄-すっきり爽快になる
 5. 清潔-きれいでいたい
 6. 衣-おしゃれを楽しむ
 7. 睡眠・休息-ゆっくり休むということ
6 認知症の人のアセスメントとケアプラン
 1. アセスメントのための情報-認知症ケアの拠りどころ
 2. アセスメントをする共通の視点とアセスメント項目
 3. 測定スケール
 4. 認知症の高齢者のアセスメント結果をケアに活かす
7 認知症の人の性と死
 1. セクシュアリティ
 2. 別れを迎えるとき-別れの作法
8 地域(あなた)の力
 1. 認知症の人が暮らす場
 2. 認知症の人を支える仕組み
あとがき
索引

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認知症の人たちに必要なのはしっかりした理解とほどよい手助け (雑誌『看護学雑誌』より)
書評者: 加藤 基子 (名古屋市立大学看護学部研究科・ケアシステム看護学分野・訪問看護学教授)
 この本は,認知症の人たちが当たり前の生活を全うしていけるような,ほどよい手助けの仕方について,エピソードをふんだんに使った優しい文章で丁寧に書かれています。

◆認知症の人に,肩書きを外して「出会う」ことから始めよう

 まず1~3章では,認知症ケアにおいて必要な知識と考え方が述べられています。たとえば認知症の中核症状である「見当識障害」の項では,84歳の方が5分前は50歳と称していたのが今は18歳と変わり,その年齢に応じておばちゃん,お姉さんと呼び分けられることを,著者は「人生の行き来」をしていると表現しています。素敵なとらえ方です。「自分の世界を生きる」Sさんと著者とのかかわり合い方が読み手の胸に素直に伝わります。

 認知症ケアで最も大切なのは,自分の世界を生きる認知症の人と「出会う」ことです。出会うにはありのままの自分,不器用で悩みながら暮らしている自分を,丸ごとそのままさらけ出さねばなりません。これは,ある意味で怖いことかもしれません,白衣や肩書きを外して自分そのもので向かい合うのですから。しかし,この出会いは認知症の人を対象化しない,一方的にケアされる人にしない関係を作り,ケアという大義名分で認知症の人の可能性や能力をつぶしているのではないかというジレンマからケア従事者自身を解放します。肩から力が抜け,お互いに気持ちのやりとりができ,共にあることを実感し,仕事を抜きにした「一人の人間」として,相対することができるのです。

◆共にありながらケアをすること

 続く4~8章は,専門職としてのケアの仕方について書かれています。ここには,数多くの認知症ケア従事者の想いと,著者の研究者としての観察力と感性から導かれた基本的対応と援助技術が,読み手も一緒にケアを紡ぎ出せるように具体的でわかりやすく記述されています。

 私は最近,「共にあること」と「ケアをすること」のつながりが気になっていますが,後半の日常生活を支える援助技術の章では,「共に行ない」「一緒に」等の表現が随所に出てきます。さらに「なぜ洗面所に排泄するのだろう」というような,ケア従事者が当たり前と考えている状態からの乖離に,「なぜ」と疑問を持ち,察していくことも繰り返し述べられています。この「一緒にする」と「なぜ」は,「共にあること」と「ケアをすること」を両立させるヒントになります。

 なお,最後に取り上げられた性についてですが,異性への表現や行動に困惑する現状は,認知症ケアの場が病気を治す治療の場でなく,生活の場であると承知している私たちに対して,生きるにふさわしい生活の場なのかと問いかけられているように思えます。

 認知症ケアには課題がまだまだいっぱいあります。本書を読み,著者の著す世界に触れながら,志をもって進んでいきましょう。

(『看護学雑誌』2005年8月号掲載)
認知症ケアに携わるすべての医療従事者へ
書評者: 本間 昭 (東京都老人総合研究所参事研究員/日本認知症ケア学会理事長)
 本書の中でも示されているが,「2015年の高齢者介護」では今後,認知症ケアが高齢者ケアの中で大きな割合を占めると言われている。しかし,第一線のケアスタッフの間で認知症について必ずしも十分に理解されているとは言い難い。彼らが接する要介護認定者の半数以上に認知症が疑われるにもかかわらずである。どのような考え方に基づいてケアが行われるにせよ,まず疾患について正しく理解されることが理にかなったケアの基礎となることは言うまでもない。この意味で本書は今までに類をみない。

 本書の内容を簡単に紹介すると,まず疾患としての認知症について基本的な事柄が述べられ,認知症ケアで欠かすことができない認知症の人にとっての家族の意味と役割,そして認知症ケアに関わる関係者に求められる姿勢が,具体例を踏まえてわかりやすく述べられている。そして,これらに基づいた認知症ケアの基本的な対応と彼らの日常生活を支える援助技術がやさしいイラストで描かれている。さらに,アセスメントとケアプランの実際と認知症の人の性と死,地域の力の活用法が著者の視点で示されている。特徴的なのは,まず疾患としての認知症の理解を踏まえてその人の立場に立ち,個性を大切にした理にかなったケアを行うためのノウハウが,著者の豊富な臨床経験に基づいて述べられている点である。認知症ケアに携わるすべてのスタッフに一読を勧めたい。欲を言えば,認知症ケアの基本的な対応と援助技術を裏付けるエビデンスが求められるが,これはむろん著者の責ではなく老年看護学および関連領域に今後求められる最大の課題の1つであろう。

 最後に,本書には明日からの実践に役立つ考え方と技術が豊富に示されているが,著者が本書をまとめるに際して払った努力と認知症ケアに対する見識に対して敬意を表したい。

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