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フィドラーのアクティビティ論
現実とシンボル

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個人が日常生活を送るなかで、目的をもって行われる活動“アクティビティ”。作業療法の治療過程の核となる本理論について、作業療法の発展に寄与してきたフィドラーの作業療法士としての60年間にわたる臨床と教育、研究から各アクティビティがもつ性格を明らかにすることで、読者がアクティビティの力動性と可能性の一端を探求、発見、理解することへと導く。
監訳 鈴木 明子
訳者代表 福田 恵美子 / 河野 仁志
原著 Gail S. Fidler / Beth P. Velde
発行 2007年06月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-00037-6
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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  • 目次
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監訳者の序

 「心の在り方,変わり方」は見えにくいが,誰にでもどこにでもあって,静かな時間も突如として崩壊してしまうこともある.その心の動きが幸せを創ることも不幸をもたらすこともある.親は子どもを理解するために,先生は人間的接し方を学ぶために,行政に携わる人は住民との協働のために,専門家は対象者の幸せと癒しのために,心のメカニズムの説明を求めている.生きて呼吸すること,どこかに歩いていくこと,スポーツをすること,ものをつくること,絵を描くこと,料理をすること,これらはすべてアクティビティ(目的的活動)である.それらを分解し,要素を抽出し,基本的意味,役目,意義を説明したのが本著である.
 Gail S. Fidler先生(1916~2005)は大学卒業後に,名門の伝統校であるUniversity of Pennsylvaniaで正規の作業療法教育を学んだ.一貫して精神科領域に勤務し,共感することを重要視した.彼女はアメリカの作業療法職のリーダーというだけにはとどまらない.普遍的理論家,臨床家,教育者である.引用されている著書や論文は数え切れないほどあり,また講演,コンサルタント,メンターとして歴史に残る大偉業をなされた.
 夫のJay W.Fidlerは精神科医で,1987年に世界集団精神療法学会が日本で開催されたとき,理事長として来日された.ホテルで,初対面の筆者に「明子のことは1961年,Gailが毎週の授業のあとで詳しく話してくれたからよく知っているよ」と言われた.2人はFidler & Fidlerとして,ご一緒に名著を多く出された.息の合ったご夫妻は常時,学生,患者さん,職業,世界平和のことを知的に鋭く話し合われていた.それが著書にもよく表れている.
 筆者は,Fidler先生に2つの大学で直接授業を受けた.最初は,1960年にコロンビア大学医学部へフルブライト留学生として入学したときであった.筆者はこのときはまだ作業療法(OT)についてまったくの無知であった.身体に関する解剖学などは見える分野であるが,その一方で精神医学分野は見ることはできない.まして精神医学的作業療法はその国の文化,伝統,言語,個人差などからなる複雑な領域であった.そのうえ,精神分析の盛んな時代のためにすべてが“新しいこと”,“難しいこと”の連続であった.その壁を破り,面白い,わかる分野に変わったのは,ひとえにFidler先生のわかりやすい授業方法によるものである.まるで演劇を観ているかのように場面場面に引き込まれた.10年後,ボストン大学大学院修士課程に留学し,再度Fidler先生の授業を受けることとなったが,彼女には高度な理論を具体的に,体験を加えて学ばせ,また討論することでしっかりと身につくように教えていただいた.特に耳に残った言葉は,“Read it”,“structured-unstructured”であった.表情,言葉,所作,行動,作業態度,作品などから瞬間的に大切なポイントを把握する.心のありようを読むことであり,前後を察知して未来形を予測し,事故を予防し,安全でより幸せな生き方を考える.そして治療のゴールを立てる.個人を理解できればそこにいる集団についても考えられる.そこから拡大していくと,地域の特性からニーズを探し出せる.加えて,枠や型に入る静かな力と,そこを脱け出し超えようとする動く力との違いを語られていた.このときの授業内容は本書にも紹介されている.
 45年間,Fidler先生には背中を押されてきた.この途中,「明子とは,もう学生対教師ではなく,ベストフレンドです.これからはGailと呼ぶように」との手紙とオパールが贈られてきた.また晩年,重篤な病のあと,「夢のような意識のなかで明子だけがあった」と言っていただいた.加えて「明子に最近の3冊の原著を日本語に訳してほしい」というありがたい申し出をいただいて,「まず1 冊を訳しましょう!」と本著に取り掛かった次第である.
 「人間とは」ということを永遠の課題とされ,休みなく学ぶことに挑戦し続けられ,「最後の日まで,体力がたとえ弱まっていたとしても,気力だけは強い侭であった」とのことであった.「生き方」そのものがお手本であったFidler先生.ご家族は,ご主人のJay,娘さんのDagney,息子さんのEricを遺された.残念ながら本著が世に出るのを待たずに逝かれたFidler先生に謝り,また共訳者の努力に感謝し,Fidler先生の人々への愛が読者に通じることを心から祈っている.
 2007年5月
 訳者を代表して,鹿児島での日本作業療法学会を前に
 鈴木明子

