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脳卒中リハビリテーション連携パス
基本と実践のポイント

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地域における診療連携ネットワーク重視の流れがますます加速していくなか、脳卒中は国民の健康・福祉に与える影響が極めて大きな疾患であり、診療連携体制の構築は必要不可欠である。本書は、「脳卒中治療ガイドライン」の実践版という位置づけで、地域におけるリハビリテーション連携のためのツールである「連携パス」を実践するためのヒント集となっている。
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はじめに-地域におけるリハビリテーション連携の推進に向けて

里宇明元



□脳卒中とリハビリテーション医療

 疾患別リハビリテーション体系の導入,算定日数上限の設定など,リハビリテーション医療の分野で大幅な改定が行われた平成18年の診療報酬改定において,地域における医療機関相互の連携を評価する「地域連携診療計画管理料」が新設された.今のところ,その対象は大腿骨頸部骨折のみに限られているが,地域における診療連携ネットワークの形成を重視する流れは,ますます加速すると予想され,今後,他の疾患にも拡大されていく可能性が高い.

 特に脳卒中は,死因の第3位(13万人),総患者数の第4位(137.4万人),国民医療費の第4位(1.7兆円),高齢者医療費の第1位(1.38兆円)(いずれも平成14年度患者調査)1),要介護原因の第1位(平成13年度国民生活基礎調査)2)を占め,国民の健康,福祉に与える影響がきわめて大きな疾患の1つである.脳卒中医療は,脳卒中ユニット,血栓溶解療法,血管内カテーテル治療などの急性期治療の進歩,診療ガイドラインの策定,在院日数短縮の加速など,大きな変貌を遂げつつある.このようななかで,限られた社会資源を効率的に活用しつつ,患者の生活機能とquality of life(QOL)を最大限に高め,社会の介護負担を軽減していくためには,それぞれの地域の特性に根ざした,急性期からの一貫したリハビリテーション医療を効率的・効果的に提供しうる切れ目のない脳卒中診療連携体制の構築が不可欠である.このような地域における診療連携を実現していくためのツールの1つとして,「(地域)連携パス」に熱い視線が注がれている.

□機能特化と連携

 21世紀の医療のキーワードは,「機能特化と連携」とされる3).すなわち,これからの医療機関は,地域のなかでどれだけ病床を機能特化し,専門性を高めていけるか,地域の保険医療機関とどれだけネットワーク連携を行っていけるかが求められるようになる.2004年に発表された「健康フロンティア戦略」においては,健康寿命を2年延伸することが重点目標として掲げられ,特に生活習慣病対策と介護予防の推進が謳われている4).そのなかで,国民の健康,福祉に大きな影響を与える脳卒中については,その死亡率を25%減少させるという数値目標が明記され,さらに脳卒中が主要な原因の1つとなる要介護者については,現在7人に1人のところを10人に1人に減らすとされている.これらの目標を実現していくうえで,さまざまな医療機関が診療連携を図っていくことの重要性がクローズアップされている.2006年6月に国会を通過したいわゆる「医療制度改革法案」においても,「医療機能の分化と連携」が重要な柱の1つとして掲げられ,各都道府県は2008年より医療費適正化計画を推進することが求められている.すなわち,従来は二次保健医療圏のなかで各医療機関がばらばらに急性期を担ったり,回復期を担当したりと,相互の連携なく存在しているという状態であったが,今後,都道府県が主体となって策定することになる医療計画においては,既存の二次保健医療圏にとらわれずに,実際の患者の診療・受療行動にマッチした日常医療圏において,それぞれの病院が自らの機能を明示しながら,有機的に連携することが求められている5)

□連携パスと地域リハビリテーション連携体制

 このような診療連携を進めるうえで,「連携パス」が重要なツールとして位置づけられている.連携パスとは,「急性期から回復期を経て早期に自宅復帰できるような診療計画を作成し,治療を受けるすべての医療機関で共有して用いるもの」であり,「複数の医療機関が,役割分担を含め,診療内容を患者に提示・説明することにより,安心して医療を受けることができるようにするもの」とされている4).ちょうど,クリニカルパスが診療内容の標準化,診療プロセスの効率化,アウトカム改善の強力なツールとして華々しく導入され,もてはやされたときのように,これからしばらくは連携パスが時代の寵児となるかもしれない.特に日頃,診療連携がスムーズにいかずに悩んでいる医療者にとっては,一部の先進地域における成功例を目の当たりにすれば,連携パスは救世主のように映り,ますます連携パスに対する思いが募るかもしれない.ただし,連携の本質を深く考えることなしに,また,それぞれの地域の多様性や実情を考慮することなしに,単にツールとしての連携パスのみに焦点が当てられることになれば,結局はうまく機能せずに一時のはやりで終わってしまう可能性も危惧される.

