日本精神科医療史

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日本精神神経学会が創立100周年を迎えた2002年8月に,わが国の精神科医療史研究の第一人者である著者が大部分を書き下ろした力作。豊富な資料と,この上もなく深い歴史認識により,1)江戸時代以前,2)江戸時代,3)戦前,4)戦後を語る。わが国の精神科医療は21世紀,どのように変革されるべきか。
岡田 靖雄
発行 2002年09月判型:B5頁:288
ISBN 978-4-260-11875-0
定価 7,480円 (本体6,800円+税)

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  • 目次
  • 書評

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第I篇 江戸時代前
 第1章 奈良時代
 第2章 平安時代
 第3章 鎌倉・室町時代
第II篇 江戸時代
 第1章 医説を中心に
 第2章 治療・処遇など
第III篇 戦前
 第1章 文明開化
 第2章 精神病者監護法の前後
 第3章 精神科病院と精神病学との発達
 第4章 呉秀三と精神病院法
 第5章 敗戦まで
第IV篇 戦後
 第1章 精神衛生法の制定とその後
 第2章 現在史
付章 精神科医療史研究の意義と課題

日本精神科医療史年表
あとがき
事項索引
人名索引

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初めて世に出た,日本精神科医療の「通史」
書評者: 風祭 元 (帝京大学名誉教授・前都立松沢病院長)
◆古代から現代までの歩みを記載

 「素晴らしい本が出版された」というのが本書を最初に手に取った時の率直な感想である。医学の他の分野と異なって,精神医学の教科書の大部分には,精神医学史という項目がある。これは精神疾患の診断や治療を理解するうえで,精神疾患に対する考え方の史的な考察が不可欠であると考えられているからであろう。しかし,これまでわが国の成書にある精神医学史は,ヒポクラテスにはじまってピネル,チューク,ラッシュを経てクレペリンとフロイトにいたる西洋の精神科医療史で,わが国の精神医学・医療については,明治時代のドイツ医学の導入と癲狂院設立などがわずかに触れられているに過ぎなかった。

 このたび発刊された「精神科医療史」は,わが国の古代から現代に至る初めての「精神科医療通史」である。

 本書の内容は,第1編.江戸時代以前(奈良―鎌倉室町時代),第2編.江戸時代,第3編.戦前,第4編.戦後と大別され,付章として精神科医療史研究の意義と課題,年表が付けられている。

 奈良時代は8世紀の養老律令,日本霊異記などに癲狂の記載がはじまっている。平安時代の醫心方には精神疾患に関する学説が述べられ,典薬寮,施薬院,悲田院などの医療施設が現れた。病草紙には癲狂に関する画が多くみられる。鎌倉室町時代になって僧医が現れ,漢方や灸による癲狂治療所ができた。

 江戸時代に入って漢方医学が体系化され,わが国初の精神医学専門書「癲癇狂経験論」が土田獻によって出版された。江戸時代後期から蘭方医学が徐々に力を増し,明治の文明開化によって西洋医学の全面的導入につながる。

◆順調ではなかった精神科医療の歩み

 この時代までは著者も「はじめに」で述べているように歴史的事実の記載が主であるが,第3編.以後は,著者の名著「私説松沢病院史」(1981),「呉秀三―その生涯と業績」(1982)などで用いた資料をもとに,明治以後の東京府癲狂院,相馬事件,精神病者監護法,精神病院法,呉秀三の精神科医療のための闘いから,戦前―戦後のわが国の精神科医療の必ずしも順調でなかった歩みが,豊富な原典の視覚的資料を交えて迫力ある筆致で記されている。

 第4編の戦後の精神衛生法制定から民間精神病院の急増などの1970年頃までの精神科医療の動きが一部は自分史的な記述も含めてリアルに記載されている。評者も著者に少し遅れて同じ精神科医の道を歩んで,ある時期の歴史を共体験してきただけに,この時代の動きの記述には胸を打たれるものがある。

 わが国の精神科医療の歴史は不幸な歴史であったといえる。第4編の最後に著者は控えめに自己の考えを交えつつ日本の精神科医療の問題点を凝縮して述べており,これがはからずも付章の「精神科医療史の意義と課題」を具体的に示しているように思われる。

 本書は「日本精神科医療史」の基本図書として,多くの人たちに長く読み継がれていくに違いない。

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