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がん医療におけるコミュニケーション・スキル [DVD付]
悪い知らせをどう伝えるか

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コミュニケーションの中でもがんの患者に悪い知らせを伝えるのは、とりわけ難しいこととされている。米国腫瘍学会(ASCO)では公式の教育プログラムに含まれるテーマであり、日本でもがん対策基本法が施行され、厚生労働省の委託事業としてサイコオンコロジー学会の協力のもと医療研修推進財団がコミュニケーション技能訓練講習会を主催するなど、近年、問題意識が高まりつつある。執筆者はいずれもコミュニケーション、あるいはがん医療のエキスパート。関係者必読の書。
編集 内富 庸介 / 藤森 麻衣子
発行 2007年10月判型:A5頁:152
ISBN 978-4-260-00522-7
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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内富 庸介・藤森麻衣子

 がん患者が自分自身で治療方法等を納得して選択できるよう,医師が患者の意向を汲みとり,苦悩に共感を示すためのコミュニケーション技術研修会を思い立って10年目を迎える。マザーテレサの博愛は無理にしても,がんが治らない局面では患者の声に耳を傾け,温もりで,思いやりで接してほしい。そうした願いからはじまった。
 がんが治らない局面では,医学的には目標は延命となる。インフォームド・コンセントやQOLの概念が導入された90年代からは,延命治療の決定に際して医師が患者の意向を考慮せずに治療を行うことは明らかに減っているだろう。ここは原点に立ち戻って患者本来の目標をきちんと把握し,患者が望む医療に一歩でも近づけたいところである。しかし不幸なことに,現代の医療者は生存期間の延長や症状の緩和などの医学的目標以外の,患者,家族の目標,意向,価値観,生活信条などを聞き出すコミュニケーション技術を欠いていると言わざるを得ない。患者が納得して治療方法等を選択できるような,双方向性のコミュニケーションをがん医療体制の中に整えていく必要がある。医師から患者への説明方法が適切でないと,がん患者,家族は必要以上の精神的負担を強いられ,時には治療法等の選択を誤らせることにもつながるからである。
 2007年4月,がん患者と家族の意見が大きく反映されたがん対策基本法が施行された。法に基づくがん対策推進基本計画には,「がん医療における告知等の際には,がん患者に対する特段の配慮が必要であることから,医師のコミュニケーション技術の向上に努める」ことが盛り込まれた。そこで,厚生労働省がん対策推進室の指導の下,前々日本サイコオンコロジー学会(JPOS)代表世話人で国立がんセンター名誉総長の阿部 薫先生をはじめ,医療研修推進財団の北沢博之氏,宇佐美 彰氏,ほか関係者のご尽力により,コミュニケーション技術研修会(2日間の模擬演習8時間を含む)が平成19年度厚生労働省委託事業として全国4ヵ所で実施されることとなった。事業の実施団体は医療研修推進財団,JPOSは協力団体となった。研修会で指導を行う,コミュニケーション指導者養成講習会(8日間の実技演習30時間を含む)は,引き続き,JPOSが行う。2007年10月,大阪から始まるがん医療におけるコミュニケーション技術研修会は,がん医療提供体制の充実の一助となるであろう。この場をお借りし関係諸氏に厚くお礼を申し上げたい。
 また,従来から編者らは,テキストを補う目的で,特に研修会のような場ではコミュニケーションの技術を実際に目で見てイメージし,自分のものとして取り込めるようなビデオ教材の必要性を感じていた。幸いアストラゼネカ(株)の協力によりDVDビデオが作成され,本書には無償で提供された。アストラゼネカ(株)の中村則之氏,(株)博報堂の亥角稔久氏,ほか関係者のご厚意に感謝する。
 本書は,厚生労働省第三次対がん総合戦略事業研究費「QOL向上のための各種支援プログラムの開発研究(平成18年度報告書)」の援助を受けて開発されたコミュニケーションプロトコール(SHARE)を実践に活かすための参考書となればと願って企画した。執筆は長年,がん医療におけるコミュニケーション研究や研修会を共に行ってきた仲間によるものである。多くの患者,家族からいただいた声を反映させ,練り上げてきたつもりである。本書が医師のコミュニケーション技術向上のきっかけとなって,がん患者の意向にそったコミュニケーションの価値ががん医療の現場でさらに認められると,わが国の医療全体にもたらす好ましい影響は計り知れない。今,心あるコミュニケーションの真価が,がん医療で問われていると思う。
 2007年 8月