 辞書をひもとくと,「連携」とは,「連絡をとって,一緒に物事をすること」と定義されている(大辞林).すなわち,「共通の目標に向かって,情報を共有し合い,協働すること」と言い換えられよう.これは,「障害を持った人々が,地域において持てる能力を最大限に発揮し,人権が尊重され,生き甲斐を持った生活を送れるように,障害者やその家族を中心に共通の目標に向かってチームで援助する活動」としてのリハビリテーション医療の本質につながる言葉であると考えられる.したがって,われわれリハビリテーション医療に携わる者は,単に「連携パス」という言葉や診療報酬上の誘導に振り回されるのではなく,自らの地域におけるリハビリテーション連携のありかたをじっくりと考え,「お互いの顔が見え,実効性があり,診療の質の向上と利用者のQOLの向上に役立つ」連携体制をそれぞれの地域に根ざした形で作り上げていく必要がある.

□本書出版の経緯と本書の位置付け

 日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会では,これまで関連学会と合同で,「脳卒中治療ガイドライン」6)の策定に取り組み,脳卒中リハビリテーション医療の標準化と質の向上に努めてきたが,本ガイドラインの実践版として,わが国における医療の実情を踏まえたリハビリテーション連携のありかたおよびその具体的な方法について提言・提案していくことが重要な課題であると認識するに至った.それを受けて,平成18年8月に診療ガイドライン委員会の中に「リハビリテーション連携パス策定委員会」が設置され,その活動の一貫として本書の出版が企画された.

 本書は単なるパス集ではなく,これから読者がそれぞれの地域でリハビリテーション連携を築き上げ,実践していくうえでのヒントとなることを願って,1)脳卒中診療の現状と診療連携,2)クリニカルパスの基本,3)脳卒中診療におけるクリニカルパスの動向,4)データベースとITの活用と開発,5)連携パスの実践,6)ユニットパスの実際,7)連携相手に望むこと,という章立てから構成されている.リハビリテーション連携パスに関しての取り組みはまだようやく始まったばかりであり,もとより本書は連携パスの決定版を提示することを意図したものではない.むしろ,「連携パス」自体が発展途上のものであり,また地域における実りある連携体制を実現するためのツールの1つに過ぎないものと位置づけており,本書に対する 現場からのさまざまなフィードバックをいただきながら,継続的によりよいリハビリテーション連携のありかたを探っていきたいと考えている.

 最後に,本書の企画から出版まで非常に限られた期間であったにもかかわらず,貴重な実践報告や提言をお寄せくださった執筆者の方々に編集者一同,心から御礼申し上げたい.

 2007年5月



■文献

1)厚生労働省大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課:平成14年 患者調査の概況(2002).(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/02/index.html)

2)厚生労働省統計情報部:平成13年度国民生活基礎調査,2002

3)武藤正樹:「機能特化と連携」こそが医療改革生き残りのキーワード.新連載 21世紀の医療連携,Clinician 510:561-564,2002

4)「医療計画の見直し等に関する検討会」ワーキンググループ報告書,平成16年9月24日

5)厚生労働省健康局生活習慣病対策室:全国健康関係主管課長会議資料.平成17年2月4日

6)篠原幸人,吉本高志,福内靖男,石神重信〔脳卒中ガイドライン委員会〕(編):脳卒中治療ガイドライン 2004.協和企画,2004

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はじめに-地域におけるリハビリテーション連携の推進に向けて
第1章 脳卒中診療の現状と診療連携
第2章 クリニカルパスの基本
第3章 脳卒中診療におけるクリニカルパスの動向
第4章 データベースとITの活用と開発
第5章 連携パスの実践
第6章 ユニットパスの実際
第7章 連携相手に望むこと
おわりに-脳卒中における連携パスのあり方と今後の課題
索引

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地域ネットワークづくりのヒントを集積した
書評者: 浜村 明徳 (小倉リハビリテーション病院)
 このたび,日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会リハビリテーション連携パス策定委員会より,わが国の脳卒中診療やリハビリテーション(以下,リハ)医療,地域医療連携の第一線で活躍される115名の執筆者による脳卒中リハ連携に関する書が発刊された。