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献辞
表紙について
訳者一覧
執筆者
監訳者の序
原著の序
アクティビティを学ぶためのヒント

第1章 はじめに
第2章 シンボル化:自己と社会の意味づくり
第3章 可能性の探求:アクティビティの体験
第4章 対象(もの)が伝える言語(ことば)
第5章 隠されたメッセージの解読:アクティビティの分析
第6章 意味の規定:遊び,ゲーム,スポーツ
第7章 意味の規定:自然の挑戦
第8章 工芸からの教え
第9章 セルフケアのメッセージ
第10章 芸術の声
第11章 意味の規定:仕事とキャリアの体系化
第12章 環境が伝えるもの
第13章 おわりに

索引

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治療的作業療法の方向を示したフィドラーの60年の歩みの集大成
書評者: 守口 恭子 (健康科学大学健康科学部教授・作業療法学)
 人々によって繰り返し続けられている生活の営みは,いつの日か気がつくと文化や風習になっている。私たちが毎日取り組んでいるアクティビティ(本書では作業と同義に使われている)も日常的で現実的であると同時に,その背景にある学問分野は,深遠な形而上学的な広がりをもつと,原著者G.フィドラーは主張する。アクティビティは遂行者の動機づけがあり,個人の行為には相互関係があり,人間の心理,社会的,文化的背景などのさまざまな切り口で論ずることができ,単なる目の前の現実を超えて,象徴化し,対象化できるものなのである。

 原著者のG.フィドラー(1916―2005)は米国の作業療法の基礎を築いた一人であり,作業療法が用いるアクティビティを各要素に分析し,力動的に論じて治療的作業療法の方向性を示した人である。本書は,そのフィドラーの60年の歩みの集大成ともいえる。日本の愛弟子である本書の監訳者の鈴木明子氏に,重篤な病を経たフィドラーから日本語に翻訳してほしいと手紙が来たことで翻訳作業が開始されたという。媒介となる言語そのものも文化を色濃く反映するので,現実のアクティビティを象徴化するプロセスを縦横に語る本論に向き合う翻訳作業は容易ではなかったに違いない。監訳者・訳者の多大な尽力に敬意を表する。

 内容は全13章で構成される。アクティビティは象徴化できるもので,人との関係においてダイナミックに変化する。またその重要性は測定でき,立証できるものだという第1章から始まり,平凡な日々のなかで気づかずに過ごしていることが,象徴化の過程である(第2章)という。第3章ではフィンガーペインティングなど実際の4つのアクティビティの遂行過程をたどる。そして,対象(もの)には伝える「ことば」があり(第4章),隠されたメッセージの解読としてのアクティビティの分析手法がある(第5章)。第6章からは,遊び,スポーツ(第6章),ハンティング,ガーデニングなど自然への挑戦(第7章),木工,キルティングなどの工芸(第8章),セルフケア(第9章),ダンス,音楽などの芸術(第10章),仕事(第11章)と続いて,代表的な6つの領域から選ばれたアクティビティの意味を問い,コード化し解明する。最後にこれらのアクティビティが,時間,空間など環境に影響されることを付け加えて(第12章),アクティビティを深く知ることが,人間のパフォーマンスを深め,広げ,豊かなものにする可能性がある(第13章)と力強く結んでいる。