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第1章 悪い知らせを伝える際のコミュニケーションとは
第2章 悪い知らせを伝える際のコミュニケーションに関するこれまでの知見
第3章 患者が望むコミュニケーション
第4章 悪い知らせを伝える際のコミュニケーションに関する北米の取り組み(SPIKES)について
第5章 がん診断,再発,終末期の心の反応を理解する
第6章 患者-医師間の基本的なコミュニケーション
第7章 男性患者の場合
第8章 女性患者の場合
第9章 終末期がんの場合
 1. 輸液
 2. 鎮静
 3. DNRについて
第10章 難しいケースの場合
 1. うつ病への対応
 2. せん妄への対応
 3. 怒りへの対応
 4. 不安への対応
 5. 「死にたい」への対応
第11章 家族への対応
第12章 医師・看護師の連携と看護師が伝える悪い知らせ
第13章 コミュニケーションの学習法

資料
索引
見返し(SHARE文例)

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「バッド・ニュース」を次の「希望」へとつなげるために
書評者: 宇都宮 宏子 (京大病院地域ネットワーク医療部)
 京大病院に「退院調整看護師」として着任し,この7月で7年目に入った。

 病院勤務を経て,在宅で訪問看護・ケアマネジャーを経験し,人は,生活の場にいるからこそ,「生きる強さ」「人としての強さ」を発揮できることを実感した。家の力,地域の力,そのなかで生活者としての力,患者の強さを見て家族もまた力を発揮する。

 24時間体制の安全管理を強く求められる環境から,医療者のいない,家族も常時いない家に帰すとき,「医療提供をマネジメントすること」が当然必要だ。入院医療から在宅医療への移行支援においては,専門的な知識やコミュニケーション・スキルを持つことは当然として,チーム医療内で,患者・家族と,地域事業所との“調整力”も求められる。

 特にがん患者の支援は,依頼される患者数も多く,またほとんどの患者が「治療ができなくなった」「終末期」という,患者にとっては「悪い状態」に直面する時期に私たちは初めて会うことになる。

 私の在宅の経験では,病院に医療提供を望んでくる患者とは違う,「家の主人である利用者」と「“お邪魔します”と訪問する私たち」の関係のなかで,医療・看護を提供するためのコミュニケーション・スキルや,患者の“声なき叫び”に応えるためのスキルが必要であった。その経験を生かして,面談時の注意や配慮,そして何より,患者の感情表現に焦点を当てて共有する聞き方・話し方をこれまで重視してきた。

 そういった経験をしてきたなかで,この本に出会った。「患者が望むコミュニケーション」とはどのようなものか,国立がんセンター東病院での調査結果を踏まえて,「悪い知らせを伝えられる際の患者の意向要素」を,頭文字から“SHARE”として紹介している。

 さらには,米国で「悪い知らせ」を適切に伝えるための段階を踏んだ手順としてまとめられた「SPIKES」の紹介と,わが国での注意点も提示している。病棟の若い看護師やMSWたちに,コミュニケーションのコツを教えることに悩んでいた私にとって,この本は絶好のテキストになった。

 患者にとって悪い知らせを,どのように伝えるか。そこから患者・家族がまた「生きよう」と前を向くための支援が,退院支援だ。最期の瞬間まで,その人らしい時間を,人生を送れるように,残された家族が命を,魂をつなげるような生き方を患者・家族と一緒に考える。このプロセスこそが,何より退院支援のポイントであると考えている。

 ぜひこの本を,バッド・ニュースから次の希望につながるコミュニケーション・スキルの向上に役立ててほしい。
書評 (雑誌『看護学雑誌』より)
書評者: 大島 寿美子 (北星学園大学)
◆医療現場のコミュニケーションは共同作業

 私は,北海道で婦人科がんのサポートグループを主宰している.そこでよく話題になるのが「医療者とのコミュニケーション」である.例えば「先生や看護師さんが忙しそうで聞きたいことが聞けない」という不満は,がん患者から日常的に聞こえてくる.「セカンドオピニオンを取りたいがそう希望を伝えていいかわからない」という悩みも頻繁に寄せられる.

