神経病理を学ぶ人のために

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神経病学の基礎となる神経病理学の入門的教科書であると同時に,専門家にとっても最も信頼のおける参考書。神経内科医,脳神経外科医,神経病理医を目指す医師にとっては必読の書。今回の改訂では,3版以降の新しい知見と文献を綿密に収載。とくに遺伝子研究での進歩を全般に盛り込んでいる。神経病理に必須な特殊染色についての記載が一層充実。
平野 朝雄 / 冨安 斉
発行 2003年05月判型:B5頁:576
ISBN 978-4-260-10360-2
定価 20,900円 (本体19,000円+税)

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 〔カラー口絵〕免疫染色の効果
 遺伝性神経・筋疾患の遺伝子
1. 入門の第一歩
 A. 検査の対象
 B. 神経病理学に入門する人びと
 C. まず,なにより臨床所見と診断から
 D. 脳・脊髄のとり方と固定法
 E. 脳・脊髄の肉眼的検査
 F. 染色
2. 細胞からみた神経病理学
 A. 神経細胞
 B. astrocyte
 C. oligodendroglia
 D. 髄鞘
 E. マクロファージおよび結合組織
 F. 上衣
 G. 脈絡叢
 H. 髄膜
 I. 血管
3. 病因からみた神経病理学
 A. 血管障害
 B. 浮腫に伴う脳の微細構造の変化
 C. 外傷
 D. 腫瘍
 E. 細菌および真菌による感染
 F. ウイルスによる感染
 G. プリオン病
 H. 変性疾患
 I. 脱髄疾患
 J. 蓄積症
 K. 栄養障害および中毒症
 L. 発生障害
索引
 和文索引
 欧文索引

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留学しなくても学べる! 神経病理学の入門書
書評者: 吉田 純 (名大教授・脳神経病態制御学)
◆50年の経験を,あらゆる分野の読者にわかりやすく解説

 四半世紀にわたり脳科学,脳医療にたずさわる多くの研究者に愛読されてきた,平野朝雄先生の名著「神経病理を学ぶ人のために」の第4版がこの度,医学書院より出版されました。初版本は私がちょうど米国ニューヨーク大学に留学した1976年に出版されております。幸い私は週1回モンテフィオーレ医療センターで開かれておりました,神経病理学の泰斗であるジンママン先生と平野先生のtraining programに参加することができ,お二人より脳腫瘍病理を直接ご指導いただきました。

 ある時平野先生に脳腫瘍組織の電顕写真を1枚見せられ,この写真にはどんな所見があるかと質問されました。私が2,3の典型的な所見を答えますと,平野先生は写真に写っているすべての所見とその背後に流れる生命現象について説明されました。また正常像を学ぶことにより異常所見を観察し,異常像を理解することにより,新しい正常機能を発見することができることも教えていただきました。また,平野先生はお忙しい中,毎年日本に帰国され,学会で講演されたり,春に開催される平野朝雄病理セミナーで講義をしておられます。参加者は皆,感動して先生のお話を拝聴しております。本書は,こうした平野先生の50年の経験に基づいた神経病理を,脳神経疾患の研究に関与するあらゆる分野の方々の教科書としてわかりやすくまとめられております。

◆多くの優秀な研究者を輩出している平野教室

 本書の初版は電顕,第2版はCT,第3版は免疫染色,そして今回の第4版は分子遺伝学の神経病理への導入が主流になっております。平野教室には常時日本から数人の留学生が研修しており,これまで100人をこす先生方,神経病理医はもちろん,一般病理医,神経内科医,精神科医,脳神経外科医を含む神経病理に関係する幅広い分野の研究者が平野先生から直接学び,その後日本で大活躍されております。本書はまさにそうした若い研究者が留学をしなくても神経病理学を学べる入門書です。
神経病理学に関心を持つ人に最高の教科書
書評者: 中里 洋一 (群馬大教授・病態病理学)
◆強烈なインパクトを受けた「平野神経病理」

 平野神経病理(と私が密かに呼んでいる本)が改訂された。うれしい限りである。1976年初夏,第1版を購入した私は夏休みをすべてつぎ込んで本書を隅から隅まで熟読した。ほぼすべてのページに赤鉛筆で要点にアンダーラインを引き,書き込みを加えた。このような経験は武谷止孝先生の「神経病理組織学入門」以来のことである。神経病理の初学者にとって平野神経病理は誠にありがたい本である。剖検して脳を調べ,切り出しをし,染色をして顕微鏡で病変を観察して考える,という神経病理の日常の作業が微に入り細にわたり解説されている。この本を開くことによりニューヨークにおられる平野先生が私の眼前で直接手ほどきをしてくださっているかのような錯覚さえ覚えるほど本書の記述は具体的で役に立った。若い日々に本書から受けたインパクトはまさに強烈であった。現在,ブレインカッティングと称して多くの同僚,大学院生の前で脳に割を入れる立場になっても,中脳レベルで大脳と脳幹・小脳を切り離す作業では,手が震えてしまう。それは「だいたい,この中脳の切り方を見れば,脳を切った経験を見るときのある程度の尺度になる。」という一文を思い出すからである。Bielschowsky染色平野変法も本書から学んだ。そのページを開いてみると紙面のあちこちに硝酸銀液の黒いしみがいちめんに付いている。後に多系統萎縮症のオリゴデンドログリアの封入体を特異的に染め出すことを試みたのも,この平野変法が基礎になっている。

◆最新の内容とわかりやすい記述で,質・量ともに充実

 第2版,第3版と改訂が進み,いよいよ第4版が出版された。本書は初心者を対象とした教科書であるとの基本方針は変わらないが,学問の進歩はもれなく取り込まれている。まえがきにも述べられているが,初版が電顕,第2版がCT,第3版が免疫組織化学,そして第4版は分子遺伝学がもたらした神経病理学の進歩を最大限に盛り込む工夫がなされている。ほとんどすべてのページにわたって改訂が行われており,新しい文献が引用されている。特に,神経細胞とグリアの封入体,プリオン病,変性疾患,トリップレットリピート病,脳腫瘍の新WHO分類と腫瘍マーカーなどは内容が一新されている。最新の知見とその解釈が,きわめて高度で精緻な内容であるにもかかわらず,平野先生によってわかりやすい形に咀嚼されて記述されている。引用文献も最新のものを含めて注意深く選ばれており質・量とも充実している。本書は神経病理学の教科書として紛れもなく最高の書物である。

 心理学からみると学習行為とは,心の中にうかぶ知覚心象を通して記憶心象を構築し,それを言葉として記号化する作業だそうである。神経病理を学ぶうえで,優れた写真や模式図ほど学習効果を高めるものはない。本書の電顕写真とシェーマ,姉妹書「カラーアトラス神経病理」第2版のマクロ,ミクロのカラー画像を繰り返し見ることが,神経疾患の優れた記憶心象を構築するうえできわめて有益であると思う。本書を神経病理に関心のあるすべての方々に薦める。

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