 本書を読むと,アクティビティはG.フィドラーによって命を吹き込まれた巨大な生き物のように思える。彼女のアクティビティに迫る情熱と探究心は,作業療法士の揺るぎない視点があったからか。彼女を偉大な先達と仰ぐ作業療法士にとって,そのことは誇りでもあり,彼女の指南によって蘇ったアクティビティに出会うことは至福のときでもある。治療者も対象者もより成長するに違いない。しかし本書を,人間がホモ・ファーベル(道具を作る人)として日常を生きるための可能性を指向し,仮説を呈示している(第1章)と読むなら,それは作業療法を超えて,社会的,文化的,哲学的,科学的な未知の世界との遭遇でもある。
人を知り,人を成長させるアクティビティ
書評者: 澤 俊二 (藤田保衛大教授・リハビリテーション学)
 本書の監訳者である鈴木明子氏は,日本作業療法士協会の初代会長としてわが国の作業療法の普及と教育,そして地位向上に懸命に取り組んでこられた作業療法士(OT)のリーダーである。鈴木氏は,著者のフィドラー先生(Gail S. Fidler 1916―2005)にコロンビア大学医学部,ボストン大学大学院修士課程において直接薫陶を受けた稀有な日本人であり,恩師として,また同じOTを志す者として,最大の礼と尊敬と友情を最期まで持ち続けてこられた。そのことは,本書の序および『井の中の蛙,外海を泳ぐ―アキコのOTチャレンジ帳』(医学書院出版サービス,2006)に詳しい。今回,鈴木氏は6年越しでフィドラー先生の畢生の書である“Activities: Reality and symbol”(SLACK, 1999)を他の9名の訳者と協力して,日本のOTやアクティビティを使うさまざまな職種の人たちのために工夫を凝らして訳し,亡き恩師に捧げられた。

 フィドラー先生はOTとして生きた60年間,一貫して目的をもったアクティビティ(purposeful activity)を追求し,理論を構築し,学生の教育にわが身を捧げてこられた。原著の序で「本書は,さまざまなアクティビティにもともと含まれている社会的,文化的意味,あるいはそこに生まれるであろう個人的な意味を探求し学ぶこと,およびそのプロセスについて述べる。……1つのアクティビティがその人の性格や傾向性と合致したり調和することのもつ力動性(ダイナミクス)をぜひとも考察しなければならないことになる。……アクティビティの意味,それに関連する事物,行動プロセスについてよく理解し考えを深めることは,健康増進,ウェルネスとQOLの向上を目指してアクティビティを用いる際の必須の前提である。……そこで,本書では,それぞれのアクティビティがもつ性格を明らかにする」と述べているとおり,本書では目的を持ったアクティビティを,人類の歴史をもって,教育をもって,そして臨床をもって,事実を積み重ねることで,各々のアクティビティのもつ性格を解きほどいている。

 アクティビティは,何かを示したり,特別な現実感があることに加え,人の活動のすべての側面と関係する概念を示すような特定の暗示的意味をもっている。すなわちシンボル化である。シンボルとシンボル化の過程は,私たちと,私たちの生活を規定するさまざまなアクティビティとに影響を及ぼしてきた。シンボル化の過程は自己内部にあるさまざまな葛藤を仲立ちし,他の方法では理解されない現象を表現し,自分が何なのかをはっきりさせ,そして社会的グループを相互に結びつける。これらはすべて対処方法の重要な要素であるといえる。人を知り,人を成長させるこのアクティビティは尽きぬ人類の魂なのではないだろうか。

 本書を読みながら,アクティビティのもつ深い意味を理解する作業と努力が自分に足りなかったことを知った。フィドラー先生のアクティビティに賭ける思いと,日本の多くのOTにそのフィドラー先生の思い伝えたいという鈴木氏ら訳者の熱い思いが重なったこのアクティビティの理論書を,わが手にとってみられることを強く勧めたい。

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