 医療者の心ない言葉や態度に傷ついたとの訴えも多い.ほんの一部を紹介すると,「検査の結果を聞きに行ったらいきなり“進行してしまってうちでは何もできない,ホスピスを紹介します”と言われた」,「抗がん剤の副作用のつらさを訴えたら看護師に“あなたは甘いよ.みんな頑張ってるのに”と言われた」,「痛みを訴えたら“そうあっちもこっちも痛い訳がない”と言われた」,「質問したら“いまはそこまで考える必要はない”と言われた」などといった訴えである.このような医療者の言葉が原因でうつになってしまったり,治療に対する意欲を失ってしまったと語る患者もいる.

 医療者にとって,このコミュニケーションの問題はやっかいである.なぜならコミュニケーションは医療者と患者の双方が参加する共同作業だからである.言い換えれば,自分が意図する結果を自分の力だけで決定できず,患者の反応を待たなければならないという難しさがある.患者を励まそうと言葉を発しても,その言葉に患者がショックを受けてしまうこともある.同じ話をしても,もともと持っている性格や育ってきた環境により,好意的に受け取る患者もいれば傷つく患者もいる.善意が必ずしも善意として受け取られなかったり,こちらが何気なくした言動が思ってもみなかった反応を引き起こすこともあるのである.

◆「SHARE」で学ぶかかわり方

 しかしこの問題はやっかいではあっても,医療者側の工夫により解決できる余地が大きいことも確かである.医療者と患者のように大きな情報格差がある二者間においては,コミュニケーションの主導権を医療者が握ることができるからである.本書は,難治性のがんの診断や再発といった「悪い知らせ」を伝えるという,がん医療において最も神経を使う場面においてこの問題の解決に取り組み,具体的な工夫を丁寧に示している.

 執筆者は国立がんセンターでサイコオンコロジー(精神腫瘍学)を専門とする医師や心理療法士などであり,日本のがん医療におけるコミュニケーション研究の最前線にいる専門家である.前半ではがん医療における患者.医師間のコミュニケーションについての先行研究とこれまでの議論を概観するとともに「悪い知らせ」を伝える上で必要な態度や行動を具体的に示している.後半ではジェンダーやがんの進行状態といった個別の状況に応じた配慮や,家族への対応,看護師の役割などについて論じている.

 本書の根拠となっているのが,国立がんセンター東病院の外来患者を対象とした調査にもとづき開発された4つの要素「SHARE」である.これは,「サポーティブな環境設定(Supportive environment)」「悪い知らせの伝え方(How to deliver the bad news)」「付加的な情報(Additional information)」「安心感と情緒的サポート(Reassurance and Emotional support)」の最初の文字を取ったもので,医療者が留意すべき態度を示している.具体的には,「サポーティブな環境設定」では「自己紹介をする」「直接会って伝える」「プライバシーが保たれるように配慮する」,「悪い知らせの伝え方」では「目を見ながら伝える」「いらいらした様子で対応しない」「質問を促す」「理解度を確認しながら伝える」,「付加的な情報」では「治療法の選択肢を示す」「セカンドオピニオンについて説明する」「患者が希望する話題を聞き出す」,「安心感と情緒的サポート」では「感情を沈黙で受け止める」「いたわる言葉をかける」「希望をもてる情報を伝える」などがあげられている.

 そのうえで,本書では医療現場における面談の実際の場面を想定し,準備から挨拶,病状に関する情報提供と確認,治療法,生活面への影響,まとめ方まで順を追いながら,各段階で取るべき態度や言動をひとつひとつ丁寧に説明している.さらに付属しているDVDにはSHAREを使っていない面談と使った面談の例がドラマとして紹介され,各場面で留意すべきポイントが解説されており,面談を具体的にイメージしながらコミュニケーションの取り方を確認することができるようになっている.

