ヒヤリ・ハット報告が教える
内服与薬事故防止

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実際のヒヤリ・ハット報告1,210事例の分析結果をもとに,内服与薬エラー特有の5つの混乱要因を明らかにし,現実的な対策を提言。典型的かつ重要な49パターンのエラーについては,6つにわけた内服与薬業務プロセスのなかで,要因および対策を具体的に解説。膨大に見えた内服与薬エラーにも,これなら対処できる。
川村 治子
発行 2002年07月判型:A5頁:104
ISBN 978-4-260-33222-4
定価 1,760円 (本体1,600円+税)

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  • 目次
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Chapter1 内服与薬エラー防止はあらゆる医療機関に共通のテーマ
Chapter2 内服与薬エラーの整理・分析の考え方
Chapter3 内服与薬業務プロセスからみたヒヤリ・ハット事例とエラー発生要因
Chapter4 精神病棟ではなぜ患者間違いが多いのか-その背景要因と対策
Chapter5 注射と比較することでみえてくる内服与薬エラーの発生要因
Chapter6 内服与薬エラーはなぜ起きるのか?-内服与薬に特有な5つの混乱要因
Chapter7 内服与薬エラーを防ぐ-5つの要因へのシステム改善の考え方と現実的な対応策

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組織でも個人でも即実践できる与薬事故防止策の集大成
書評者: 秋吉 静子 (国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院・看護部長)
◆医療事故防止策は,病院生き残りの最重点課題

 ヒヤリ・ハット報告が教える内服与薬事故防止の本を,『病院』で連載もされていた川村治子先生が発行された。度重なる医療事故に対し,2002年10月から院内医療事故予防対策が未実施の場合,減算10点が開始される。今や医療の質保証として医療事故防止対策は,どの病院でも生き残りをかけた優先度の高い課題である。インシデント,アクシデントの報告の迅速性やシステムとしてとらえた業務改善は,チーム医療としての全体的視点とともに組織横断的に関係部門の業務範疇の見直しや確認,あるいは新たな視点での業務整理が必要になると考える。
 特に医療事故の大半は,看護師の業務内容と関連する。看護職の業務は,病院組織の前方機能であることから,必然的にケアの最終提供者となることが多く,かつ多くの関係部門と接点を持っているがゆえに,アクシデントになる時は,いくつかのチェックをすべてくぐり抜けて起きる。一刻も早く事故予防の決め手を繰り出したい現場の思いはあるが,取り組む内容が多岐にわたり,遅々として進まずの感があるのは否めない。

◆1200事例の業務プロセスを丹念に分析した知見

 この本は全国のヒヤリ・ハット事例1万の中から,与薬の1200事例を丹念に整理し,多くの病院で起こり得るケースの最大公約数的な事例が紹介され,懇切ていねいに根拠を明らかにし,予防策が示してある。したがって,事故予防策としてすぐに役立つ内容である。著者は事例を解析し,現象の裏にあるシステムやヒューマンエラー特性,人間工学,看護教育の在り方などの関連要因を,医師として臨床を熟知した立場で鋭く問題を浮き彫りにし,医療界の今後の課題を明快に示唆している。またナース達にとっては,「事例の何に着眼し,何が重要であるのか」について学ぶことができる待望の書と言える。
 私は,この本の使用方法を4通りに考える。1点目は,院内全体のシステム改善として病院管理に役立てることができる。与薬に関わる医師,看護師,薬剤師,事務職などの業務規定や分担システムを医療安全管理委員会で検討するのに有効である。また研修医,新人看護師や薬剤師などの集合教育に活用できる。2点目は,看護管理に関わる人々に役立つ。具体的には業務師長や教育師長,各科の師長・主任たちが活用する機会は多い。内服自己管理の基準,責任の所在,業務基準の見直しや検討,現任教育や職場内教育にも大いに参考となる。3点目は,スタッフナースの自己学習の参考書となる。4点目は,看護師以外の職種の方々も日々確認するためのテキストとして活用できる。与薬事故予防策の推進に大変役立つ本であり,私たちには朗報の1冊である。
かくも複雑な内服与薬業務での医療従事者の協働に向けて
書評者: 陣田 泰子 (聖マリアンナ医科大学病院・看護部長)
◆ヒヤリ・ハット報告を現場で働く人々と共有