 本書は,冒頭で診療ガイドライン委員会の里宇明元担当理事が述べているように,「単にツールとしての連携パスのみに焦点を当てず,障害を持つ人々が地域で生き甲斐を持った生活を送れるように援助する活動としてのリハ医療」の一環,そのつなぎに関係する人とツールのあり方を示したことに類書が及ばない特質がある。いわば,リハ医療における「連携の科学書」であり,かつ連携マニュアルとしても活用できる「連携実践の手引書」ともなっている。

 前半では,(1)脳卒中診療の現状と診療連携,(2)クリニカルパスの基本,(3)脳卒中診療におけるクリニカルパスの動向,(4)データベースとITの活用と開発と,脳卒中連携に関する基本的な事柄,連携の概要や科学的根拠などが紹介されている。連携の基本はパートナーシップ(栗原),仲間づくり活動(正門),お互いの信頼(橋本)など「人」であること,急性期から在宅生活支援に至る「システムづくりを意識した活動の中に連携がある」ことを多くの執筆者が述べている。また,クリニカルパスの意義やパス作成のポイント,その動向などを通して,効果に関することや今後の方向性も示されている。

 後半はより多くのページを割いて,(5)連携パスの実践,(6)ユニットパスの実際,(7)連携相手に望むことなど,実践事例や関係者の意見などが紹介されている。現時点でのわが国の先駆的連携事例,特徴ある事例の殆どが紹介されていると言ってもよい。これらの事例から,連携パスは地域のネットワーク活動の結果としてできてきたものもあれば,連携パスを動かすことが契機となってネットワーク活動が始まった事例もあることがわかる。ここには,連携パスを実践するための知恵,ネットワークづくりのヒントが集積されている。

 リハにおいて連携は目標であり,念仏のように唱えられてきた経緯がある。昨今,医療機関の役割分担が明確になり,連携なくしてリハが成り立たなくなった。そのことが,支援ツールとしてのパスを活用できるものとした。

 本書を参考に,それぞれの地域,関係者,時期,障害度などに適したあり方が検討され,また本書が障害のある人々のQOLの向上,地域のみんなで切れ目なく支える地域リハ体制づくりの一助となることを期待したい。
参考となる連携パス実践例と臨床家の必須知識を収載
書評者: 蜂須賀 研二 (産業医大教授・リハビリテーション医学)
 このたび,日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会リハビリテーション連携パス策定委員会の編集により本書が出版された。近年,脳卒中リハビリテーション連携パスは,日本リハビリテーション医学会や関連する研究会で教育講演やシンポジウム,あるいは医学雑誌の特集企画としてしばしば取り上げられている。しかし,すべての脳卒中医療関係者が気軽に通読でき,何時でも何処でも手軽に参照できる成書は,これまで存在しなかった。

 2006年4月に診療報酬の改定があり,急性期リハビリテーションの重要性が認められ,リハビリテーション訓練の算定上限が1日9単位までに拡大したが,脳卒中発症後2か月以内に回復期リハビリテーション病院に転床させなければならなくなった。効果的なリハビリテーションを実施するには急性期を充実させるとともに,急性期病院と回復期リハビリテーション病院との密接な連携が必須である。さらに,回復期リハビリテーション病院とかかりつけ医,あるいは介護保険に基づくリハビリテーション施設との連携も不可欠である。これまで「連携」は「在院日数短縮」の手段であり,あたかも川の水が高い所(急性期病院)から低い所(かかりつけ医)へと流れるが如しとの批判もあった。一方,地域リハビリテーション領域ではその重要性は認知されていたが主観的麗句に終始することが多く,必ずしも医療全体に波及する具体的な方法論は提示されていなかった。

 この激動期に多くの医療関係者が待望していた脳卒中診療に関する実践的な連携パスの解説書が完成した。内容は,脳卒中診療の現状と診療連携,クリニカルパスの基本,脳卒中診療におけるクリニカルパスの動向,データベースとITの活用と開発,連携パスの実践,ユニットパスの実際,連携相手に望むこと,といった7つの章で構成されており,急性期・回復期・維持期を担当する医師やコメディカルにより分担執筆されている。個々の記載は簡潔であり,図表も多く,読みやすく,読者がどのような施設に勤務していても必ず参考となる連携パス実践例を見つけることができる。さらに本書は単なるパス実例集ではなく,脳卒中リハビリテーションを適切に実施するためのヒントが得られ,診療報酬上の誘導に左右されない見識と臨床家として必要な知識を得ることができる。

 今回,里宇明元担当理事のもと,委員の方々がこの時期に的を射た企画を立て出版にまでこぎ着けたことは賞賛すべきである。本書はリハビリテーション関係者ばかりではなく,脳卒中医療に関与するすべての医師とコメディカル・スタッフにぜひお勧めしたい一冊である。

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