◆コミュニケーションは「技術」という視点

 本書の根底にあるのは,これまで医師の人格や人間性にゆだねられてきた患者への対応を,学習により習得が可能な「コミュニケーション技術」とみなすという態度である.これにより,マニュアル化とトレーニングが可能となる.実際,この分野を領域とするサイコオンコロジー学会ではコミュニケーション指導者の養成講習会を行なっており,医療者を対象としたコミュニケーション技術研修会も厚生労働省の委託事業として全国で始まっている.このような動きが広がり,がん医療に携わる医療者が本書のような実践的知識を得て技術を習得すれば,一定レベルの質を保つことが可能となるであろう.よいコミュニケーションは,患者の満足につながるだけではなく,患者の理解と積極的な医療参加を促し,結果的に治療成績の向上や医療資源の節約にもつながることが期待される.

 しかし,本書で推奨されているコミュニケーションを実行するには「時間」(本書に附属するDVDのドラマでは,SHAREを使った面談は使わない面談の4倍近くの時間がかかっている)や「気持ちの余裕」が必要であり,多忙を極める医療現場においては個人的努力だけでは解決できない問題も含まれている.今後は実行可能で効果のある現実的なコミュニケーションを患者とともに模索していくことが必要となるだろう.

(『看護学雑誌』2008年3月号掲載)
全医療現場に通じる普遍的なコミュニケーションスキル
書評者: 垣添 忠生 (国立がんセンター名誉総長)
 『がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか』が医学書院から刊行された。編集は内富庸介,藤森麻衣子の両氏,執筆は国立がんセンター東病院,同中央病院,聖隷三方原病院,癌研有明病院,静岡県立静岡がんセンターなど,いずれも日々がん患者や家族と濃密に接するベテラン揃いである。

 患者,家族と,医療従事者との関係,特に患者と医師の間の意思疎通,コミュニケーションは医療の原点である。最近の診療現場の多忙さは危機的である。限られた時間の中で患者と医師がコミュニケーションを図ることは至難になりつつある。とはいえ,患者―医師関係を構築するうえでコミュニケーションは避けて通れない。

 とりわけ,がん医療には決定的に重要なポイントがいくつもある。医師の立場から考えると,がんの診断を伝えるとき,再発,転移の事実を伝えるとき,治癒を求める医療が不可能あるいはきわめて難しいことを伝えるとき……いずれも患者と家族の命運を握る重大局面といえる。そうした重大な内容を伝える方法,技術を医師は学部教育でも,卒業後も系統的に学ぶ機会がないまま現場に立つ。

 私自身,若い頃,膀胱鏡が終わって席に戻った患者さんに,なるべく気楽に受け止めていただくようにと考えて,やや無雑作に「膀胱にがんがありました」と伝えたら,膀胱がんの内容を話す前に,患者さんは失禁をし,イスから転げ落ちそうになった。以来,私は深刻に反省して,医療内容,とりわけ悪いニュースを伝えるときの伝え方を,きわめて慎重に行うようになった。すでに発表された研究成果を勉強し,学会や研究会でも聴講した。いわば,個人の努力でこうした技術を身につけなければならないのは問題だと思った。

 この書物には,医療現場での叡知と,国内外の学問的達成が,最適の筆者らによって詳述されている。この書物を通読し,現場におけるこれまでの自分の対応を反芻すると,悪いニュースを伝える際の,コミュニケーションスキルがくっきりと見えてくるはずである。加えて,本書にはアストラゼネカ社の好意によってDVDも付されている。本書をわずか2,940円で世に送り出してくれた多くの関係者の努力を多としたい。

 がんは,どのような医療現場でも避けて通れない普通の病気となった。医師として,あるいは看護師,薬剤師などの医療従事者として,がん患者と接するすべての人々に,本書の通読をお勧めしたい。そして,がん医療だけではなくて,すべての医療現場に通じる普遍的内容が含まれていることを感知していただきたいと思う。
本邦独自の根拠に基づいた医療コミュニケーションの実践書
書評者: 木澤 義之 (筑波大学大学院教授・人間総合科学研究科)
 さわやかな秋の風に運ばれて,この本は私の前にやってきた。正直,書評はあまり気乗りする仕事ではなかったが,読み始めるうちにぐいぐい引き込まれた。本書はタイトルに,『がん医療におけるコミュニケーションスキル』とあるが,その内容はがん医療の枠にとどまらずコミュニケーションの基本にも触れられており,わが国独自の,根拠に基づいたコミュニケーションの実践書であるということができよう。