 本書は,ヒヤリ・ハット事例を提出することは大変な勇気を必要としたはず,その勇気を無駄にしない,そして研究結果を多くの現場に働く人々と共有したいという著者の思いから生まれた。著者は,医療の現場で日常的に行なわれている与薬業務は,実は臨床の3部門(医師・看護師・薬剤師)にまたがる時間・空間をくぐって患者のもとへいきつくという複雑なシステムを形成していることにまず言及している。
 本書の特徴は,その複雑多岐にわたる与薬システムを6つの業務プロセスに分け,さらにエラーの内容を(1)対象エラー,(2)薬剤エラー,(3)薬剤量エラー,(4)投与方法エラー,(5)その他エラーの5種に分類し,30のマトリックスで分析していることにある。
 日夜業務を担当している当事者は,当然この与薬業務の構造をわかっている。しかし,実は提示されてこれほど複雑なシステムであったのかと,改めて気づいた。
 事故防止対策を実施しているつもりでいたが,その対策は著者が嘆く対症療法的であり,本質的な療法になりえていなかったことを自覚した。なぜならば,認知していない事柄に対して予防対策は行なわれないからである。
 整理・分析の考え方も,医療事故における2つの危険要因の違いについて記述されている。危険要因が患者側にある転倒・転落事故と医療側の積極的な介入で発生する与薬事故は,おのずと危険要因の所在が異なり,整理・分析方法は,その特徴を捉えて選択するべきものであると,著者は強調している。その結果,多数事例を分析する際の事実の整理方法として,2軸にその要因を配置したマトリックス法となった。
 本書では,その整理・分類法に沿って収集した具体的な事例が提示されており,事例番号も付記されている。この点は,今後各セクションで,あるいは全病院的に発生した事例の整理方法としてヒントとなる施設も多いのではないだろうか。

◆戦いに突入した臨床現場での「安全戦争」
 
 第4章の「精神科病棟ではなぜ患者間違いが多いのか―その背景要因と対策」では,一般病棟と比べて2倍以上の患者間違いが発生している事実を提示している。
 第5章の「注射と比較することで見えてくる内服与薬エラーの発生要因」では,注射と比較分析することで,内服与薬のエラーの特徴を際立たせている。比較することによって両者の特徴を明確にし,内服与薬事故に対する特徴の記憶と理解の促進を意図している。
 看護部長としては,看護部所属セクション全体のセーフティーマネジメントも重要であるが,まずは各自の所属部署のリスク認知を確かにして対策に取り組んでもらいたいと願う。各部署の事故防止対策は,まずその部署の特徴の把握,そして発生した事故内容の分析をふまえ,他部署とは異なる要因の特徴を明らかにしてターゲットを絞り込み,効果的に進めない限り“モグラたたき”の域は出ない。今,臨床の現場では,J・Reasonの言う「安全戦争」に突入している。この終わりのない戦いにいかに賢く取り組んでいくか,各施設ごと,部署ごとの緊急課題となっているはずである。
 第7章に「もし,…ならば内服与薬エラーは起こらない」と,6項目が記載されている(各自読んで確認されたし!)。今後,対応策を進める上で重要な点は,医師とともに薬剤師との協働が焦点となるのは間違いない。その際,本書を有効に使うことも重要な戦略になると,いま密かに考えている。
 読み終えての感想として言うならば,読み手の頭を整理するためのレイアウト上の工夫も随所にされている。欲を言えば具体的,現実的な対策をと言う著者のこだわりが,「看護師との協働」あるいは「具体的な病院での実践例」などの形で含まれていたらと期待してしまう。しかし,これらは本書をふまえて,今後私たちが示していかなければならないことではある。

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