 付属しているDVDを参照しながら本書を読破すると,編者でいらっしゃる国立がんセンター東病院臨床開発センターの内富庸介先生,藤森麻衣子先生が臨床研究をもとに開発されたSHAREプロトコールを用いたがん医療におけるコミュニケーションの基本と実際を臨場感を伴って学習することが可能である。巻頭には悪い知らせを伝える際のコミュニケーションに関する今までの知見や,欧米のコミュニケーションスキルトレーニングのプロトコールとSHAREの比較がまとめられ,evidence―basedな構成となっている。筆者が担当している日本緩和医療学会の教育プログラムEPEC―0では現在悪い知らせを伝える際のコミュニケーション・スキルとしてSPIKESを紹介しているが,来年度からカリキュラムの改訂にあたり,今後このSHAREプロトコールに基づいたものに変更することを検討している。また,第一線で働くがん治療医,精神腫瘍医,緩和ケア医が,難しいケースへの対応や終末期がんへの対応について執筆されており,さまざまな臨床場面の応用が可能で,まさにかゆいところに手が届く配慮がなされている。

 全国のがんに携わる医療関係者のみならず,医学生,看護学生などの医療系学生にもぜひ読んでもらいたい好書である。
患者の意向を十分反映したコミュニケーションに向けて
書評者: 西條 長宏 (国立がんセンター東病院副院長)
 医師が患者とよくコミュニケーションをとり,適切に病状と治療の方向性などを説明し患者の理解と同意を得たうえで,検査や治療を行うことはがん医療の基本である。また,医師と患者のコミュニケーションは人対人のものであり,そこには個人の性格や考え方が反映されることは当然である。患者とのコミュニケーションのなかでも「悪い知らせの伝え方」については,さまざまな研究がなされており欧米では確立された理論に基づくトレーニングが行われている。

 一方,わが国ではそのような教育や訓練を受けたことのある医師はほとんどなく,約半数が「悪い知らせを伝えている医師に立ち合った」程度の“教育”しか受けていない。すなわち,患者とのコミュニケーションは経験に基づくものという考え方が中心になってきていた。しかし,それではやっていることが正しいか否か誰も自信はもてないとともに,いたずらに患者の不安感をあおったり逆に過度の希望を抱かせたりしていることも多いと推定される。というのは,医師が自信のない場合は,患者にとって好ましくない情報についての議論を避けたり,根拠のない楽観論をせざるをえないことによる。結果的に医師は疲弊し,ますますストレスを感じる状態に陥ってしまう。

 国立がんセンター東病院精神腫瘍部ではこれらの背景を踏まえ,患者の意向を十分反映したコミュニケーションガイドラインを作成し訓練に役立てている。本書は内富庸介先生,藤森麻衣子先生の編集により,わが国の精神腫瘍医,臨床腫瘍医,緩和ケア医およびそのコメディカルが,患者とのコミュニケーションをいかに行うかについて非常にわかりやすく,しかも比較的簡単な場合からきわめて難しいと思われるDNR(do not resuscitate)に至るまで詳細に解説されている。現場の医師はこの本を一読することによって,患者とのコミュニケーションをどう行うかについての知識を十分に身につけることができると思われる。

 内富先生たちは日本サイコオンコロジー学会活動の一環としてコミュニケーション技能訓練講習会を開いてきた。この講習会では本や雑誌による知識だけでなくロールプレーによって実際にその方法を学ぶことができる。この講習会には日本臨床腫瘍学会の会員は割引で参加が可能であったが,平成19年度より厚生労働省委託事業として全国4か所で開催され,しかも無料となった。ホームページのお知らせ欄に掲載されるため,ぜひ出席,参加することを勧めたい。

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